平成9年2月 和歌山県議会定例会会議録 第5号(吉井和視議員の質疑及び一般質問)


県議会の活動

 午後一時三分再開
○副議長(下川俊樹君) 休憩前に引き続き、会議を開きます。
○副議長(下川俊樹君) 質疑及び一般質問を続行いたします。
 4番吉井和視君。
 〔吉井和視君、登壇〕(拍手)
○吉井和視君 それでは、有田の活性化関係について質問をさせていただきます。
 昨年十二月、国幹審におきまして近畿自動車道海南湯浅道路の四車線化が整備計画に格上げされ、二年後ぐらいに国の施行命令が出る見通しであります。これは大変喜ばしいことで、関西国際空港の開港による紀中地域の活性化を本格的なものにするステップ・ジャンプにつながりそうであります。
 先日、吉備町において有田川流域活性化シンポジウムが開催されました。山下副知事の地域づくりの講演もあり、大変有意義なものでありました。有田川流域一市五町がお互いのプロジェクトを連携させ、地域の発展ポテンシャルを生かしながら有田川流域ゾーンの活性化を創造すべく、有田川流域活性化計画策定委員会が西口県政の有田対策としてスタートいたしました。有田の活性化はもとより、地方分権をにらんだ有田地方の二十一世紀のあるべき姿を模索する上でも大変有意義な、なおかつ広域自治体に向けた歴史的な意味を持つ有田対策であると評価したいと思います。
 その連携プロジェクトを推進するための基盤整備とも言うべき道路整備についてでありますが、県内陸部を縦貫する国道四百二十四号から高速への連結線は県道吉備金屋線であります。有田地方において、国道四十二号、国道四百八十号、国道四百二十四号、高速道路と、それぞれをつなぐ大変重要な道路であります。下川副議長も、たびたびこの道を自分で運転され、新宮から県庁に来られるそうであります。吉備町付近の停滞が大変気になるようでありまして、委員会の発言において、この吉備バイパスの早期完成を県政の最重要課題として取り組んでいただきたいという要望をされておりました。まさに、これは有田地方だけの道ではなく、県の最重要課題にしていただくべき重要な道路であります。
 現在、この吉備バイパスは三工区、一千百五十三メートルが平成元年より着工され、平成八年にようやく開通いたしました。今までの工事のスピードでは、高速道路と連結させるには二十年程度かかるのではないかと考えられます。二十年もかかるようであれば、さきに申し上げました有田川流域の活性化計画というものも、その程度のものになってしまうわけであります。県内の内陸道路のグレードアップと有田川流域活性化推進のためにはどうしてもこの県道バイパスの早期完成が必要であると考えますが、知事のご見解をお伺いいたします。
 また、事業費が高速までの連結を含め、あと百億円程度必要とされております。その一割が町負担ということになりますと、早期完成が町の財政を圧迫することは必定であります。県政の最重要課題という認識のもとに町負担のない事業としての位置づけをお願いしたいと考えますが、県の今後の方針をお聞かせください。
 続きまして、教育関係の質問に移らせていただきます。
 その前に一言、御礼と要望をさせていただきたい。というのは、長年親しんでまいりました県立吉備高校が、今春から校名も新しく「有田中央高校」という名前でスタートすることになりました。新しい名前、また新しい制服、そして新しい総合学科──総合学科というのは、和歌山県が全国に先駆けて開設した学科でありまして、全国でも先進県というところであります。そういう意味で、有田ミカン、有田という名前を浸透させるために、有田中央高校というのは、本当に平凡な名前でありますけれども、大きな夢を含んだ名前であると私どもも喜んでおります。
 ところで要望でありますが、吉備高校という名前が有田中央高校になって、そして新しい制服、新しい学科、新しい校名で、三つの新しいそういうスタートの中で、地域住民、そしてまた広く県民の期待にこたえられるような学校にしていっていただきたいということを要望させていただきます。
 続きまして、教科書問題について今から質問をさせていただきます。
