
知事対談
大阪・関西万博
催事検討会議共同座長
大﨑 洋
和歌山県知事
岸本周平
お祭りのように楽しみながら
社会的課題を解決する
失われた20年を経て、負の遺産に気がつきながらも見ないふりをしてきた課題先進国の日本から、様々な社会的課題の解決策を、みんなで楽しみながら考えるきっかけに万博がなればいいと思っています。
PROFILE

- 大﨑 洋
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1953年大阪府堺市生まれ。1978年に吉本興業株式会社入社。数々のタレントのマネージャーを担当。吉本興業ホールディングス取締役(元社長・元会長)を経て、2018年、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「わくわく地方生活実現会議」委員に就任。2019年、公益社団法人「2025年日本国際博覧会協会」シニアアドバイザーに就任。和歌山未来創造プラットフォームメンバー。
岸本知事(以下岸本)● 大﨑さんは2023年に吉本興業ホールディングス代表取締役会長を退任後、大阪・関西万博の催事検討会議の共同座長をされておられます。また和歌山県の“未来創造プラットフォーム”というアドバイザーのおひとりでもあり、我々も万博に参加しますので、アドバイスを頂きながら、今後のエンターテイメントについてなどもお話を伺えたらと思っています。私が大﨑さんと出会ったのは25年ぐらい前で、経済産業省でメディアコンテンツ課長をしていた頃になります。
大﨑洋(以下大﨑)● もうそんなになるんですね。私は当時、吉本興業の部長をしていました。
岸本● それからのご縁なので今日はざっくばらんにお話をしたいと思います。万博の開催も1年を切り、和歌山県は関西広域連合パビリオンに和歌山ゾーンを設置します。コンセプトは高野山や熊野古道をイメージした“霊性の大地”、“和歌山百景”をイメージして作っています。会場内には高野山や熊野詣の途中で見かける大木をイメージした、縦に長い映像タワー“トーテム”を立て、聖なる大地の風景や歴史などの映像を流します。中央部分ではパフォーマンスとして和歌山のお祭りを発信したり、他にも食を提供したりする予定です。
大﨑● 万博に日本国中、あるいはアジアやASEAN・中東・アフリカなどのお祭りを集め、世界中から来る方々に参加をしていただきたいと思っています。またそこで日本に昔から続いている暮らしぶりや食のこと、伝統工芸やお祭りなどを体感してもらいたいと思っています。
岸本● 日本のお祭りはいいですよね。神様に感謝し奉納するというか、そんなバックグラウンドがあってのことです。
大﨑● 日本では八百万の神といいますか、いたる所に神様が宿っていて、これは日本独特のものですよね。お祭りでは僕らみたいなお年寄りがお神輿の先頭で提灯を持って、若い方たちがお神輿を担ぎ、こどもたちが笛を吹いたり鐘や太鼓を叩いたりします。お母さん方や、最近では若い男の子たちが、そのお祭りにちなんだ晴れの食事を季節の食材で作り、さらにその土地で作った器に盛る。そこに日本人の美意識みたいなものが詰まっている。そういうのを体験してもらうのがいいんじゃないかなと思っています。

