平成8年2月 和歌山県議会定例会会議録 第5号(森本明雄議員の質疑及び一般質問)


県議会の活動

平成八年三月十五日(金曜日)

 午前十時三分開議
○議長(橋本 進君) これより本日の会議を開きます。
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 【日程第一 議案第一号から議案第八十二号まで】
 【日程第二 一般質問】
○議長(橋本 進君) 日程第一、議案第一号から議案第八十二号までを一括して議題とし、議案に対する質疑を行い、あわせて日程第二、一般質問を行います。
 39番森本明雄君。
 〔森本明雄君、登壇〕(拍手)
○森本明雄君 おはようございます。
 地方分権については、一昨日、同僚議員から主として県から市町村に対する分権について質問がございました。でき得る限り重複を避けて、私は主として国から地方への分権について質問を行ってまいりたいと思います。
 我が国は、明治以来、中央集権体制の行政が行われてまいりました。確かに国の発展については能率がよく、有効的に機能してきたことはご承知のところであります。しかし、一応の目的を達成した現在、特に多元的、成熟的社会を迎えるに当たりまして、中央主権から地方へ、すなわち地方の時代という認識が非常に高まってまいりました。そういう時代背景の中で、昨年、地方分権推進法が成立されたということは、まことに意義あることだと認識するものであります。二十一世紀を目前に控え、新しい世紀に生きる次世代のために、ゆとりと豊かさを実感できる社会を実現していくためにも、地方分権の推進は今日の私どもに課せられた政治の最重要課題だと思います。
 地方分権の推進は、今や論議のときを超え、具体的な実現を図るときであり、そのために強力な政治のリーダーシップの発揮が求められていると思います。地方分権の推進に臨む知事の決意についてお伺いいたします。
 私たち公明では、昨年秋、全国の地方自治体を対象に、地方分権、規制緩和に関する重点項目調査を実施いたしました。この調査は、地方分権、規制緩和が進んでいないので特に困っていることを上位から五つ回答してもらうもので、四十七都道府県すべてから回答が得られました。調査結果では、知事が望んでいる権限移譲のトップは都市計画関係、二位は農地転用関係、次いで保安林の指定、解除、また優先順位は、一位が都市計画関係、二位が農地転用関係、次いで土地利用関係であります。
 地方分権推進委員会の中間報告案の要旨が三月十三日付全国紙に掲載されました。都市計画区域の指定は都道府県に、具体的な中身の決定は市町村に、農地の転用許可は都道府県になどの内容であります。先ほど申し上げた調査では、都市計画、農地転用関係以外にもかなり多くの自治体に共通する要望項目が明らかになりましたが、これらについて地方分権推進委員会の議論をまつより、都道府県レベルの共通要望のネットワーク化を図り、国を動かしていく改革が必要だと思いますが、ご所見をお伺いいたします。
 知事は、本議会冒頭説明の中で、地方分権を実現するため、「地方分権の意義、必要性について県民のご理解を得るよう努め、地方分権の推進を県民運動にまで高めたいと考えております」と述べました。県民運動の具体的内容、スケジュール、体制についてお伺いいたします。
 次に、四月一日からスタートする中核市について質問をいたします。
 和歌山市では、第二十三次地方制度調査会が内閣総理大臣に答申した平成五年四月直後から指定について積極的姿勢を示してきました。現市長も本年三月五日の本会議で、今後の移譲スケジュールについて、現在県との調整がほぼ整い、自治省ヒアリングがスタートしたところであり、正式な申請を夏ごろに、平成九年四月移行を目指してまいると述べています。
 中核市は、県という大きな行政単位の中で、和歌山市の個性を大切にしながら独自の市政をつくっていくことであり、市の窓口が市民と直接結ばれることにより、行政としても市民参加の行政を一層進めるとともに、よりきめ細かな住民ニーズや地域のさまざまな要望を市政に取り入れ、自主性あふれる行政システムを構築できればと思うと同時に、それがこれから地方分権を推進する一つの大きな切り札になればと期待するものであります。権限移譲による事務移行のための調整、引き継ぎ等の進行状況についてお伺いいたします。
 ただ、政令市に準じ権限が移譲されると言っても、全部県が持っていたものを和歌山市に移譲するにすぎず、本来は国が県にどれだけ権限を移譲できるのか明確にした上で、国、県、市の事務というように役割分担の見直しが不可欠で、国がそれをしないまま地方に分権推進の責任を押しつけるのは少し無責任だと思うのでありますが、ご所見をお伺いいたします。
 地方分権推進法では、各自治体は行政運営の改善と充実、行政の簡素化、ひいては行政の公正の確保、透明性の向上、並びに住民参加の充実を図ることが求められています。その対応として、本県では昨年、行政改革の基本的な考え方を示しました。その課題を克服するためには、県当局の姿勢と努力に求められることは言うまでもありません。また、地方分権の推進にあわせて、さらなる行政改革の推進がすべての自治体に求められていますが、県内自治体の取り組みの現状についてお伺いいたします。
