知事対談
株式会社山長商店
代表取締役会長
榎本長治
和歌山県知事
宮﨑泉
伐って、使って、
植えて、育てる循環型林業と、
品質管理と安全性の追求で
次世代へ繋ぐ
和歌山県の山とともに約300年歩み、木を植えて育て、
製材、プレカット加工まで一貫して行う実践者に、
紀州材の魅力や品質管理のデジタル化、和歌山の林業の展望を聞いた。
PROFILE
- 榎本 長治Enomoto Choji
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1946年和歌山県田辺市生まれ。早稲田大学卒業後、東京大学農学部で研究生として2年間林学を学ぶ。その後、故郷に戻り、株式会社山長商店に入社し、1996年に社長、2016年に会長に就任。日本林業経営者協会会長など、業界団体の長や政府審議会の委員を歴任。
宮﨑知事(以下宮﨑)◆ 榎本さんが会長を務める山長商店は、田辺市で約300年の歴史を持つ林業・製材会社です。植林から育林、伐採、製材、さらにはプレカット加工までを一貫して行い、国産材、とりわけ無垢の紀州材に強いこだわりを持っておられます。「木の国」と呼ばれるほど山や森林との繋がりが深い紀州の地で、長年林業に携わってこられた歴史についてお聞かせください。
榎本会長(以下榎本)●山長商店は、江戸時代に紀州備長炭を扱う問屋として創業しました。自ら植えた山を伐り、再び植えるという循環型の林業を始めたのは、父が大学を卒業して戻ってきた昭和10年代のことだと聞いています。昭和20年代にはエネルギー源が石油やガス、電気へと移り行き、全国的に薪炭林業からスギやヒノキの造林へと転換が進む中で、当社は昭和26年頃からいち早く拡大造林に取り組んできました。紀州の山で山頂までスギやヒノキが植えられている風景が見られるのは、林道もない山奥まで通いながら、7~10年かけて下刈りを続けてきたからなんです。
紀州材は強度のほか、色つやの良さも評価されている。
宮﨑◆ 高い場所まで隅々に植えられている光景から、ここまで丹念に手をかけてこられた先人のご苦労がよく分かりますよね。
冨山● そうですね。私が社長に就任した1996(平成8)年頃は、住宅づくりが大きく変わろうとしていた時代で、木材を工場であらかじめ指定された寸法や形状に切断・加工するプレカットという技術が全国的に動き出していたんです。そこで当社でも、加工した状態で紀州材を工務店さんや施主さんに使っていただき、山から製材、プレカット、工務店へと繋げていこうと考えました。
外材の価格高騰で
国産材が選ばれる
宮﨑◆ 私が幼い頃は、建築現場で長い間作業が行われるのが当たり前でした。ですが、近年ではあっと言う間に建物が完成するようになり、どのような仕組みなのだろうと不思議に感じていたのですがプレカットという技術を知り、腑に落ちました。それから、戦後に植えられた木々が、今まさに伐採期を迎えていると伺っています。非常に多くのスギやヒノキが「宝の持ち腐れになってしまうのではないか」といった感覚が全国的にあったように思いますが、最近では国産材が改めて見直されているとお聞きしています。
冨山● 国産材の価格は1980(昭和55)年頃をピークにずっと下落しているのですが、それまでは戦後の住宅需要の増加とともに国産材価格は上昇してきました。そのため外材、特に米材が構造材として多く使われるようになり、その後は円高を背景に北欧材が流入し、板を接着剤で張り付けた集成材が日本市場に広がっていきました。現在も市場の半分は北欧の木材が占めていて国産材の値段は低下傾向にあるんです。2021(令和3)年頃にウッドショックが起こり、木材の値段が跳ね上がりましたが、現在は元の値段に近いところまで下がっています。最近は、円安であることや海外産の集成材がかなり高くなっていることを踏まえ、より安定している国産材にシフトしているように見えます。
山長商店では強度や水分量の検査を行った後に出荷する。
全国的にも強度に
優れた紀州材
宮﨑◆ 山長商店がこだわる紀州材の特徴について教えてください。
