モデル事例集「竹中 麻衣子」

自立への希望を託すプロジェクト

ベトナムの貧困やHIV感染に苦しむ人々の自立支援活動

竹中 麻衣子さん(湯浅町)

プロジェクト活動で製作した風呂敷をもつ竹中さん

プロジェクト活動で製作した風呂敷をもつ竹中さん

ほんとうの支援とは何か

 小学生の頃から国際的な活動に関心をもっていた竹中さんは、高校生の頃には「紛争やHIV感染の危険のなかで暮らす子どもたちは、どんな思いを抱えて生きているのか。メディアは本当のことをすべて伝えているのだろうか?

 子どもたちに直接会って聞きたい」との思いを抱くようになりました。アメリカの大学に留学しボランティア活動を始めようとしていた2001年、偶然出会ったベトナム人女性から、ベトナムの深刻な貧困問題やストリートチルドレンの状況を聞き、自分の目で確かめたいとベトナムへ飛び立ちました。

 半年間の滞在中にストリートチルドレンを保護している施設やお寺、教会などをたずねて回り、路上で生きる子どもたちと直接関わるなかで過酷な現実を目の当たりにしました。竹中さんが活動していた組織は、ストリートチルドレンを家族のもとに戻すことを目的としたケアやカウンセリングを行うドロッピングセンター、その後も家族のもとに帰れない子の自立支援を行うセイフハウス、HIV感染や薬物依存を抱える子のホープハウスなどを運営していました。
 それら施設は主に幼児から18歳までが対象で、子どもたちは掃除や料理などの役割があり、子ども同士が助け合い家族のように過ごす所でした。スタッフはすべてベトナム人で、会話もほとんどベトナム語、竹中さんは独学で言葉を学び、子どもたちと同じものを食べともに過ごしました。また、子どもたちがもし学校に行けるようになったときにスムーズに適応できるように、歌を用いて文字に親しんだり裁縫やダンスなどを取り入れたり「学校体験」のプログラムを考えました。

 そうした関わりを重ねるうち、子どもたちは竹中さんが訪れると取り合うほど喜んで心を開き、自分たちの質素な食事さえ分けようとするほどでした。竹中さんは、そのような体験から子どもたちに必要なのは「物」ではなく「愛情」であると気づき、過酷な環境でも他者への思いやり、優しさを忘れない子どもたちに、未来への希望を強く感じました。
 また施設での活動のほか、路上で生きる子どもたちとも一緒に過ごしました。子どもたちは橋の下などのコンクリートでじかに寝起きし、十分な衣服や靴を買うこともできないため素足のまま道路に捨てられている注射針を踏んでHIVに感染することも、また薬物依存や売春に巻き込まれる危険もある生活でした。靴磨きやチケット売りなどの仕事で日銭を稼ぐしかなく、幸運にも施設に居る子どもたちでさえ、夕方には路上に出て働かねばならないような現状でした。そんな過酷な貧困のなかでもその日一日を必死に生きようとする姿に、竹中さんは「芯から生きている強さ」を感じ、気づけば自分の方が勇気をもらっていました。

 ベトナムを訪れた当初は、それまでの自分の生活を基準に考え「足らないもの」を与えることに必死でしたが、そうではないことに気づき「ほんとうの支援とは何か」について考えるきっかけになった経験でした。

支援とは、ないものを与えることではない

 初めての訪問から半年。竹中さんは必死に走り続けていたなかで、深く関わるには思いだけではできないことがあることを痛感しました。子どもたちが生きている現場、子どもたちへの社会の偏見、それに苦しむ姿を前に、自分の無力さを思い知らされることもあり、活動を続けていくにはもっと学ばなければいけないと大学へ戻りました。

 卒業後は日本へ戻り、仕事をしながら活動のための寄付活動を行い再びベトナムへ渡りました。多くの人の協力と思いの詰まった寄付金を渡したとき、「どんなに大切なお金でも渡してしまうとそれで終わってしまう。

 何かが変わるわけではない。逆に『Maiko=お金』という依存を生む。子どもたちに支援を待っているだけでは貧困は解決できないと気づいてもらう方法はないか」と考え始めました。このときの経験が、「自分で労働して生活費を得るサポート=自立支援」のきっかけとなりました。
 またこのとき、HIV感染者や薬物依存の人たちの自助グループに関わりを持ち始めました。彼らに希望を聞いても意見が出ず、始めはそれに葛藤や苛立ちを覚えましたが、関わりを持つなかで、彼らはその日一日を生きることが精一杯で、ましてや将来の計画などできないのは当たり前だということに気づきました。

 
 ベトナム産の作物を生かしたいと考え、生産量の多いベトナムコーヒーを日本で販売するフェアトレードを提案しました。HIV感染者は、いつエイズを発症するかわからず重労働はできないため、新聞をリサイクルし、コーヒー豆を入れるパッケージ作りを彼らができる仕事として考えました。しかし、現地のキーパーソンと連帯できず、長期のプロジェクトとしては根づきませんでした。
 日本へ戻りその後はしばらく、日本でヨガの指導や学校での講演、児童養護施設で子どもたちと関わるなどの活動をしていました。

