
濃い緑色の摘果みかん。見た目が綺麗でないものもあるが、無農薬だからこそ安心して皮ごと使用できると、多くの問い合わせが殺到している。
廃棄するものを、
新しいカタチに変える
和歌山といえば“みかん”を思い浮かべる人も多いだろう。しかし10年20年後には、そのみかんを栽培する農家がいなくなってしまうかもしれないと危機感を募らせ、2020年に発足したのが“NPO法人クルーズアリダ”だ。「私が住む有田市下中島地区は有田みかんの有名な産地で、少し前までは180世帯以上のみかん農家がありました。年々減少し、今では20代と40代が1人、そして50代以上が数人。他はほとんど高齢者で、合わせても40世帯程度です。このままではダメだと思い、若手農家を増やそうと活動を開始しました」と語るのは理事長の橋爪裕介さん。
まず最初に取り組んだのは、元々捨てられていた摘果みかんの販売だ。「美味しいみかんを出荷するために、7月から9月の暑い時期に、ひたすら摘果していました。商品として出荷するならまだしも、捨てるための作業は、体力的にも精神的にも辛い仕事です。しかし、摘果作業の時に感じる香りは、みかんより酸味が強く爽やか。そこで当時、つわりで苦しんでいた妻に、摘果みかんで割ったソーダを飲ませたら“これは美味しい!おかわり!”というではありませんか。これだと思いインターネットで販売を開始したところ、それがヒットし、期待していた以上の収益をあげました」。

摘果されたみかんは、酸味がレモンより強くスダチよりまろやか。香りも 豊かで摘果みかんサイダーだけでなく焼酎割りなども美味しい。
通常、みかんは年一度の収穫で、商品価値を落とさないために、慎重に作業しなければならない。その点、摘果作業には熟練した技術は不要で、アルバイトでも可能。さらに10月の台風シーズンの前までに3回程度の収穫が可能で、収益の機会も増えるというのもメリットだ。

NPO法人CRUISE ARIDA理事長の橋爪裕介さん。みかん農家は祖父母から受け継いだ。2019年、台風により出荷直前のみかんが全滅し、1年間の売上がゼロに。リスクがあまりにも高い農家の仕事を見つめ直し、新しい農業のスタイルを模索している。
「農業は今、大変な岐路に立たされています。私たちはその農業を持続可能な経済活動にするために活動しています。若い人たちを対象に農業塾を開いたり、みかん畑でイルミネーションイベントを行ったりしています。“オモイ(重い)話をオモシロイ(面白い)話にしよう”それが私たちのSDGsです」。

一緒に活動しているNPO法人CRUISE ARIDAのメンバー。
NPO法人CRUISE ARIDA
電話/080-4020-4013
広がる摘果みかんの可能性と
若き農家のアイデアのその先
摘果みかんのアップサイクルから生まれる可能性は、日を増すごとに大きくなっている。多くの問い合わせで、橋爪さんも日々大忙しだ。摘果みかんの販売は、少なくとも加工用の10倍以上の利益が得られると、周りの農家からも期待を寄せられるようになった。

摘果みかんは、商品として販売されるみかんより香りが強いのが特徴。
さらに摘果みかんの香り成分を染み込ませた紙ナプキンの開発や飲食店での活用も広がっている。地元の有名民宿では、果実と酢を使って鮨酢にしたメニューも開発。さらに県などを含めた共同事業もはじまり、海外輸出も目前であるという。
「クルーズモデルと僕が言ってるんですが、“売値を高くして海外輸出するのではなく、持続的に買ってもらえるような価格”で販売しようと考えています」。

摘果みかんを使った鮨酢で味付けされた握り寿司には、醤油は不要(民宿松林)。
まさしく経済のSDGsといえるのかもしれない“クルーズモデル”。若きアグリビジネスマンの、シャープだが柔らかな頭脳から湧き出るアイデアが低迷する農家を勇気づける。

開発中の紙ナプキン。高級ホテルのアメニティなどで展開される予定。

クラウドファンディングで販売された青みかんハンドソープ。使用した感想も上々で更なる販売を目指す。