モデル事例集「真道ゴー」
「自分らしく生きる」
プロボクサー 真道ゴーさん (和歌山市)
今年5月、和歌山初の女子世界フライ級チャンピオンとなったプロボクサー、真道ゴーさん。12月22日には初防衛戦で防衛を果たしました。
女性として生まれ、男性の心を持つ「性同一性障害」と自ら公表し、ボクサーとして頂点をめざしながらスポーツを通して勇気や希望を子どもたちに与えたいと活動しています。
“自分はいったい何者なのか”
子どもの頃からスカートが嫌いで男の子とばかり遊んでいたという真道さん。中学生になり、制服のスカートも「女性に生まれたからそうしないといけない」という義務感で着ていたものの、周囲との違いをはっきり感じるようになりました。友人との「くんが好き」という恋愛話にも男性に対して恋愛観を持てず、みんなと違うと思いながらも「普通の女と違う自分がおかしいのか。友だちに言ったらきっと嫌われる」と悩みを抱えたまま思春期を過ごします。“女性”として生きる違和感に苦しみながら、バスケットに打ち込む学生時代でした。しかし、大学時代に周囲に知られることになり理解されずいじめを受け、自分が何者なのか、この先、生きていて幸せなのかと葛藤し、この苦しみの原因が死を考えるほど苦しみました。「性同一性障害」だと知った時、初めて「ああ、自分はそうだったんだ」とストンと心に落ちたような気持ちだったと言います。
20歳の時にきっと親には分かってもらえないだろうと、親と決別する覚悟で打ち明けた時、母親がもうすでに気づいていたことを知ります。母が「今まであなたにそうではないかと話そうと思いながら、向き合えなかったことを許してほしい。あなたが笑顔でいてくれることが幸せ。これからは家族があなたを守っていくし、何があってもあなたの味方。この先他の人より大変なことがあるかもしれないけど、大変なことは人を不幸にはしない、土台になる。今を一生懸命がんばれば、必ず先は開ける。やりがいのあるものを見つけて生きてほしい」と言ってくれたことで、前を向けたと話されました。
ボクシングとの出会い-自分らしく生きる道-
性同一性障害と知り、母と分かり合えて前向きに生きようと、子どもの頃の夢であったレスキュー隊員をめざすべく、体を鍛え直すためボクシングジムに。ボクシングと出会い、「自分が見失っていたものがここにはある」と一瞬で引きこまれプロボクシングの道に進む決心をしました。父親からの「今しかできないことをやれ」との言葉を胸に挑戦を続けました。家族の応援、ともに歩むパートナーとの出会いもあり、やりがいを感じる一方で、心の性と「女子」という枠組みで闘う現実とのはざまで葛藤し、引退も考えるようになったそうです。
戸籍を変えて、「男」として生きていくべきなのか悩んでいた真道さん。性同一性障害と診断を受けた医師から「あなたの目は輝いている。どうすれば生きやすいのか、笑顔でいられるのか、大事なのはそこ、今の居場所を大事に」との言葉に、大切なことに気づかされます。そして、パートナーの「あなただから好きになった。男とか女とか、一番性別にこだわってるのはゴーさん。今、私は幸せ。だから今、ボクシングがんばろうよ」との言葉に吹っ切れ、心は男性でも体は女性のままで“自分にしかできない人生”を歩もうと決意しました。
今年5月、地元和歌山で試合開催されたWBC女子世界王座に挑戦、男女通じて和歌山県初の世界チャンピオンとなりました。そして12月22日には初防衛戦が行われ、判定勝ちで防衛を果たしました。
人生は挑戦-あきらめないで踏み出して-
今年8月、和歌山市園部にスポーツジム「G-SPORTS」をオープン。発達障害児や運動が苦手な子、高齢者など幅広い人たちがスポーツに親しめるよう取り組んでいます。子どもの頃、児童養護施設にボランティアを行う母と一緒に通っていた経験から、スポーツを介して発達障害児と関わりたいとの思いがありました。ジムに通っているのは年少から成人までと年齢も様々、一人ひとり個性も違い、毎回実践のなかで学ばせてもらうことが多いと言います。体を動かすことに慣れていない子どもも多く、まずコミュニケーションを図り信頼関係をつくるところから始め、一緒に体を動かしているそうです。少しずつできるようになることで、子どもたちは自信を持つようになっていく、それがやりがいだと言います。「子どもたちが少しでも自信を持てるように、手探りですが自分だからできることがあるのではないかと思っています」と話す真道さん。スポーツを通じて、子どもたちに夢を与えられる存在でありたいと常に努力を続けています。
また、性同一性障害であると公表してから、真道さんのもとに誰にも言えない悩みを打ち明けるメールなどが数多く届くようになったと話されました。真道さんが闘う試合を見て周囲にカミングアウトした人もいるそうです。「悩みや苦しみは、一人で抱えこまないで誰かに話してみてほしい。失うものがあるかもしれないが、それ以上にわかってくれる人は必ずいる、あきらめないで」と一歩踏み出すエールをいただきました。性同一性障害への偏見や差別はまだ根強く残っており、「知らない」ことが偏見を生むこともあると思うと話され、まず知ってもらうことが大切だと話されました。
「人生は挑戦!」と爽やかな笑顔で話す真道さん。「男性に戸籍を変えて生きるには、性ホルモンの投与や子宮、卵巣などの生殖器を摘出するなど条件があるが、更年期障害を伴うなど体の負担も大きい。どんな選択をしても『女性として生まれたこと』とずっとつきあっていく。パートナーとも様々な選択肢があり、どう生きていくか話し合いながら考えていきたい」と話し、真摯に“自分らしい人生”に向き合う真道さんの前には、ますます輝く道が続いていくと思います。真道さん、ありがとうございました。
情報
G-SPORTS
住所:和歌山市園部637-1ロイヤルハイツ吉田
TEL:073-499-7905
営業時間:午前10時から午後9時
(補足)一般開放は午後1時から午後4時、午後6時から午後9時
定休日:木曜日・日曜日、祝日、お盆、年末年始
ホームページ:G-SPORTSオフィシャルWEBサイト:http://www.shindou-go.com/ (外部リンク)