和歌山県におけるベンチャーエコシステムの形成に向けて

公開日: 2020年12月01日

代表研究者
所属機関 筑波大学 ビジネスサイエンス系
氏名 木野泰伸
 

概要

和歌山県における第二創業を含む広い意味でのビジネス創業に関わる課題点を明らかにするため、初めに創業及び第二創業を実施した和歌山県内企業8社にインタビューを行い、インタビュー結果から書き起こしたテキストデータから確認できる概念を導出した。その結果をもとにアンケート設計を⾏い、和歌⼭県内および和歌⼭県外の⽅に対して、創業、第⼆創業に関する実態調査を実施した。
<和歌山県データを利活用した公募型研究(平成30年度・31年度)>

分析結果

  • インタビューの実施
    創業や第⼆創業の成功事例となる企業として、新規創業してベンチャービジネスを⾏っている企業(以降、VB)3 社、和歌⼭県外から県内に移住してきて新規創業し、ビジネスを⾏っている企業(以降、移住創業)2 社、第⼆創業3 社の計8 社に対してインタビュー調査を⾏った。インタビューの結果はテキストマイニングの⼿法を⽤いて第⼆創業の課題点を明らかにし、課題点とその構造モデルを構築。 
  • インタビュー結果の分析
    インタビューした結果についてKJ 法を参考に分析を⾏った。分析にあたっては創業、第⼆創業のサイクル(①創業前、②創業時、③現在、④今後)と⑤その他の5 つのフェーズに分けて分析を実施。また、⽴命館⼤学樋⼝耕⼀准教授作成のKH Coder1を利⽤して計量的に分析を実施。 
  • アンケートの実施
    和歌⼭県における創業の特徴を調査するため、アンケートは和歌⼭県内在住の⽅に向けたものと、和歌⼭県外在住の⽅に向けたものの2 種類を作成。さらに県内外それぞれの回答者に、創業や新規ビジネスへの取り組み状況を3 つの選択肢から選んでもらい、最終的に回答者を6 つのタイプに分けた。
  • アンケートの内容
    アンケートでは、最初に「回答者のプロフィール」や「創業や新規ビジネスを⾏いたいかどうか」について全員に回答を求め、その回答結果によって回答者を「創業や新規ビジネスを考えている⽅」、「既に創業や新規ビジネスを⾏っている⽅」、「創業や新規ビジネスを考えていない⽅」の3パターンに分けて各々のパターンに合わせた内容のアンケート票を作成。※アンケート結果については、別添報告書参照
  • PDF形式を開きます報告書(PDF形式 1,631キロバイト)

研究体制

研究代表者・分担者の別 氏名 所属機関
研究代表者 木野 泰伸 筑波大学 ビジネスサイエンス系
研究分担者 黒木 弘司 筑波大学 ビジネスサイエンス系
研究分担者 牧野 友祐 筑波大学 ビジネスサイエンス系
研究分担者 野間口 隆郎 中央大学 国際経営学部

解説

本研究では、和歌⼭県内において創業、第⼆創業を⾏った企業8社にインタビューを実施し、そのインタビュー結果をもとに分析を⾏った。その過程において、創業の形態を、第⼆創業、VB(新規創業)、移住創業の3 つに分けると特徴が明確になることがわかった。 第⼆創業では、「⾃社技術」「前職で⾝に着けた技術」そして「⾃分たちで開発する/した」というような発⾔があり、⾃社内にある技術や、外部から持ち込んだ技術を⽤いて、⾃ら開発し、ビジネスを開拓していこうという傾向が⾒受けられる。その⼀⽅で、『お⾦(資⾦)』、『従業員(⼈材)』に対する関⼼は他の2つの形態に⽐べ少ないと考えられる。これは、報告書の4章 図4-1 において、『お⾦』、『従業員』が他の2つの形態とは線がひかれている⼀⽅で、第⼆創業からは、ひかれていないということから推測できる。これはメリットであり、他の2つの形態に⽐べて、技術開発に⼒を⼊れられる可能性がある。 次に、VB(新規創業)では、『売り上げ』『経営』というキーワードが出ており、事業が軌道に乗るまでの資⾦問題、そして、経営に関する課題があることがうかがえる。また、『⼤学』というキーワードは、⼤学との共同研究、⼈材の受け⼊れなど、ビジネスを⾏ううえでの機能の⼀部を⼤学など外部との関係で補っている可能性がある。 最後に、移住創業では、『地元』『地域』そして具体的な和歌⼭県内の地名が出ており、まず、地域社会に溶け込むことの⼤切さ、『旦那』『⼦ども』というように家族が重要な関係者であることが特徴として表れている。 インタビューデータに基づいて作成したアンケートの結果から分かった一部を以下のとおり列挙する。 

  • 3-2 創業や新規ビジネスへの準備状況については、県内・県外とも、「商品やビジネス内容を検討中である」が⼀番多く、次いで、「商品やビジネス内容は決まっているが、具体的なアクションは⾏っていない」が2番⽬に多くなっており、多くの⽅が資⾦調達より前の検討段階で⽌まっていることがわかる。このことから⾏政の役割として、ビジネスモデルを検討する部分への⽀援が必要であるといえる。 
  • 4-1-1 今までやってきた仕事の経験は創業や新規ビジネスに役⽴つと思いますか、という質問に対しては、県内・県外ともに、「役⽴つ」との答えが多く、多くの⽅が、今までの仕事で⾝に着けてきたものの延⻑線上に新規ビジネスを考えていることがわかる。
  •  5-3-2 及び5-3-3 関⻄空港についての回答から、和歌⼭県で起業を考えている⽅にとって、関⻄空港の役割は⼤きく、東京そして世界への窓⼝と考えられていることがわかる。 

このような分析結果から、創業、第⼆創業を⽀えるベンチャーエコシステムの重要な要素の⼀つとして、ビジネスモデルを作成するまでの⽀援の仕組みの構築が求められている。これには、⽶国などで⾏われている「スタートアップ・アクセラレーター」と呼ばれるような、ビジネスモデルを構築していくための集中的な⽀援が考えられる。既に、類似のプログラムに取り組まれていると思われるが、本調査からは、まだこの部分が求められているといえる。 また、テキスト分析から分かるように、創業や新規ビジネスといっても、その中⾝には、第⼆創業、VB(新規創業)、移住創業といった種類があり、特性が異なる。このことから、それぞれの特性に合わせた⽀援を⾏うことにより、今よりも⾼い⽀援効果が期待できる。

関連リンク

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