 私は、地方分権推進に関する議論の中で、重要な概念といいますかキーワードというのは、国と地方公共団体との役割分担にあると思っています。これは、地方分権推進に関する基本理念にも明らかであります。すなわち、社会や経済の実態がどんどん変化しています。それを踏まえて、国と地方公共団体の役割分担を見直し、経済の実態に即した役割分担を明確にしていく、その場合、現行の国と地方公共団体との役割分担の間に乖離が必ず生じます。この乖離を埋めていく、これが地方分権であると思うのであります。こういう立場に立って、キーワードとも言うべき国と地方公共団体の役割分担に焦点を合わせて質問を進めてまいります。
 今述べました国と地方公共団体との役割分担のあり方を考えていく場合、基本理念にもあるように、目的は国民福祉の増進にあります。ただ、これには制約があります。すなわち、限られた資源という制約のもとで国民福祉を最大限に高めていくのに国と地方公共団体がどういう役割分担をすれば目的を達成することができるのか、こういう観点で地方分権を考えなければ、いたずらに議論が混乱するのではないかと思います。
 ここで学者の説を引用させていただきますが、ちなみに経済学では、限られた資源でもって国民福祉を最大限に増大させるためには三つの条件を満たさなければならないと言われています。一つは、限られた資源はこれを最も有効に活用しなければなりません。最適配分の実現であります。二つは、資源を有効に利用しても、それでつくられたものがどう分配されるのかという、適正な所得分配の実現であります。三つは、限られた資源は遊休の資源があってはなりません。失業があってはなりません。雇用の安定と物価の安定の実現であります。以上、三つの条件を整えていかなくてはならないと言われています。国と地方公共団体が行う行政は、実はこの三つの条件に非常にかかわっているわけであります。
 この三つの条件とのかかわり合いを、財政が三つの機能を持っていると表現しています。資源配分の機能、所得配分の機能、経済安定の機能であります。国と地方公共団体との役割分担を考えるとき、この三つの機能についてすべて検討していかなければ、これからの経済、財政を円滑に、かつ有効に運営していくことはできないと言われています。したがって、限られた資源の中で三つの財政機能をどのように生かして国と地方の役割分担を行っていくかというのが分権の基本理念、基本方針でなければならないと思いますが、ご所見をお伺いします。
 次に、三つの機能についてであります。
 最初に所得の分配機能について、国と地方の役割分担についてであります。
 財政が所得分配機能をどういう形で発揮していくかと言いますと、一つは生活保護費とか年金給付等の移転支出、もう一つは累進構造による課税によって進められていくと考えられます。現行の税制を見ると、累進課税の構造をとっているのは、まずは国税の所得税であります。しかし、地方税の個人住民税も緩やかでありますが累進課税の構造をとっており、そうした意味では所得の分配機能の中に地方公共団体も加わっていると考えられます。
 これまでの税制改革を振り返ってみると常に国税中心の税制改革で、地方税の改革は、いわばつけ足しだったと思うのであります。地方税の改革が本格的に行われたのは、昭和二十五年のシャウプ税制改革のときでありました。そのときにつくられた税目と今の地方税を構成している主要税目は、ほとんど変わっていないと思います。今後もこのような状態が続くならば、幾ら地方税財源の充実の確保と言ったって、言われるだけでないかと思います。その充実を図るためには、地方税を中心とした税制改革をやってもらわなくてはなりません。そして、所得の分配機能における国と地方公共団体の役割分担を明確にしてもらわなくてはならないと思います。ご所見をお伺いします。
 次に、経済安定機能についてであります。
 最近の国の総合経済対策を見てまいりますと、その中で公共事業が中心的な対策になっていますが、公共事業のかなりの部分を地方公共団体の単独事業が占めています。また、これまで行われてきた消費需要喚起のための所得税減税も重要な財政政策ですが、その場合でも、住民税の減税が所得税の減税にあわせて実施されます。このように見ると、経済安定機能においてもだんだん地方公共団体の役割が増大してきています。今、国での財政政策が難しくなってきています。今後は、地方公共団体の協力が不可欠だと思います。それをうまく組み合わせていかなければ、実効ある財政政策を実現することはできないと思うのであります。しかし、ここ三、四年の地方財政の構造を見てまいりますと、全国的に公共投資の約七割を地方公共団体が実施しており、その六割が地方単独事業となっています。その結果、地方債が累積しており、それに伴い公債比率がアップし、財政構造が悪化しています。そうした実情から、経済安定機能に関しても、国と地方公共団体の役割分担の明確化を求める必要があると思うのでありますが、ご所見をお伺いいたします。
