紀州うめどり、紀州うめたまご分析試験
紀州うめどり、紀州うめたまご分析試験
はじめに
脱塩濃縮梅酢(以下BX70)を飼料に添加することで、ブロイラーでは免疫性や産肉性が向上し、採卵鶏では免疫性や産卵性、卵質が向上することが今までの研究で明らかになってきた。
現在、この技術を活用して生産された鶏肉および鶏卵は、それぞれ「紀州うめどり」「紀州うめたまご」というブランドで販売されている。
当ブランドのより一層のPRのため、今回、BX70の飼料添加が鶏肉および鶏卵の成分や特性に及ぼす影響を中心に分析を行った。
材料および方法
ブロイラー試験
- 試験期間
平成17年12月21日から平成18年2月8日(0日から49日齢)
試験解体は平成18年2月9日(50日齢)に実施 - 供試鶏
チャンキー - 試験区分
0.05%区 22日齢よりBX70を0.05%添加した飼料を給与
0.1%区 22日齢よりBX70を0.1%添加した飼料を給与
対照区 通常飼料を給与 - 供試羽数
各区とも30羽ずつ(オス15羽、メス15羽) - 給与飼料
表1のとおり
- 飼養管理
ウインドレス鶏舎にて飼養。 飼育密度は1坪30羽。 飼料・飲水とも自由接種。 - 調査項目
育成率、生体重、飼料消費量・飼料要求率、性能指数、解体成績、マクロファージ走化性、官能評価検査
鶏肉理化学的検査(50日齢)
35キログラム加圧保水力(生肉を1平方センチメートルにつき35キログラムで1分間加圧した時の肉片と肉汁の面積比)
伸展率(生肉を1平方センチメートルにつき35キログラムで1分間加圧した時に肉片が拡がる程度)
加熱損失(肉を70度で1時間加熱したときの重量の変化)
圧搾肉汁率(加熱肉を1平方センチメートルにつき35キログラムで1分間加圧した時の重量の変化)
保水性(生肉を4度で保存した時の重量の変化)
剪断力価(加熱肉を噛み切る時に必要な力)
採卵鶏試験
- 試験期間
平成17年5月16日から平成17年8月1日(312日から389日齢) - 供試鶏
ボリスブラウン - 試験区分
0.07%区 試験期間中、BX70を0.07%添加した飼料を給与
0.14%区 試験期間中、BX70を0.14%添加した飼料を給与
対照区 通常飼料を給与 - 供試羽数
各区とも25羽ずつ - 給与飼料
表2のとおり
- 飼養管理
解放鶏舎にてケージで単飼。 飼料・飲水とも自由摂取。 - 調査項目
育成率、産卵率、平均卵重、産卵日量、飼料消費量・飼料要求率、体重、卵質(卵殻破壊強度、卵殻厚、卵形係数、ハウユ ニット、卵黄色、卵殻色)、鶏卵成分分析(ビタミン、ミネラル、アミノ酸、有機酸、脂肪酸組成など)
統計分析は、両試験ともDuncanの多重検定で解析した。
結果
ブロイラー試験
育成率は0.05%区が他の区に比べて低かったが、供試羽数が少なかったため実際にへい死した数は1羽であった(表3)。
生体重は各日齢とも有意差はみられなかったが0.1%区が対照区より高い傾向にあった。また、0.05%区も35日齢以降は対照区より高い値を示した(図1)。
1日1羽あたりの飼料消費量は0.1%、0.05%、対照区の順に多く、BX70を添加することにより飼料消費量が多くなる傾向を示した(表4)。
飼料要求率はBX70の添加により若干低くなったが、大きな差はみられなかった(表5)。
各試験区の経済性を評価するため、通常の性能指数を計算するときと同じ要領で22日から49日齢の性能指数を以下の式により算出した。
22日から49日齢増体重(キログラム)×22日から49日齢育成率(パーセント)×100
飼料要求率 × 試験日数(28日)
22日から49日齢の性能指数は0.1%区が最も高く、0.05%区は育成率が低かったため対照区よりわずかに低い結果となった(表6)。
解体成績については有意差が認められなかったものの、0.05%区および0.1%区でむね肉割合および正肉割合が高くなる傾向がみられた(表7)。
鶏の自然免疫応答を調査するため、血液中から採取したマクロファージの走化性を測定した。BX70添加前の21日齢では各区間に差はみられなかったが、42日齢では対照区に比べて0.1%区および0.05%区が有意に高くなった(表8)。
鶏肉の理化学的性状として35キログラム加圧保水力、伸展率、保水性、加熱損失、圧搾肉汁率および剪断力価を測定した。35キログラム加圧保水力および伸展率は対照区に比べて0.05%区および0.1%区が大きくなる傾向を示した。保水性についてはBX70添加区が対照区より有意に高い値を示した。
