平成5年12月 和歌山県議会定例会会議録 第3号(鶴田至弘議員の質疑及び一般質問)


県議会の活動

平成五年十二月九日(木曜日)

  午後一時四分再開
○副議長(町田 亘君) 休憩前に引き続き、会議を開きます。
○副議長(町田 亘君) 質疑及び一般質問を続行いたします。
 25番鶴田至弘君。
  〔鶴田至弘君、登壇〕(拍手)
○鶴田至弘君 お許しをいただきましたので、質問をさせていただきます。
 まず最初に、米の問題でございます。実質的自由化が方向づけられて、その上に凶作に見舞われるという、二重苦にあえぐ米の問題でございます。
 米の輸入自由化問題については、この議場でも幾度か論議されてまいりました。米は自給すべし、自由化すべからずと、知事の意思も、議会の意思も幾度か表明されてまいりました。最も責任ある国会においても、自由化反対は三度も決議されてまいりました。しかし細川首相は、我々の願いに反して実質的自由化の方向を打ち出しました。まことに残念、というより激しい怒りを覚えるものであります。
 世界の食糧政策は、その主たる食糧については自国で生産するというのがごく当たり前のこととなっております。国民の食糧を保障するという国としての当然の義務から見て、当たり前のことであります。そのために農業への手厚い保護政策は国策の柱の一本となっているところでありますが、我が国においては、この凶作にあっても逆コースを走り始めようとしています。国際的圧力を口実に、主食は自国で自給するという根本的方針が、今、崩されようとしています。米の輸入は自由化すべきではないと私は今もかたく信ずるものでありますが、現時点において、この問題についての知事の所信をお聞かせいただきたいと思います。
 一方、米の作付面積は減反政策として猛烈な勢いで今も進められ、「田園まさに荒れなんとす」という言を地でいくありさまであります。今、日本の米の備蓄は一カ月分もなく、もうぎりぎりのところまで落ち込んでいます。本来なら減反どころではないというところでありますが、本年のように一たん凶作ともなれば、米不足、米の値上がりという状況であります。
 今、町のお米屋さんでも値上がりが進んでいます。今後、それより上がるとも下がることはなかろうとささやかれています。外国からの輸入があるなどと主食自給策を放棄するのではなく、今こそ日本の米を守らなければならないときになっていると思います。
 我が和歌山県は全国に比して米の作付面積が少なく、自給にも満たないものでありますが、それだけにまた大事にしなければならないと思います。しかし、県下のわずかな米作面積も、全国の減反に並行して減少しています。一九六〇年には二万七千九百ヘクタールあった水稲作付面積が一九六三年では九千五百四十ヘクタールとなり、実に三分の二が消滅し、三分の一を残すのみとなりました。収量も、九万七千六百トンから四万一千三百トンと半減をいたしました。まさに日本は、みずからの主食をみずからつくり出せない危機的状況をみずからつくり出しています。その上に、自由化です。にもかかわらず政府は、来年にはまたまた米作面積の二五%に匹敵する六十万ヘクタールを減反しようとしています。我が和歌山県にもその目標が押しつけられるでしょう。凶作の中にあって耕地面積の人為的、絶対的減少をあえてつくり出し、米輸入の環境づくりに励む政府の姿は、口でいかなる言辞を弄しても許されないものであると私は考えます。
 ついては、関係当局に次の点をお尋ねいたします。
 政府が来年度も強行しようとしている減反政策は中止すべきだと思いますが、いかがお考えでしょうか。たとえそれが和歌山県に押しつけられたとしても毅然として返上すべきだと思うが、いかがでしょうか。また、米づくり農家にさらなる生産意欲を向上させるような県としての取り組みはいかにあるべきとお考えですか。お答えをいただきたいと思います。
 シーサイドロード問題について三たび質問をいたします。
 私は今まで、シーサイドロードの強制的収用問題を自治体行政の民主主義の問題として取り上げてまいりました。シーサイドロードが必要かどうか、考え方はさまざまあるとしても、余りにも強引な土地収用政策は、和歌山県、和歌山市の住民軽視の恥をリゾート博に来県する方々にもさらすものであると批判をしてまいったところであります。しかし県市ともども、何が何でもリゾート博のためにと、地権者の声をブルドーザーで踏みつぶすように既定方針を完遂しようとしています。今回は、この道路計画が従来県市のとってきた農業政策と大きく矛盾するものとして、私の見解を述べたいと思います。