 昨年十月三日、横浜市で、「きょうの出来事」でおなじみのジャーナリスト・櫻井よし子さんが講演の中で、「平成九年度から中学校の社会科教科書の中で慰安婦の連行について一斉に記述されているが、軍による強制連行を裏づける資料はなかったと思われる。また、敗戦後、日本は東京裁判で裁かれ、日本人は自分たちすべてが間違っていたといういわゆる東京裁判史観を植えつけられてしまった。だからこそ、従軍慰安婦の問題も強制連行かどうか断定できないにもかかわらず謝ってしまう。日本人は、もう少し自分たちの歴史について事実関係を中心に見る努力をしなければいけない」、以上のような要旨で、横浜市内の小学校、中学校の教職員二百人程度の人を対象に講演を行ったところ、各方面の組織から謝罪を要求されたり、予定していた商工会あるいはまた教育関係等の講演が中止されたということが起こっているようであります。殊に、人権団体である組織が「歴史の歪曲である」、「重大な差別発言」などとして大変反発し、一人のジャーナリストの発言を抑圧するということが起こっております。
 このような動きに対して当の櫻井よし子さんは、「非常に残念の一言」とした上で、「人権団体の方々が正しいと思って従軍慰安婦問題について言っている気持ちはわかります。しかしそれは、それぞれが正しいと思えることを主張できる場をお互いに確保しておいた方が社会は健全なのではないでしょうか」と主張いたしております。人権を振りかざして人権を抑圧することはあってはならないという意見は、私も正しいものであると思います。フランスの啓蒙思想家ボルテールの言葉に、「私はおまえの言う意見には反対だ。だが、おまえがそれを言う権利を私は命をかけて守る」という言葉があります。これこそ、成熟した民主主義の姿であると思います。
 さて、この従軍慰安婦の問題でありますが、ことしの中学校社会科教科書に、強制連行あるいは政府、軍が関与して外国人慰安婦を戦地に随行させたという記述が、教科書会社七社すべての教科書に初めて登場するわけであります。
 平成九年度から県内でも使用する教科書が決定されております。例えばその中で、海草・那賀・日高地方の中学校が使用する日本書籍の教科書の記述は、次のようになっております。「朝鮮、台湾にも徴兵制を敷き、多くの朝鮮人、中国人が軍隊に入れられた。また、女性を慰安婦として従軍させ、ひどい扱いをした」という記述であります。また、伊都・有田・東牟婁地方が使用する大阪書籍の内容は、次のようになっております。「朝鮮からは約七十万人、中国からも四万人を強制的に日本へ連行して、鉱山などで働かせました。また、朝鮮などの若い女性たちを慰安婦として戦場に連行しています」、こういう記述であります。また、一番多い和歌山市が使用する東京書籍は、「国内の労働力不足を補うため、多数の朝鮮人や中国人が強制的に日本に連れてこられ、工場などで過酷な労働に従事させられた。従軍慰安婦として強制的に戦場に送り出された若い女性も多数いた」となっております。
 このように、教科書会社が一斉にこの従軍慰安婦強制連行ということを教科書に取り上げたことについて、各方面から議論が起こっておるのであります。櫻井よし子さんの件についても、この問題の是非についての一部であります。
 また、東京大学の藤岡信勝氏や漫画家の西林のりお氏等のさまざまな分野の人たちが、「従軍慰安婦」という言葉はもともとなく、ある作家が使い始めた不適切な言葉であるという事実や、政府や軍による強制連行を裏づける資料がないことを調査・発表いたしております。また、事実かどうか判明していない事象を殊さら教科書に載せ、自分の国に誇りをなくさせたり自虐的にさせたりするような事柄を中学生徒に教えることは間違った教育で、悪意に満ちた教育であると主張し、教科書の正しい記述を求める運動を展開しているようであります。
 また一方、地方議会、岡山県議会でも教科書から従軍慰安婦の記述を削除する意見書を提出するようある団体から陳情され、県議会におきましてこの陳情を賛成多数で採択いたしております。その陳情理由は、正しい教科書をつくる運動を続けておる藤岡氏らと同じような内容で、次のようになっております。一、当時、従軍慰安婦という存在はなく、その言葉もなかった。明らかな通俗用語であり、歴史教科書には不適当である。ほとんどの教科書が従軍慰安婦は強制連行された印象を与えているが、現在、強制連行の事実は何一つ判明していない。二、中学生という性教育の中途な時期に従軍慰安婦について社会科の授業で教えることは、教育的配慮を欠くばかりか、その影響ははかり知れないものがある。内地でも公認で営業されていたことや外国の軍隊にも同様の施設があったことを書かないで、戦前の日本の軍隊のことだけを取り上げ、今日の価値判断で糾弾することほど理不尽なことはない。三、外国の人々に比べ、日本人だけが好色、淫乱、愚劣な民族であったかのような印象を中学生の脳裏に刻み込まれる。以上のような理由で陳情がなされました。