加熱損失は0.05%区が高くなり、圧搾肉汁率は0.05%区が低い傾向であった。また、剪断力価は対照区に比べて0.05%区および0.1%区が有意に高くなった(表9)。
官能評価検査には0.1%区と対照区について実施した。4度で24時間熟成させたむね肉(浅胸筋)を5%食塩水に1時間浸漬後、ホットプレートにて焼き一口大に切り出したものを試料とした。32人(男性23人、女性9人)の嗜好型パネルが2種類の試料を自由に試食し、対照区に対する0.1%区の評価あるいは0.1%に対する対照区の評価をアンケートにて回答した。評価項目は香り・味・軟らかさ・多汁性(ジューシーさ)・総合評価の5項目で、各項目について良い(2点)・やや良い(1点)・差がない(0点)・やや悪い(マイナス1点)・悪い(マイナス2点)の5段階で評価し、集計したものを評価点とした。
図2に対照区に対する0.1%区の平均評価点を示した。5項目のうち香り、味、総合評価の3項目で、対照区に対する0.1%区の評価が有意に高くなった。
採卵鶏試験
試験期間中の生存率は0.07%区と0.14%区が100%であった。対照区では1羽へい死したため、生存率が96.0%であった(表10)。
各試験区の産卵成績を表11に示した。産卵率は0.07%区が最も高く0.14%区との間に有意差を認めたが、0.07%区、0.14%区とも対照区との間には有意な差はみられなかった。平均卵重については0.14%が対照区および0.07%区に比べて有意に大きかった。産卵日量は0.07%区が最も大きい傾向にあった。
試験期間中の飼料消費量は対照区に比べBX70添加区が多く、0.07%区より0.14%区が多い傾向にあった(表12)。
飼料要求率は対照区と0.07%区には差がなく、0.14%区がやや高い傾向を示した(表13)。
体重は試験前後に測定した。試験後体重で0.14%区がやや大きい傾向を示したが、有意差は認められなかった(表14)。
卵質検査の結果を表15に示した。卵殻厚は0.14%区が0.07%区および対照区より有意に厚かったが、卵殻破棄強度には差がみられなかった。卵形係数は0.07%区が他の区より大きかった。ハウユニットは0.14%区が対照区より低かった。卵黄色は0.14%区が有意に高く、濃度依存的に高くなる傾向であった。
卵殻色については0.14%区でL*が有意に高く、a*が低い値を示した。b*と彩度は対照区が0.07%区および0.14%区より高い結果となった(表16)。
鶏卵の成分分析は0.14%区と対照区で実施した。まず、10羽分の全卵を混合したものを1検体としてビタミン(A、B1、B2、B6、E、ナイアシン、葉酸、パントテン酸)、ミネラル(リン、鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、マンガン)、アミノ酸、有機酸(クエン酸)、脂肪酸組成、コレステロールを分析したところ、鉄、ビタミンA、葉酸、パントテン酸で0.14%区と対照区の分析値に差がみられた。これらの成分は卵白にはほとんど含まれていないことから、卵黄中の含量について6検体ずつ分析を行った。
図3から図6に分析結果を示した。卵黄中のビタミンA、葉酸、パントテン酸で0.14%区が対照区より有意に高い値を示した。平均すると、対照区に比べて0.14%区がビタミンAで約1.04倍、葉酸で約1.29倍、パントテン酸で約1.11倍多く含まれていた。
まとめ
今回、BX70をブロイラーおよび採卵鶏の飼料に添加したときの、生産物(鶏肉・鶏卵)に与える影響を調査した。
その結果、鶏肉では保水性の向上および剪断力価の増加が認められた。保水性が向上したことで鶏肉を陳列した際に浸出するドリップが減少し、商品価値の向上につながると考えられる。剪断力価の増加については鶏肉の歯ごたえが増加したとも考えられるが、官能評価検査の結果では逆にやや軟らかいと評価されているので今後検討する必要がある。官能評価検査では、香りと味で特に高い評価が得られており、臭みの少ないおいしい鶏肉として紀州うめどりのイメージアップにつながると考えられる。
一方鶏卵では、詳細な成分分析により卵黄中のビタミンA、葉酸、パントテン酸の増加が認められた。このうち葉酸とパントテン酸はともにビタミンB群で、いずれも皮膚や粘膜の強化といった免疫系に関与しているが、特に葉酸については、妊娠している女性に必要な栄養成分として最近注目されており(不足すると胎児奇形の原因となることがあるため)、紀州うめたまごの大きなアピールポイントになると考えられる。