 シーサイドロードが予定されている地は、ご承知のように農業振興地域であります。農振地域の中でも特に農用地として指定されるところであります。農用地とは、農振地の中でも特に慎重に検討され、地権者の同意を得て定められたところでもあります。これらの地域を指定したり農業振興を促進する上で、県も市も、長計や基本方針でその重要性を述べているところであります。
 例えば、一九七〇年四月の和歌山県長期総合計画によりますと、当該地が京阪神に近いこと、特産物は長い伝統があることなどから京阪神の農産物供給の拠点であると位置づけ、将来の方向としては、旺盛な営農意欲と高度の技術開発等により狭小な土地で最大の効果を発揮させ、農家所得の向上を図ることが大切であると述べ、さらにまた、今後、都市計画と農業との調整を図り、都市化が農業に及ぼす影響を極力排除し、農耕地の保全を図ることに努力するとうたっています。同様の趣旨は和歌山市においてもうたわれております。
 布引地区の地権者たちはこの方針に沿い、日々営々として激しい農業労働にいそしみ、十二時間を超す農作業も決して珍しくないという日々を過ごしてきたのでありますが、この土地こそ自分たちの生活の糧であり、子々孫々に残し得る財産として今日の日までしがみつくようにして守り育ててきたものであります。それをある日、突然の土地収用法であります。これは明らかに、県や市が方針としてきた農業振興政策との整合性を持ち合わせないものであります。その面積の多少にかかわらず、その地における農業振興政策の後退であります。道をつければ農業振興に役立つという当局の論理もありますが、それは農業従事者の判断することであって、リゾート博をにらんで机上で線引きをする人々の言うことではないと思います。耕作者の便を言うなら、耕作者の要望から出発すべきではないでしょうか。
 また、シーサイドロードに供される面積は一・三ヘクタールであって、この農用地六十五・一ヘクタールのわずか二%ではないかという論もあります。農業地域が減少したとしても微々たるものではないかと言う方もおられるようであります。しかし、全体の耕地面積に及ぼす影響だけで論じるとすれば、まさにそれは机上の空論でしょう。農地を奪われる農民たちの農業経営の実態はどうなのか、現状はどうか、農業におけるどのような将来計画を持っていたのか、シーサイドロードの建設によってその計画はどのような影響を受けるのか、それは農振地域の中核である農用地のさらなる振興にとってどのような意味を持つのか、個々の農家の影響と同時にまた、農家のトータルな影響も当然考慮されなければなりません。そうでなくては農振地の意味も農用地指定の意味も全くなくなってしまうものです。
 和歌山市も、またこの事業を認定した和歌山県も、その面での調査研究をしたという話は全く聞いておりません。行政関係者から聞こえてくる声は、そのくらいの土地が減ったから農業ができなくなるというのはオーバーではないかとか、大層なことを言うなとか、冷ややかな声であります。地権者の中には、失う土地が五%の方もあれば、二五%の方もおられます。そのパーセントがその家庭にどんな意味を持っているのか考えてくださったことがあるでしょうか。二五%の土地がなくなれば農業経営の方針が根底から覆されてしまうということを考えてくださったことがあるでしょうか。サラリーマンに対して、リゾート博を催すから五%から二五%の賃金を一生にわたってカットする、末代にわたってカットすると言われたら、サラリーマンはどんな気分になるでしょうか。土地収用とはそういうものなのです。あとは、求めもしなかった道路にマリーナシティへ遊びに行く車が走り回る環境が出現する。極力都市化の影響を排除するという県の方針と完全に矛盾する方針であります。
 道は農業のためにも役立つという説がありますが、机の上で引かれた一本の線によって農地を削り取っていくものでもあるわけであります。そういうことはあってはならないはずではありませんか。そして、それによって実際に営農危機に陥ろうとしている農家もあれば、専業農家としての将来の夢を破られようとしている方々もおられるのです。
