5.解体から修理まで(文化財の保存修理)

文化財建造物の修理

 文化財建造物は後世に受け継ぐべき貴重な遺産だが、風雨にさらされ、徐々に劣化が進行するため、適切な修理をして文化財としての価値を保つことが 求められる。県会議事堂の保存整備事業では明治の建築当初の姿に復原することとなったが、古い部材はできる限り修理して再用し、文化財としての価値を高めるよう努めた。

解体工事

 平成25年1月に移築のための解体工事に着手した。瓦を1枚ずつ丁寧に降ろし、続いて屋根野地、小屋組、造作、軸組の順で解体した。解体ではどの部材かわかるよう、番付札を付けて解体した。基礎石も同様に番付を付けて解体し、同年8月に完了した。

解体工事の着手 解体工事中の写真

解体工事着手          議場の解体中の状況

古材修繕工事

 平成25年12月より古材の修繕に取りかかった。柱や梁などを調査し、どの位置で再用し、どのように修理するかを判断し、修理を行った。柱は足下が腐朽していたり、頭が切り取られていたものがあり、根継ぎや頭継ぎを行った。また後世の移築で開けられた貫穴や鴨居穴などは、埋木を行った。なるべく当初の部材を再用できるように配慮した。

柱の修繕 天井の修理

柱の修繕            議場天井部材の修繕

免震工事

 移築後の構造安全性を確保するため構造計算を行った結果、議場の大規模な空間を大幅な構造補強なしに再現することができないため、免震構造を採用 した。
 敷地に免震ピットを造り、免震装置を配し、建物を支えている。これによって大規模地震での安全性を確保した。

免震装置

基礎に入れた免震装置

基礎工事

 免震装置で支えられた人工地盤の上に、建築当初と同じように花崗岩の礎石を積み上げた。花崗岩が不足した分は、新材で補足した。要所には鋳鉄の換気グリルをはめ込んだ。内部の基礎はコンクリート布基礎である。

礎石の据え付け

礎石の据え付け

組立工事

 平成26年12月に土台据え付けを開始した。同27年1月に本館の北西隅の柱を立てた。この建物にとって実に4回目の建て方である。柱、胴差、桁を、建ちや高さを調整しながら順に組付け、小屋組はトラス組を据え付けた。
 トラスに母屋を渡して、垂木を打ち、野地板を張ったところで、内部の鴨居、敷居などを取り付け、天井を張り、床組を組付けた。

木部の組み立て トラスの組み立て

本館の組み立て状況                  議場トラス組の組み立て状況

議場内部の造作 議場の床組

議場の内部造作                    議場の床組

屋根工事

 当初の瓦は大阪府岬町で焼かれた谷川瓦であった。今回修理では屋根の耐久性を考慮し、当初の瓦を検査し、可能なものを再用したが、その他は新瓦で葺き替えた。屋根重量を軽減するため、葺き土を用いない空葺き構法を採用し、瓦桟に釘留めして瓦を葺いている。なお、再用できなかった瓦は分類整理して、 建物本体と同等の価値を有する文化財として地下の免震ピット内に格納保存している。

瓦葺き

瓦葺の様子

左官工事

 県会議事堂の壁は伝統的な土壁であった。今回の工事でも割竹と藁縄で小舞下地を造り、荒壁を塗りつけた。荒壁土は一乗閣で使われていた壁土に、新 たな土と藁すさをまぜて寝かせたものを用いた。荒壁を約9cmの厚さまで塗り、中塗り土で表面を調整し、漆喰塗りで仕上げている。なお控室内部は黄大津塗りである。

荒壁付け 漆喰塗り

小舞竹の下地に荒壁付け        漆喰仕上げ塗り

土間廊下の仕上げ

土間廊下の洗い出し仕上げ

建具工事

 建具は明治31年(1898)当時のものはなく、昭和16年(1941)移築時のものになっていた。窓の桟の割付などは当初とは異なっているが、 今回修理では昭和16年の建具を修理して再用した。復原によって新たに作る必要があった控室や本館内部の建具は、現存建具を参考にして整えた。

内装工事

 天井の下地張りが完了したところで、順次天井布クロスを張り付けた。また本館内部の床にはカーペットを敷き込んだ。天井クロスやカーペットの当時の仕様や色柄などは、史料がなく不明である。

カーペット敷き

本館カーペット敷きの状況

活用のための工事

 今回の工事では、活用のため文化財の雰囲気を損ねない設備を慎重に選択し、使用した。
 建物の活用のため、エレベーター棟を隣接して建て、控室内にはトイレを設置した。

 各室には照明、コンセント等の電気設備や空調設備を設置し、本館と議場にはカーテンを取り付けた。また防災設備として、自動火災報知設備や屋内消火栓を設けた。
 本館と議場境の土間廊下は管理上の問題から、東西にガラスの開き戸を新設した。
 さらに本館2階から議場に通じる扉と階段を設置した。