梅副産物を用いた高品質牛肉生産技術の確立

梅副産物を用いた高品質牛肉生産技術の確立

共同研究機関:県工業技術センター、チョーヤ梅酒株式会社
研究期間:平成16年度から平成18年度
キーワード:梅加工副産物、抗酸化物質、産肉成績、強健性

はじめに

本県の特産品である梅干し等の梅製品から生産過程で生じる副産物の有効利用が課題となっているなか、梅加工副産物にはヒトの健康面に有効であると言われているクエン酸やポリフェノールなどの抗酸化物質が多く含まれているとされています。それらを、BSE(牛海綿状脳症)発生や産地間競争の激化及び消費者の安全性指向等に起因する、厳しい経営状況にある本県特産和牛「熊野牛」肥育農家へ利用することを考えました。つまり、梅加工副産物を肥育牛の飼料として給与し、それに含まれるポリフェノール等の有効成分を利用し、肥育牛の強健性の向上や増体成績及び肉質面での品質向上等により、生産者の経営安定を目指すこととしました。

研究の概要とその成果

梅酢給与試験

方法
黒毛和種去勢牛に梅酢原液を1回目 1リットルから2リットル/日・頭、2回目 濃厚飼料の5%/日・頭の給与量で10ヶ月から24ヶ月齢まで給与しました。
結果
  • 飼料摂取量:第1回目の試験では全期間、第2回目の試験では前期以外で対照区の方が多くなりました。
  • 増体成績:第1回目、第2回目ともに対照区の方が良くなり、ともに14ヶ月齢以降差が出始めました。このことから、梅酢の過食抑制効果の可能性が示唆されました(図1、図2)。
図1平均体重の推移(第1回目)の図
図1 平均体重の推移(第1回目) 
図2平均体重の推移(第2回目)の図
図2 平均体重の推移(第2回目)
  • 枝肉成績:歩留面、肉質面ともに大きな差はなく、若干対照区の方が良い結果となりました。
  • 強健性:第2回目の試験における血中IgG(免疫グロブリン)濃度の推移では、13ヶ月齢以降試験区で高値を示したことから、梅酢給与による免疫能強化の可能性が示唆されました(図3)。
図3 血清中IgG濃度の推移の図
図3 血清中IgG濃度の推移
  • 牛の健康面への影響:血液生化学的検査の結果から、牛の健康状態にもたらす悪影響は認められませんでした。ただし、梅酢原液給与により、通常の20倍近い濃度の塩分を摂取していることから、今後はこの点についても検討する必要があると思われます。
  • 牛生体中の抗酸化物質の推移:牛血中の抗酸化物質の推移については、特に変化は見られませんでした。
  • 牛肉中の脂肪酸組成:牛肉のうま味成分として知られている不飽和脂肪酸含有量は、試験区の方が高く、その中でもオレイン酸(C18対1)含有量についても試験区の方が高くなったことから、梅酢給与による「おいしい牛肉」の生産の可能性が示唆されました(表1、表2)。
表1の図
表1
表2の図
表2

梅サプリメントの飼料化 

方法:冷凍梅種子を乾燥粉砕し、粉末状にし、短期給与試験等を実施しました。
結果:梅サプリメントの作成

乾燥、粉砕、ふるいにより作成したものを牛に短期給与したところ、嗜好性は良好でした (図4)。

図4 梅種子サプリメントの写真
図4 梅種子サプリメント

サプリメント短期投与による牛生体中の抗酸化物質の動態特に変化は見られませんでした。

実用化(普及)の状況

今回の試験結果から、梅酢原液給与により、増体面、肉質面での効果は得られなかったことから、牛の強健性、牛肉のおいしさへの効果という面での普及を図る予定です。
また、梅サプリメントについては、飼料化への足がかりを見出すことができましたので、長期給与試験での実証に期待していると ころです。

今後の課題・取り組み

梅酢原液の給与により、牛の強健性への効果及び牛肉の脂肪酸組成への効果等が得られたことから、更に塩分調整した梅 酢(脱塩梅酢)給与による効果の検証を行うことにより、更に具体的な普及への道が開けるように思われます。
また、梅サプリメントの開発・飼料化については、現在肥育牛への長期給与試験を実施中であり、本格的な飼料化へ向けてのデータの蓄積を行っているところです。(平成18年度から平成20年度)

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