平成7年9月 和歌山県議会定例会会議録 第2号(馬頭哲弥議員の質疑及び一般質問)


県議会の活動

 午前十時五分開議
○議長(橋本 進君) これより本日の会議を開きます。
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 【日程第一 議案第百四号から議案第百三十七号まで】
 【日程第二 一般質問】
○議長(橋本 進君) 日程第一、議案第百四号から議案第百三十七号までを一括して議題とし、議案に対する質疑を行い、あわせて日程第二、一般質問を行います。
 16番馬頭哲弥君。
 〔馬頭哲弥君、登壇〕(拍手)
○馬頭哲弥君 おはようございます。
 お許しをいただきまして、今回私は、知事と県警本部長に質問をさせていただきます。
 私は、今を去る二十年前、大橋正雄先生の劇的な急逝に伴いまして、その後継者として仮谷志良知事実現の選挙戦に参画をさせていただき、自来今日まで長きにわたってご指導をいただきながら、ともに力の限り県勢伸展に働かせていただく機会を得ましたことは、人生の僥倖これに過ぐるものなく、改めて厚くお礼を申し上げる次第であります。
 さて、昨年六月、本議会におきまして、私は知事に政治家の出処進退についてその所信をお尋ね申し上げました。そしてその後、九月議会におきまして知事は、今期をもって勇退される旨、表明されたのであります。いずれの場合を問わず、頂点に立つ人にとって引き時が一番難しく、大事でありますが、知事はみずからその「退」を決せられたのであります。
 あれから既に一年余を経て、今日この議場で相まみえることは最後であることを思いますときに、粛然たる感慨を深くするものでございます。議員各位の胸中にも、それぞれ盛りだくさんの思い出がおありのことと存じます。県政五十年の来し方を振り返れば、まさに険しい山坂、息つくいとまなき年月、県民皆さんの励ましを得て、ようやく峠の見えるところまでたどり来ったと思うのであります。この間、数多くの新しい事業が完成し、今なお確実に進捗中であります。
 さて、現代という時代は、知事の二十年の県政を振り返ってみられても、年々社会の病根が悪化してまいっておることはご承知のとおりであります。社会環境は深く病んでいるのであります。この点では、昔の人々よりも現代の人々の方が危機的状況に置かれていると申し上げても過言ではありません。このままで推移せんか。社会秩序は崩壊し、法は無視され、悪がはびこり、文明は滅びの道をたどると思うのであります。これは、歴史の法則であります。
 こうしたとき折しも、あなたは後継に道を譲られようとしております。知事は、二十年の実績と経験に基づき、二十一世紀における政治のリーダーとはいかなる人物像であるべきだとお考えか、ご教示賜りたいのであります。
 終わりに私は、知事に有名な蘇東坡の別離の詩を贈りたいと思います。
 「近き別れは容を改めず 遠き別れは涕胸を沾す 咫尺にして相見ざれば 實は千里と同じ 人生離別無くんば 誰か恩愛の重きを知らん」。仮谷知事におかれては、ご勇退の後も県政に対するご指導を賜りたく、そのためにも、ますますのご清健をお祈り申し上げる次第であります。
 次に私は、自由民主党県議団を代表して青山県警本部長に質問をいたします。
 去る八月十八・二十五日号「フライデー」は、旅田和歌山市長と暴力団組長とのただならぬ関係を取り上げ、確証としてビデオの存在を示した一連の写真、記事が全国を駆けめぐり、県民に大きな衝撃を与えました。旅田君はかつて我々とともに自民党県議団に所属した議員でありましただけに、我々もまたショックを受けた次第であります。
 この幻のビデオは既に市議会において公開され、白日のもとにさらされました。今、和歌山県はこのことで揺れ動いておるのであります。いやしくも県都・和歌山市の首長がまさかという大方の声も、日を追うにつれ、市議会において旅田市長の辞職勧告決議案が圧倒的多数で可決され、その後、百条調査委員会設置にまで発展するに及んで、もはや事態は最悪の状態に立ち至っておることがわかってまいりました。
 しかし、旅田市長は終始「事実無根である」と主張し続けております。中でも不思議なことは、ビデオの存在は知っていながら、「写っているのは私ではない。組長宅へ行ったこともない」と答える一方、「あれは隠し撮りされたもので、私は毅然として拒否した姿なんだ」、こういう支離滅裂な主張を繰り返しているのであります。ビデオの中身は恐らくすべて知っているにもかかわらず、であります。
 一方、ビデオ公開に踏み切った議会側は、高垣議長の報告によると「明らかに写っているのは旅田市長である」と断定しておるのであります。
 既に去る十八日、市議会の百条調査委員会では、このビデオに同席していたという池浦利彦参考人から、あの場所にいたのは旅田市長である旨の証言を得ております。「市長と組長とのトラブルがあり、市長とともに組長宅へ行った」、「市長当選後も元組長と定期的に石泉閣で食事をしていた」と、市長と元組長とのその後の親密な関係も証言されております。旅田市長の言う、当選後、毅然として暴力団との交際を断っているんだという言葉と大きな食い違いがあるのであります。