 私はこの間、テレビの番組でこの従軍慰安婦問題について、「朝まで生テレビ」というのがありまして、長時間の番組であったわけですが、それを一晩じゅう見させてもらいました。この中で、中学校の教科書に載せるのが適当であるかどうかの議論が興奮の中でなされておりました。賛否両論、双方納得することなく終了したのでありますが、慰安婦の強制連行があり、日本人が謝罪を今もってし、そのことを歴史教育の中ではっきりしていかなきゃならないといった意見等、さまざまな意見がありました。
 事実として、慰安婦の存在があったのは確実であると思います。これは日本の軍隊だけではなく、およそ戦争で戦地に赴いた軍隊にはほとんど存在していたようであります。
 それでは、なぜ日本の歴史教科書だけがこの従軍慰安婦の記述を載せるのかという疑問があります。それは、元慰安婦の証言による補償問題──これは、「朝鮮に侵略」という教科書の記述内容を「進出」という言葉に変えられたという新聞社の誤報事件がありまして、そのことから政府の対応により教科書検定の規則が変更されました。すなわち、近隣諸国条項という追加により、教科書会社全社が一斉にこの従軍慰安婦連行ということを記述し、検定を通過したようであります。
 この近隣諸国条項は、政府の謝罪談話から来ているようであります。その文言は、「近隣のアジア諸国との間に、近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がなされていること」という簡単なものでありますが、事実確認はともかく、朝鮮、中国に対して謝罪することが基本になったものであるということは間違いありません。
 ちょうど、私にも中学生の娘がおります。この教科書で学び、日本軍がアジア諸国に侵略し、慰安婦まで強制連行したという歴史を学ぶのであります。どのように理解するのかが心配であります。そして一番考えたいことは、テレビの討論の中にもなかったことでありますが、慰安婦の相手はだれであったかということであります。そのことを考え、慰安婦問題を取り上げたものであります。
 新聞の中に載っていた佐藤欣子という弁護士の表現をかりますと、慰安婦の相手は「それは若くして明日なき戦場に赴く兵士たちであり、空に散った特攻隊員ではないか。誰が春を買った兵士を責められるのか。春を売った売春婦のみが哀れなわけではない。それはあまりにも悲しい睦みであったのであろう」とあります。
 私が気になりますのは、国のために死んでいった人々の暗い悲しい部分をどうして歴史教科書に登場させなければいけないのか。国難に殉じた精神は、私たちの誇りではないかと思うのであります。いつまでも謝罪と自虐だけを繰り返し、本当に心の底から近隣諸国が喜んでくれるのかどうか。政治的な外交のためや日本の近代史を頭から否定する勢力のために利用されるのは、愚かなことであると思います。
 新聞の「談話室」という欄に「公娼制度学ぶ教育現場憂う」という投書がありました。次のような意見であります。多くのことを語っております。
 「慰安婦という言葉が来年度から教科書に記載される。若い先生が果たしてその昔の公娼制度を正確に生徒たちに伝えられるか、心配でなりません。 私は二歳と少しで両親を亡くし、十五歳、十三歳、十一歳の姉と六歳の兄と私が残されました。現在、六十歳を超える人たちなら、三人の姉たちの行く末を推測できることでしょう。 姉たちは当時でいう女郎(慰安婦)となり、両親の療養費を返済し、幼い弟たちを守ったのです。昭和十年代は当然のことながら社会保障の制度など無きに等しく、これ以外に私たち兄弟が生きる術はなかったと聞いております。 ある日突然に見知らぬ人がきて、叔父夫婦がお金を受け取り、ふろしき包み一つを持った姉たちは、その見知らぬ人に連れていかれました。着いたところは遊廓(ゆうかく)です。姉たちは一円のお金も受け取らず、自分がいくらで売られたかも知りません。ただ、自分が売られた事実はわかっていました。 当時、この世界に身を置けば、借金返済のために体を売り、死ぬまで働くのが普通です。この境遇から抜け出すのはほとんど無理でした。『売られた』と分かっていても、望んでいくものなどいません。『無理やり連れていかれた』と思うのが大方でしょう。 残された家族もつらかったのです。私は小中学校時代は、『女郎の弟』といじめられ続けました。中学校を卒業して、就職の面接を受けると、両親を早くに亡くし、姉が三人いると答えただけで、相手の態度は一変しました。 売春が合法であった時代、体を売り家族を支えた多くの人たちがいたのです。親の庇護(ひご)のもとで大学に通い、昔の売春制度の実態を知るよしもない若い先生たち。従軍慰安婦、強制連行という言葉だけを知り、人道主義を振りかざして、この問題を歴史として子供たちに教えることが果たして正しいことなのか。不安に思うのはわたしだけでしょうか」とありました。実に多くのことを語っているように思います。
