和歌山県内の薬剤師及び薬局の現状と今後10年先までの将来動向

公開日: 2021年6月21日

代表研究者
所属機関 久留米大学バイオ統計センター
氏名 石井一夫
e-mail kishii@rs.sus.ac.jp
 

概要

和歌山県内の薬局の高齢化や人材(後継者)不足を克服するために、ICTの利活用が、どの程度有効かを見極めるための、薬局の現状調査を行う。それにより、厚生労働省による「かかりつけ薬剤師・薬局」による薬局の地域包括ケアシステムへの寄与とその推進の可能性を評価する。

分析結果

  • 医師、薬剤師などの医療従事者数、薬局数の推移など薬局・薬剤師をめぐる状況の変化と10年後の予測
    和歌山県内の二次医療圏レベルにおいては、薬局及び薬剤師の偏在については、和歌山市への一極集中が認められた。さらに、和歌山県の薬剤師の年齢分布を調べたところ、全国及び東京と比較して、高年齢の45歳前後、及び60歳前後の薬剤師数のピークが認められ、和歌山県の薬剤師の高齢化が顕著であった。47都道府県の薬剤師人口分布を用いた階層的クラスタリングでも和歌山県は、比較的高齢者の割合が多く、他の過疎が進んでいる県と似たような分布パターンを示した。今後、和歌山市以外の郡部における、特に新宮二次医療圏における若い年齢の薬剤師の補充による薬剤師年齢の若返りが必要である。

  • 和歌山県薬剤師会館における薬剤師によるインタビューと和歌山県における薬剤師業務の現状に関する調査
    和歌山県薬剤師会館において薬剤師によるインタビューを以下のように実施した。インタビューでは、薬局及び薬剤師の偏在や不足、薬局の地域格差が実際に問題となっているとコメントがあった。薬剤師が不足する要因として、①薬学部進学率の低さ、②非就業薬剤師の多さ、③ 新卒薬剤師の県外就職、④薬局側が新卒薬剤師を正規雇用しない、などの問題が上がった。
    それぞれの問題点に対し、以下のような対策が講じられている。①高校生を対象とした県薬による薬学部進学セミナーの実施、② 和歌山県薬剤師会による復職支援セミナーの実施、③「ふるさと実習」(病院薬局実習地区調整機構)、和歌山県立医大薬学部(2021年開校)に卒後期限付きの県内病院等で臨床研修付きの定員枠を設ける、県内実習生の同窓会の開催、薬学部生に対する就職支援(近畿圏内の大学)、④全国チェーンの薬局が他の地域で雇用した薬剤師を転勤させる。また、これら薬剤師の人材確保や定着に関し努力はされているものの、その効果は十分には把握できていないことが述べられた。
  • 各県の薬局機能情報提供システムからの情報抽出による、かかりつけ薬局及びかかりつけ薬剤師など、「患者のための薬局ビジョン」の推進状況
    各県の薬局機能情報提供システムからの情報抽出による、かかりつけ薬局及びかかりつけ薬剤師など、「患者のための薬局ビジョン」の推進状況の評価を行った。電子薬歴管理及び電子お薬手帳の使用による服薬情報の一元的・継続的把握及び、休日対応、24時間対応については、全国的にも和歌山県内でも推進がなされており、2025年のすべての薬局をかかりつけ薬局にという目標に向けて順調に進行していることがわかる。健康サポート薬局については、和歌山二次医療圏への一極集中が見られる。
  • 「地域の薬局」としての需要予測において保健調剤薬局位置情報と人口推計値に関するオープンデータを用いる提案
    各グリッドの重みとして年齢階級別の人口の情報のみを用いたwSDG(weighted Sum of Distance from Grids)を算出し和歌山県周辺の1府3県で比較を行なった。これによって65歳以上の人口と調剤薬局の所在の分布の間に相違があることが示された。
  • NDBオープンデータ、NDBデータなどに基づく、疾患と処方箋の発行状況と、人口推移に伴う薬剤師の業務量予測
    人口高齢化に伴う、生活習慣病や、心疾患、脳血管障害、がん、認知症などの疾患の増加が予想され、その患者全体に占める割合は非常に高く、処方せん枚数の増加、すなわち薬剤師業務量の増加が予想される。
  • PDF形式を開きます報告書(PDF形式 3,623キロバイト)

研究体制

研究代表者・分担者の別 氏名 所属機関
研究代表者 石井 一夫 久留米大学 バイオ統計センター
研究分担者 森本 心平 長崎大学 生命医科学域
研究分担者 新川 裕也 久留米大学 バイオ統計センター
研究分担者 早川 正信 久留米大学 バイオ統計センター
研究分担者 金子 富美 久留米大学病院 臨床研究センター
研究分担者 樋口 恭子 久留米大学病院 薬剤部

解説

研究方法

  1. オープンデータ(医師・歯科医師・薬剤師統計、NDBオープンデータ、医科・調剤医療費の動向調査など)、NDBサンプリングデータセットなどを用いて、医師、薬剤師などの医療従事者数、薬局数の推移など薬局・薬剤師をめぐる状況の変化を調査し、10年後の予測を行った。
  2. 和歌山県薬剤師会を訪問し薬剤師によるインタビューを行い、和歌山県における薬剤師業務に現状に関する調査を行った。
  3. 各県の薬局機能情報提供システムから情報を抽出し、かかりつけ薬局及びかかりつけ薬剤師など、「患者のための薬局ビジョン」の推進状況の把握を行った。
  4. 薬剤師及び薬局の和歌山県内の分布と、人口分布についての情報を重ね合わせ、人口推移に伴う薬剤師及び薬局の供給状況を予測した。
  5. NDBオープンデータ、NDBオープンデータなどを用いて、疾患と処方箋の発行状況を調べ、人口の推移に伴う薬剤師の業務量について予測した。

関連リンク

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