小学生が一生懸命に盛り土を運ぶ様子

横木は、足をかける階段ではなく、土砂を留おくためのもの。

和 vol.53 【特集】
祝!世界遺産登録20周年
守り伝えるモノ 守り継ぐ人々 -2-

過去から未来へ
いをつなぐ再生の道

 熊野本宮大社のほど近く、木々に囲まれ普段は静かな三軒茶屋跡に、こども達の元気な声が聞こえる。我先にと土嚢(どのう)袋を手に持ち、真砂土(まさつち)を詰め込み急な階段を上がっていく。この日行われていたのは、世界遺産・熊野古道の道普請だ。和歌山県が全国ではじめて参加型の保全活動として始め、すでに15年以上にわたり、多くの学校や企業などの協力のもと続けられている。

土嚢に真砂土を詰めるこども達

土嚢に込める真砂土はあえて他所のものを使用する。そうすることで地層ができ、現在の様子を数十年後数百年後に伝えることができるという。

 「ゆっくりでいいよ。自分で運べる量を持ってね」という先生や和歌山県世界遺産センターの土永択也さんたちの声を聞き、互いに声を掛け合いながら、那智勝浦町立下里小学校の生徒31人が盛り土を一生懸命運んでいく。「今日の道普請は、三軒茶屋跡から伏拝王子に向け400mほど歩いたところです。土の量は1.5tといつもより多く、距離も遠かったので少し時間がかかりましたが、元気な皆さんのおかげで、3箇所の土の補充作業ができました」と土永さん。

急な階段を何往復もして必要な土を分担して運ぶこども達

修復箇所に必要な土を分担して運ぶ。この日は急な階段を何往復もして、1人あたり約5kgもある土嚢を担いで上ったこども達。

道普請とは、台風や大雨による土砂の流出や傷みを修復することだが、単なる土木作業ではない。土留のために横木を階段状に設置し、人力で真砂土を運び込み、足で踏み固める。重機が入ることもできず、なにより文化財であるために昔と同じ方法で修復しなければならない。それゆえ世界遺産に登録されている全長約350kmの参詣道の内、今回修復できたのは、ほんの数メートルにすぎない。そしてまた雨が降れば土砂は流れ、人が歩けば道は傷む。それでも熊野古道が信仰の道として今も存在するのは、歩くことが信仰そのものと考えられたと同時に、千年以上も前から人々が守り修復してきたからだ。

道普請で再生された熊野古道

足で踏み固めることで、より強固なものになり、道が再生される。

 「土を運ぶのは大変でしたが、頑張ったおかげで道は綺麗になりました。これからも機会があれば参加して、熊野古道を守っていきたいです」とこども達。ほんの数メートルだったかもしれないが、道を守るという想いは、過去から未来へと繋がっていた。

「タコ」と呼ばれる土木道具

「タコ」と呼ばれる土木道具。持ち上げて落とし、道を固めるのに使う。

和歌山県世界遺産センター

住所/田辺市本宮町本宮100-1
電話/0735-42-1044
HPはこちら
World heritage 20th anniversary/守り継ぐ人々

千年の時を越え、幾多の試練から甦る。
川の参詣道を継承する地元住民の力。

熊野川の川舟下りは、上皇たちも利用した川の参詣道である。世界遺産登録直後の2005年に開始するも、2011年の紀伊半島大水害では大きな被害を受けた。しかし川舟下りは単なる観光の道ではなく祈りの道。その歴史を途切れさせる訳にはいかないと、川舟下りに関わるメンバーの努力により翌年には復活を遂げた。「雨の日も風の日もあるでしょう。でもそれら全てが熊野の恵です」と言う、語り部の福辻京子さん。熊野を愛する想いがつないだ奇跡の物語はこれからも続く。

熊野川の川舟下りの様子