高品質油脂添加試験

高品質油脂添加試験

はじめに

ブロイラー用飼料は飼料用油脂の含有率が高く(4%から5%)、その主原料として飲食店や食品工場から回収された使用済みの食用油(廃食用油)が用いられている。しかし、廃食用油は安価なものの品質が高いとはいえず、消費者のニーズに即した高品質な鶏肉を生産するためには、良質の油脂原料を使用する必要がある。

本研究では、ブロイラー用飼料の油脂原料の代わりに品質の良い油脂を飼料添加することにより、安全で高品質な鶏肉の生産技術を確立するとともに、鶏の酸化ストレスを軽減させることで免疫力を向上させ、育成率、増体性、飼料効率等の生産性を向上させることを目的とする。

(補足)築野食品工業株式会社(伊都郡かつらぎ町新田)との共同研究

材料および方法

    • 試験期間
      平成17年5月25日から平成17年7月13日(0日から49日齢)
      試験解体は50日齢および51日齢に実施した
    • 供試鶏
      チャンキー
    • 試験区分
      新油区 基礎飼料に新油(大豆油とナタネ油)を添加
      ライス区 基礎飼料に新油と飼料用ライストリエノールTMを添加
      パーム区 基礎飼料にパーム油を添加
      廃油区 基礎飼料に廃食用油(植物性)を添加
      タロー区 基礎飼料に廃食用油(植物性とタロー)を添加
      (補足)飼料用ライストリエノールTM
      築野食品工業株式会社の製品。米ぬかから米油を精製する過程で産生される油脂で、植物ステロールやビタミンE群(トコフェロール、トコトリエノール)を豊富に含む。
    • 供試羽数
      各区とも200羽ずつ(オス100羽、メス100羽)
    • 給与飼料
      表1のとおり
      ブロイラー試験の給与飼料の図
    • 飼養管理
      ウインドレス鶏舎にて飼養。飼育密度は1坪30羽。飼料・飲水とも自由接種。
    • 調査項目
      育成率、生体重、飼料摂取量、飼料要求率、性能指数、解体成績、肉色、官能評価検査、鶏肉成分分析