 関係当局に質問をいたします。
 このような農地削減策は従来の農業振興策と矛盾していると思われるが、農業振興の立場からどう考えておられるか。
 農業振興の立場から、個々の農家の現状とシーサイドロードの影響や将来について、和歌山市あるいは県として調査をしたことがあるかどうか。
 また、当該地の農家は和歌山市近郊農業として最優良の地と目されておるところでありますが、今後いかなる方針で臨むつもりなのか。
 以上の点についてお答えをいただきたいと思います。
 続いて、不況の問題についてお伺いいたします。
 不況対策については昨日からもお尋ねがありまして、やや重複する点があるかもわかりませんが、私も別の角度から言及したいと思いますので、ある部分の重複についてはお許しをいただきたいと思います。
 不況克服への一つの重要なプロセスとして、国民の購買力をどう向上させるかという課題があります。そして、それと直接連動する課題として税制の問題があります。政府税調の答申が出されましたが、これが果たして国民の購買力を高め得るものなのかどうか。政府案としてまだ固まったものではありませんが、答申の方向で改正されることがほぼ予測されますので、私なりに意見を申し上げて知事の所見を伺うものであります。
 政府税調の答申を踏まえますと、今回の政府の所得減税策は庶民にとって決して手放しで喜べるものではないと推察されるところであります。たとえ五兆円規模の減税でも、自営業者や農家はほとんど完全に減税ゼロ、労働者、サラリーマンの圧倒的多数もほとんど減税の恩恵がないと試算されるところであります。
 どこで減税されるかと言えば、答申によれば、収入の多い人にしか適用されない最高税率を所得税、住民税合わせて一五%も引き下げるとしておりますが、この部分は実に大幅な減税になる。全世帯のわずか〇・三%の年間所得五千万円以上の高額所得者だけで五兆円のうちの二兆円が減税されることになり、和歌山県民にとっても、ごくごくわずかな方だけが大幅減税、そして一般にはほとんどゼロまたはスズメの涙以下ということが予想されるところであります。
 そしてまた、答申が減税と消費税アップを一体的に成案化すべしとしている点についても、国会質問に対して政府はそれを否定せず、消費税アップが示唆されました。消費税アップが何%になるかは明らかではありませんが、例えば今の三%から六%にすれば七兆円の増税、七%にすれば九兆円の増税となり、たとえ五兆円の所得減税を差し引いても二兆円あるいは四兆円の増税となる計算になります。しかも、消費税は収入が低いほど負担は重くなるという逆進性があり、庶民は逆に増税に悩まなければならないという可能性があり、国民の購買力を高めるという方向とはまるで逆の方向、つまり不況克服とは逆の方向に進んでいくことになります。
 このような一部高額所得者優遇の所得減税策ではなく、圧倒的多数を占める庶民の懐を潤す減税策に改めるとともに、消費税のアップについては断固やめるべきであると思うわけでありますが、県民生活の向上を願う立場から知事の所見をお伺いするものであります。
 私は、過去二回にわたって二つの面から県政としての不況対策、あるいは県下の地元業者の育成優遇措置を求めて質問をいたしました。金融対策等では一定の前進をされたことについては評価し、関係部局の労に謝したいと思うのでありますが、まだまだ県民の要望にこたえ得るところまでは残念ながら届いていないというのが実情であります。
 まず、金融対策について要望し、質問をいたします。
 最近、業者間でよく話が出てまいりますが、借りた金を返せない悩みであります。仕事が回ってこない、事業を営む者は、働けさえすれば必死に働いて返すべきものは返すという程度の倫理はみんな持ち合わせておるが、それでも返せない、こういう事態があちこちで起こっております。私にも相談を持ちかけられることがあります。制度融資については、何とか返済期間の延長あるいは一定期間の猶予を認められないか、そういう願いが切であります。いかがなものでございましょうか。
 あるいはまた、こういう悩みを持っておられる方々は新たな運転資金を借り入れる道がなくなっているわけですが、この際、低利・長期の県独自の新たな融資制度を創設できないものでしょうか。既存の制度から見放されながらも、あと一息つけば再生できると頑張っている中小零細企業への温かい援助の手が今こそ県当局によって差し伸べられるときではないでしょうか。お答えをいただきたいと思います。
