モデル事例集「神谷妃佐代」

「発達障害(補足1)の子供たちを支援して」

NPO法人クロネット

理事長 神谷 妃佐代さん(和歌山市 )

個別支援と居場所づくり

神谷さんは、自閉症の娘を育てるなかで「障害があっても、誰かの手を借りながら自立して地域で人としてあたりまえに生きることができたら」との思いを強く抱きました。そして、自主活動を経て事業化を模索するなか、平成16年社会起業家育成のためのビジネスプランコンペ『edge』(補足2)に応募、奨励賞を受賞しました。自分の考えが客観的に評価されたことで思いは確信に変わり、これを皮切りに本格的に事業に向けて法人格を取得し、平成21年児童デイサービス「アミ」を始めました。
住宅地の一軒家を借りて、放課後や長期休暇中に就学前から高校生までの子どもを預かり、学習や生活体験を通して自立のための社会的スキルを身につける場を提供するとともに、そこは居心地の良い子ども達の居場所になっています。定員は10人で、スタッフは常勤4人、パート・大学生スタッフで運営。異なる年齢同士や年代が近い大学生との関わりを通して、ともに支え合い、育ち合う場でもあります。
県内に同様の児童デイサービスは40数カ所あり、それぞれ取組内容は様々だそうですが、クロネットの特徴は個別支援。個々のニーズに合わせての学習支援やそれぞれが好きなことをして時間を過ごすなかスタッフが一人ひとりに合わせたサポートを行います。長期の休みには、昼食を一緒にとるので調理や買い物、配ぜんなどできることを一緒に行うことは、自分に自信を持ち生活習慣を身につける機会となります。また、調理方法を工夫することで偏食が改善されたこともあり、専門的な視点で一人ひとりが持っている力を十分発揮できるように関わり、その成長を保護者と共有しながら日々実践しています。

親子の気持ちに寄り添いながら

クロネットでは、子どもたちと関わりながら、保護者のしんどさや悩みにも寄り添う支援をしています。保護者の気持ちの持ち方で、子どもも変わります。しんどいときはしんどいと言える、気軽に相談できる関係づくりを心がけています。神谷さんは、現在利用している方だけでなく、発達などで気になることがある方の相談窓口としても活用できるので病院や役所に行くのを躊躇している人も気軽に相談してほしいと話されました。
17年間自宅で英語教室を開いていた神谷さんは、勉強や人間関係に困って不登校になった子どもたちと関わった経験があります。その経験を活かし、またデイサービスでのていねいな関わりを通して変化する子ども達をみていて、福祉制度の狭間で公的支援とつながれない子どもたちを支援する事業を提案しました。平成23年から「和歌山県新しい公共の場づくりのためのモデル事業」に採択され「TRYアングル事業」を行ってきました。福祉サービスを受けるには、医師の診断書及び意見書があれば利用でき、子ども自身が自分の状態を受容するきっかけになることも多いといいます。「サポートをするうち心地よい居場所を得て、イキイキとしてくる変化をみるととても嬉しい。障害のあるなしに関係なく、『自分のことを認めてもらえる人や場所』があるというのは人が成長するうえでとても大切、子どもの変化は自分の大きなやりがい」と話されました。平成25年3月末でモデル事業としては終了しましたが、ニーズは減ることなく自主事業として続けています。

地域で『あたりまえ』に暮らすために

発達障害は、「見えない障害」ともいわれ、個々に状態やできることが違い周囲に理解されにくいケースが多いため、学校生活でトラブルになることもあります。クロネットは保育所等訪問支援事業も行っており、月2回程度定期的に保育所、小中学校、支援学校などに出向き、子どもが学校生活を送りやすいように環境調整したり、専門的・客観的な視点で保護者と学校側との橋渡し役をしたりしています。保護者と学校間で良好な関係を築けていない、また学校が対応に苦慮しているといった状況でも、見方を変えてちょっと工夫することで子どもにとって良い環境に変わる。理解を広げるためにも、教育委員会や校長会などに出向きこうした取組を伝えてきたことで、先生たちの理解も進んでいるそうです。「一人への支援から、その子だけでなく誰もが過ごしやすい環境に変わることもあります。その結果、理解が深まることも多い」と話され、子どもたちを支援していくには、いろんな機関がいろんなサポートを行い、それをつなげていくことが大切であり、クロネットを拠点にしてネットワークを広げていきたいと考えています。
デイサービスのニーズも増えており、現在のスペースでは手狭になりつつあります。地域にこうした子どもたちの居場所をもっと増やして、地域で暮らすことがあたりまえの社会にしていきたい。そのためにも地域での生活が定着するための相談支援にも力を入れています。子どもたちは障害のために「何もできない」のではない、すこし見方や関わり方を変えるとできることは多く、認めてもらえることは自立への大きな足がかりとなる。発達障害と気づかないまま大人になり、仕事や人間関係などでトラブルを抱えて働けなくなる、生きる自信を失ってしまうといったケースもあり、地域に現状や関わり方を知ってもらうこと、理解の輪をつなげること、関わり続けることがクロネットの大きな役割と考えています。
息の長い支援と、それを担う人材の育成。神谷さんは、「クロネットのスタッフだった大学生が卒業後も訪れて関わりを続けてくれたり、教師になって理解の輪が広がっていったりと嬉しい反応もあります」と言います。事業を維持していくのは決して楽ではありませんが、思いが次の世代へと受け継がれ、やがて大きな輪になって『あたりまえ』に暮らすことが特別ではなくなる。その実現のため、今後も神谷さんの取組は続きます。

補足1発達障害:自閉症、アスペルガー症候群、注意欠陥・多動性障害(ADHD)学習障害など生まれつき脳機能の発達に関係する障害。コミュニケーションや人間関係が苦手なことが多く、症状は個人差が大きいために周囲から理解が得られにくい。

  • お子さんの発達など、一人で悩まずに気軽にクロネットへ相談を。

(TEL:073-454-7111。月曜日から金曜日、午前9時午後6時)

補足2ビジネスプランコンペ『edge』:NPO法人edgeが主催する、社会課題の解決に向けて取り組む社会起業家を育成するためのコンペ。受賞すると、賞金と先輩起業家などからのサポートを受けられる。

(センターニュース第59号より、一部修正して掲載)

情報

NPO法人 クロネット

〒640-8441 和歌山県和歌山市栄谷256-9
TEL/FAX:073-454-7111
メール:kuronet9696@angel.ocn.ne.jp

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