知事対談/竹中ナミ×宮﨑美侑/和歌山県知事 岸本周平
竹中ナミ×宮﨑美侑×岸本周平知事
2024年世界パラ陸上競技選手権大会の空撮で授与された感謝状と(右)知事、(中)宮﨑さん、(左)竹中さん。
和 vol.55

知事対談

竹中 ナミ

宮﨑美侑

岸本周平

障害者を納税者に。
失敗を恐れず挑戦する

“障害者を納税者に”とは、チャレンジドの権利を認めることである。日本においてそれは、センセーショナルな考え方であった。その考えに呼応し1人の若いチャレンジドが、難関の一等無人航空機操縦士に見事合格。できない理由を探すのではなく、まず挑戦してみようという信念に本当の強さを感じた。

PROFILE

社会福祉法人プロップ・ステーション理事長 竹中ナミ氏
竹中ナミ

1948年兵庫県神戸市生まれ。社会福祉法人プロップ・ステーション理事長、一般社団法人ユニバーサルドローン協会事務局長。2023年から和歌山未来創造プラットフォームメンバー。

一般社団法人ユニバーサルドローン協会パイロット 宮﨑美侑氏
宮﨑美侑

一般社団法人ユニバーサルドローン協会所属のパイロット。16歳で一等無人航空機操縦士の国家資格を取得した。

岸本知事(以下岸本) 今日は社会福祉法人プロップ・ステーションの理事長であるナミねぇこと竹中ナミさんに、福祉を中心に色んなお話を聞きたいと思います。ナミねぇと出会ったのは、30年ほど前のことですが、35年ほど前から“チャレンジドを納税者にする”という活動をされています。そもそもその活動のきっかけは何だったんでしょうか。

竹中ナミ(以下竹中) 私の娘は今、51歳ですが、生まれつき脳の障害が重く、今もまだBabyという感じなんですね。でも世の中を見てみると“障害があっても色んな事をやりたい”という人が沢山います。しかしそんな人たちを“かわいそうな存在”とか“気の毒な存在”と捉え“税金で面倒を見なければならない人だ”というように決め付けているのが、すごくもったいないと思いました。だから私は、障害があっても色んな事をやりたいと思っている人たちの力を活かすことができれば、娘のような存在もみんなで守ってもらえる社会になるのではと考えました。その時に自分なりのキーワードを探すために色んな本を読んでいたら“国家があなたのために何ができるかではなく、あなたが国家のために何ができるのか”というアメリカのケネディ大統領の就任演説を読む機会がありました。その中に“自分は全ての障害のあるアメリカ人をタックスペイヤー(納税者)にしたい。それが彼らの権利を認めることになる”といったことが書かれてありました。タックスイーター(税金を無駄遣いする者)であることが当たり前の日本において、その言葉は大きなキーワードになると思い“チャレンジドを納税者にできる日本”というのをあえてキャッチフレーズにし、活動を始めました。

岸本 私もそれを聞いて感動しました。その上、当時はまだそれほど進んでいなかったICT(情報コミュニケーション技術)に着目し、チャレンジドの皆さんから実際に授業料を徴収し、働いてもらうっていうことをやられていました。

竹中 “私たちは障害者のために一生懸命、予算要求や補助金要求してるのに、障害者が税金を払うようにするとはどういうこと?あなたの言ってることは福祉じゃない”など、他の福祉団体から言われました。でも私は、自分が何者かになりたいと考えた時、お金を払うことで初めて本気で勉強をするのではと思っていて“障害者からはお金を取ってはいけない”というのは、変なルールだと感じていました。だから本当に自分が仕事をできる人になりたいと思うなら、障害がある人でもお金を払うべきだと思うんですね。プロップ・ステーションで開催した講習は1人500円とか1000円だったんですが、それでも“障害者からお金を徴収した”とすごくセンセーショナルに扱われました。

