和 vol.55 【特集】
和歌山百景 -5-

和歌山県の未来を探る

大阪・関西万博が目指す、持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献。
和歌山の未来を見つめると、SDGsの未来が見えてきた。

INDEX

80年の歴史に感謝、そして今後の取り組み。
和歌山県を脱炭素先進県に

ENEOS和歌山製造所技術・製油副所長の木田高史さん。左/事務副所長の伊藤和弘さん。

右/ENEOS和歌山製造所技術・製油副所長の木田高史さん。左/事務副所長の伊藤和弘さん。ENEOS和歌山製油所は、2023年にENEOS和歌山製造所に生まれ変わった。

 ENEOS和歌山製油所の石油精製機能の停止は和歌山県に大きなインパクトを与えた。しかし、そのピンチをチャンスに変えようと官民挙げたプロジェクトが始まっている。「石油製品の需要減少や脱炭素の機運もあり、当社も苦渋の選択をしましたが、県や市などと連携し“未来環境供給基地”を目指し、SAF(持続可能な航空燃料)などの次世代エネルギーの供給に取り組んでいます」と語るのは同所副所長の木田高史さん。「当所は家庭や企業から生じる廃食油でSAFを製造する予定です。コスト面での課題もありますが、新技術の開発により生産量が増え、サプライチェーンが広がればコストダウンにもつながるでしょう。今始めなければ未来は何も変わりません」。脱炭素の潮流に沿った意識改革は企業・個人問わず求められており、同所もカーボンニュートラル社会の実現に向かって挑戦している。
 SAF製造に向け準備を進める同所は、共に歩んできた地域に対して「皆さんと環境問題についても考えていきたい。また、GX(グリーントランスフォーメーション)のモデル地区を目指し、元製油所の広大な敷地に資源循環を意識した企業誘致ができれば、雇用機会が増え、地元の活性化につながるのではないかと思っています」と語った。

【未来環境供給基地】
分布図
ENEOS株式会社和歌山製造所
住所/有田市初島町浜1000
電話/0737-85-1010
HPはこちら

官民力を合わせ、
天ぷら油で飛行機を飛ばそう!

【家庭用使用済み天ぷら油回収実証事業】

 県民の資源循環に対する意識向上と、SAFにも関連する事業として和歌山県が実施する“家庭用使用済み天ぷら油回収実証事業”。登録したモニターが繰り返し使える専用ボトルに家庭から出る廃食油を溜め、スーパーなどの回収拠点に持参する。今年7月の実証開始後、順調にボトルが集まっており、県民の環境問題への関心の高さが窺える。この実証事業は2025年度末まで継続され、今後は実施地域の拡大や採算性の検討を行い、実証終了後は、CO2削減効果の高い燃料等へと利活用する民間事業者の自主事業として定着させたい考えだ。

家庭用使用済み天ぷら油回収ボックス

回収するのは、家庭から出る植物性食用油のみ。モニター登録者数は2067名。(R6.10月末時点)

登録したモニターが繰り返し使える油回収用専用ボトル
和歌山県成長産業推進課
住所/和歌山市小松原通1-1
電話/073-441-2355
HPはこちら

糸屋は紙に詳しくなく、紙屋は糸に詳しくない
だからこそまれた牛乳パックの紙糸とは?

右/紙糸を持つ岩崎伸哉さんと、左/ReMateri®プロジェクトの同僚、高橋佳奈子さん

右/紙糸を持つ岩崎伸哉さんと、左/ReMateri®プロジェクトの同僚、高橋佳奈子さん。使い心地の良さからタオルなどはホテルからの大量オーダーもあるという。

 世界的コンピュータ横編機メーカーである(株)島精機製作所の社内ベンチャー企画からうまれたサステナブル素材事業“ReMateri®”。「環境問題を考慮し、アパレル業界において再生紙を活用した糸の開発は注目されていましたが、新聞やダンボールだと強度がないという課題がありました。そこで着目したのが牛乳パックです。牛乳パックは表面のラミネートをとると中の紙は高品質で強度があることが分かりました。異なる分野の糸屋さんと紙屋さんを結びつけ開発されたのが“REPAC®”という紙糸です」と語るのはプロジェクトを管理する岩崎伸哉さん。
 牛乳パックから抄いた紙を細長くカットし撚糸されることでできる糸はサラッとしていて、吸水性や消臭性にも優れている。また“REPAC®”1kgの製造あたり約234gのCO2排出量削減にも貢献しているという。「糸としての販売はもちろん、自社で開発した靴下やタオルなども販売しています」。同社の取り組みはアパレル業界における環境問題解決への大きな一歩となりつつある。

【REPACⓇ】
牛乳パックから作られた“REPAC®”という紙糸/その素材で作られたた靴下やタオル

ReMateriおよびREPACは株式会社島精機製作所の登録商標です。

株式会社島精機製作所
住所/和歌山市坂田85
電話/073-471-0511
HPはこちら

廃棄予定の傘を再利用、
環境にもにもしいAEDシート

AEDシートをもったKumanoサポーターズリーダーの皆さん

Kumanoサポーターズリーダーの皆さん。傘の生地をはぎ取り、ミシンで縫い合わせて1枚のシートに仕上げる。生徒たちは生地の組み合わせを楽しそうに選ぶ。

 AEDシートの存在をどれほどの人が知っているだろうか?「心肺蘇生が必要な緊急事態において、女性へのAED使用率は平均より低いといわれています。プライバシー保護の観点から開発したのが、“AEDハートフルシート”です」と熊野高等学校教諭の上村桂さん。2011年の紀伊半島大水害で仲間が亡くなったことを機に、上村さんが顧問を務めるKumanoサポーターズリーダーでは命の大切さを考えるようになった。地元消防署やAED販売業者にも協力を仰ぎ1年後に開発されたが、無償提供するにはコストがかかりすぎた。そこでJR西日本の置き忘れの傘に着目し、リサイクルにも寄与しながら原価を抑えることに成功。「学生自ら何度も消防署に出向き、心臓マッサージの位置やAEDパッドを貼る位置をワッペンで示すなどヒアリングと試行錯誤を繰り返し、完成品ができました。現在も授業と部活動で製作し、県南部だけで300を超える施設に、最近では天王寺駅や大阪駅などへも配布しています。AEDシートの輪をもっと広げていければと思っています」。

【AEDハートフルシート】
AEDハートフルシート
和歌山県立熊野高等学校Kumanoサポーターズリーダー
住所/上富田町朝来670
電話/0739-47-1004
HPはこちら