 また同十九日、同委員会に出席した元組長は、「旅田市長がやってきて三億五千万の手形の回収を頼まれた」──その後、その手形の回収が成功したんでしょうか、「『親分のおかげです。心と心のつき合いを今後もお願いします』、『恩に着ている』と言いながら、市長は私にうそをついておる」、「しかし、当選後は市長とともに和やかに料亭で月一回くらい親睦会をやり、会食をしておった」と。この組長はまた、「相手がうそつきだから撮っておいたもので、知事選とは何の関係もない」等々、証言しております。この旅田市長と暴力団との関係はいずれ近々市議会百条委員会においても明らかにされると思うのでありますが、ここまでくると警察も無関心ではいられないと思うのであります。
 申し上げるまでもなく、暴力なき社会の実現は今日、政治の最大課題であります。それだけ現代社会は深く病んでいるのであります。そのために暴対法も制定され、いかなる暴力もテロも許さぬ強い姿勢が示されておると思うのであります。
 しかし、残念ながら、この数年に見る日本の社会は常軌を逸しておると言わざるを得ません。日本じゅうの人々を震撼させたオウム真理教の残忍非道な行為を見ても、あるいは年ごとに増加する凶悪な殺人強盗事件にしても、最近では日常茶飯事のこととなり、ついには治安の最高責任者たる国松警察庁長官まで狙撃されるという事態に至りました。恐るべきテロ横行の時代となっておるのであります。国松長官は先日のNHKテレビのインタビューに答えまして、「警察は結果を出すのが使命である」と明言されておったのが印象的でありました。
 そこで、ビデオに関する幾つかの疑問点について本部長にお尋ねするのでありますが、あなたは我が県警察の頂点に立つ人であります。
 一、現代社会にはびこるあらゆる暴力をどのようにとらえておられるか。
 二、警察は旅田市長と暴力団の関係を示すビデオを既にごらんになっておられるか。見ておられるとしたら、その見解はいかがか。
 三、今回の場合は実に単純な組み合わせであると私は思うのであります。債務者である旅田氏とその友人の一、二名、つまり池浦氏、手形回収作業をやってのけた元組長という構図であります。こうした相互依存関係をどのようにお考えか。
 四、旅田市長が九月八日、市議会本会議で浦哲志議員に対して答弁している中に、「私の友人の刑事が電話をしてきて、『旅田、フライデーなんかに負けるな。このビデオの写真は我々プロの目から見たら、旅田は暴力団を明確に拒否している。そう見える。突き放していることがよくわかる。このビデオはまさにその証拠だ。しっかり頑張れ』等と激励してくれた」と、得々と答弁しているのであります。これは、公式発言であります。また旅田市長は、みずからの後援会役員会の席でも「私と同期の東署の親しい刑事が」云々と、得意の弁舌を振るっております。この東署の刑事とはだれなのか、はっきりさせていただかなければなりません。
 五、暴力団による市長の債務三億五千万を一割にまけさせたという事実に基づき、手形のサルベージによって泣かされた九割の人々がおるはずであります。話し合いによってその結果が出たんだから、法律的には別にどうということはないのかもしれません。しかし、そのサルベージをやったのがその筋の人だということが言われておるのであります。暴力団の資金稼ぎはこうしたケースが多いと聞いておりますけれども、お考えはどうか。
 六、このビデオ問題を一般質問で取り上げた市議会の浦哲志議員の自宅へ無言電話がどっとふえて、「つまらんこと言うたら殺されるぞ」といった脅迫電話まで入っていると聞くのであります。きのう来、私の手元にも、石谷、森田両市議に対する脅迫状が舞い込んでおります。九月二十二日付で、郵送されております。しかも、切手も張らないで八十円不足という手紙。本部長、ごらんください。これでもうけたのは郵便局であります。ご参考までに。(現物を手渡す)
 すごいことを書いております。やはり中身は同じような内容、同文であります。こういうことが今、露骨になってきておるわけであります。今の本部長にお手渡し申し上げた手紙は別として、この無言電話や脅迫電話のことはご存じかどうか。
 七、旅田市長はこのビデオを「一億五千万で売りに来たけれども、私は毅然としてこれを拒否した」と繰り返しておりますが、この時点では既に暴対法ができておったと思うのであります。彼は暴対法の副会長かなんかをされておるはずでありますから、当然、旅田さんは法の精神に照らしてこのことを警察に報告していなければならないと考えるのでありますが、この点はどうか、ご答弁いただきたいのであります。
