祈りの聖地・高野山で
人々は五輪塔に想いを込める
標高約900mに位置する高野山。蓮の花に見立てた八葉の峰々に抱かれる山上盆地に広がるのは、弘法大師空海が開いた真言密教の聖地。「なかでも奥之院は、お大師様が今も世の平安を願って祈り続ける御廟がある神聖な場所です。参道には約20万基といわれる供養塔や墓石が立ち並び、その森厳で神秘的な雰囲気に魅せられて、世界中から多くの方がお参りに来られます」と語るのは総本山金剛峯寺高野山執務公室の中村光観さん。
供養塔の中でも特徴的な“五輪塔”は“地・水・火・風・空”を表す5つの石材からなり、それぞれに梵字が刻まれている。密教では、精神的要素である“識”を加えた6つの要素が宇宙を構成すると考えられており、宇宙全体、そして密教の最高仏である大日如来の姿を表しているという。
山麓の慈尊院から弘法大師御廟まで続く参道に道しるべとして立てられた“町石”や壇上伽藍にある根本大塔なども五輪塔だ。
厳かな気持ちで参道を歩くと、諸大名や有力者によって建てられた数々の五輪塔が視界に入ってくる。そして足元には、杉の巨木の合間に無造作に置かれた小さな五輪塔を見つけることができる。
「これらは一石五輪塔といい、庶民が奉納した供養塔でありお墓であり、仏様ともいえます。いまだに土中や草木に埋もれているものも多く、その総数は数えきれません。自分の家の近くで拾った石なのか、道中に見つけた石なのか。自ら刻んだものもあるでしょうし、誰かに作ってもらったのもあるかもしれません。祖先・父母の供養や自身が極楽浄土へ行くために奉納されたものといわれています。かつての奥之院は、今とは違い樹木が鬱蒼と生い茂る寂しい場所でした。しかし少しでも“お大師様のお近くに”と草木を分け入り奉納したのでしょうね。ここは人々の願いや想いがお大師様に向かって集約していく地だといえます。」人々の願いが込められた様々な大きさの五輪塔。その想いの尊さに大小はない。
仏不在の56億7000万年の間、
世を守る地蔵菩薩に人々は願いを込める
釈迦の入滅後56億7000万年後に弥勒菩薩が現れるまでの間、人々を救うとされる地蔵菩薩。弘法大師空海は弥勒菩薩とともに説法することを願い入定したという。奥之院には一石五輪塔と同様に、名も無き無数のお地蔵様が奉納され祀られている。信心深い方々がお地蔵様にお化粧したり、前掛けを一つ一つ掛け替えているそうだ。