 そこで、教育長に質問いたします。
 まず教育長の歴史認識でありますが、この慰安婦の強制連行というのは歴史的事実でないという意見があり、まだ決着がついていないと考えますが、どのように思われるのか。
 二、中学生徒に対してどのような教育的効果があるのか、どのような影響があると考えているのか、また子供の理解度はどうか。
 三、現場の教員に対して教育方針としてどのように指示するのか、指導要領はあるのか、どのように教えるのか。
 以上、三点をお伺いいたします。
 ご清聴ありがとうございました。
○副議長(下川俊樹君) ただいまの吉井和視君の質問に対する当局の答弁を求めます。
 知事西口 勇君。
 〔西口 勇君、登壇〕
○知事(西口 勇君) 吉井議員にお答えをいたします。
 吉備バイパスについてでありますが、吉備バイパスは有田川流域圏の活性化等にとって欠かせない重要な道路であると認識をしてございます。一部は既に供用されておるわけでありますけれども、残る未整備の区間につきましては、海南湯浅道路の四車線化の供用に合わせて完成ができるように努力をしたいと思います。
 なお、町負担金の軽減についてでありますけれども、それにつながる国庫補助事業の採択等について国に強く要望してまいりたいと思っております。
 以上であります。
○副議長(下川俊樹君) 教育長西川時千代君。
 〔西川時千代君、登壇〕
○教育長(西川時千代君) 教科書問題、三点についてお答えいたします。
 従軍慰安婦の記述に対する歴史認識についてでございますが、このことに関する教科書の記述についてさまざまな意見があることは十分承知してございます。しかし、これらの教科書は、文部大臣が諮問した教科用図書検定調査審議会の審議を経てつくられたものであり、このことについての歴史認識を教育長としての立場で申し述べることは差し控えるべきであると考えますので、ご理解願います。
 社会科の授業では、国際社会に生きる民主的、平和的な国家、社会の形成者としての公民的資質を培うために、我が国と近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象を理解することが求められてございます。
 子供の理解度について、文部省の見解では、新聞等で頻繁に取り上げられており、また中学生の心身の発達状況や学校での性に関する学習等における指導などを総合的に勘案すれば、中学生が理解することは可能であるとしております。したがいまして、各学校においては、生徒の実態等を十分に考慮し、歴史的事象にはさまざまな見方があることも含め、学習指導要領の趣旨に基づき、適切に理解されるよう指導してまいりたいと考えてございます。
 以上でございます。
○副議長(下川俊樹君) 答弁漏れはありませんか。──再質問を許します。
 4番吉井和視君。
○吉井和視君 吉備バイパスについては、早期実現についてよろしくお願いいたします。
 それから、教育長から答弁をいただきましたが、文部省の教科書検定を通っておるんだから仕方がないという感じに受け取られるわけであります。
 この教科書検定というのは、本来であれば政治状況に左右されずに審議会で審議されるのが当然であると思います。にもかかわらず、今回の強制連行あるいは従軍慰安婦の問題につきましては謝罪談話──そういう謝罪外交といいますか、まあ土下座外交、そういったものから来たように思います。それで、検定の中で、野球で例えるならば暴投でもストライクというような状況の中で通ったようなものであります。
 ですから、教育長がおっしゃったように、さまざまな意見があるということを踏まえて現場で教えるということですけれども、それについて県の教育委員会から、これについてはさまざまな意見があるからというようなことを現場の先生に十分趣旨徹底できるような──文書で通達していただきたい。そのことを要望いたしまして、この質問は終わらせていただきます。
 以上です。
○副議長(下川俊樹君) ただいまの発言は要望でありますので、以上で吉井和視君の質問が終了いたしました。
 これで、本日の質疑及び一般質問を終わります。
 明日も定刻より会議を開き、質疑及び一般質問を続行いたします。
○副議長(下川俊樹君) 本日は、これをもって散会いたします。
 午後一時二十九分散会

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