 以上、警察は本件に係る疑惑に対して断固たる姿勢で対処して、県民の前に明らかにされるよう強く要請するものであります。ご答弁をお願い申し上げます。
 さて、この質問を終わるに当たって、この際、私はいささか私見を申し上げることをお許しいただきたいと思います。
 かつては本議会の友人、同僚であったよしみをもって、旅田氏に忠告を申し上げたい。市長であると我々議会人であるとを問わず、お互い最も責任のある公人であります。今回のようなぬぐうべくもない不名誉は、道義的にも政治家として断じて許されることではないでしょう。ましてや、強力な知事候補として志高く常に正直であるべき人が、見せかけのリップサービスやうその上にうそをもって正義を装うがごときことは、もうおやめなさいと申し上げたいのであります。よし人はだませても、天を欺くあたわず。県民は言いくるめや言い逃れの巧みな人よりも、責任を果たすために懸命に努力して、間違っていたと知ったら潔くその責めをとる正直な政治家を求めておると思うのであります。
 しかし、旅田氏は、あくまでも自分は正しい、正直なんだ、うそは言ってないんだと言われるのなら、和歌山市民四十万の名誉にかけて告訴すべきであります。ここを間違ってはいけません。願わくは、旅田君の厳しい反省自重なかるべからずであると思うのであります。
 終わります。ありがとうございました。
○議長(橋本 進君) ただいまの馬頭哲弥君の質問に対する当局の答弁を求めます。
 知事仮谷志良君。
 〔仮谷志良君、登壇〕
○知事(仮谷志良君) 馬頭議員にお答え申し上げます。
 これからの時代の政治のリーダー像ということでございます。極めて難しい問題でございますけれども、私なりの考えを述べさせていただきたいと思います。
 私は、知事に就任して以来、「まごころ県政」を政治信条として進めてまいりました。これは、「孟子」にいわく「誠は天の道なり、誠を思うは人の道なり」と、これを私は心としてまいったわけでございまして、県政を行うに当たりまして、県民の幸せのために将来を見越して今何をなすべきかを考え、全力を尽くして頑張ってきたところでございます。
 特に、本県の半島性や交通網の整備の問題、文化、産業、教育の振興、福祉等の増進に努めてまいりました。そして飛躍への土台が一応できたのではないかと、かように思っておるわけでございます。
 今、二十一世紀を目前にいたしまして、オウム事件等、世紀末的な様相もこれあるわけでございますが、これは私は新しい時代への産みの悩みでもあると思ってございまして、それだけに、二十一世紀を目指した新しい時代を見る先見性、難問を解決する決断力、実行力が必要であると思っております。
 しかし、これを行うのは人でございます。指導者の倫理性、うそをつかない誠実性がまず必要でございます。知事は都道府県の顔でもございます。政治の言葉に「信なくんば立たず」という言葉がございますように、県民の信頼はもとよりでございますけれども、中央においても近畿各府県においても、信頼される徳というものが必要ではないかと思っておるわけでございます。すなわち、国、和歌山県の先を見詰める先見性、事を処する決断力、実行力、そして政治家としての誠実で倫理性のある政治哲学が必要ではないかと、かように思っております。
 以上です。
○議長(橋本 進君) 警察本部長青山幸恭君。
 〔青山幸恭君、登壇〕
○警察本部長(青山幸恭君) 馬頭議員にお答え申し上げます。
 初めに、現代社会にはびこるあらゆる暴力ということについてでありますが、暴力は個人の基本的人権を侵害する最たるものであり、また公共の安全と秩序を破壊する極めて反社会的な行為であって、絶対に許してはならないものであると考えております。
 とりわけ、暴力団等による組織的な暴力については、県民生活に対する重大な脅威となっている情勢にかんがみ、和歌山県警察運営の最重要課題の一つとして掲げ、組織を挙げてその取り締まりの強化に努めているところであります。
 次にビデオテープの件でありますが、その存在や内容等については、テレビ、新聞等で報道されている範囲内で承知しております。警察としては、この件に限らず、犯罪があると思料する場合には法の手続を経て捜査しているところでありますが、現段階においては本件についてのコメントを差し控えさせていただきたいと思います。
 次に、債務者旅田氏とその友人らによる手形回収についてのご質問の件でありますが、これまで週刊誌や新聞等で報道されたことは承知しております。いずれにしても、一般論として申し上げますならば、いかなる立場の人であれ、暴力団を容認したり利用したりすることは当然好ましくないと考えております。
 次に、旅田市長が市議会において答弁した内容につきまして申し上げます。警察は、職務の執行に当たっては不偏不党かつ公平中正な立場を堅持することは当然と考えております。そのため、機会あるごとにこのような警察の立場を堅持するよう全職員に徹底しているところであります。議員ご指摘の、旅田市長に対して電話してきたという者について警察として確認すべく努めたところでありますが、そのような事実を確認するに至っておりません。
