平成29年度和歌山県消費者教育講座~自ら考え行動する、消費者市民の育成に向けて~結果概要

平成29年度和歌山県消費者教育講座~自ら考え、行動する、消費者市民の育成に向けて~

平成29年11月5日(日)、「平成29年度和歌山県消費者教育講座」を、和歌山大学の岡崎裕教授を講師に迎え、和歌山市中央コミュニティセンターにおいて開催しました。

 つきましては、その概要を以下のとおり報告します。

【概要】

講義「自らの身を守り、公正で持続可能な社会の発展に寄与する消費者とは」

<和歌山大学教授 岡崎裕>

・この講座は、「自らの身を守る」と「公正で持続可能な社会の発展に寄与する」の二つが目的である。従来消費者教育で扱われてきたのは前者のほうで、たとえば、振り込め詐欺等の犯罪から身を守る、ねずみ講・マルチ商法・インターネット・スマートホン等を利用した詐欺的商法などから身を守る、消費者の第一義的な課題のためのものである。

・後半の目的は、自分の身を守るだけでなく、みんなが危険に陥らないような安全な地域社会を作るためのものである。「公正な」というのが重要で、嘘がない、公に、みんなが納得する形でまっとうでなければならない。そして、「sustainable持続可能」とは、この社会を続かせていき、100年後、次代を担う子供たちにバトンを渡していかなければならないということである。このために何ができるのか、今、消費者教育という領域内で問われている。

・本日は、参加者のみなさんが、賢い消費者になるだけではなく、消費者教育者になっていただきたい。会場を出た後、学んだことを「自ら考え行動し」誰かに伝えてほしい。

○3つの消費者教育

 1.基礎的な経済教育(金銭教育)

   お金という存在について、お金の正しい使い方、不公正な取引をしない、交換の材料としてお金を相手方に渡しサービスやモノを得るしくみ、などを学ぶための教育。消費者教育において、根幹となる部分である。

 2.経済の安全教育

   犯罪につながるような違法行為、詐欺的行為、犯罪行為等から、自分の財産を侵害されないように身を守るための教育。

 3.消費者市民教育

3つめは、新しい消費者教育である消費者市民教育。国際的な流れによって生まれたもので、国境を越えた人類にとって、消費が重要な課題となっている、という合意が国際的になされ、その流れの中で、日本でも、平成24年12月成立した消費者教育推進法により「消費者市民社会」という言葉が登場した。この教育は社会全体のための「お金の使い方」についての教育である。

○消費者基本法

平成24年、消費者教育推進法と軌を一にして、消費者基本法も改正された。

消費者基本法による消費者保護の理念

・安全の確保

・選択の機会の確保:適正な価格の品物を選択できる。

・必要な情報の提供:商品についての必要な情報を得ることができる。

・教育の機会の確保:子供から大人まで消費者に権利があることを学ぶことができる。

・意見の反映:資本主義という経済システム上弱い立場の意見をどう汲み上げ、警鐘を鳴らすシステムの構築。

・被害の救済:犯罪被害、商取引における被害を救済。

○消費者教育の推進に関する法律(平成24年成立)

・消費者教育とは、「消費者の自立を支援するために行われる消費生活に関する教育及びこれに準ずる啓発活動」(2条)とされている。支援なので、「消費者は自分で学んでください。国はそのお手伝いをしなさい」、ということ。頑張る人を応援する法律となっている。

・また、消費者教育とは、「消費者が、主体的に、消費者市民社会の形成に参画するための理解および関心を深めるための教育を含む」(2条)とされている。参画は参加と違う。参加は、すでにあるものに加わるが、参画とは、社会のシステムづくりに計画段階から自分の力を組み込んで、力を合わせてよりよい社会を作っていく、ということである。

○学校教育との関わりについて

・これからの将来を担うのは、子供たちなので、やはり学校教育が大きな力を持っている。自分のためだけではなく、これからの世代に向けて何ができるのか、考えていきたい。

・学校教育について、消費者教育推進法では、国及び地方公共団体に対し、「幼児・児童・生徒の各発達段階に応じて、学校の授業その他の教育活動において、適切かつ体系的な消費者教育の機会を確保するため必要な施策を推進しなければならない」(11条)としている。これは強力な要請である。この他、教育職員の研修や、専門的な人材活用等たくさんのことが求められている。