 今、所得分配機能、経済安定機能の二つの財政機能を取り上げ、国と地方公共団体の役割分担について申し上げましたが、地方分権推進法ではこの二つについては余り触れられていないのではないかと思います。したがって、地方分権を推進していく立場で、その内容に不満を持つものでありますが、見解をお伺いします。
 次に、資源配分機能についてであります。
 我が国は市場経済であります。したがって、大部分の財サービスは市場を通じて供給されています。問題は、市場を通じて供給されない公共財を国と地方公共団体が受け持っています。この役割分担は、普通、国と地方の事務配分と呼ばれ、この事務配分の問題は地方分権の中心的テーマであります。限られた資源を活用して国民福祉の増進を最大限に図っていく、これは大変な問題ではありますが、個々の財サービスをどれだけ生産するかということで、その資源を配分していくわけであります。効率的に資源を配分していくためには、二つの条件が考えられます。
 一つは、需要側の条件であります。いたずらに物をつくっても、売れなければ資源が有効に利用されたとは言えません。まず、財サービスに対する需要者のニーズを正確に把握し、できるだけ合致する供給水準を決める、あるいは供給量を決める、これは国及び地方公共団体の実施する行政でも同じだと思います。国民が生活を続けていく上で行政に対してどういうニーズを持っているのか正確に把握しなければ、せっかく行政を実施しても住民の方が向こうを向いていれば大変な資源のロスになります。これは、国民あるいは地域住民のニーズを正確に把握して行政サービスの適正な水準を決めるため、計画事務と言われています。
 もう一つは、供給側の条件であります。今、我々が利用し得る最高の技術水準を使って低コストで供給することであります。普通、行政の効率と言われるのは、このことを言っていると思うのであります。これは、需要側の条件で決められたサービス水準に基づいて実際にサービスの供給を実施するので、実施事務と言われています。
 このように、行政はある行政サービスを供給する場合、計画事務と実施事務の二段階に分かれています。ところが市場メカニズムは、価格がうまく資源配分の調整的役割を果たして、価格が上がるとそこには需要が集まっています。その生産をふやす、価格は下がる、このように価格がシグナルの役割を果たしています。行政の場合、価格はありません。予算を編成してサービス水準を組み、そのサービス水準のもとでサービスの供給を果たしていきます。その場合、計画事務と実施事務、これをどう国と地方公共団体が役割分担すれば、先ほど述べた二つの条件が満たされ、効率的な資源の利用になるのか、真剣に考えなくてはならないと思うのであります。また、行政改革などもこの問題に全部帰着するわけでありますが、所見をお伺いいたします。
 事務配分については、今までは供給側の条件だけで決められてきたようであります。それには若干理由があったと思います。
 一つには、これまでの行政サービスは私たちの生活に密着しているサービスが多かったわけで、だれもが日常生活を行っていく場合に必要欠くべからざるサービスでありました。それだけに、そのサービスに対する人々、地域住民のえり好みは余りばらつきがありませんでした。
 市町村の事務で、例えば一般廃棄物の場合、一日の日常生活で排出する廃棄物の量は、どの自治体でも大体同じです。これを週二回程度収集し、衛生的に処理してくれればいいわけで、人口に一定量を掛ければ需要が出てきます。したがって、地域住民のえり好みを余り議論する必要がありませんでした。この仕事は、住民や地域社会にとって非常に身近なことから、以前から市町村の典型的な固有事務の一つに挙げられてきました。しかし最近、ごみのリサイクルが大きな社会的関心事になってくると、ごみの分別収集や選別は市町村レベルでできますが、集められた、選別されたごみの中の再生資源を企業が引き取り、原材料として利用するよう義務づけるような政策に関して、すなわち平成九年四月から実施される包装容器リサイクル法の対応などは、市町村レベルでできることは非常に限られ、県レベル、ひいては国レベルの対応に期待せざるを得なくなってきます。つまり、住民の生活あるいは地域社会にとって最も身近に見えるごみ処理事業ですら、リサイクルという新たな社会的要請にこたえていくためには、全県的な規模、全国的な規模、視野に立って行わなければならない施策や事業の実施としての側面を急速に帯び始めているのであります。この例から私たちが理解しなければならないことは、かつてとは異なり、今日ではごみの収集処理は市町村の事務といったような大きな分け方は適切ではなくなってきているのであります。分別収集は市町村の仕事でも、集められた後の再生資源のリサイクル政策は国や県の機能に求めなければならないような役割分担を考えなければならなくなってきていることを認識しなくてはならないと思います。
