モデル事例集「竹田愛子」

「もう一度、夢を形に-大水害を乗り越えて-」

熊野川産品加工組合

組合長 竹田愛子さん(新宮市)

ふるさとの味を届けたい

代々農業を営んでいた竹田さんは、地域の女性たちと自分たちが作った郷土料理や地元の農産物、加工品を販売したいと思うようになり、その頃行われていた「1村1品運動」(補足)の流れを受けて、なれずしや漬物品評会を開催するなど、郷土の産物を生かした商品づくりに取り組み始めました。

そして5年間地道に屋台で日曜市を続け、その活動を基に旧熊野川町に要望書を提出、平成13年4月29日に物産販売所「かあちゃんの店」を開業しました。

お店は熊野川沿いにある道の駅に隣接して建てられました。運営には「熊野川産品加工組合」を組織し、女性の感性を発揮しながら地元の味を生み出し、加工商品を開発しました。

竹田さんたちは地元で採れた農産物の販売のほか、昔から地元で食べられていたよもぎもちを平忠度に因んだ名物「忠度もち」(補足)として定着させ、また店内では「めはり定食」「茶がゆ定食」を食べられるようにしました。そしてそれらを目当てに訪れる観光客も増え順調に売り上げを伸ばしていました。
ところが昨年、ちょうど10周年記念イベントを開催した直後、9月の台風12号により熊野川が氾濫。氾濫した水は広い国道を飲み込み、向かいの山のふもとまで達したそうです。水が引く時には、浮いていた家財道具が引き水に流され、窓ガラスも割れてしまい、本当に恐ろしかったといいます。

竹田さんの自宅が被災し、店の様子を見に行ったところ、家屋もすべて流されてしまって、その様子を前に「まさか流されてしまうとは…」と大きなショックを受けました。

隣接していた道の駅と森林組合も同様で、跡形もなくなっていました。

1年以上経った現在でも、川沿いの山の斜面には土砂崩れの跡や滝のように水が流れ落ちた跡がいたるところに見られ、被害のすさまじさを物語っています。

(補足)1村1品運動:昭和55年から大分県の全市町村で始められた地域振興運動。各市町村がそれぞれひとつの特産品を育てることにより、地域の活性化を図ったもの。日本国内や海外などにも広がった。
(補足)忠度もち:竹田さんたちが、昔から地元で食べられていた草もちを、熊野で生まれたとされる平家一門の武将で薩摩守、平忠度に因んで名付けた。

みんなの思いに応えて再開へ

自分たちの夢が形になった店を失い、直後は再開するのは無理か、と思ったときもあったといいます。

組合内では賛否両論がありましたが、若いスタッフの「もう一度やりたい」という言葉が竹田さんを後押ししました。

若い人たちの熱意に応えたいと再開を決意、組合員の賛同を得て復旧に向けて動き出しました。そんなとき、大阪のボランティアの若者たちが、再開の手助けがしたいと申し出てくれました。加工所、販売所の建設費用は、農業に関連する経済活動を支援する「アグリビジネス支援事業」の補助金や義援金などをあて、資材は流木や廃材なども活用して建設にあたりました。

大阪から何回もボランティアに来てくれ、販売の手伝いや看板づくりやペンキ塗りなどの作業をしてくれました。竹田さんたちは、店が再開するまでの間、イベントなどに出店して販売を行いました。商品は出店と同時に売り切れるほどの大盛況で、お客さんからの「待ってたよ」の声を聞くたび、とても嬉しく、多くの人に愛されているお店だと実感したといいます。
今年7月28日、待ちに待った再開の日を迎えました。多くの人が待ち望んでいた、「かあちゃんの店」が戻ってきました。当日は、地元の人や観光客が多く訪れ、以前のにぎわいが戻ってきたようでした。

入口にはボランティアの人たちが製作した、投票で選ばれたかあちゃんのイラストが描かれた看板が掛けられています。みんなの思いがつまったお店の再開を聞きつけ、たくさんの方が訪れています。

竹田さんは、「現在は販売のみですが、以前のように飲食してもらえるスペースもつくって、『ふるさとの味』を多くの方に味わってもらえるように、これからもがんばっていきたい」と話されました。

近畿農政局長賞を受賞- 女性の力が実を結ぶ -

これまでの活動が社会的にも高く評価され、「かあちゃんの店」は今年7月31日、近畿農政局男女共同参画優良事例表彰(補足)において、熊野川産品加工組合が経営参画部門の「近畿農政局長賞」に選ばれました。これは、女性が自らの意思によって、経営、起業活動、技術分野等へ参画し、優れた成果をあげている団体や個人を表彰するものです。

9月に神戸で行なわれた表彰式には、スタッフ全員で参加され取組の発表も行いました。竹田さんは、これまでの取組が認められたことは、自分たちの大きな励みになると話されました。
竹田さんが子育てしていた頃は、自宅で祖父母が子どもをみる家庭が大多数でした。そのため家族全員が働き手となり、竹田さん自身も子どもを預けて農業に従事していました。

サポートしてくれる人がいれば、女性の活躍の場がもっと広がるし、それには家族や社会の理解が大切で、もっと保育環境などを整えて女性が働きやすい環境をつくっていく必要があると思うと話されました。

竹田さんが組合長を務める加工組合も、組合員41人のうち女性が24人おり、組織当初から女性の感性を活かした取組を行ってきました。やりがいを持って地域で暮らせることは、女性のみならず地域が元気になる秘けつでもあるといえます。
被災前は8人のスタッフで運営していましたが、被災後体調を崩す人もおり、5人のスタッフで再スタートを切りました。お店は自分たちの生きがいでもあると同時に、地域の希望でもあります。これまで以上の発展をめざして、竹田さんの挑戦はこれからも続きます。

(補足)近畿農政局男女共同参画優良事例表彰:平成16年から男女共同参画の実現をめざして、経営参画や社会参画等の取組に顕著な功績のあった団体及び個人を表彰するとともに、その活動事例を広く紹介することにより、農村漁村における男女共同参画を推進するもの。
竹田愛子さんの写真(竹田愛子さん(右端))

(センターニュース第56号より、一部修正して掲載)

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