 次に、暴力団の資金稼ぎは手形のサルベージによるケースが多いと聞いているがどうかとのご質問の件については、いわゆるサルベージ行為なるものは暴力団の資金源活動の一つの形態となっていることはご指摘のとおりであります。こうした資金源活動についても、既存の刑罰法令とともに暴力団対策法を効果的に活用して、暴力団の資金源の封圧を一層推進してまいる所存であります。
 次に、浦哲志議員に対する無言電話や脅迫電話の件については、現在その実態把握に努めており、同議員に対する不法行為を未然に防止するため、所要の警戒を行っているところであります。
 次に、ビデオの売り込みに関するご質問についてでありますが、現段階ではそのような届け出は受理しておりません。警察としては、暴力団員等からの不当な要求行為に対しては強い態度で臨み、警察に届け出をしていただくよう指導しているところであります。
 以上でございます。
○議長(橋本 進君) 答弁漏れはありませんか。──再質問を許します。
 16番馬頭哲弥君。
○馬頭哲弥君 青山本部長のご答弁は、和歌山県の治安を預かる最高責任者として、いかなる暴力も許さん、いかなる立場の人といえども、暴力団とのかかわり、あるいは利用するようなことは断じて認めるわけにはまいらんのだと、力強いご決意を聞かせていただいたのであります。
 現段階では、まだはっきりしたことは言えないことも多々あるかわかりません。しかし、そのご決意の基本に立って、ご着任早々でありまするし、湯浅ではまた一昨日来、殺人事件まで起きておるというような状況にかんがみまして、ひとつしっかり県民のためにご活躍を賜りたいと思うのであります。
 さて、旅田市長は百条調査委員会で、ビデオの出どころをはっきりしないのにビデオを見るわけにはいかない、議論もするわけにはいかないんだと言ってさっさと席を立って、橋本の演説会へ行っておったとかいうのでありますが、「暴力団とのつながりは追及している側の方にこそあるんだ」と、自分がかつて緊密な関係にあった、莫大な負債の手形回収まで依頼した主役・当事者であったことなどを棚に上げて、開き直っているのであります。そのあげくには、「私の知事選におけるイメージダウンをねらったものではないのか。そういう仕組みなんだ」というようなことを言うに至っては、これはもう本部長、あの有名な上祐何がしをはるかに超える論理の飛躍であると思うのであります。すりかえであります。
 今、事ここに至って、市民、県民が本当に知りたいことは何かと言いますと、一体何が真実なんだということであります。何が本当のことなのかという一点に絞られてまいっておると思うのであります。暴力団と飯を食ったとかゴルフ場で一緒だったとかいうだけで、芸能人やスポーツマンも干されたり、とうとうそのまま社会的にだめになったりというようなケースは幾らでもあるというのに、市長だったら構わんのか、偉い人だったらいいのかと、こういうお問いかけは私の方にも、何通かの怒りの電話が入っておる次第であります。
 世論はつまり、これを問うておる。真実は一体何なんだということであります。まさに法と道義はあざなえる縄のごとしでありますから、道義に反する疑惑は警察が明らかにしてくれる以外にとるべき方法はないと思うのであります。そこに我々の警察に対する全幅の信をおくゆえんがあることを申し上げておきたいのであります。
 政治道義の話のついでに、けさ来のうわさでは「知事選であかなんだら市長選があるさ」と、そういう話だって皆さん、走っておるんです。ここまでいくと、まさに人間としての道義の問題であります。これはしかし、警察とは関係ありません。
 ところで、旅田市長の公式発言である「親しい友人の刑事が私を大いに励ました」という話は、調査の結果そのような事実はないということであります。安心いたしました。つまり、このことは、旅田氏がありもしないことを本会議でちょうちょう述べたということに絞られてまいります。作り話で議会を欺いたということになるのであります。私はしかし、警察としてもこうした名指しの対象とされた迷惑を払拭する必要があると思っておったんであります。ついでがあれば市長本人にも確かめていただけたらいいのではないか。
 和歌山県警察官の皆さんには、日々本当にご苦労なことだと考えております。これは深く感謝申し上げなければなりません。県民の安寧のために、どうか善なる者には温かい思いやりと、悪に対しては断固許さぬ姿勢で今後とも臨まれるよう、重ねてご要請申し上げる次第であります。ご答弁は結構でございます。
 ありがとうございました。
○議長(橋本 進君) ただいまの発言は要望でありますので、以上で馬頭哲弥君の質問が終了いたしました。

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