両手で持ち示されるパイル織物

パイル織物は、織物の基布に毛(パイル糸)が織り込まれ、三次元構造で立体的な有毛布地のこと。伸縮性に富み、摩擦に強く、柔らかい肌触りが特徴。

和 vol.57 【特集】
和歌山の産業 -3-
和歌山の産業

高野口パイル

多様な製法と新素材開発で
世界から選ばれる特殊織物

 高野山へ参詣する人たちで賑わった橋本市(旧高野口町)、かつらぎ町を中心に発展してきた『高野口パイル』。世界的なハイブランドからの注文も絶えない、和歌山が誇る繊維産業である。多彩な製法を駆使し、ここにしかない独自の風合いと機能性を備えた生地を長年にわたり作り続けている。

橋本市高野口町の施設「裁ち寄り処」で展示される『高野口パイル』を使った新幹線の座席

摩擦に強い特性から、車両のシートへの採用実績も多い。橋本市高野口町の施設「裁ち寄り処」では『高野口パイル』を使った新幹線の座席を展示中。

 高野口は、日本で唯一、すべての生産工程を同一産地内で完結できる総合パイルファブリック産地である。工程ごとに分業化され、それぞれの企業が研究し高度な専門技術を培ってきた。「高野口には異なる編み機による4つの製法が集積しており、多様な生地を生み出せることが産地の強み。リクエストされる生地によって機械を使い分け、産地内のどこかでは要望に応えられる」と語るのは、紀州繊維工業協同組合の理事長・岡田次弘さん。

『高野口パイル』の多彩な生地サンプル

生地染めや糸染め、プリント加工など多くの工程を経て、多彩な生地が完成する。

“ここにしかない生地”が生まれる
仕組みがある

 『高野口パイル』の起源は江戸時代、この地域で盛んに栽培された綿花を用いた「川上木綿」に始まり、明治時代に入ると、「川上ネル」と呼ばれる起毛布へ発展した。川上ネルは、防寒性と肌触りの良さを兼ね備えた織物で、防寒着として重宝された。1877(明治10)年には、平織りの生地を裁断しモール状に加工して再び織り込む「さいおり再織」が創案され、この立体的な特殊織物が、『高野口パイル』の原型となる。

国内外の多くのブランドで採用される多様な『高野口パイル』の生地

『高野口パイル』の生地は国内外の多くのブランドで採用され、ブランドを陰から支える存在だ。

 『高野口パイル』は三次元構造を持つ立体的な織物で、伸縮性に富み、摩擦に強く、柔らかい肌触りが特徴である。時代とともに発展を遂げてきた『高野口パイル』の生地は唯一無二であり、洋服やバッグ、帽子などのアパレル製品や、寝具、ソファカバーなどのインテリア用品、車両用シートなど、多岐にわたるジャンルで活用され、世界各国の高級メゾンにも採用されている。「肌に触れて気持ち良い生地作りにこだわるのは、かつての川上ネルのような肌触りの良い防寒着がルーツにあるから」と岡田さん。

岡田さんが代表取締役を務める株式会社岡田織物で導入されている自動裁断機

岡田さんが代表取締役を務める株式会社岡田織物で導入された自動裁断機。他企業の製品も裁断を請け負い、産地全体の業務効率化に繋がっている。

 近年、繊維業界全体が海外生産へとシフトする中でも、『高野口パイル』は産地の力を結集し地元に根ざしたものづくりを貫いてきた。展示会などを通じて国内外のニーズに応えながら、品質と機能性に優れた高付加価値な生地を開発し続けている。そして、「産地としてリクエストに応えたいと一致団結して挑戦を続け、ここにしかない生地を多数作れる産地へ成長しました。今は、産地のファンを一人でも増やそうという意識で活動しています」と岡田さんは話す。

『高野口パイル』の生地を両手に持つ岡田さん

「立体の生地は触って初めて分かる違いがあるので、触れてもらう機会を増やしていきたいです」と岡田さん。

 今後もエコファー(毛皮の代用品)のような新しい機能や特性を持たせた生地の開発、生地生産だけにとどまらない製品化や情報発信にも活動の幅を広げ、産地のさらなる発展に向けてチャレンジを続ける。

大阪・関西万博 Report

『高野口パイル』が活用された大阪・関西万博の関西パビリオン和歌山ゾーンに設置されているキューブ型ソファとスタッフ用バッグ

和歌山ゾーンで来館者を迎えるスタッフが身に付けるバッグと、ほっと体を休めるキューブ型ソファに『高野口パイル』が活用された。

問い合わせ先

紀州繊維工業協同組合

住所/橋本市高野口町名倉1067
電話/0736-42-3113
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