“戻り苗”で
森づくりにかかわる
防災や森づくりを
自分事として捉える
木材価格の下落や就業人口の減少など、さまざまな問題を抱える日本の林業。そんな中、林業とあまり関わりのない個人や企業が、森づくりに携わることができる仕組みを生み出したのが“ソマノベース”だ。田辺市を拠点に活動し、土砂災害での人的被害をなくすことを目的に掲げたベンチャー企業で、2021年に設立。ドングリから観葉植物として2年間木を育て、山に返すという体験型の製品“MODRINAE(モドリナエ)”で注目を集めている。
2021年に国産材の新たな可能性を見出すための「ウッド・チェンジ・アワード」でブロンズ賞を受賞。翌年、クラウドファンディングで資金を獲得し、製品化が実現した。代表取締役の奥川季花(ときか)さんは、「初年は約300セットを完売。購入者は、都市部の20~40代の女性が多いんですよ」と話す。
購入者はMODRINAEに名前を付け、成長過程をSNSで発信するなど、ユーザーフレンドリーで新しいSDGsの形だ。同年、企業向けに「MODRINAE FOR BUSINESS」もスタート。ワークショップや植林ツアーを含めた長期的な体験型プログラムが注目を集め、県内外の企業がCSR活動として続々導入している。
「木を植えることだけが、林業の低迷や災害の解決策になるとは考えていません。MODRINAEはあくまでも問題提起のための広報ツール。防災や森づくりを、自分事として捉えてもらうことが大切だと思っています」と奥川さん。林業関係者と一丸となり生み出す新たなサービスが、個人や企業・行政を巻き込んだ課題の解決につながっていく。
今年の秋、多くの人に愛され育てられたMODRINAEが初めて山に戻される。ユニークな事業展開と森林保全や防災に対する意識の広がり。ソマノベースの第二章、木の国ならではのSDGsの広がりが楽しみだ。
「災害から地元を守りたい」
被災経験から起業へ
那智勝浦町出身の奥川さんは、2011年の紀伊半島大水害で被災し、土砂災害により友人を亡くしたという。 その経験から防災への関心を高め、大学在学中に各地の林業地への訪問を重ねながら、インターンでソーシャルビジネスを学ぶ。卒業後ボーダレス・ジャパンに入社。退職後個人事業を立ち上げる。
2021年には田辺市で育林業を営む株式会社中川に入社し、作業員として就業しながらソマノベースを法人化した。MODRINAEを中心に、山林調査やカーボンニュートラル事業など、SDGsと林業に関わるさまざまなビジネスを展開している。