 もう一つは、日常生活にとって重要なサービスではありますが、一定水準のサービスを確保することが非常に難しい財政力の乏しい団体がかなりあり、そうした自治体にすべてを任せると地域住民が不自由になることから、国が一定のサービス水準を決めて実現するように国が財政的にサポートするということがあったと思います。こうしたことから、多くの場合、計画事務に国がかかわりを持ってきています。当局よりいただいた資料によりますと、平成六年三月三十一日時点での国の関与省庁別事項数は、総件数が三千二百九十三件、多い省は建設省五百九十三件、農水省五百十二件、自治省三百九十九件、厚生省二百九十九件の順となっています。我々の日常生活を考えてみましても、以前と比べて所得も上がりました。出生率は低下しました。地価も下がりました。我々の生活パターンが変化することは明らかであります。また、生活意識も大きく変わってまいりました。そうしたことから、もう一度需要側の条件、言いかえますと、計画事務を国と地方公共団体でどのように役割分担するかということを見直す必要があると思うのであります。ご所見をお伺いいたします。
 事務をタイプ別に分別すると、タイプ一は計画事務も実施事務も地方公共団体が受け持っているもの、タイプ二は計画事務は国と地方が参加し、実施事務はすべて地方が受け持つもの、タイプ三は計画事務は完全に国が決めて実施、事務は全部地方に任せるもの、以上三つのタイプに分けることができました。
 地方自治法第二条で、地方公共団体が行う事務を四分類しています。固有事務、団体委任事務、機関委任事務、行政事務であります。タイプ一が固有事務で、これは既に計画事務、実施事務とも地方公共団体が受け持っています。問題は、タイプ二に含まれる団体委任事務と行政事務、そしてタイプ三の機関委任事務であります。
 私がなぜ計画事務と実施事務にこだわるかということですが、どうしても計画事務を受け持つ機関が実施事務を受け持つ機関より上位に立ちます。管理する立場と管理される立場になります。やむを得ない面もあるかもしれませんが、そういったサービス水準の決定に当たって補助金や負担金がついていれば、ますますそうなります。したがって、見直しに当たって私が求めたいのは、全部一気にタイプ一の固有事務にとは言いませんが、移せるものはタイプ二のものをタイプ一へ、そしてタイプ三はタイプ二へ移していくということであります。私は、団体委任事務、機関委任事務の中で、ある程度の数の事務がタイプ二、タイプ三に残ると思います。その場合、そのままタイプ二、タイプ三でもいいと思います。その方が、需要側の条件、供給側の条件を満たして効率的な財源配分になるのなら。しかし、計画事務、実施事務を受け持つ機関が分かれているときには、どうしても管理するものとされるものとになることは、先ほど述べたとおりであります。そういった関係を少しずつ和らげていく方法がないものかと思うのですが、ご所見をお伺いいたします。
 形の上では、実施主体も計画主体も地方自治体が受け持っている団体委任事務は、法律や政令でもってナショナルミニマムを決めます。それに対して、地方自治体は若干の上乗せをしたりしてシビルミニマムを決定しますが、大半はナショナルミニマムで決まってしまいます。したがって、実質的には団体委任事務は国が計画主体であり、地方が実施主体で、そこには上下の関係が残ってしまいます。
 例えば、小さな問題ですが、保育所の入所についても団体委任事務ですけれども、厚生省の指図に基づかないとうまくいきません。保育所や老人ホームの建設に際しても制約されます。その団体が条例、規則等を制定して自由に事務が処理できることになっているにもかかわらず、実際はそうでないというのがたくさんあります。したがって、福祉の面で、国が機関委任事務から団体委任事務に移したにもかかわらず、ある種のコントロールを依然としてし続けているといったような指摘があったようであります。団体委任事務については、基準のサービス水準の決定を一定の水準で決めるのではなく、少し幅を持たせて一定の範囲で決める。その後どこで決めるか。それは、それぞれの地域の実情に応じて決めていく。もう少し計画事務に地方自治体が参加できる余地をふやしていかなければ、地方分権は進まないと思います。そして、徐々に幅を広げていって最後は撤廃する。私はこれが実際の進め方だと思うのでありますが、所見をお伺いいたします。
 機関委任事務は、地方公共団体の機関が国の委任を受けて実施する事務であります。厳密に言いますと、地方公共団体の事務ではありません。この事務は、例えば所管大臣を上級官庁、知事や市長を下級官庁と位置づけて、国家行政組織法上の位置づけになっているようであります。そして、それで実施されます。したがって、この事務執行に関する限り、知事や市長は大臣の指揮監督を受け、命令に服することになります。命令に服さない場合、例えば今回の沖縄県知事の、住民である土地の所有者の意向を尊重し、署名拒否は当然なことと言えるのでありますが、しかし法律は知事に代理署名を義務づけています。現在、大田沖縄県知事が「署名拒否は県民の意向」と、県民の心情を代弁する形で国と裁判で対立しています。
