木製の甑に入れた材料を蒸気で蒸していく。
金山寺味噌
鎌倉時代から続く、
伝統の発酵食品
米・麦・大豆の麹と
野菜の
マリアージュが
旨味を引き出す
金山寺味噌は米・麦・大豆に麹菌を混ぜて、最初に全てを麹にするのが特徴で、その製造工程は約70にも及ぶという。麹に刻んだウリやナス、ショウガ、シソなどの野菜や調味料を混ぜ、発酵のため数カ月熟成させて完成する。金山寺味噌は味噌汁に使う味噌とは異なり、そのまま食べる“おかず味噌”の一つ。
具沢山な金山寺味噌は食べ応え抜群。
鎌倉時代、禅僧覚心が中国で習得した製法を日本に持ち帰り、自身が建立した興国寺(由良町)で保存食として製造したことが起源とされる。和歌山の温暖な気候や豊富な水が製造に適していたことや、冷蔵技術がない時代に食材を常備できる利点から製造が根付き、寺から周辺地域の家庭へ広まっていった。江戸時代に産業化され、湯浅町や御坊市などを中心に製造業者が増加。当時の製法は今も継承され、変わらぬ味を現代の食卓にも届けている。「昔は野菜が収穫される夏に仕込み、一年を通して食べていました。お米を主食とする和食文化と金山寺味噌は相性抜群。だからこそ、発酵させて長期保存する製法や食文化が受け継がれてきたのでしょう」と語るのは、紀州味噌工業協同組合の理事長・久保公一さん。
原材料となる麹は麦麹、米麹の2種類を使用するのが変わらない定番。
作業場で発酵した麹を持つ久保さん。
醤油の源流・金山寺味噌が伝来した
紀州温暖な風土と豊かな食材で根付いた
和歌山発祥の発酵文化
金山寺味噌は発酵食品の代表格・醤油の起源である。久保さんは「醤油のルーツである金山寺味噌は、和食の源流。文化的な価値もあるため、伝統の製造技術や味を守り続けています」と話す。GI(地理的表示)登録されるなど、文化的価値を保護する取り組みが進む一方で、食文化の移り変わりにより、若年層を中心に金山寺味噌を口にしたことがない人も増えている。また、和歌山県が発祥の地である認知度も低く、情報発信が課題となっている。金山寺味噌の良さや歴史、技術を継承する取り組みを伝えるため、大阪・関西万博でPRするなど、県外へも積極的に発信する。
樽にたっぷりと詰め込まれた熟成された金山寺味噌は、上澄のほうにたまりが溜まる。
金山寺味噌は、多くの工程を経て熟成される一方、食卓に並べるだけで手軽に発酵食品と野菜を摂れる便利な食材だ。「食の多様化が進む現代、金山寺味噌の食文化が失われつつあります。ただ、文化的価値があるため、今後も伝統的技術や昔ながらの味を次世代へ継承していきたいです」(久保さん)。
味噌で全国初!
「紀州金山寺味噌」が
GI(地理的表示)として登録
2017(平成29)年8月10日、「紀州金山寺味噌」が和歌山県の産品で初めてGI登録された。「紀州金山寺味噌」は、原料が国産であることや、具材の種類、配合、刻み方など規定に沿って製造し、香りや味、食感等の製品検査を受けたもののみが冠を付けられる。
- 【GI(地理的表示)とは?】
- その地域ならではの自然的、人文的、社会的な要因・環境の中で長年育まれてきた品質、社会的評価等の特性を有する産品の名称を地域の知的財産として保護する制度で、桃として全国初、果物としては県内初の登録。