モデル事例集「中西理予」

「自分の体と向き合う、語り合う」

出張専門開業助産師

中西 理予さん(御坊市)

一人ひとり、かけがえのない存在だと伝えたい

出張専門開業助産師の中西さんは、10年ほど前から御坊市、日高地方の小中学校を中心にいのちの授業や性教育を行っています。養護教諭の勉強会に講師で行ったことがきっかけで、生徒にも話してほしいと依頼され、段々と訪問校が増えていきました。小学生には主にいのちの誕生について、中学生以上には性行為や避妊、性感染症などについて話すそうです。
学校には妊婦さんや赤ちゃんと一緒に行き触れ合う時間を持ち、生徒に心音を聞いてもらうこともあります。以前、荒れているといわれる中学校に行った時、心音を聞く場面になると話を聞かず走り回っていた生徒たちが目をキラキラと輝かせて「えー赤ちゃんの音?どんなん?聞きたい!」と集まってきて話を聞いてくれたそうです。今は少子化でいのちの誕生を経験することが本当に少ないので、授業を通じて体験してもらうことはとても大切だと話されました。
授業で、生徒が「どうせ、私なんか…」「親が勝手に産んだだけ」と話すのを聞くと、もったいないな、自分に自信が持てないのかなと感じることがあると言います。「例えば、勉強ができる、スポーツができるとか誰かと比べて優れた部分がないと自信が持てない。周りの大人がそういった評価しかできない。そうしたなかで自分に自信が持てなくなる場合もあるのではないかと思います。一人ひとりが他の人と比べることのできない魅力があって、かけがえのない大切な存在であることを伝えたい」と話されました。また妊娠・お産を通して、女性の秘めている力を感じることも多く、そうした力を引き出す、もしくはサポートするためのお手伝いをしたいと考えています。

出産、育児を支える社会的サポートを

育児サークルも主宰している中西さん。お母さんたちからは、しんどい子育てを強いられていると感じることがあるそうです。子育てへの不安も大きく「もっと頑張らないと、もっとちゃんとお母さんをしないと…」と良い妻、良い母への価値観の枠に縛られ、自分を追い詰めているように感じると言います。中西さんは、「一人ひとりの問題を聞くにつけ思うのは、『個人の問題は社会の問題(パーソナルイズソーシャリティ)』だということ。その人だけの問題ではありません。もっとゆったりした気持ちで子育てできる社会的なサポートが必要」と話されました。
助産師として、DV被害や望まない妊娠をした女性に出会うことがあります。妊娠すると女性のからだは否応なしに変化し、その現実から逃げることができない。女性が妊娠したことで逃げてしまう男性もいる。幸せな出産、妊娠であっても女性側が引き受けることが多すぎて、不平等さを感じる時もあると言います。「イクメンという言葉ができ、主体的に育児を担う男性が増えたという社会認識がある一方で、様々な背景を抱えて多くの情報に翻弄されながら出産や育児を引き受けている女性はまだまだ多いように感じます。トラブルや事件が起こると『今の若いお母さんは…』と冷ややかな目を向けるのではなく、お母さんたちがほっこりできる社会になってほしい」と思いを語られました。

「性」を理解する=多様な生き方を知ること

性教育を受けてこなかった保護者や教師も、「性」について子どもたちにどう伝えたら良いのか迷っているとよく聞くそうです。しかし、子どもたちの間には情報が氾濫しており、正しい知識を知ることが必要です。正しい性教育を伝えることは第二次性徴期(補足1)において非常に大切であり、それは自尊感情を育むのはもちろん、デートDV、不登校、虐待、DVなどを予防することにつながると話されました。
「性」は生きている限り一生ついてくるもの。年齢も性別もハンディも関係なく、いのちあるものすべてに「性」はある。また性別は、性同一性障害や性分化疾患など男・女だけではなく多様であり、自分の経験や価値観だけが一般基準ではないと気づくことが大切だと話されました。多様であると知らないことが差別を生む場合もあり、まず知ることがお互いを認めることにつながり、自分自身にも向き合えると考えています。
性教育のなかで、女の子には月経について自分の周期を把握する、基礎体温を測るなどを薦めてからだの変化を知ることを伝えています。「初潮の時にマイナスのイメージを持ってしまうと、月経困難症になりやすいというデータがある。月経は『憂鬱なブルーデイ』ではなく『順調に大人へのからだづくりがはじまったという証』ととらえてほしい。まずは自分の変化に興味を持つことが自分を大切にすることにつながるのではないでしょうか」と話されました。
また、避妊や性感染症を避けるために様々な方法があるなかで、一番使用率の高いコンドームについては正しい扱い方を伝えたいと言います。女の子であってもコンドームを使ってほしいと相手に伝えることは大切で、セックスが嫌だな、不安だなという気持ちが少しでもあれば、相手にきちんと『嫌!』『ノー!』と伝えていいんだよ、と伝えたい。そしてその時に自分の気持ちをきちんと受け止めてくれ、気持ちについて話し合える相手であるかなど、コミュニケーションを育んでいくことも大切ではないかと考えています。
中西さんは、こうした性教育を行ってきたなかで、「誰もが自分のからだと向き合い、語り合える場があるといいなと思います。語るには、オープンに語り合えるための『名前(呼称)』が要ります。男の子の性器は『おちんちん』と言えば誰もが分かるが、女性の外性器には共通の名前がない。『口に出してはいけないもの』という先入観や偏見を持たず、性やいのちについて語り合える場があればいいなと思います」と話されました。
これからも中西さんは活動を通じて、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(補足2)の概念をふまえ、子どもたちに「自分を大切に思う」「人を尊重する」という生きるうえで根本となるメッセージを伝え続けたいと思っています。子どもたちが「生まれてきてよかった」と心から思える社会をつくることが、今の私たち大人に求められている課題だと話されました。

(補足1)第二次性徴期:医学的に心身ともに子どもから大人に変化する時期のこと。この始まりから終わりまでを思春期という。平均して男性が11歳6ヶ月(小学校高学年)前後、女性が9歳9ヶ月(小学校中学年)前後である。(補足2)リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:「性と生殖に関する健康と権利」と訳され、女性が生涯にわたって身体的、精神的、社会的に良好な状態であることを指す。 具体的には、差別や暴力を受けることなく安全な性生活を送る権利、女性が出産する時期や子どもの数を自己決定できる権利、生殖・性に関する適切な情報とサービスを得られる権利など、生涯にわたってそうした健康が保障されることをいう。 平成6年カイロで開かれた国際人口開発会議において提唱され、当事者である女性が自己決定する権利を有していることがポイント。しかし、世界的にみてもエイズなどの性感染症の増加、また性暴力や女性性器切除の問題など女性の権利が侵害されている状況はなくなっていない。

(センターニュース第59号より、一部修正して掲載)

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  • 出張専門開業助産師 中西 理予さん

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