紀州東照宮の前に立つ吉本さん

絶景と上質な歴史が融合した紀州東照宮の境内

和 vol.55 【特集】
和歌山百景 -2-

和歌山ゾーン構築総合
ディレクターが語る、
和歌山の魅力と
大阪・関西万博


和歌山には、しい景観と
千年以上積み重ねてきた
上質な歴史文化と精神性がある。


航空宇宙工学×アート
世界で活躍するデザイナー

 来年開催される「大阪・関西万博」。関西パビリオン内にある和歌山ゾーンの総合ディレクターを務めるのは、世界的に活躍するデザイナー・吉本英樹さんだ。
 和歌山市生まれの吉本さんは、東京大学工学部へ進学し、航空宇宙工学を学ぶ。「航空工学の中でも人工知能やコンピュータに関わる研究をしていましたが、空や航空機に憧れがあり、それらが社会や人にどんな役割を持つのかを考えるようになりました。当時、周囲の影響もありアートの分野にも惹かれていくのですが、技術そのものよりも、技術と社会の接点に強い関心を持ち、それを扱うデザインの領域に傾倒していきました」と話す。大学院卒業後は渡英し、名門美術大学で博士号を取得。現地で活動していたが、2020年に東京大学・先端科学技術研究センター特任准教授への着任をきっかけに日本へ拠点を戻し、和歌山ゾーンの構築を手掛けている。

東京大学・先端科学技術研究センター特任准教授 吉本さん

東京大学・先端科学技術研究センター特任准教授に就任することになり、約10年ぶりに日本に帰国したという吉本さん。「プロとしてふるさとに関わる使命を与えられたことは、非常に光栄です」と話す。

吉本英樹●1985年和歌山県生まれ。2010年東京大学修士課程 (航空宇宙工学) ・2016年英ロイヤル・カレッジ・オブ・アート博士課程 (デザイン工学) を修了。2015年にロンドンにてデザインスタジオ「Tangent」を設立。日本の伝統工芸と先端技術を繋ぐ国際的なイニシアティブ「Craft x Tech」を創立し、日本文化の進化・継承にも取り組む。

紀州東照宮で行われる和歌祭の様子

万博コンテンツの一つ、紀州東照宮。毎年5月に行われる白装束の男たちが神輿を担ぎ108段もの石段を駆け下りる和歌祭も有名。

和歌山の多彩な文化を
たな形で表現

 和歌山ゾーンのテーマは“和歌山百景-霊性の大地-”。高野山や熊野に代表されるような、人知を超えた自然への信仰が今も生きる「和歌山のスピリチュアリティ」は特別なものであり、それは根底を貫くテーマとなり“上質”のつまった和歌山を表現する。
 「内容が同じでも、見方や見せ方を変えると全く違う形になります。“和歌山百景”は大地の形成や自然の風景だけでなく、ここに暮らす人々の姿、伝統文化や産業など、和歌山を構成する過去、現在、あるいは未来のさまざまな要素を表現します。和歌山を離れていたからこそ見える素晴らしい景色を“世界最高のレベルで見せる”ことにチャレンジしたい」と吉本さんは話す。
 紀伊山地の巨木を彷彿させるような映像タワー“トーテム”には「シアター」では表現できない見せ方が詰まっている。多様な風景が投影される8体のトーテムが、会場全体をひとつに包み込み、県内各地の職人やアーティストによって生み出される家具やアート作品と共に、空間を演出する。トーテムには紀州塗りを施し、展示什器には紀州高野組子細工、食を提供するカウンターバーには紀州材の焼杉を採用するなど、細部にたくさんの人の想いや技術が込められている。他にも、和歌山の歴史や伝統を象徴するステージコンテンツやフードコンテンツなどが組み込まれる予定。
 「将来的に伸びていくであろう日本の観光産業。和歌山が持つ自然や歴史、文化などの多様な資源は、東京やロンドン、ニューヨークにも引けを取らないと思っています。万博は、それらを国内外に向けてPRするため、新しい見せ方にチャレンジできる良い機会。和歌山のいろんな方々が、それぞれのプロフェッションを追求・貢献して圧倒的なクオリティで出来上がった和歌山ゾーンが、関西パビリオンの中でも訪れる人の予想を裏切るような特別なものになれば」と吉本さんは語る。

大阪・関西万博 関西パビリオン内 和歌山ゾーン イメージ図

大阪・関西万博 関西パビリオン内 和歌山ゾーン イメージ図

高さ約4m、和歌山各地の風景や歴史をアートとして映し出す、8体のトーテムに取り囲まれるように設置された中央ステージでは、祭り、世界遺産、伝統芸能など、“和歌山の今を生きる人”に焦点をあてた多様なパフォーマンスや展示が行われる。また、紀州材の焼杉を使用したカウンターバーでは、加藤峰子氏が監修した季節を感じられる和菓子を中心としたメニューが提供され、県内の桐箪笥職人と共に創り上げた特別な器から提供されるメニューは、“食のアート”も体験できる逸品である。