薬草未利用部分を利用した特色ある養鶏

薬草未利用部分を利用した特色ある養鶏

はじめに

和歌山県内では、古来より中山間地の傾斜地や不整形な畑を利用して、数多くの薬草が栽培されている。それらは薬効部分の含有量により根が利用されるもの、地上部の茎や葉が利用されるものなど利用方法が多岐に渡っている。しかしながら、それ以外の部分においては未利用で廃棄物とされているものがほとんどである。

そこで今回、県内で奨励品種に定められ栽培されているトウキ(ヤマトトウキ)とミシマサイコの未利用部分を採卵鶏の飼料に添加、鶏および卵への効果を検討した。
なお、両者とも薬効部分は根であり(平成13年3月27日厚生労働省通達)、未利用部分である葉や茎は県内では食用にも供されるものである。

【試験の条件と区分 

試験は、平成15年8月22日初生雛で導入したボリスブラウンに70日齢から510日齢まで試験材料を添加、あるいは無添加の区を設定して行った。試験鶏は90日齢に成鶏舎に移動後、単飼ケージで飼養し、照明条件は14L10Dとした。
試験区は、一般的な市販飼料(70日から120日齢は大雛用でCP14.0%以上、1キログラムのうちME2,780カロリー、121日から510日齢は成鶏用CP17.0%以上、1キログラムのうちME2,850カロリー以上)にトウキの葉茎を0.5%加えた区(以下トウキ区)、サイコの葉茎を1.0%加えた区(以下サイコ区)、無添加の区(以下対照区)の3区とした。各区の羽数は100羽とした。
産卵成績は151日から510日齢の間毎日、卵質成績は30日毎に各区より20個抽出して測定し、その他は適宜試験を行った。
試験に使用したトウキおよびサイコの葉茎の一般成分を表1に示した。市販飼料に比較して栄養価が特別高いものではなく、後述の成果がその影響ではないことが推察される。なお、トウキ、サイコとも有効成分とされる物質は、薬効部分の1月2日~1月3日含有されていることが和歌山県工業技術センターの分析で明らかとなっており、今回の添加濃度は人で有効とされる薬効部分の添加濃度に準拠して決定した。
表1薬草未利用部分の一般成分の図

産卵性におよぼす影響

産卵性におよぼす影響を表2から3に示した。なお、成績の有意差については対照区との間で student-t検定を行い、P<0.05を有意差ありとした。
産卵率は添加両区の方が高い数値を示し、トウキ区が有意に高い数値を示した。今回の場合、産卵成績の追跡を開始した151日齢(平成16年1月)と終了時の510日齢(平成18年1月)に当たり、産卵率の推移を見ても季節性、日齢による大きな特徴はなく、若干のバラツキはあるもののほぼ一定して産卵率は向上していた(図1)。
図1産卵率の推移の図
平均卵重、産卵日量は添加両区が有意に低い数値を示した。1日1羽当たりの飼料摂取量、飼料要求率は若干の差はあるものの有意差はなかった(表2)。
表2産卵成績への影響の図
規格外卵については、添加両区は有意に低い率を示した。なお、当研究所ではひび割れ卵、血斑・肉斑卵、奇形卵、二黄卵を規格外として廃棄している。規格外卵を廃棄した(商品になった)卵の産卵率(出荷個数÷のべ羽数×100)は、添加両区が有意に高かった(表3)。
表3生産卵への影響の図
これらを総合して考えると、薬草未利用物を添加することにより産卵率は向上したものの、平均卵重および産卵日量が減少した。このことは一見あまりメリットがないように見えるが、一般的にL卵よりM卵の方が取引価格が高いため全くメリットがないわけではない。一方、規格外卵率が減少し商品化された卵が増加する結果となったことから、産卵日量の減少はこの部分で緩和され、むしろ平飼い養鶏などでは大きなアドバンテージとなる可能性が含まれている。

卵質への影響

卵質への影響を表4に示した。卵形係数はトウキ区が対照区に比べ有意に低い数値を示した。しかし、数値的には通常の範囲とされる
0.72から0.76の間にあり、トウキ添加によるメリット、デメリットは考えられない。ハウユニットはトウキ区で高い傾向にあったが、有意な差ではなかった。卵殻厚ではサイコ区が対照区より有意に低いものの、卵殻破壊強度では差はなく、前述の規格外卵率に悪影響もないことから、破卵の増加には繋がってはいない。血斑発生率は、添加両区で低い数値を示したが、有意な差ではなかった。
表4卵質におよぼす影響の図
卵質は加齢により低下することが知られているが、老齢鶏の成績(480日齢と510日齢の成績の平均)を若齢鶏の成績(151日齢と180日齢の成績の平均)で割ったものに100を乗じたもの(劣化率)を表5に示した。ハウユニット、卵殻厚、卵殻破壊強度では添加両区で率は大きくこれらは薬草未利用部分の添加により加齢による劣化が緩和できた。なお、有意差が認められたのはハウユニットにおけるサイコ区と、卵殻厚のトウキ区においてであった。
表5卵質の低下におよぼす影響の図
卵黄色はカラーファンと色彩色差計(ミノルタCR200)でL*a*b*および彩度を卵質検査時に同時に測定した(表6)。卵黄色においては、試験区間で成績に差は認められなかった。
表6卵黄色におよぼす影響の図
卵殻色も卵黄色同様、卵質検査時に色彩色差計にて測定した(表7)。トウキ区において、L*が有意に低く、a*は有意に高い結果で、そのため彩度も高い傾向であった。このことは、トウキの添加により卵殻がやや濃く、かつ赤色がある鮮やかな色になっていたことを示し、市場的には好まれる傾向にある卵の生産が可能となる可能性がある。なお、サイコ区においては同様の傾向は認められるものの、有意差までは認められなかった。
表7卵殻色におよぼす影響の図
トウキ、サイコの添加は、銘柄卵として流通する赤玉卵においては、上述の卵質、卵殻質の向上により一層の高付加価値化が見込まれ、規格外卵の減少と併せ、特に平飼い飼養などには有効な効果であることが示唆される。

鶏の生体への影響

トウキ、サイコの添加が代謝性への影響を与えるか検討するため、225日齢と505日齢の2回、血液生化学検査を各区より15羽抽出して行った。なお、成績の有意差は、対照区との間で student-t 検定を行い、P<0.05を有意差ありとした。
肝機能では、225日齢において、GOTがトウキ区の数値が対照区より有意に低く、505日齢でもその傾向は変わらなかった。また、GGT、LDHは大きな差はなかった。このことは、トウキの添加は肝臓機能を亢進していると推察され、これが生産性の向上などに関与している可能性がある。また、トウキ、サイコの未利用物の添加は、採卵鶏に対して毒性がないことをも示している(表9)。
表9血清中生化学成分におよぼす影響の図

おわりに

今回の結果から、トウキ、サイコの未利用部分を採卵鶏飼料に添加することは、産卵性、卵質、免液性などに多くの成果が得られることがわかった。その成果は、特に平飼などの銘柄卵生産などに有効なものであり、現在、生産農家への普及並びに薬草生産農家とのタイアップも図っている。今後、より実用に即するため、最適添加濃度の決定や両薬草の相乗効果、移行物質の確認などについては課題であり、現在試験中である。
(養鶏の友:平成17年9月日本畜産振興会より抜粋)

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