初代が相撲をしていたことに由来し、木桶は名力士の名前で区別されている。
酢
受け継がれる古式醸造で仕込む、
こだわりの酢
創業当時の土間・土壁の蔵と
技術を守る
県南部の熊野エリアは、川や滝、巨岩に神が宿るとする自然崇拝を起源とし、「よみがえりの地」と呼ばれる場所。熊野三山を背にし、豊かな自然の恵みを活用しながら酢の醸造を続ける蔵がある。1879(明治12)年創業の「丸正酢醸造元」だ。創業のきっかけは初代・小坂庄七さんが那智山から流れ出る水が醸造に向いていると気付き、那智山のふもとの大門坂で酢の醸造を始めたこと。4代目の小坂和子さんは「創業当時から蔵も醸造方法も変わっていません。職人が持つ技と惜しまぬ手間、そして蔵で生きる菌の力も借りながら発酵させた無添加の酢を製造しています」と語る。
酢に使用する水は、ミネラルウォーターとして商品化を提案されるほど良質な硬度22度の軟水で、那智山を水源とする。
(写真左)熊野那智大社の別宮・飛瀧神社のご神体である那智の滝は、落差133mで日本一を誇る。日本三名瀑の一つで、垂直の岸壁を流れ落ちる様は迫力がある。
(写真右)菌が弱った際、3代目が法螺貝を吹いて菌の活性を祈った。
水温16度の軟水・熊野山系の
伏流水と
熊野杉の木桶が育てる、
まろやかな味
「丸正酢醸造元」では古式醸造法と呼ばれる、昔ながらの製法を今も受け継ぐ。熊野杉の木桶で米を蒸して麹を作り、直径、高さともに2m以上ある木桶に材料を入れ、アルコール発酵させる。種酢を入れた後は蔵や木桶に付く菌の働きで発酵が進み、職人が見守りながら90日から500日熟成させる。「自然発酵は仕込んだ季節や水温、材料、菌の動きにより発酵状態が変わります。温度が低いと酢酸菌が活発化しないため蔵は温度変化の少ない土蔵。木桶は巻いたこも菰で温度調整します」と小坂さん。職人の長年の経験を頼りに、酢の完成を見極める。長い熟成中に季節が移りゆくため、目を離すことができない昔ながらの製造法だ。木桶で醸造すると約5%が蒸発し、効率化とは無縁だが、容器を変えれば味も変わるため、修繕しながら大切に使い続ける。
材料の最大の特徴は、那智山を水源とする水。「高い山が多い熊野エリアは、その高低差で水がまろやかな味だといわれています。いわれています。酢の口当たりの良さは水のおかげでしょう」。丸正酢醸造元の敷地内には清らかな水が流れ続ける。味の決め手となる重要な水は、これまで枯れたことがないという。米など他の材料も地元産にこだわり、地域とともに歩む商品を守っている。
蔵の庭に創業当時からある井戸は大切に祀られている。
1950年代に機械化の波が押し寄せた頃、価格競争の始まりや消費者ニーズの変化により、売り上げが伸びず苦戦したが3代目の晴次さんは一念発起し、都市圏の物産展へ出展。味や熊野の自然の恵みで育まれた酢であることを知ってもらい、販路拡大やリピーター獲得を目指した。こだわりの酢はニーズが幅広いことがわかり、1980年代には海外へ輸出を開始。
製造量は限られ、品不足になることもあるが、今後も同じ醸造法を続ける。「少しでも変えるとコクや味に違いがでます。先代から受け継いだ酢を誇りに、信念を突き通していきます」と小坂さん。
「昔ながらの食事は長寿に繋がると言われます。洋食や飲み物にも使って欲しいです」と笑顔で話す小坂さん。
モンド・セレクション
最高金賞を受賞
2007(平成19)年から
13年連続
モンド・セレクションは、お菓子の品質向上を目的に、欧州共同体(EC)とベルギー経済省が1961(昭和36)年から開始した、世界各国の食品メーカーが出品する代表的な食品コンクール。審査対象となるのは衛生、味覚、包装、原材料などの項目で、国際品評評価委員会が審査する。2007(平成19)年、丸正酢醸造元の「那智黒米寿」がモンド・セレクションを初受賞し、2019(令和元)年まで連続受賞した。その「那智黒米寿」をはじめ、さまざまな商品がヨーロッパを中心に約15カ国の料理人らに愛用されている。