松原さんは25歳から家族とともに、柿を中心に、柑橘や野菜も栽培する。
well-being 和歌山
【くだもの和紙】
みんなが健康的で幸せな状態であるウェルビーイングは、
豊かな自然と温暖な気候に恵まれた和歌山そのもの。
そんな和歌山で生まれた“ウェルビーイング”をご紹介。
【くだもの和紙】
アップサイクルで
命を吹き込み、
「もったいない」果実を
和紙へ
捨てる果物を再利用し、
食品ロス削減を目指す
和歌山県は全域で果樹栽培が盛んで、「果樹王国」と呼ばれる。柿や桃の産地である紀の川市で、「畑で捨てられる果物を減らしたい」と地域の農家が立ち上がり、アップサイクル商品”くだもの和紙“が誕生した。
紀の川市で栽培される柿は渋柿が中心。
紀の川市では年間約330tの出荷できない柿があり、畑で捨てられている。
明治時代から120年以上続く農家「まつばら農園」の6代目・松原好佑さんは農産物の生産過程で発生する規格外品等が畑で捨てられる現状を変えたいと考え、2022(令和4)年に紀の川市が主催する農家とクリエイターが協働する共創型プロジェクトに参加。果物の規格外品等を食品ロスと捉えず、アップサイクルで商品化に取り組み始めた。「私は主に柿を栽培しているのですが、愛情を込めて育てた柿も、傷や変形があれば畑で捨てます。生産量の多い渋柿は食品加工するには渋抜き作業をしなければならず、効率を考えると畑で捨てるほかないのです」と話す。次々と捨てられていく光景を見ていくうちに松原さんは、大量のロスを生み出し続けるのは農家の課題だと捉え、次世代へ持ち越さないための取り組みに着手した。
農家と伝統工芸士がタッグ
課題を解決し、
軽やかに次世代へ
「もったいない畑のくだものでつくった一筆箋」の商品名で、主にインターネット販売されている。
環境に優しい素材への関心が高まっていることから、プラスチックの代替品として需要が伸びている紙に注目し商品化を目指した。食品ロス課題の深掘りや商品の試作を重ね”くだもの和紙“を開発。「特に食品として加工がしづらく廃棄量が多い柿、いちじく、キウイの3種類の果物を原料の一部にした果物の皮や果肉をすき込んだ和紙の製造は、伝統工芸士に依頼し、ホンモノにこだわっています。技法を駆使し、果物の調合方法や配合バランスを考案してもらいました」。歴史を持つ農家と伝統工芸士が手を取り合い、資源を循環させ、食品ロスの課題解決へ向けて一歩を踏み出した。
紙は一枚ずつ手作業で仕上げられ、表情の違う温もりある質感に仕上がった。果物の色合いも感じられ、柔らかな風合いであり、強度もある。厚みや大きさを変えることで、ラッピングやパッケージなどさまざまな場面で活用できる紙が完成した。2024(令和6)年、商品第一弾として一筆箋の販売を開始。ブランド名は、食品ロスの問題を農家に課せられた宿題と捉え、「のうかのしゅくだい」とした。「取り組みを通じて、地域の方々との繋がりが増えたり、海外から視察があったりと私自身の経験も増え、課題が少しずつ解決していく手応えを感じています」と松原さんは軽やかに話す。今後の目標は段ボールの紙に加工すること。畑で実った果物を加工した箱で、消費者へ届ける未来を描く。「紙はリサイクルできるのでずっと循環し続けます。今後も良い循環を生み出せる商品を考え、健やかに過ごせるように農家自身が持つ課題とし、後継者不足の解決にも繋がれば良いと思います」と話す。
開発した一筆箋は、2025(令和7)年度「ソーシャルプロダクツ・アワード」 でソーシャルプロダクト賞を受賞し、授与された賞状。