 また、機関委任事務の実施に必要な経費は、原則としてその地方公共団体が全額を負担することとされています。これは地方財政法に規定があります。ただ、国勢調査とか国政選挙に関する事務については全額国が負担、旅券とか戸籍の謄抄本のような場合、手数料を取ることによって財源を調達しています。生活保護費などの地方負担分については、地方交付税の基準財政需要額に参入されると聞いていますが、国と地方との軽費負担区分が不明確のため、結果的には地方に財政負担を強いてきました。さらに、地方公共団体そのものの事務ではありませんので、地方公共団体の議会の議決権はこれに及ばないものと解されています。そして、機関委任事務はその処理に当たって、地方の固有事務や団体委任事務と職員において区別して、これを意識していることはほとんどないと思います。
 東京都地方分権検討委員会の答申が昨年出されていますが、これによると、東京都で行われている機関委任事務の数は五百五十項目に及んでいます。その報告を要約すると、問題点として、第一に、法令や通達で全国一律に細かく規定された基準や運用の範囲内で行うこととされており、地方自治体に裁量の余地が少ない、第二に、行政事務処理手続の各段階で法令に基づく国の関与が行われるほか、法定外の事前説明や非公式な協議などが求められ、多大な労力と時間が必要となっている、第三に、企画立案の内容や基準を国が全国一律に定めているため、その地域の個性を盛り込んだり、あるいはほかの施設との整合を十分に図れない等の弊害があると指摘をしています。
 このような変則的な事務が都道府県においては七、八割、市町村では三、四割を占めていると言われています。地域住民の公選によって選ばれた知事や市長が一方的に国家行政組織法上に組み込まれ、下級官庁として主管大臣の指揮監督や命令に服さねばならないとか、あるいは住民が選んだ地方議会の統制に全く服さないような事務がその地方公共団体の事務の過半を占めている、こういう実態では、憲法九十二条が定めている「地方自治の本旨」とは到底相入れないものであると思うのであります。この制度が存続する限り、地方自治体の長は、一方では直接公選された住民の代表であり自治のリーダーでありながら、他方では国の機関でもあるという二つの帽子をかぶり続けることになります。
 このような機関委任事務に関する問題点は、これまでにも再三にわたって指摘されてきたと思います。特に、昭和六十一年に第二十次地方制度調査会によって、機関委任事務の整理合理化を一層推進すべき必要があるとの答申がされました。これを受けて、同年、機関委任事務の整理合理化法が制定されましたが、具体的な改善は一向に進んでいないのが実態だと思います。地方分権推進委員会では、本年一月、現行の五百六十一の機関委任事務を原則廃止し、七割以上を地方自治体事務へ移管するよう提言する方針を固めたと聞いています。機関委任事務を原則的に廃止し、その権限を財源とともに速やかに地方に移管すべきであると私も主張します。
 本県では、昨年十一月、行政改革大綱を公表しました。その中で、地方分権推進のための基本的な考え方として、機関委任事務の整理を主張しています。知事にお伺いいたします。
 知事を下級官庁と位置づけて前総理大臣に訴えられた沖縄県知事、同じ位置づけの知事としての感想と機関委任事務に対する所見をお伺いいたします。
 総務部長には、機関委任事務の本県の実態とその弊害、原則的廃止についての所見と整理への具体的取り組みについてお伺いいたします。
 これまで、地方自治の議論の中では、地方自治は二つの側面を持つと言われてまいりました。一つは団体自治、いま一つは住民自治であります。これが相まって、地方自治の前進あるいは確立があると言われてきたわけであります。地方自治は、地方公共団体が自主性と自律性を持ち、国の干渉や関与をできるだけ回避して、独自の行財政を展開していくことであったわけであります。その条件として言われてきたのは、自主財源の確保でありました。推進法では、そのことを「自主性及び自律性を高め」と表現されていますので、法の目的の一つが団体自治の確立にあることは明らかであります。住民自治は、地方公共団体が一組織として民主的に運営され、住民のニーズを酌み取ってそれを行政に反映させていく、それで私は住民自治は成り立つと思います。そして、住民自治がきちっと行われるならば、法に言われているように、個性豊かな活力に満ちた地域社会が実現していくだろうと思います。
 先ほども少し触れましたが、地方自治法が昭和二十二年に制定され、ことしで四十九年になります。この間、個々の自治体は地方自治確立のため努力を積み重ねてきました。昭和二十五年にシャウプ勧告に基づきシャウプ税制が確立され、その勧告の中で地方自治の確立のためには地方が独自の財源を持たなければならないということで、今の地方税制の大体の骨組みができました。ところが、当時から三割自治という言葉が言われてきたようであります。そして、四十九年間、この自主財源比率がどうように推移してきたのかと言うと、現在全国平均は四○%程度で、この間、高度成長、安定成長もあったわけで、一○%というのは高く評価できないと思います。なぜ自主財源比率が高まっていかなかったのか。今、税源配分を見ると、大体、国税六五%、地方税が三五%、この比率はずっと余り変わっていません。こういう状態のもとで自主財源比率を引き上げると言ったって、これはできないと思います。
