みなべ川森林組合により植栽されたウバメガシ植栽地

みなべ川森林組合により植栽されたウバメガシ植栽地

和 vol.56 【特集】
果樹王国和歌山。その秘密 -5-

若い梅農家が産地を守るため
耕作放棄地
ウバメガシの
森を育てる

 “南高梅”発祥の地であるみなべ町において、梅農家の現状を変えたいと、大学卒業後にUターンし、(株)うめひかりを設立したのが山本将志郎さんだ。
 担い手不足という問題に危機感を募らせた山本さんは「若者ができる農業にしていかなくては」と新規就農者を受け入れ、後進の育成に当たっていた。そんな時、「隣町の農家から山の変化を聞いて、他人事ではないと感じました。梅農家は、斜面地や平地に複数の畑を所有しているのが一般的ですが、作業も大変な上に収量も少なくなる斜面地にある梅畑から手放していきます。そうした耕作放棄地が増えれば、土砂崩れなどが起きやすくなります。先人たちが梅畑を開墾してくれたおかげで南高梅のブランドができましたが、僕たちの代では南高梅のブランドを守るために使われていない畑は山にもどしていく必要があると思いました」と語る。そこで山本さんは自社で耕作放棄地を購入し、ウバメガシの森を育てる活動を始める。

ウバメガシの森を育てる一般参加の企画どんぐリーグ。東京や長野などから駆けつけた32人。

ウバメガシの森を育てる一般参加の企画"どんぐリーグ"には東京や長野などから32人が駆けつけた。

 また、世界農業遺産のシステムにあるように、県の特産物である梅と紀州備長炭は密接な関係にあり、その備長炭の原料となるウバメガシの成長には20年以上かかる。山本さんは「梅の閑散期に林業や炭焼きができる体制を整え、農家の収入安定にも繋げたい。それがこの産地の維持に繋がると思っています」と語る。働く環境があれば、若い移住者が増えるかもしれない。これらの活動は、町の産業や歴史を守り繋げていくための将来を見据えた投資だった。

どんぐりから育てたウバメガシの苗を持つ山本さん

どんぐりから育てたウバメガシの苗を持つ山本さん。昨年で20000粒を拾い集めた。

株式会社うめひかり
住所/みなべ町晩稲505-1
電話/0739-74-8020
HPはこちら

2025年「みなべ・田辺の梅システム」が
世界農業遺産認定10周年を迎える

 日本一の梅の生産地として有名な“みなべ・田辺地域”。そこには梅を中心とした産業が広がり、様々な文化と景観、先人の知恵と工夫でつくられた、世界に誇る農業のシステムが確立され、400年以上にわたり続けられてきた。2025年、このシステムが世界農業遺産に認定され10周年を迎える。

日本一の梅の生産地である、みなべ・田辺地域の梅の花
みなべ・田辺の梅システムを解説した図

ⓒみなべ・田辺地域世界農業遺産推進協議会

みなべ・田辺の梅システムとは

 養分に乏しい山の斜面に梅林を配置し、周辺に薪炭林(しんたんりん)を残し、水源かん養や崩落を防止、紀州備長炭の生産と高品質な梅を生産してきた農業システムのこと。