樹齢700年以上になる高野杉と金剛峯寺山林部課長の中尾ご夫妻。

弘法大師御廟内で枯れ、昭和63年に伐採された樹齢700年以上になる高野杉。

和 vol.53 【特集】
祝!世界遺産登録20周年
守り伝えるモノ 守り継ぐ人々 -4-

聖地・高野山の森を
守り、育てる

“高野六木”を守ることは、
高野山の歴史を守ること

 標高約800mの山上盆地に位置する密教の聖地・高野山。寺院の建設や修復には大量の建材が必要だが、高地がゆえに木材の確保は難しく、周囲の森の存在は重要であった。「高野山で植林が始まったのが鎌倉時代と考えられています。諸大名が献木しましたが、材木として使用できるまで育つには長い時間が必要です。森を守るという仕事は、数世代先までその想いを繋いでいくことともいえます」と語るのは、金剛峯寺山林部課長の中尾修也さん。

壇上伽藍に建つ根本大塔

壇上伽藍に建つ根本大塔。先代の大塔の心柱は高野産の木だったと言われる。

 「1813年にスギ、ヒノキ、コウヤマキ、アカマツ、モミ、ツガの6種類の木が“高野六木”として、寺院や伽藍の修繕に使用する以外の伐採が禁止されました。しかし明治初期の政府から発出された上地令により、森林の大部分が国有化され、多くの大木が伐採されました。その後ようやく一部が高野山に返却され禁伐林として樹々は守り育てられ、今は保護していく森になりました。この先も高野山の歴史を守るためにも、高野の森は守らなければなりません。そのために行われているのが“献木”制度です。支援者は全国に一万人以上もいます。お大師様への信仰と同様に、森を保護することに終わりはありません」と続けた。

中門の再建にあたり、特別に伐採された壇上伽藍の大檜

中門の再建にあたり、特別に伐採された壇上伽藍の大檜。西塔の奥に切り株が残る。

 土木建築の知識にも長けていたと言われる空海の指導により、開山当初からの山林の開墾や寺院の建築、森林の整備育成は、僧侶たちが自ら行ってきたといわれている。「我々、金剛峯寺山林部はその意思を引き継ぎ、今も“お山”を守っているという意識を持ち、仕事をしています」。先人たちの高野山に対する想いは確実に受け継がれていた。

高野山真言宗総本山
金剛峯寺山林部
住所/高野町高野山132
電話/0736-56-2016
HPはこちら
World heritage 20th anniversary/守り継ぐ人々
KOYA GreenWorkshopの高野山寺領森林組合理事の西田ご夫妻

2023年にリニューアルされた宿坊協会中央案内所内に設けられたKOYA GreenWorkshop。プログラムの当日受付も可能。

新しいアイデアと手法で、
1200年の森林を後世に繋ぐ

 高野山の森林価値を未来へと伝えるもう一つの組織が、高野山寺領森林組合だ。金剛峯寺山林部からの依頼で、間伐や枝打ちなど現場での森林整備作業を請け負う。また森林や“高野六木”をテーマにした、ナチュラルワークショップの開催や商品開発・販売の拠点として2023年にKOYA GreenWorkshopを開設した。県内外の学校や観光客を対象に、アロマスプレー作りや苔テラリウムなどの体験プログラムを提供する。もちろん森林組合であるため、高野山内の寺院建築や改修だけでなく、寺領内の木を切り、建材として周囲の製材所に販売も行っている。

身も心も癒される体験のひとつである、高野山森林内で行われる森林セラピー

高野山森林内で行われる森林セラピーは身も心も癒される体験のひとつ。夜の高野山も楽しんでもらいたいと、WAKUDOKI Forest Hike!というナイトツアーも立ち上げた。

 「高野山で生まれ育ちましたが、小さい頃の高野山の森は、もっと明るかったように思います。しかし木々が大きく育ち森は暗くなり植生が変わり、生物も変わりました」と語るのは、高野山寺領森林組合理事の西田安則さん。森を守るための、新しいアイデアによるアプローチにも積極的だ。「高野山森林セラピーは、高野山の豊かな自然環境と歴史を楽しめると人気のプログラムで、昨年の参加者は約600人。その内リピーターが7割程度でした。今後は外国人向けの体験にも力を入れていきたいと思います。

Koya GreenWorkshopで購入可能なアロマオイルなどのアイテム。

Koya GreenWorkshopで購入可能なアロマオイルなどのアイテム。オンラインショップ“KINOWA”でも購入可能。

他にも高野六木を原料としたアロマオイルなど商品の開発販売にも力を注いでいます。山の仕事は過酷ですが、最近では価値観の変化からか若者の転職組も少しだけ増えてきました。今後は、森の多様性を回復させるために高野六木を中心にした森を作り、拡大したいと考えています」。数十年先のために今、作業を行うという林業にこそ、高野山の未来を見ることができるのかもしれない。

高野山寺領森林組合
住所/高野町高野山45-17
電話/0736-56-2828
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