冨山● 紀州材は本当に素直な材料です。狂いが少なく優良な構造材として最適です。そんな紀州材の魅力のひとつは圧倒的な強度です。当社では一本一本検査を行い、ヤング係数※注➀Eを用いた機械等級区分により強度別に分類しています。当社のヒノキはE110※注➁が最も多いのですが、これは建築家や学者の方が見ると驚くような数値で、これだけ高い数値がたくさん出る地域は日本でも数少ないです。
宮﨑◆ 強度を機械で測定し、数値で表す「見える化」が行われているのですね。
※注➀:ヤング係数とは、木材の変形しにくさを示す強度特性の指標のひとつ。 ※注➁:全6区分(E50〜E150)のうちのひとつ
和歌山県知事 宮﨑知事
榎本● 木の強度や含まれている水分量を機械が瞬時に測定し、結果が柱に印字されていきます。消費者や工務店の方はその結果を見て木材の品質を知ることができるという仕組みです。ただただ木を太らせてしまうと弱くなり、しっかり育てると目が細かく強い木材に育つため、育て方にも気をつけています。地震の問題が色々と起こっていますが、耐震性の高い建築物を作るひとつの要素として材料の強度は非常に重要です。また、紀州材の魅力はその美しさにもあります。職人が一本ずつ丁寧に磨き上げることで、紀州材の表面はやさしく輝きます。現在ではプレカットによる機械加工が主流ですが、機械では対応できない複雑な部分は、熟練の職人が手作業で仕上げています。
宮﨑◆ 美しさや素直さなど紀州材の魅力をたくさん知ることができたのですが、この魅力ある紀州材をどのように消費者の元に届けるかということも重要なポイントだと思います。現在行われている取り組みがあればお聞かせください。
榎本● やはり紀州材の魅力を知っていただくこと。建築家の方、工務店の方、消費者である住まい手といった全ての方に紀州材を実際に使っていただく。そして紀州材の魅力を広く知っていただくことが最も大切だと考えています。和歌山県は山が多く、林業は重要な産業のひとつです。紀州材を使用することは山を育てることに繋がり、地域社会、特に紀南の発展にも大きく関係してくると思っています。
宮﨑◆ 県では公共建築物の木造木質化に取り組んでいます。また、民間非住宅建築物についても建築物木造木質化支援事業により紀州材利用を支援し、紀州材の需要拡大に取り組んでいます。
榎本● 公共建築物の木造化など、木材でできるものは木材を活用しようという県の取り組みは、林業・木材産業にとって非常に大きな支援となっています。
急峻な地形のため
伐り出しに工夫を
宮﨑◆ 和歌山県では現在「伐って、使って、植えて、育てる」という循環型林業を進めています。昨年度には林道整備計画を策定し、林道整備を積極的に進めているところです。また、機械化やデジタル技術の導入に着目しながら、安全性にも考慮して、作業を進められるよう取り組みを進めています。それから、2017(平成29)年には農林大学校に林業研修部を開校し、実践的な技術や知識をしっかりと身に着けていただいて、即戦力となる林業者の人材育成に取り組んでいるところです。
大型機械を使い、一本の木から製材していく。
榎本● 林道整備に力を入れていただけることは待ち望んでいた施策であり、非常に急峻な地形が多い和歌山県の林業にとって一番大きなテーマではないかと思っています。それから、将来の林業を担う人材を確保していただけることは本当に心強いです。
宮﨑◆ 本当に急峻ですよね。以前現場に伺ったときも、ここに木を植えられたことが奇跡だと感じるほどの斜面で、急峻な地形の大変さを体感しました。
榎本● 長い間、急峻な山から木を伐りだすための機械の進歩はなかったのですが、県のご指導もあり、架線集材の研究会が立ち上げられ、無線の遠隔操作が可能である油圧集材機の開発に繋がりました。将来的には、山から無人で木材が運ばれてくるようにしたいと考えています。
宮﨑◆ 私が見学した架線集材はまだ直接操作でしたから、その作業が無人で進められれば効率化が図れるとともに、林業者の事故も防ぐことができるでしょう。
榎本● もうひとつ、これはまだ先の話ですが、機械だけあれば夜間に作業を進められるため、朝起きると丸太が積まれているという状態になっていると(笑)。
宮﨑◆ 素晴らしいですね。開発が進んでこれからの林業がそういった方向に動いていくことに期待したいです。