 地方分権推進委員会が二月、大蔵省と自治省から地方税制や地方財政について意見を聞いたところ、地財法第十六条に基づく国の補助金約四兆円を三年以内に半減させ、削減した約二兆円分を地方交付税など自治体の自主財源に上乗せするという地方六団体の提案について、大蔵省は税源の移譲は難しいと消極的な考え方を示したと報道されていました。推進法では「地方財源の充実確保を図る」とあっても、この文言は非常にそらぞらしく私には映るわけであります。なぜ、国税と地方税の税源の比率が変わらないのかということです。
 大蔵省は、国から地方へ税源を移した場合、今でさえ地方公共団体間に大きな財政力の格差があるのにもっと広がる、その格差是正はできないのではないかと言います。自治省は、地方税の制度を見ると、現行の制度においても国税に比べて地域的な偏在度は少ないと思っているが、地域間に経済力の格差がある現状においては、ある程度の税源の偏在というのは避けられない、今後、地方分権の流れに沿って地方税源の充実を図っていく場合でもこういった問題は前提にせざるを得ないと言っています。
 シャウプ税制以降、何回か抜本的な税制改革が行われてきました。しかし、いつもそこでの中心的な改革の税目は国税で、地方税については国税に合わせるような形で、いわばついでにといいますか、そういう形で税制改革がなされてきたと思います。今の税体系を構成している主要税目は、県税は県民税と事業税であります。市町村税は、市町村民税と固定資産税であります。したがって、地方税制に関してはシャウプ税制のときと何ら変わっていないということであります。今の税制を前提に続く限りは、国から地方へ税源を移せば格差が広がることは当然であります。抜本的な地方税制の改革を求めていく必要があると思いますが、所見をお伺いいたします。
 次に、住民自治についてであります。
 住民自治というのは、形式的には議会制度をとっています。首長も公選ですので、形の上では住民自治は整っていると思います。問題は住民自治が確立しているかどうかということで、地方公共団体が住民のえり好みを正しくとらえて、それを満たしていくために行政にどのように反映させていくかということだと思います。それができて、初めて住民自治が実質的に一応確立したと言えると思います。
 ところが、今までの地方自治の議論の中で団体自治だけが議論されてきました。先ほど述べたように、自主財源の確保や三割自治の議論であります。そういう意味では、推進法の議論の中で住民自治が真っ正面から取り上げられたことは意味があると思います。住民のニーズをできるだけ正確に把握して、それを行政に反映していくためには、個々の地方自治体が相当力を持たなければなりません。企画立案、調整、実施と、総合的に行政を展開していかねばなりません。
 今まで企画立案は、国がいろいろな形で数多く関与してきました。法律、政令とかで。したがって、地方公共団体が本当にやってきたのは、極端な言い方をすると実施だけだったと思います。そして、その実施の段階で、必要な行政能力は技術的な問題が多かったと思います。しかし、総合的に企画立案からやるということになると、多くの情報収集、分析、住民ニーズの確認、それに基づいての企画立案、これは相当な行政能力が要求されます。この行政能力について、今まで余り議論されていません。なかなかとらえどころがないわけで、行政能力にどれくらいの格差があるのかわかりませんが、あると思います。ただ、あったとしても、調整することはできません。ここにこれからの地方自治、特に住民自治を推進していく場合のポイントがあるのではないかと思います。
 今まで、なぜ企画立案のところで国がいろんな形で関与してきたのかと言うと、私は地方公共団体の行政能力に対する国からの過小評価があったのではないかと思います。しかし、四十九年間の地方自治確立のための努力によって、相当な力をつけてきています。しかも、これまでは行政に対するニーズというのは、個々の住民の間でそれほどばらつきがあったわけではありません。このニーズを酌み取って行政に反映するのは、住民に近い地方公共団体であります。ですから地方分権推進が問題になるわけで、今まで国が関与してきた計画立案のところを地方に任せてもらうことが大事であります。ここが問題であって、今後推進計画がつくられていくに当たってどれだけ分権が進むかということです。これまでのように地方自治体の行政能力を過小評価しているような立場を取り続けるならば、推進法があっても進まないと思うのでありますが、所見をお伺いいたします。
 以上で、質問を終わります。
○議長(橋本 進君) ただいまの森本明雄君の質問に対する当局の答弁を求めます。
 知事西口 勇君。
 〔西口 勇君、登壇〕
○知事(西口 勇君) 森本議員にお答えをいたします。
