鯨とともに生きる太地町
変化していく鯨との絆
人口約3000人、 美しいリアス式海岸を擁する太地町は、古式捕鯨発祥の地として知られる小さな港町だ。“鯨一頭で七浦が潤う”といわれるほど、住民に多大な恩恵をもたらす鯨は、海の神=エビスとして信仰の対象となる特別な存在だった。そんな太地町の人々と鯨の密接な関係は、形を変えながら現在も受け継がれている。
1969年に開設された、世界的にも珍しい鯨専門の博物館“太地町立くじらの博物館”では現在、9種・約35頭の鯨とイルカを飼育。捕鯨の歴史・文化や鯨の生態に関する多様な資料の展示に加え、水族館や湾を利用したクジラショーなどによって、訪れる人の心を癒している。
同館スタッフの飯塚明日菜さんは、「私たちにとって最も大切な仕事は、鯨やイルカの健康管理を徹底することなんです」と話す。鯨の体調や行動のささいな変化に気付けるよう、鯨それぞれに決まった担当トレーナーがついているという。日々、トレーナーたちは、鯨との信頼関係を築き、それぞれの特徴を伝えられるよう、ショーの演目を作り上げていく。「トレーナーと鯨は合わせ鏡のようなもの。トレーナー自身の成長に、鯨は必ず応えてくれます」。
一対一で鯨との絆を育み、観光客や一般市民に向けてその魅力を発信する傍ら、同館は各研究機関と共同で鯨の生態について解明を進めている。「鯨類の生態は、実はまだまだ分からないことばかり。鯨と向き合いながら研究に力を入れていくことも、博物館の使命だと思っています」と飯塚さん。2024年には、鯨類の研究所の開設も予定されている。鯨とともに生きることを目指し、やがて太地町は鯨の専門家が集まる先進的な学術都市に。太地町の人々と鯨のつながりは、変化しながらこれからも続いていくだろう。
黒潮がおどる熊野灘に面した太地町は、
長い歴史を誇る捕鯨の町であり、
日本遺産に認定された“鯨とともに生きる”町。
地域の歴史的魅力や特色を通じて日本の文化や伝統を語るストーリーを文化庁が認定する制度「日本遺産」。2016年、熊野灘の捕鯨文化に関するストーリー「鯨とともに生きる」が認定された。江戸時代初期から組織的な古式捕鯨が行われ、人々の暮らしは鯨によって支えられていた。熊野灘沿岸地域には、鯨に関わる祭りや伝統芸能が今も残されている。
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