ブロイラーに対する脱塩濃縮梅酢BX70の効果

ブロイラーに対する脱塩濃縮梅酢BX70の効果

はじめに

梅酢は梅干しを加工する時に産出される副産物で、クエン酸等の有効成分が含まれているものの、塩分濃度が高く、また大量に産出されるため、これまで有効な利用方法がなかった。

当研究所では養鶏分野における梅酢の利用を図るため、梅酢から塩分を取り除いた脱塩濃縮梅酢(以下、BX70)を民間の梅干し会社とともに開発し、鶏への給与試験を行っている。その結果、採卵鶏では産卵率や卵質、免疫機能の向上など様々な効果が得られた。

また、ブロイラーに対しても2003年から飼料への添加試験を行っており、今回その結果を取りまとめた。

材料および方法

    • 試験期間
      平成15年5月27日から平成15年7月17日(以下、2003夏)
      平成16年6月9日から平成16年7月28日(以下、2004夏)
      平成17年1月12日から平成17年3月2日(以下、2005冬)
      平成17年5月25日から平成17年7月20日(以下、2005夏)
    • 試験区分
      1.0%区 BX70を1.0%添加した飼料を給与(2003夏のみ)
      0.1%区 BX70を0.1%添加した飼料を給与
      対照区 通常の市販飼料を給与
    • 供試鶏
      チャンキー
    • 供試羽数
      2003夏 1区200羽
      2004夏 1区59羽
      2005冬 1区84羽
      2005夏 1区30羽
    • 鶏舎形態
      ウインドレス
    • 調査項目
      育成率、出荷時体重、飼料消費量、飼料要求率、解体成績、血清NDHI抗体価、リンパ球幼若化試験、官能評価検査

    結果

    • 育成率
      2004夏以外の試験では、いずれも育成率が高く各区に差はみられなかった。2004夏は鶏舎内の最高気温が高かったため、対照区の育成率は低くなったが、0.1%区は育成率の低下がみられなかった(表1)。
      表1育成率の表
    • 出荷時体重
      出荷時体重(49日齢)は、2003夏で0.1%区が対照区よりやや低くなっているものの、その後の試験では0.1%区が対照区より約4%高い傾向にあった(図1)。
      図1出荷時体重の表
    • 飼料消費量および飼料要求率
      1日1羽あたりの飼料消費量は、BX70の飼料添加によりやや増加するような傾向が認められた。
      一方、飼料要求率については一定した傾向はみられなかった(表2)。
      表2飼料消費量および飼料要求率の表
    • 解体成績
      腹腔内脂肪については、2003夏で対照区に比べて1.0%区および0.1%区が低い値を示したが、その後の試験では対照区に比べて1.0%区および0.1%区が高くなる傾向がみられた(図2)。
      図2腹腔内脂肪割合の表
      もも肉割合については、2003夏で1.0%区および0.1%区が対照区より有意に高かったものの、その後の試験では一定した結果が得られなかった(図3)。
      一方、むね肉割合については2004夏以降で0.1%区が高くなる傾向がみられた(図4)。
      図3むね肉割合、図4もも肉割合の表
      また、むね肉・もも肉をあわせた正肉の割合は、すべての試験においてBX70を添加した区が対照区より高い傾向にあった(図5)。
      図5正肉割合の表
    • 血清NDHI抗体価
      ND(ニューカッスル病)ワクチンは各試験とも4日齢と28日齢に飲水投与した。また、測定は2003夏と2005夏に実施した。2003夏では28日齢まで各区に差はみられなかったが、2回目のワクチン投与後の35日齢および42日齢において1.0%区および0.1%区の抗体価が上昇し、特に1.0%区が対照区より有意に高い値を示した(図6)。
      2005夏についても28日齢では差がないものの、42日齢および56日齢で0.1%区が対照区より高い抗体価を示した(図7)。
      図6、7血清NDHI抗体価の表
    • リンパ球幼若化試験
      リンパ球幼若化試験は2003夏に1.0%区と対照区で実施した。刺激物質であるコンカナバリンAの濃度を40μg/ミリリットルと80μg/ミリリットル の2段階に変えて測定したところ、どちらも1.0%区が対照区よりリンパ球の幼若化が強くみられた(図8)。
      図8リンパ球幼若化試験の表
    • 官能評価検査
      官能評価検査には皮を取り除いたむね肉(浅胸筋)をホットプレートで焼いたものを使用し、一般消費者を対象に試食を実施しアンケート形式により評価を行った。評価は香り・味・歯ごたえ・総合評価の4項目について、対照区に対する1.0%区の評価を良い・やや良い・差がない・やや悪い・悪いの5段階で回答する方法で実施した。
      香りについては「差がない」という評価が最も多く、味・歯ごたえ・総合評価については65%以上の人が「良い」または「やや良い」と回答した(図9)。
      図9官能評価検査の表

    おわりに

    以上の結果から、ブロイラーに対するBX70の飼料添加により、次のような効果が考えられる。まず、飼料消費量が増加し増体性が向上する可能性が示された。腹腔内脂肪については、採卵鶏に対する試験で肝臓脂肪の減少が認められていることから今後も検討していく必要がある。また、産肉性についても増加する傾向があるものの、むね肉割合やもも肉割合の結果が一定していないため検討する必要がある。次に、血清NDHI抗体価およびリンパ球幼若化試験の結果から、外部刺激に対する液性および細胞性の免疫応答が増強することが示唆された。それに関連して鶏舎内環境が悪化した時に育成率が低下するのを抑制する可能性も示された。また生産物に対する影響として、鶏肉の食味性、特に味と歯ごたえが良くなる可能性が示された。
    現在、BX70の飼料添加技術は採卵鶏飼養農家4戸およびブロイラー飼養農家1団体で実用化されており、生産された鶏肉と鶏卵がそれぞれ「紀州梅どり」、「紀州梅たまご」として販売されている。昨年4月には「紀州梅どり・梅たまごブランド化推進協議会」が発足し、販売促進を行うとともに新規導入農家の開拓を行っている。今後もこの技術の普及を図るため、当研究所でも技術的な面でサポートしていきたい。

    「研究成果」へ

    このページの先頭へ