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第3章 地域交流資源活用の方策・提案

 第2章において、紀淡海峡周辺地域における風土・文化の共通性と類似性をみてきたが、ここではそれらを「地域交流資源」として位置づけたうえで、その活用方策をますこととする。

3−1 交流資源の活用方策

地名を活かした生活者の地域間交流

 地名はそこに住む人々にとって身近な存在であるゆえに、なによりも市民レベルでの交流を促す役割を果たすであろう。それぞれの地名をもつ地区で生まれ育った人は、そこと同じ名前をもつ場所に少なからぬ興味をもつだろう。また「なぜ同じなのか?」を、それぞれの地区の地元の人が考え、共通に議論ができるだろう。その議論が深まるなかで、地域間交流が生まれてくることが期待できる。小学校の社会科教育(生活科)に取り入れることも意義深いことであろう。

石のつながりを活かした地域イメージの明確化と
石のガーデンアイランド設計

 紀淡海峡交流会議に参加する7府県が、地質・岩盤でつながっていることから、これを共通テーマに考えていけるであろう。
 また岩盤は、個々の地域で石材に加工され造形物、風景として親しまれている。単に地質としてだけでなく、経済や観光、環境計画の観点からも重要な資源である。そしてなによりも、かたちあるものとして我々に最も分かりやすく紀淡海峡周辺地域のイメージを伝えてくれる。
 青という色彩、また岩盤が自然現象によって砕けてできた個々の石のかたち。それらは紀淡海峡周辺地域で共通し、かつこの地域だけのものである。ハードイメージ不在のなかで、最も説得力のある資源として有効に活用できる。
 また、石という地域資源を活かした方策の提案として、“ガーデンアイランドに活かす”ことを示したい。21世紀の国土のグランドデザインでは、わが国の国土を庭園島にすることを基本理念として掲げているが、元来日本の庭園は石を重視していた。しかし現在、花と緑が中心に議論され、石の存在が忘れられがちである。それゆえに、ここで石を活かすことを提案したい。

巡り体験の融合 巡礼海道で海の賑わい

 熊野信仰は四国でも盛んであり、またお遍路と高野山とのつながりなど、紀淡海峡の両岸の信仰上の結びつきはすこぶる強い。これは修験道でも同じである。これら「お遍路」、「熊野詣」、「修験道」の3つの道からまた新しい「めぐる道」を編むことも可能ではないだろうか。新しい「めぐり」は全国から人を集める可能性がある。それだけのポテンシャルをもったものである。近年、船舶ルートが縮小され海の賑わいを失っているが、3 つの融合によってそれを再生する方策が必要であろう。
 お遍路や熊野詣、修験道などに見られる「歩くスタイル」という延長上に、紀淡海峡の将来像を考えれば、そこにはヒューマンスケールな「歩ける橋」の必要性が浮かび上がってくる。瀬戸大橋は、鉄道・車でしか渡れないが、しまなみ海道では自転車、歩行者の利用が可能になった。大鳴門橋も、平成12年4月より橋脚の下を歩いて渦潮の見学ができるようになった。環境共生を志向する次世代のライフスタイルを考えると、「歩く」ことがより重視される時代が来ると考えられよう。

平和教育・国際交流の場の連携
ミュージアムネットワーク

 先にみた「めぐる道」の項では、霊場を回る既定のコース以外に、新たに旅や巡礼となるようなルートを考えるべきであることを述べた。そこで、ここでは特に「学ぶ」という視点から、地域間交流を考えたコースを提案してみたい。そのひとつが、先に指摘した平和教育・国際交流に関係した地域交流資源の連携である。

近代建築・産業遺産でラーニング・リゾートと
オープン・ミュージアムの創造

 これについても、新たな「めぐり」を創造していくものである。その個々の資源に、これまで紀淡海峡周辺地域で育まれた産業遺産を活用したい。
 その一つは、紡績工場や国家プロジェクトの要塞などの近代建築によるもの。また、様々な産業の発展過程や技術交流過程を、オープンミュージアムとして表現していくことにより、「巡り」を創造していくことも考えられる。なかでも、紀淡海峡を介した、加太、友ヶ島、淡路の3地区にまたがる砲台の活用については、3 地区の自治体で共同でとりくむテーマとなり、紀淡海峡交流会議でも議論すべきものであろう。


研究会でのアイデア提案
 研究会では、めぐるインフラ整備、コース設定に関して以下のような数々のアイデア提案がなされた。具体化に向けては、実施主体、実施方法等につきさらなるな詳細な検討が必要であることはいうまでもないが、参考までに以下に示す。

☆めぐるインフラ整備

1 めぐる海道の整備

渡船・漁船などを活用して紀淡海峡を周遊する遊覧船を整備していく。 お遍路・修験道・熊野詣を複合的に体験するために、紀淡海峡に遊覧船ルートを設ける。

2 めぐる鉄道ネットワークの整備

紀淡海峡を東西軸で周遊するコースを、JR 和歌山線、JR 徳島線、JR 鳴門線との連携によって形成する。また紀淡周遊切符をつくる。

3 めぐる水運ネットワークの整備

紀淡海峡周辺地域を水運でめぐる。紀ノ川を下り、紀淡海峡を渡り吉野川を登る水運ネットワークを形成する。

☆めぐるコース設定

 1 綿の国めぐり「藍と綿」(泉州、淡路、阿波)
 2 近代建築めぐり(のこぎり屋根の繊維工場、煉瓦積み工場、砲台めぐり)
 3 紀淡海峡砲台めぐり
 4 地球見学、中央構造線をゆく、青い石の道をすすむ
 5 お遍路・修験道・熊野詣で一日体験
 6 伝統産業めぐり(たばこ、塩、藍、綿)
 7 平和教育コース(戦没学徒慰霊碑など)
 8 震災教育コース(阪神淡路大震災、南海大地震の関連の場を訪れる)
 7 紀淡麺めぐり(讃岐うどん、和歌山・徳島ラーメン)
 8 メリケン粉文化めぐり(うどん・お好焼き)
 9 青石ランドスケープめぐり(紀州青石、阿波青石産地訪問)
 10 青石彫刻体験ツアー(青石を使って彫刻を体験)
 ※また以上のコースを複合的に編むことで新たな楽しみ方ができる。

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