 まず、地方分権についてであります。
 県民の立場に立った県政を推進していくためには、必要以上の国の関与をなくすとともに、国から地方への権限移譲と地方自主財源の確保が必要でございます。地方分権が名ばかりの分権とならないように、財政、税制の問題なども含め、言うべきことは言うという姿勢で本音の議論をしてまいりたいと考えております。
 次に、都道府県レベルのネットワーク化を図り、国を動かすというご提案でございます。
 私も、各都道府県、市町村と協力しながら働きかけを進めていく必要があると考えてございます。現在、全国レベルでは、地方六団体が共同で地方分権推進本部を設置して、地方の共通の要望を取りまとめた上で、地方分権推進委員会が作成する分権の指針が地方の意見を取り入れた内容となるよう働きかけを行っているところでございます。また、近畿知事会においても、地方分権推進委員との意見交換や共同の要望の申し入れを行っており、こういった連携をとりながら地方分権の実現に向けて努力してまいりたいと思っております。
 また、地方分権の推進は、行政のみではなくて世論の盛り上がりがあってこそ実現できるものと考えております。そのためには、地方分権は、国と地方との権限争いではなくて、県民一人一人にとっても意味のあることだとの認識を持っていただく必要があるわけであります。平成八年度においては、五月ごろから啓発紙の各戸配布や講演会の開催などを積極的に行って、地方分権の推進を県民運動にまで高めていきたいと考えておるところでございます。
 次に、地方分権と中核市制度との関連についてでございます。
 住民に身近な行政は、住民に身近なところで実施するという基本的な考え方から、一定の要件を備えた市の権限を強化する中核市制度は意味のあるものだと考えております。
 翻って考えますと、地方分権の本質は、国は何をすべきなのか、地方公共団体は何をすべきなのかといった国と地方公共団体との役割分担を明確にすることにあると考えております。この原則に基づいて、県から市へ権限を移譲するという中核市制度にとどまらず、国と地方が適切に権限を分担し合う仕組みをつくっていくことが何よりも重要だと考えております。
 次に、行政改革の推進と地方分権に関してでございます。
 国が地方分権に反対する理由の一つは、地方公共団体の行財政運営に対する不信があると言われておるわけでございます。こういった不信に対して、そうではないんだということを示すために、地方公共団体が自主的に行財政運営のあり方を見直し、地方分権の時代を担うにふさわしい体制をつくることが必要でございます。これが今回の行政改革の大きな目的でございます。
 なお、行政改革の推進に当たりましては、国と県との関係調整が必要な事項が予想されております。結果的には、議員ご指摘のように、行政改革を進める上で地方分権を国に働きかけることが必要になる場合もあると思われます。
 次に、機関委任事務についてでございます。
 機関委任事務に関連して沖縄の問題がございました。知事が地域の実情を考慮した上で決断したことに対し、機関委任事務であるという理由で国から訴えられるなどということは、一般県民サイドからすれば理解しがたいことではないかと思うわけであります。そういった意味で、機関委任事務制度は廃止し、原則として地方公共団体の事務にすべきであると考えております。
 以上であります。
○議長(橋本 進君) 総務部長木村良樹君。
 〔木村良樹君、登壇〕
○総務部長(木村良樹君) 中核市制度についてのご質問でございます。
 この制度は、地方制度調査会の答申を受けて、平成六年の地方自治法の改正により創設されたものでございます。本制度は、指定都市以外の都市で、規模、能力が比較的大きな都市について、その事務権限を強化して、できる限り住民の身近で行政が行えるようにするための制度でございまして、全国で二十八の市が対象となり、そのうち十二市がことしの四月から中核市として指定されているということでございます。
 和歌山市については、来年の四月一日の指定を目指して、昨年、市役所の中に中核市推進室を設置し、現在、県の関係課と移譲事務の調整、事務の引き継ぎ等について打ち合わせながら、自治省との間でも事前の協議を行っているところでございます。県といたしましては、今後、和歌山市が中核市に移行するに際して、支障なく進むように十分な調整を行っていきたいと考えております。
 次に、行革についての県内の市町村の取り組み状況でございます。
 県内の市町村においては、従来、簡素で効率的な行政の確立を目指し、自主的な行政改革に取り組んでまいったところでございます。しかしながら、最近の地方分権の推進という大きな流れの中で、改めて行政のあり方を見直していく必要があることから、現在、十六市町村が新たな行政改革大綱を策定しているほか、その他の市町村においても推進本部等をつくり、年度内の策定を目指して取り組んでいるところでございます。
 県といたしましては、地方分権の時代にふさわしい自主的な行政改革の推進に積極的に取り組んでいただけるよう適切な助言等を行ってまいりたいと考えております。