    結果

    育成率は新油区と廃油区でやや低いものの、各区間に有意な差はみられなかった(表2)。
    ブロイラー試験の育成率の図
    生体重は21日齢 、35日齢 、49日齢に測定した。
    まず、パーム区が各日齢において高い傾向にあり有意差も認められた。新油区およびライス区は、21日齢、35日齢では他の区に比べて低い傾向であったが、49日齢でパーム区と同程度に高くなり、廃油区、タロー区との間に有意差が認められた。一方、廃油区およびタロー区は、21日齢、35日齢で高い値を示していたが、49日齢では新油区、パーム区、ライス区に比べて有意に低くなった(図1)。
    ブロイラー試験の生体重の図
    試験期間全体での飼料摂取量はパーム区が最も多く、次いでライス区、新油区、廃油区、タロー区の順であった。新油区およびライス区の飼料摂取量は35日齢まで他の区に比べてやや少ないが、36日齢から49日齢では逆に他の区より多かった(表3)。
    ブロイラー試験の飼料摂取量の図
    一方、試験期間全体での飼料要求率は新油区が最も低く、次いでライス区、タロー区、廃油区、パームの順であった。期間別では新油区およびライス区が期間の後半で低くなる傾向を示し、逆にパーム区および廃油区は後半で高くなる傾向にあった(表4)。
    ブロイラー試験の飼料要求率の図
    性能指数(プロダクションスコア)はライス区が最も高く、次いで新油区、パーム区、タロー区、廃油区の順であった。ただしライス区と新油区にはほとんど差はなく、どちらも良好な成績であるといえる(表5)。
    ブロイラー試験の性能指数の図
    解体成績は、と体歩留まりでタロー区が新油区、パーム区、廃油区より有意に低かった。また、モモ肉割合で新油区がライス区、廃油区、タロー区より有意に低い値であったが、ムネ肉割合、正肉割合には差がみられなかった(表6)。
    肉色は各区間に差がみられなかった。
    ブロイラー試験の解体成績の図
    官能評価検査には解体後マイナス30度で冷凍保存したムネ肉(浅胸筋)を4度で24時間解凍したものを使用し、3%食塩水に1時間浸した後ホットプレートで焼いたものを試料とした。
    一般の消費者パネル45人(男性18人、女性27人)を用いて、試食後、各鶏肉の香り、味、軟らかさ、多汁性(ジューシーさ)、総合評価をそれぞれ6段階で評価してもらった。得られた評価は、評価の低い方を1点とし最高6点で集計した。
    全体の評価としては、各項目ともライス区が最も高い点数で、次いで新油区と廃油区が同程度の点数で並び、その次にパーム区、タロー区という傾向がみられた。ただ、軟らかさに関して新油区はライス区とほとんど差がないと評価された。また、香り以外の項目でライス区とタロー区の間に有意差が認められた(図2)。
    ブロイラー試験の官能評価の図
    男女別に分析すると、男性の評価では味、多汁性、総合評価の3項目でライス区が他の区よりも非常に高く評価され有意差も認められた。一方女性の評価では、軟らかさで新油区とライス区の評価が若干高かった以外は各区間に大きな差はみられなかった。女性の評価は男性に比べてライス区が低く、廃油区が高い傾向がみられた。(図3、図4)
    また、図には示していないが年齢別でみると、20代(男性7人、女性9人)では新油区、ライス区、廃油区の評価が高く、30代(男性2人、女性9人)では各区の評価に大きな差はなく、40代(男性3人、女性3人)ではライス区に次いでタロー区の評価が高く、50代から60代(男性6人、女性6人)ではライス区の評価が高いという傾向がみられた。
    ブロイラー試験の官能評価(男性)の図
    ブロイラー試験の官能評価(女性)の図
    鶏肉の成分分析にはムネ肉(浅胸筋)を用い、味覚に関連する成分として5''-イノシン酸と遊離グルタミン酸を各区1検体ずつ測定した。
    5''-イノシン酸は新油区が最も高くパーム区が最も低い値であった。遊離グルタミン酸は廃油区、新油区、ライス区、パーム区、タロー区の順に高かった(表7)。
    ブロイラー試験の成分分析の図

      まとめ

      今回ブロイラー用飼料の油脂原料として5種類の油脂を使用し、通常のブロイラーの飼料に用いられる廃食用油の代わりに新油やパーム油を使用したときの影響を調査した。
      生産性という面では新油区、ライス区、パーム区で増体性の向上が認められたことが非常に大きな意味があると考えられる。しかし、新油区、ライス区については飼育前期での増体性の悪さがみられたことから、後期飼料から添加する等の対策が必要である。飼料効率についても同様で、飼育前期と後期で飼料効率が変わることから添加時期について今後検討しなければならない。ただ、性能指数は新油区、ライス区とも高く、検討後は十分実用化できるものと考える。
      生産物に関して解体成績、肉色については一部有意差の認められた項目もあるが、それほど大きな差は影響はないと考えられる。それよりも官能評価検査で特にライス区が高い評価を得られたことが重要である。男女、年齢による評価の差はあるものの、逆に消費者層を絞った商品開発が期待できる。そのためには今後試験を重ねて例数を増やす必要がある。また今回、鶏肉の成分分析は各区1検体ずつしか実施できなかったが、これについても例数を増やす必要がある。さらに今後は鶏肉の理化学的検査(保水性や加熱損失等)も実施し、生産物である鶏肉の特性を明らかにしていきたい。
      本研究の成果をもとに、平成18年9月に共同研究者の築野食品工業株式会社と共同で特許出願を行った(特願2006-245959)。今後上記の検討課題をふまえつつ、技術普及についても力をいれていきたい。

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