○国の動き

・消費者教育推進法成立の翌年の閣議決定で、消費者教育の推進に関する基本的な方針が定められた。そこで、消費者教育の推進の意義、基本的な方向、内容、関連する施策との連携、計画的な推進、について定められた。

・国・消費者庁が主体となって、連携消費者教育推進会議というものがある。ここでは、消費者団体や事業者団体が連携している。推進会議が作った消費者教育イメージマップは、消費者教育の全体像であり、消費者教育というものは、どの段階で何をやればいいのか、見取り図が示されている。

・消費者教育については、様々な組織や団体、市民などの連携が求められているが、そこで課題となるのは、民間の企業のあり方とそれに対する消費者の認識である。実際のところ、多くの企業では社会のため・未来のために既に様々な社会貢献を行っており、にもかかわらず、一般の消費者が企業と相対するのは、消費者の日常生活において、トラブルを起こした企業が、悪者として現れる時となってしまっている。

○「消費」の持つ2つの側面~資本主義と循環型社会~

・販売と購入

   資本主義社会における消費である。さきほどまでのいろんな法律において、保護されている立場としての消費者となる。したがって、消費者の権利を侵害されれば、文句を言える。結果として、消費者と企業が対立関係になり、敵対せざるを得ない。

・生産と消費

   生み出す者に対する費やす者としての消費者。消えてなくするという意味での消費。私たちは費やす者としての、責任主体としての消費者であるはずである。となると、敵対していた企業も、実は同じ立場であることがわかる。物を生み出す主体でもあるが、資源を生産過程で費やす主体でもある。

・循環

   教育は人間の循環である。水は自然界を循環している。工業製品も循環している。私たちの消費が正しいかは、責任を果たしているかは、こうした循環にいかに貢献しているかにかかっている。この意味での消費は、現在の社会の在り方の維持であり、まさに、持続可能な発展に関わっている。

○消費者市民の定義

・このような消費者市民の考え方は、北ヨーロッパを中心にした消費に関する考え方から出てきた言葉である。

北ヨーロッパにおける消費者教育の運動をリードしているCCN(消費者市民ネットワーク)の代表ビクトリア・トーレセン氏が、消費者市民の定義として、「倫理的、社会的、経済的、そして環境に配慮した思想に基づく選択ができる個人」としている。また、消費者市民は、「家庭、国、国際的なレベルでもって、責任をもって公正で持続可能な社会の発展に寄与しなければならない」としている。

○「消費者市民」概念の成立と発展

1960年代:ラルフ・ネーダーのコンシューマリズム

       ケネディ教書における5つの消費者の権利。

70~80年代:環境を守るための北欧4国による合意。Nordic Council of Ministers。

90年代:ヨーロッパ統合により、ヨーロッパ市民としてどう生きるべきかというスタンダードを求める動き。Erasmus/Socrates Projects。

2000年代:CCNトーレセン氏による消費者市民。

       国連のESD持続可能な開発のための教育

       MDGs(国連本部で行われたミレニアムサミットで全会一致で合意がなされた。
        今後1000年にむけて、当面世界は何を開発目標にするか8項目)

2015年:SDGs(Sustainable Development Goals)(MDGsに一時見直し。世界の開発のための17項目のゴール。

○SDGsについて

・2030年まで、人類はこの17項目に向けてがんばらなければならない。

日本語版では、1貧困、2飢餓、3健康と福祉、4教育、5ジェンダー、6水とトイレ、7クリーンエネルギー、8働き甲斐、9産業技術革新、10不平等をなくす、11住み続けられる街づくり、12使う責任作る責任。これが、今私たちが学んでいること。13気候変動、14海の豊かさを守る、15陸の豊かさを守る、16世界平和、17国際協調、となっている。消費者には12のような責任がある。

・SDGsは、世界の首脳が決めた全人類の共通課題、共通事項である。この消費者教育講座は物を売ったり買ったりすることを学んでいるだけではなく、実は、全世界全人類が取り組むべきことの一つを学んでいるということを意識してほしい。しかも、これは、私たちの日常生活の隙間にある選択の一つだということを知ってほしい。

以上

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