 このとき日本の子どもたちは、物質的に豊かであっても夢を持っていない子が多いことを知り危機感を抱き、子どもたちの将来のためにもまちづくりや地域活性などに取り組みました。

 そして日本での活動に一旦区切りをつけ、再びベトナムの人たちの支援に関わるべくベトナムへ渡りました。

「風呂敷」から自立支援へ

 2008年から拠点をベトナムに移した竹中さんは、ある施設で女の子たちが裁縫の訓練をしていたことからヒントを得て、実用性のあるものを作れないかと「エコ×フェアトレード×オシャレ」をコンセプトに「風呂敷作り」をひらめきました。風呂敷を商品にすることで、エコ意識や日本文化を伝えたいとも考えました。不必要の布を集めて、HIV感染者や貧困層の人が体調に合わせて、また交通費をかけなくても仕事ができるように内職で行う風呂敷作りが始まりました。仕事の調整や販売先の開拓などを行ってくれるベトナム在住の日本人協力者も見つかりました。

 HIV感染者や貧困層の人が作る物を「かわいそう」だからではなく、「作品」として対等に買ってもらい自立につなげたいと始めたこの「風呂敷Project」。

 現在は、活動に関心をもち販売に協力してくれた人や、作品を気に入り購入してくれた人など、多くの人たちとの出会いを重ねながら、「maiko project」と名を変えて風呂敷をリメイクしたバッグやワンピース、ベッドカバーなど様々な作品も作っています。

 マザーテレサの言葉「大切なのは、どれだけたくさんのことをしたかではなく、どれだけ心を込めたかです」と同じ想いで、これまでベトナムや日本、欧米での委託販売やイベントなどで販路を広げてきました。

 昨年、ベトナムで協力してくれていた日本人が帰国された後も、竹中さんのサポートのもと、ベトナムの人たちが中心となり活動を続けています。竹中さんは、ベトナムの仲間と想いが通じ合い、ベトナム人同士が手を取り合い続けていける、これが自立支援のあり方だと嬉しく感じています。

「善きことは、カタツムリの速度で動く」15年目のいま、活動に込める願い

 ベトナムでの活動を続けて15年目。

 その間ベトナムの社会状況も随分変わり、経済発展が進み富裕層が増えたものの格差は拡大し、貧困層の暮らしは一層厳しさを増しています。もともと社会主義国であるため、外国人が保護施設に関わることや積極的に活動することを歓迎しておらず、竹中さんも並大抵の努力では活動を続けることはできませんでした。
 竹中さんは、「ベトナム滞在中には、身の危険を感じたりデング熱で命の危機に遭ったりしたこともあり、今、生きていることがどれほど奇跡であるかを痛感しています。また、都市部ではストリートチルドレンを含む路上生活者を排除する目的で捕えて収容所に入れるため、一見貧困者がいないように見えるのですが路上で生きる人のほとんどは出生簿や住民登録がないため、連絡を絶ってしまうと再会することはほとんどありません。保護施設も18歳以上の支援がないため、貧困層の人にとって安定した仕事をもつことはとても重要なのです」と話されました。

 これまでの活動をふりかえって、「私にできることには限界があります。

 私の役割は、製品を通して彼らの状況を世界に伝え、いろいろな所から作品を称賛する声を彼らに伝えることだと思っています。彼らにとって自分で作った製品を喜んでくれる人がいることは、生きる自信にもつながっています。

 HIV感染者は、いつエイズで亡くなるか分かりません。亡くなる人の心に少しでも私との出会いが刻まれたなら、この活動の意味があると思っています」と話されました。
 現在もベトナムのサポートを続けながら、日本で活動についての講演や、トラウマを抱える人へヨガを用いたケアなども行っています。

 「マハトマ・ガンジーの言葉『善きことはカタツムリの速度で動く』を励みにしながら続けてきました。

 ベトナムの社会は、地方ではまだまだ男性優位ですが、都市部は男女平等が進み、年齢や学歴、性別ではなく、その人の実際の考えや行動をひとりの人間として評価してくれます。日々刻々と変わる状況に思い悩むことも多かった15年でしたが、大切なことを分かち合える仲間を得られて幸せです」と話され、「世界で起きていることに関心をもってほしい。

 そして、自分の生活に立ち戻り本当の幸せとは何か、本当に守るべきこと、大切にするべきことは何かを考える機会にしてもらえれば」と願いを込めたメッセージを送られました。

情報

★「maiko project」とその作品についてのお問い合わせは、下記まで。

eメール:takenakamaiko@gmail.com

電話:0737-63-0055
facebookページでもご覧いただけます。 → 「Maiko project」で検索。

現在までの活動についてはブログ「Maiko's Life in HCM」
http://lifeinhcm.blogspot.jp/)を検索。

また作品は、和歌山県内のカフェなどにも置いています。
「じょんのび」(有田川町)、「サ行研究所」(和歌山市)、「TOIRO」(有田市)

プロジェクトの作品テーブルクロス プロジェクトの作品コースター

プロジェクトの作品テーブルクロスとコースター

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