
紀州箪笥の主な製造工程は、造材から仕上加工まで15に分かれる。加工は全て職人の手仕事だ。
紀州箪笥
伝統工芸の技と感性を職人の魂に込めて
次世代へ繋げる
「木の国・和歌山」で育まれた紀州箪笥は、国の「伝統的工芸品」にも認められる逸品だ。選び抜かれた木材と代々受け継がれてきた職人技によって生み出される。その歴史の最も古い記録は、江戸時代末期に和歌山城再建のため徳川家の道具類を制作したと記された文書。木材で箱を作る技術が、人々が日常生活で使う箪笥製造へ転じ、現在へ継承されてきた。紀州箪笥の特徴は、軽く柔らかな桐の木の切断から木釘作り、仕上げの塗りまで職人が手仕事で行うこと。伝統から生み出された箪笥には気密性があり、収納する物を保護する役目を果たす。紀州桐箪笥協同組合の理事長・志賀啓二さんは「偶発的に技法は生まれない。今も伝統技術が残るのは、箪笥を作り続け、技を継承してきたから」と話す。

長い経験と身に付けた技、繊細な見立てで、木材の美しさが最大限に際立つように仕上げる。

本体と引き出しの間に隙間がなく、気密性が高い。中の空気が抜けないため、引き出しを入れると別の引き出しが押し出される。
紀州箪笥は1987(昭和62)年、国の伝統的工芸品に指定された。技法はそのままに、生活環境の変化に合わせ、箪笥の仕上げ方や形を変えてニーズに応えている。これまでは白い木肌を生かすと砥の粉仕上げのみだったが、木目を模様として見せる焼き桐仕上げ技法も考案し、インテリアとして選択肢を広げた。「伝統工芸も伝統を守ることと新しい価値を生み出すことで、選ばれる品になります」と志賀さん。技法の保存のため、20年かけて一人前の伝統工芸士を育成する。「修行期間を安心して過ごせる産地であり続けます」と、後継者育成への意欲を語る。

同じ物がない天然素材だから、切り出し方も職人技。一つ一つ違う木目が見せる表情に注目だ。

現代建築や周囲の家具と合う仕上げ方にも力を入れる。洋服やカメラなど「大切な物の保管に使ってほしい」(志賀さん)。
問い合わせ先
紀州桐箪笥協同組合
(株式会社シガ木工内)
電話/073-452-2011
産地発展へ向けて
美と新規性を追求
創造性で道を切り拓く

「一に材料 二に仕事」をモットーにし、素材選びに注力する。限られた資源と向き合い、人にしかできない仕事を施す。
若い世代の育成を継続して行っている、1891(明治24)年創業の「家具のあづま」は桐の木の切り出しから製材、企画製作、塗装等の全工程を自社で行う、箪笥製造の総合メーカーだ。5代目で伝統工芸士の東福太郎さんが、国内外から集まる若い志願者を継続して育成する。技以外にも職人や経営者としての心構えや製品を磨く美的感覚等、自身の知識と経験を余すことなく教えている。東さんは人材育成に力を入れる理由について、「紀州箪笥は先人たちの美学の結晶。伝統の技と特別な加工技術で作られた箪笥は100年後も使い続けられます。そんな箪笥を再現できる人材を増やし、業界を発展させたい」と目を輝かせる。

「作ったもので人を喜ばせる、アーティストのような職人になってほしい」と願う東さん。県外から移住した2人(写真右側)は工芸が好きで、熱心に取り組んでいるという。

紀州箪笥製造技術を使い、生活雑貨も開発。クラウドファンディングにも挑戦し、消費者へのアプローチ方法も変化させている。
発展には、時代に合わせた変革も必要だ。「伝統工芸にアート要素を取り入れれば世界が広がり、産地の可能性を伸ばせる」と進化の方向を見定める東さん。それは自身が2017(平成29)年、伝統技術と自由な発想を掛け合わせた製品を作るプロジェクト「LEXUS NEW TAKUMIPROJECT」で「注目の匠」に選出された経験に裏打ちされている。「桐箪笥製造で培った技術で美を追究し、誰にも作れない製品を生み出したことが評価された。箪笥以外の物を作ってほしいとの依頼が増え、今までになかった需要が生まれている」と語る。育成する人たちに、自身の背中と成果で伝統工芸の次の形を見せている。ここにしかない技と新しい価値を生み出す創造性を持ち合わせる紀州箪笥の未来は明るい。

大阪・関西万博和歌山ゾーンで和菓子のスイーツセットを並べる器を製作。1つの切り株から切り出して作り上げた。

「注目の匠」に選出された桐のビア杯。1本の桐の無垢材を1mmまで削り上げ、美しさと軽さを両立させた。
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紀州桐箪笥協同組合
(株式会社シガ木工内)
電話/073-452-2011