 次に、経済学上の政府の三機能と地方分権の関係についてのご質問でございます。
 中央政府、地方政府の役割には、議員ご指摘のとおり、資源の配分、所得の再配分、経済の安定化という三つの機能がございます。これまで、この三つの機能については、どちらかというと中央政府の役割が大きいと言われてきましたけれども、近年では所得の分配や経済対策等において地方の役割もまた非常に大きくなってきております。今後、地方分権の推進に当たって事務配分の見直しを行う際には、このような政府の三つの機能に着目しつつ新しい制度を考えていくことが重要であるという議員のご指摘については、まことに同感でございます。
 一昨年策定された地方分権推進法では、分権推進に関する基本理念や基本方針を中心に定められておりますので、このような観点が細かく定められているわけではございませんけれども、いずれ策定される地方分権推進計画の中で、この三つの機能をどのように国と地方で分担していくかという視点が非常に重要になってくるものと考えているところでございます。
 次に、資源配分や計画事務における国と地方の役割分担ということでございます。
 ご質問にもございましたように、計画を立てるためには、需要者すなわち住民のニーズを正確に把握することが必要でございます。本来、地域住民のニーズを最も的確に把握できるのは地方公共団体であるにもかかわらず、従来、全国的統一性が必要であるとか、全国的規模、視点で実施する必要があるという理由のもとに、住民から遠いところにある国が計画を立てて地方公共団体がこれを実施するという体制がとられてきたことは、お説のとおりでございます。しかしながら、国はナショナルミニマムの基準を示せば足り、ナショナルミニマムを確保した上で、どこまでの行政サービスを提供するかは、むしろ地域の実情、住民の要望に応じて決定されるべきものでございますので、今後は国の役割を限定し、地域のことは地域で計画し実施するという体制をつくることにより、最も効率的な資源配分を目指すことが必要ではないかと考えております。
 次に、団体委任事務、機関委任事務についてのご質問でございます。
 現行の制度には、議員ご指摘のような弊害がございまして、特に機関委任事務制度は、外見上は県が実施しながら決定権が県にないために、県民の皆様から見れば責任の所在がはっきりしないといった問題や、国が定めた画一的な基準が県民の声に優先するといった問題が生じてきているところでございます。このような点を踏まえ、現在、地方分権推進委員会において、これらの事務の抜本的な見直しが検討されているところでございます。
 先日の新聞報道によりますと、この委員会の中間報告の原案では、「機関委任事務制度を廃止し、原則として自治事務とする」、そしてまた「国政事務として残さざるを得ないものについては、国と地方公共団体を対等に位置づけた法定受託事務を設ける」とされており、基本的に地方公共団体の主張に沿ったものであると評価いたしております。
 次に、団体自治、住民自治と自主財源の関係を中心とするご質問でございます。
 現行の地方税制については、議員ご指摘のように、地方の歳出規模に比べて地方税収の割合が小さいことや、都道府県税が法人所得課税に偏った不安定な構造になっているという問題があることが指摘されております。
 地方分権の推進が時代の要請となっている今日、地方公共団体がその責任を適切に果たしていくためには裏づけとなる財源の確保が必要であり、この財源の充実確保を図るため、安定的で伸長性のある税体系の確立について、引き続き国に対し要望してまいりたいと考えております。
 次に、国の地方不信に関するご質問でございます。
 戦後、今日の地方自治制度が誕生して既に五十年が経過し、地方は十分業務に習熟しているにもかかわらず、国が依然として地方に関与していることは、議員ご指摘のとおり、国が地方の能力を過小評価していることのゆえであろうかと考えております。
 国といたしましても、現在の大きな時代の流れの中で、このような地方不信の発想から脱却し、地方公共団体が行う事務の適正さは、国の後見的監督ではなく、議会や住民によってチェック、確保される地方自治本来のあり方を再認識していく必要があるのではないかと考えております。また同時に地方公共団体の側でも、当然のことながら、適正な行政の実施に努力すべきことは必要でございまして、本県においても昨年策定いたしました行政改革大綱にのっとって、地方分権の時代を担うにふさわしい効率的な行財政運営の構築を進めてまいっておるところでございます。
○議長(橋本 進君) 答弁漏れはありませんか。──所定の時間が過ぎておりますが、再質問されますか。
 〔「なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(橋本 進君) ないようでございますので、以上で森本明雄君の質問が終了いたしました。

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