
美しい海を守るために生まれた金芽米(BG無洗米)。洗わずに炊けるので、キャンプやアウトドアにも人気。
川や海を汚さない無洗米はSDGsの先駆者だった
日本の主食であるお米。高度な下水処理ができなかった時代、リンや窒素が多く含まれる研ぎ汁は、生活排水として川や海に排出され、プランクトンの大量発生や赤潮などにつながっていた。「昭和51年のある日、弊社社長の雜賀が、以前美しかった紀淡海峡が赤潮に覆われているのを見て“自分が関わっている米が、こんな状況を引き起こすことにつながるとは”と愕然としたそうです。 それが無洗米を開発しようとしたきっかけになりました」と語るのは、東洋ライス株式会社執行役員の関博行さん。

多くの旨みと栄養がありながら、糠と一緒に取り除かれていた非常に薄い層の“亜糊粉層(あこふんそう)”。亜糊粉層を残した金芽米を作るには、熟練したオペレーターの技術が必要で、目視により精米しすぎるのを止めるという。
そして、水洗い式の無洗米の開発に成功し、特許も取得した。「しかしその方式では、工場からは排水されるので、根本的な解決にはならない。納得できない雜賀は、研究を続け1991年、世界初となる“研がずに炊けるBG無洗米”を開発しました。糠(ぬか)で糠を取るという驚きの方法で、工場でも研ぎ汁を出さず、水を汚さないBG精米製法の誕生でした」。

精米機器メーカーとして活躍する東洋ライス。環境に対するこだわりが広く認められ、現在は国内50もの精米工場にBG無洗米加工機を供給している。
さらに、その製法を進化させ、美味しさと健康にこだわった“金芽米(きんめまい)”を2005年に発表。数ミクロンという薄い層で、酵素をはじめミネラルやビタミン、食物繊維などの栄養成分や旨み成分が多く含まれている“亜糊粉層(あこふんそう)”を残したもので、東洋ライスを代表するヒット商品となった。
BG精米製法は、水を汚さないというだけではない。通常は研ぎ汁として廃棄される肌ヌカさえも“米の精”という商品に加工し肥料や飼料として使用される。それはアップサイクルそのものであり、今時の循環型農業でもある。そういった活動が評価され、東洋ライスは2018年に環境省から米穀業界では初めてとなる“エコ・ファースト企業”に認定された。


BG無洗米のBGとは、ブラン(Bran)=ヌカ、グラインド(Grind)=削るという意味。米の表面についた糠を糠で削り取るという製法だ。“米の精”はBG無洗米の副産物、肌ヌカから生まれた有機質肥料。
昨今のように環境問題が大きく取り上げられるようになる前から、研究開発に取り組んだ東洋ライスは、2019年には日本企業で初めて国連欧州本部にてSDGsに関する取り組みを発表。まさにSDGsの先駆者的企業である。
すさみ町で始まったSDGs
地産地食で守る子供たちの健康
東洋ライスとすさみ町は、2020年6月から、すさみ町産の米を金芽米に加工し、全小中学校の生徒約200人の給食に提供している。高齢化が進むすさみ町では、歳出に占める医療費の比率が高い。 そこで子供の頃から金芽米を食べて健康でいてもらいたいと共同事業が始まった。時間のかかる話だが、地産地食の推進は持続可能な社会に不可欠だ。さらに子供達にも美味しいと評判で残食もほとんどなくなったという。

すさみの米で作った金芽米。地産地食でありSDGsでもある。
すさみ町で米を作る農家の阿部集さんは「米ヌカは昔から肥料にいいと思っていたので“米の精”がいいモノであるのはすぐに想像できました。 畑だけでなく田んぼにも使っていますが、特にお米が美味しいと評判でリピーターもでき、毎年完売しています」という。

農業に対して研究熱心な阿部さんは定年後から本格的に農業を始めた。
無洗米加工時に取れる肌ヌカ(米の研ぎ汁成分)から作られた米の精で美味しい米を作る。これこそ究極の循環型農業でありSDGsである。
住所/すさみ町周参見4089
電話/0739-55-2004