岸本 私もお手伝いをさせていただきましたが、長く続く習慣と戦うということを35年前からされていて、精神的なタフさはすごいなと思いました。私も自分なりに役人として一生懸命やっていたつもりだったのですが、ナミねぇの活動は世の中を変えていくんですね。世の中を変えられるということを目の前で見て、これは役人なんてやってる場合じゃないと思い、政治家を目指すことになりました。

和歌山県知事 岸本周平

和歌山県知事 岸本周平

神様が挑戦する権利を与えてくれたチャレンジド

岸本 私が経産省に出向していた時のことですが、脳性麻痺の若い人たちが2〜3人でとても良いソフトを開発したんですね。その現場を視察に行ったのですが、彼らはとても明るく非常にたくましく、まさしくチャレンジドなんです。そもそもチャレンジドという言葉もナミねぇに教えてもらったのですが、障害のある人たちは健常者よりも生活そのものが挑戦である。それは神様が挑戦する権利を与えてくれているんだ。だからチャレンジドというんですが、今はもう日本でもかなり定着してきています。仮に健常者がいたとして、努力をすると昨日できなかったことが今日できる。今日理解できなかったことが明日だと理解できる。そんな風に考えると挑戦するという意味は誰にも一緒。だから結局みんながチャレンジドだと思えましてね。これもすごくいい言葉だと思いました。また一度、ワシントンのペンタゴンへ視察に行きましたよね。そこでも感動しましたね。

竹中 アメリカのペンタゴンに、就労支援の最先端の部署があるということにびっくりしましたね。

岸本 傷痍(しょうい)軍人のために恩給や年金といった手当ではなくて、チャレンジすることに対して色んな手伝いをする。そういうのをペンタゴンの予算で行うんですね。しかもその時の担当者が電動車椅子に乗った女性でした。

竹中 彼女は頸椎(けいつい)損傷し全身麻痺になりながらもリーダーとして活躍し、ペンタゴンを変えた7人のうちの1人と言われています。

岸本 ペンタゴンとは国防総省ですから、そのチャレンジドに対する予算は軍事費なんですね。不思議に思って聞くと“障害のある人が目を輝かして幸せそうに生きてる国を誰も攻めてきませんよ”って言っていました。その後実際に私は国会議員となり、障害者と児童養護の政策をライフワークにやってきましたが、そのきっかけを作ってくれたのが、ナミねぇでした。そして和歌山県の知事となり、未来創造ネットワークというプラットフォームを作り、ナミねぇにもメンバーになってもらっています。また最近、ナミねぇはICTだけでなくドローンにも深く関わるようになってきましたが、何かきっかけはあったのでしょうか。

竹中 チャレンジドにとってICTの次に何が必要だろうかと考えていた時、見つけたのがドローンでした。チャレンジドがドローンのプロになり、社会を支えるような時代が間違いなく来るだろうなと直感的に思ったんですね。だったらそれを学べる場所を作ろうと思ったのですが、私には教える技術はありません。ICTの時はマイクロソフトのビル・ゲイツさんに仲間入りしてもらったように、すごい人を引っ張ってくるのが私の役割。そして出会ったのが一般社団法人国際ドローン協会の榎本幸太郎さんでした。2019年には神戸にユニバーサル・ドローン協会を設立したのですが、榎本さんは講習のために毎月自費で東京から神戸まで、ボランティアでドローンを教えに来てくれました。

対談中の竹中ナミ氏

岸本 ここからはドローンについても聞いていきたいので、一等無人航空機操縦士というドローン国家資格を取得した宮﨑美侑ちゃんにも話に加わってもらいたいと思います。

岸本 それでは宮﨑美侑ちゃんにおいでいただきました。お久しぶりです。

宮﨑美侑(以下宮﨑) お久しぶりです。

竹中 美侑ちゃんは中学一年生の頃からプロップ・ステーションのパソコンスクールに通っていました。生まれつき両腕が欠損しているので足でパソコンの操作をするのですが、すごく優秀だったんですね。そんな美侑ちゃんを見て、彼女だったら絶対に上手くドローンも飛ばせるようになると思いました。そしてすぐにドローンの勉強を始めるようになるのですが、グングンと技術や知識を吸収し、2023年には一等無人航空機操縦士の国家資格を取得しました。当時その資格は全ドローン人口の内、たった100人しかいなく、16歳での取得は最年少記録でした。

