モデル事例集「豊田英三」

「”面白い”所に人は集まる」

ユタカ交通株式会社

代表取締役社長豊田英三さん（和歌山市）

女性ドライバー誕生へ

ユタカ交通はもともと企業向けのハイヤーが主流で、ドライバーは男性でした。豊田さんは10年ほど前から新たなタクシー事業を模索、小型で一般の人も利用しやすいタクシーを増やしたいと考え、あまんきみこさんの『車のいろは空のいろ』(補足）という絵本からヒントを得て、子どもや高齢者も利用しやすい女性ドライバーを中心にした『空いろタクシー』を考案。平成14年に女性ドライバーを募集したところ5人の応募があり、そのうち3人が2種免許を取得して採用に至りました。この時の採用者で企画提案力と実行力のあった女性一人をドライバーから管理職に抜擢、現在も第一線で活躍しています。
女性が働きやすい職場にするために勤務は日中のみとし、子育てや介護などで休暇・早退する際にはほかの社員がカバーできる勤務体制に改善しました。今では女性・男性に限らず、社員同士が互いに助け合いをしながら対応する環境ができているそうです。
女性ドライバーを採用して気づいたのは、女性は利用者の目線に立って会社のためになることなら『言いにくいこともズバッと言う』こと。身だしなみやエチケット、利用者への細やかな気遣いなども男性ドライバーより秀で、女性の提案をドライバー全員が実践していったことで、利用者の反応が良くなり企業イメージの向上につながったといいます。良いアイデアは社員に任せるというスタンスを活かし、これまでタクシー事業だけでなく介護や生きがい・健康事業など女性の多様なアイデアを活かし事業を展開してきました。女性の生活者に近い目線で物事を複合的に捉える視点は、もったいないという意識に裏打ちされたコストを抑えた事業にもつながりメリットが大きいと話されました。
女性ドライバーは利用者にも好評で、指名も増えましたが、事業を始めて10年が経過した今も女性ドライバー数は横ばい状態です。

『人財』を育てる環境づくり

女性ドライバーを増やすために様々な改善を模索し、現在、事業所内託児所を検討中です。自社で託児所を運営するのはコスト面での問題もありますが、より女性が働きやすい環境整備として注目しています。また、これまで歩合給の割合が高い給与体制から固定給を上げる、女性が運転しやすい小型車を導入するなど今後も環境整備に取り組む予定とのこと。しかし、いまだタクシー業界は厳しい勤務環境だというイメージがあり、そのイメージを払拭し女性も働きやすい職場だとアピールする必要があります。そこで、女性社員が中心となりイメージ向上のための企画を考案中、また地域の人たちも訪れやすいオープンな空間を持った社屋への改装も決まっています。
豊田さんは、「面白いところに人は集まる。『面白い』会社にしていきたい。中小企業としてどんなことができるか、和歌山のまちが楽しくなればといいなという思いを持ち、を盛り上げるために今後も新しいことにチャレンジしていく」と意欲を述べられました。
また、「仕事のとらえ方にその人の人生観が表れる。どう働きたいかによって経営者側もどれだけ期待していいのか、どれだけ任せられるのか、という指針になる。人を育てて企業も成長できる、双方に高め合える『人財』を育てたい」と話されました。

『こだわること』から『とらわれないこと』へ

世界的に見ても日本は女性の活躍が遅れており、まだまだ女性の社会参画に違和感を持つ人もあり、積極的な活動や発言に対し非難中傷され傷つく女性がいることも現実です。豊田さんは、「こだわりの垣根」があるとそこから前に進めない、社会の意識や環境整備において様々な垣根を取り外して進めていく必要があると指摘。また、「和歌山県は人口が減少しており、地域活性化は大きな課題。考え方次第で面白い取組ができるし、男性だけで何とかしようと思っても無理。性別にとらわれないでお互いに助け合ってこそ男女共同参画も実現できるのではないか」と話されました。
これから働こうと思っている女性、また現在働いている女性たちへ、「『この仕事でこんなことがしたい。働くことで社会とこのように携わりたい』という思いを伝えてほしい。意識を高めることで働く楽しみも生まれる。企業としてもそんな女性たちと一緒に色々なことをやっていきたい」とエールをいただきました。

（補足）「車のいろは空のいろ」:あまんきみこ作（ポプラ社）。空色のタクシーに乗った運転手さんと不思議なお客さんとのあたたかい交流を描いた絵本。

（センターニュース第58号より、一部修正して掲載）

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