モデル事例集「こ・はうす」

「子どもの貧困」について考える

-子どもたちの暮らしを支え、見守る居場所-

子どもの生活支援ネットワーク こ・はうす(和歌山市)

「しんどさ」の連鎖を断ち切りたい 

 2015年1月、孤立しがちな子どもと親を支えたいとの思いで始まった「こ・はうす」。

 事務局で社会福祉士の馬場潔子さんは、障がい者支援に携わっていたなかで、しんどい家庭がさらにしんどさを抱えていく状況を何度も目の当たりにしました。

 精神的なサポートが必要な母親と発達障がいのあるお子さんの母子家庭で、就労が続かず貯金も減りうつ状態に陥る母親。また、児童養護施設を出て自立しようとした子が、DVの加害男性とつながってさらに傷ついてしまうケースもありました。ともに事務局を務める子育て支援団体「きのくに子どもNPO」の江利川由喜さんも、子育て支援やファミリーサポート事業のなかで、経済的、精神的にギリギリの状態で暮らす家庭と関わってきました。

 制度だけでは支えきれない現状に対して、馬場さんと何とかできないかと考えていたとき、山科醍醐こどもの広場※のことを知り、自分たちでできることがあるのではないかと思うようになりました。そこで、子どもの貧困の研究者である和歌山大学教育学部、谷口知美准教授(こ・はうす会長)と越野章史准教授に加わっていただき、「こ・はうす」立ち上げに取り組みはじめました。
 

 活動に際して、谷口さんは「子どもの貧困は、子どもの発達の可能性を奪うことだと考えています。

 安全な生活環境や十分な教育を受ける機会が得られないままだと、将来も不安定な雇用形態の仕事に就く可能性が高くなる。

 その結果、安定した収入を得られず大人になっても貧困から抜け出せず、彼らが子どもをもったときに次世代の子どもの貧困へと連鎖していきます。

 今、目の前で困っている子どもたちにできることをしたい。」と話されました。また、越野さんは「私は毎年授業で、学生に『今の日本は平等で豊かな社会だと思いますか?』と質問しています。

 15、6年前には、ほぼ9割は『そうだと思う』との答でしたが、年々その割合は減り、2010年はゼロでした。

 格差が拡大し経済状況も良くなったと感じられないなかでも、子どもの貧困に対する社会の意識の低さを感じます。

 子どもの貧困の改善には、親の雇用と生活をどう安定させるかが大きな課題と考えています。」と語られました。

ひとりの市民として子どもたちを支える

 昨年12月から準備会を開催したところ、食材の提供をしたい、ボランティアとして関わりたいと申し出てくれるなど子どもの支援にいろんな思いを持った人が想像以上に集まりました。

 開設日は祝日のない毎週木曜に決め、無償で借りている一軒家を開放、毎回5~6人(2015年9月時点)の小中学生が訪れています。送迎体制がないため、自分で「こ・はうす」まで行けることが基本です。

 親の帰宅が遅く夜まで子どもだけで過ごす子や、何らかの困りごとがある家庭の子たちに、学生やスタッフが無料で勉強を教え、子どももスタッフも全員で温かい手作りの夕食をいただく団らんの時間をもちます。調理は主に江利川さんが担当していますが、買い出しは子どもたちと行くこともあります。子どもが予定通りに来ない場合は連絡を取りどうしているかを確認するなど、子どもに寄り添ったサポートをしています。
 

 「こ・はうす」の活動に大きな力となっているのが、学生ボランティアです。子どもたちは年齢の近い学生と勉強や遊びをとおして、学力だけでなく他者への信頼感や人間関係を育むことができます。

 谷口さんは「授業で『こ・はうす』での取組や子どもの貧困を取り上げると、学生自身の生活も苦しかった、部活を経済事情で諦めた、『親に買ってもらったらいいやん』という友だちの何気ない言葉に傷ついた体験など、抱えていた思いを知ることがあります。


 子どもの貧困に取り組むうえで『他者への想像力』は最も大切です。」と話されました。越野さんも「将来教育分野で働く学生もおり、子どもの背景まで見通せる力になればと思います。また、受験勉強中心で生活経験が乏しい学生も多いため、『こ・はうす』での活動のなかで生活者としても成長し、またひとりの市民としても取り組んでほしい。」と思いを述べられました。

小さなチカラの積み重ねが社会を変える

 週1回、大人たちと関わるなかで、少しずつ自分を出せるようになった子をみるにつれ、人間関係や生活体験の幅が広がってきたと感じることも増えたといいます。心をオープンにできるには、その子それぞれに時間が必要です。馬場さんは、きちんと受け止めてくれる大人がいることを経験した子は自己肯定感も強く他人への信頼感ができるため、「こ・はうす」の活動を通じてそうした環境を作りたいと話され、「『地域のおばちゃん』として子どもたちとその親を支えていきたい。私たち大人は、『人生には大変なことはあるけれど、困ったときに助けてくれる大人がいる』ことを子どもたちに保障すべきではないかと思います。小さなことの積み重ねが大きな力になると考えています。」と思いを語られました。
 

 また、活動を通じて周囲には、子どもの貧困や子どもたちが置かれている状況に心を痛めている大人が多いことが分かりました。「こ・はうす」の立ち上げに必要な食器や家具、調理器具などは協力者から提供されたものばかりです。子どもにとって心強い居場所であると同時に、地域にとっても意味のある場所だと感じています。馬場さんは、「子どもたちが成長していくなかで、子どもの貧困は色々な生活体験の機会や将来へのチャンスを奪い、格差を広げます。『子どもの貧困は社会の問題』という意識が広がり、支え合う輪がやがて社会を変える一助になれば」と語られました。

 
※山科醍醐こどもの広場:1999年から「山科醍醐こどものひろば」として、地域に住む全てのこどもたちが豊かに育つ社会環境や文化環境を充実させ、子どもたちの伸びやかな育ちに寄与できる団体をめざし活動している。多くの事業のひとつに、様々な事情(夜間就労・病気・介護・子どもの発達)の家庭に対し、夕方から夜の子育てをサポート、また発達障がいや不登校など、集団学習がしんどいと感じている子どもの学習支援などを行っている。

http://www.kodohiro.com/

情報

★「こ・はうす」お問い合わせ先
メール:cohouse073@gmail.com

電話:法人携帯070-7790-5747
ホームページ:https://cohouse.jp/
 

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