和歌山県知事 岸本周平
催事を通じて日本らしさ和歌山らしさを伝える
岸本● 万博での催事の内容や日程などはもう随分決まっているんでしょうか。
大﨑● 催事については、参加国からだけでなく、地方自治体や民間の方々からも多くの応募があります。先日面白い申し出がありました。パリには2000年から継続して開催されているJAPAN EXPOというイベントがあるんですが、その関係者が来られて、今回の万博でそれを開催したいというんです。JAPAN EXPO in万博inジャパンですね。日本が大好きなパリの人たちが、日本の素晴らしさを紹介するイベントを開催する。日本の魅力を日本に逆輸入するみたいなものですね(笑)。そんなふうに日本のことを思ってくれていたのだと考えると嬉しいですよね。これはかなり面白いものになるのではと楽しみにしています。また少し前、和歌山にお邪魔した時、ある食堂で「この魚はこの辺りでこの季節にしか食べることができないんですよ」というんですね。僕は知らなかったですし、もちろん世界中の誰も知らないでしょう。何かで読んだのですが、海外から来た人たちが日本の旅館やホテルに宿泊した時、「この朝食は、あなたたちが昔から食べてる朝ご飯なんですか」って尋ねるそうです。「僕たちはパンとベーコンと目玉焼きとコーヒーではなくて、皆さんが昔から食べられている日常の朝ご飯を食べにきたんです」って、おっしゃるそうです。そういう意味では、和歌山のおじいちゃんやおばあちゃんが昔からずっと食べている朝ご飯みたいなものを、万博で提供するのも面白いかもしれませんね。茶がゆとかいいかもしれないですね。僕は千利休の故郷、大阪の堺出身ですので、冬は熱々で夏は冷やして、時には冷やご飯に熱々の茶がゆをかけて食べていました。それがまた金山寺味噌と合うんですよね。
岸本● 和歌山は醤油や金山寺味噌、鰹節など“発酵食品の発祥の地”といわれています。さらにフルーツ王国でもあり、柿やみかんや桃、またいちごやキウイも美味しいんです。万博では普段我々が食べている和歌山の食を、外国から来た人にも食べてもらいたいと考えています。
大﨑● 最初は世界中から大阪万博に来ていただき、万博会場で和歌山の美味しいものやお祭り、産業や景色や名所などを知り“今度日本に来た時は、和歌山に直接行こう”となればいいですよね。
社会的課題解決にも果敢にチャレンジする
岸本● 和歌山では、今脚光を集めている“空飛ぶクルマ”の実証実験を、この秋頃に実施したいと考えています。和歌山は長い海岸線が続いており、将来的にも飛ばしやすい環境にあります。できれば万博期間中に、和歌山の観光地から万博会場に“空飛ぶクルマ”を飛ばせるようなことができないかと思っています。
大﨑● 何事にもチャレンジャーですね。“空飛ぶクルマ”が和歌山から発進するチャレンジができれば面白いですね。
岸本● そうですね。果敢に挑戦しなくてはと思っています。
大﨑● 東京都ではスタートアップ等の起業家や事業立案者が、審査員に対して自らの事業計画をプレゼンテーションする“ピッチコンテスト”を15年以上前から開催しているそうです。ヤフー株式会社取締役会長を退任し、現在は東京都副知事に就任している宮坂学さんと先日、お話をする機会があったのですが、「実は去年ぐらいから内容がゴロッと変わったんです」とおっしゃるのです。それまでは事業を起こしてIPOをめざしたりバイアウトしたりといったものが多かったんですが、去年ぐらいからどうしても事業化できないプレゼンが6割ぐらい占めるようになってきたそうなんです。例えば、耳の不自由な方が美術館に絵を鑑賞に来たとします。その方たちも、美術館の中の無音の音というか、ちょっとした咳払いとか、靴の足音とかを感じながら絵を観たいそうなんです。“だから僕はそういう人たちのためのこんなアプリを作りました”というようなプレゼンがあったそうなんです。“誰かのために役立つことをやりたい”という若い人たちが増えたということでもあり、日本もなかなか捨てたもんじゃないなと思いました。
岸本● それって言葉を変えると社会的課題を解決するっていうことですね。先日、新聞で大﨑さんの万博への考えについての記事を読みましたが、万博の中でもそのような社会的課題を解決するようなこともやりたいとおっしゃってますよね。
大﨑● 高度経済成長が終わり失われた20年があり、僕たち大人は負の遺産に気がついていながらも見ないふりをしていたようなものがありますが、今の若い人たちはそれらをひとつずつ解消していきたいと思ってくれている気がします。もちろん大人たちはそれを邪魔しないように、尚且つ、後ろから何かサポートできることがあれば手を差し伸べるべきだと思っています。不安なことや不便なことなど、社会的課題の解決って大変なことです。しかし日本はこれから先、何十年もかけてそんな問題を解決していかなければならないわけです。だからこそ、“お祭りのように楽しんでやりましょう”というのが一つのキーワードなんです。高度成長真っ只中の1970年に開催された万博は海外のパビリオンが楽しかったし、人間洗濯機というユーモアに溢れたものがありました。しかしそれが今の高齢者施設や病院で身体を洗う装置の開発に繋がっているのではと思っています。課題先進国の日本の課題を、万博で世界にデビューさせ、世界中の英知を集めて解決していく。今度の万博は、色んな社会的課題の解決策を、みんなで楽しみながら考えるきっかけになればいいなと思っているんです。
岸本● そうですよね。ユニバーサルという言葉がありますが、誰にでも優しい社会を作るとみんなが元気になりますよね。今回の万博は経済的な発展ではなく、社会的な課題を解決することを目標に、未来を描くような万博にしたいですね。
大﨑● みんなで一緒に笑いながら楽しんで助けあって、不安を解決するイベントになれば、そこに万博をやる意味があるんじゃないかと思っています。

楽しくそして前向きにもうひと踏ん張り
岸本● みんなが楽しく暮らせるという社会を作る中で、エンターテイメントも重要な要素です。“これからの日本のエンターテイメントはどうなって行くのか”についてお聞きします。私が25年前、経産省のメディアコンテンツ課長に就任した当時、日本のアニメやドラマというエンターテイメントはアジアではトップクラスでしたが、今ではもう韓国に抜かれてしまっています。
大﨑● K-POPといった音楽とかドラマでは、周回遅れどころか2周ぐらい遅れています。もちろん日本のアニメや漫画、ゲームは今でもすごいんですが、瞬く間に韓国や中国に追い抜かれてしまう可能性があります。現代の若者はドラマを早送りで見たり、楽曲も最初の4小節を聞くだけで“これは好き。これは嫌いだ”って判断する。なんでも短く短くなっていく中で、日本のエンターテイメントがどこにどう向かっていけばいいのか悩ましいですね。今まではどんな産業も日本の人口の中で支えられ、国内だけでも商売が成り立ってきました。ところが現在では日本のマーケットだけでは成り立ちません。それは経済界だけでなく和歌山県も同様で、世界のマーケットに対して何をどう売るのかということがすごく大事なことだと思います。
岸本● おっしゃる通りです。韓国がすごいのは、常にそのターゲットを国外に置き、制作しているから面白いんですよね。とはいえ日本にも才能がある人はいっぱいいると思います。そういう何かをこの万博を契機に発掘して、もうひと頑張りしたいし、してもらいたいですよね。
大﨑● ここが境目だと思うんですよね。大阪・関西万博が世界に向けて、アピールだったり発信だったりして、もう一度自信を持ち直していくべき最後のチャンスだと思うんです。
岸本● これからはアジアがものすごい勢いが出てくると思います。日本もアジアの一員なので、最もアジアらしい関西でもうひと花咲かせるように頑張っていきたいと思います。