岸本 今後、ドローンの操縦も運転免許証のようになると思いますが、試験は難しく合格まで大変だったでしょう。

宮﨑 千葉県にある榎本さんのドローン学校の合宿に参加し、その後試験に挑戦しました。最初は実地試験だったんですけど、風速が規定ギリギリの中で飛ばしたので、本当に合格するかドキドキしていました。次に学科試験なのですが、9割以上正解しなければならず、2ヶ月ぐらい猛勉強しました。

岸本 9割とは難しいですね。私も千葉県にあるドローンパークに行かせていただき、自分でも操縦してみましたが、障害者の就労支援や災害対応をはじめとする活用に可能性を感じました。また、美侑ちゃんには和歌山県の特別支援学校に教えに来ていただきましたが、その時のこどもたちの目の輝きが印象的で、先生たちもこんなにみんなが楽しそうにやっているのを見るのは初めてだと言っていました。美侑ちゃんは教えることが好きですか。

宮﨑 結構好きで、インストラクターの資格にも挑戦したいと思っています。

竹中 美侑ちゃんには後進を指導するような役割をお願いしたいですね。教え方も上手だし、教えるのも好きだよね。でも感覚的なものはどう教えるのですか。

宮﨑 感覚を伝えるのってすごく難しいんですけど、自分なりの工夫をして伝え、教えた方が上手になるのはすごく嬉しいです。やっぱり手と足では感覚が違うので、繊細な動きをどれだけ掴めるかを教えるのが一番難しいですが、やりがいがあるかなと思います。

対談中の宮﨑美侑氏

和歌山にチャレンジドのドローン学校を作る

岸本 実は今、チャレンジドの皆さんにドローンの操縦を教える学校を和歌山県内に誘致したいと思い、ナミねぇには場所探しをしていただいています。

竹中 和歌山県という土地柄、農業や林業などにもドローンが非常に役立つと思います。

岸本 さらに防災の観点からも必要性を感じています。能登半島地震では多くの孤立集落ができました。道も閉ざされているような大混乱の中、いち早く現場の状況をドローンで確認、場合によっては大きなドローンで物資を運ぶことができるなど、非常に有効な道具だと思います。

竹中 テーブルの上に置いているのは、小型ドローンですが、実際に美侑ちゃんが足で操縦できるのはこのテーブルぐらいの大きさのものです。

宮﨑 実際にそんな大型のドローンで被災地に物を運んだりもしたそうです。

岸本 県庁内の職員も23人、一等無人航空機操縦士の資格を取得していますが、和歌山県に学校ができれば、美侑ちゃんには教えにきてもらいたいし、災害などがあったら助けにきてくださいね。またこの感謝状はどうしました?

竹中 2024年5月、神戸で世界パラ陸上競技選手権大会が行われましたが、その開会式の模様を空撮してほしいと依頼があり、美侑ちゃんが撮影を担当したのです。これはその時の感謝状なんです。ポール・フィッツジェラルド代表も美侑ちゃんのことを気に入っちゃって、1時間ほど話していました。もう“世界の宮﨑美侑”になりました。

岸本 美侑ちゃんのように自分の好きなことを見つけ、それを伸ばしていくということは大切だと思いますが、美侑ちゃんから中学生や小学生、またチャレンジドの皆さんに何かメッセージがあればお願いします。

宮﨑 自分が好きなことを見つけて、それをとことんやるというのが良いと思います。私は色んなことに挑戦することが好きですが、本当に好きだったら失敗することも、後からみたら経験になったり、楽しかったという記憶になったりすると思うので、失敗を恐れずに続けるべきだと思います。

岸本 私も失敗してもいいから前例にとらわれずに挑戦しようといつも職員の皆さんに伝えています。今日はありがとうございました。

小型のドローン

写真は小型のドローン。宮﨑さんは空港付近や夜間、人口集中地区上空を25kg以上の大型ドローンで目視外飛行などができる。