 また、昨日も質問がありましたが、銀行その他の公的金融機関に対し、貸し渋りをやめさせるよう、実効のある行政指導あるいは手だてを一層求めるものであります。一片の通知で貸し渋り病は治りません。金融業界がバブルのツケの回収に大わらわになり、それなりに必死になっているときでしょうが、金融業界に課せられた社会的責任を明確に自覚させるべく一層手だてを強めていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
 昨日の答弁で、県当局の働きかけもあり、二行が低利融資を開始したとのことであります。それ自体結構なことですが、窓口は開いても中で締めるということのないように、一方では貸し渋りが経営方針となっている面もありますので、よろしく今後の対応を重ねて求めるものであります。
 次は、仕事を地元企業にという要望であります。
 県の発注する公共事業が県外大手に元請され、その大きな利益が和歌山県域に回収されない現状があることを二月の議会で取り上げました。実際、コスモパーク加太やマリーナシティ事業、教育三館の建設が圧倒的に県外大手ゼネコンの仕事となり、県内中小企業への下請受注も少なかった事実は、県の公共事業が必ずしも県域にその益が回っていないことを示していました。従来から当局は、可能な限り県下の企業に仕事をという意向を語ってはおりましたが、実際はなかなかそのようになっておりません。笑い話に出てくることでありますけれども、和歌山県下のある公共事業の竣工式に配られたお祝いのまんじゅうに駿河屋さんの印がついていたが、よく見ると大阪店からの買い入れだったという話が語られます。このこと自体、別に大層な話ではありませんが、こんな小さなことが積み重なって一つの事業が成り立っているのであります。民間企業の活動に微に入り細にわたって行政が口を挟むことは、ある面では望ましいことではありませんが、現今の不況下にあってその存立さえ危ぶまれている零細企業が必死に訴えていることに耳を傾け、相当きめの細かい指導が必要とされているのではないかと思います。
 以下、項目別に質問をいたします。
 一番目、県の発注する事業や物品の購入に県内業者を最優先していただきたいと思います。この点については企業の能力等で限界のある点もありますが、分離発注等を含め、可能性をきめ細かく追求してほしいと思いますが、いかがでしょうか。
 二番目は、元請が下請に出す場合です。この点については、元請業者に対し、下請さすには県内業者を最優先させるということを単に指導するというだけでなく、半ば義務づけるという必要があろうかと思います。県外大手、特にゼネコンと称せられるようなところはそれぞれ子飼いの下請企業を持っており、県外から下請を従業員ごと連れてくるというケースも間々あります。そういうことではなく、あくまでも和歌山の公共事業は和歌山の業者でという立場で、元請と下請との関係においても貫いていただきたいと思うものであります。したがって、その際、一次下請にとどまることなく末端下請業者まで追跡調査をされることが必要となりますが、そこまでやっていただけるかどうか。お願いをしたいと思います。
 また、その過程で単価がどんどんと削られて、不当に低く抑えられてしまう例も少なくありません。実際に事業する企業に正当な営利が保証されなくてはなりませんし、公共事業の質を確保していく上でも重要なことでもありますから、その点もしっかり掌握する必要があろうかと思いますが、その点についても手だてを講じていただきたいと思うのであります。
 第三番目の問題ですが、公共工事以外の事業、大手の民間の事業についても、和歌山県下における事業を下請するに当たっては、可能な限り県下の下請企業や業者に優先発注させるよう行政指導されたいと思うのであります。民間企業の民間の事業でありますから、行政指導もおのずから限界のあることは十分承知の上でありますが、あらゆる部門を通して県下の中小零細企業の発展を望む立場から要望いたします。
 以上の点について答弁をお願いいたします。
 次に、同和問題について幾つかお尋ねをいたします。
 特別法制定以来この二十四年間に国では約三兆六千億円の予算措置がなされ、本県でも九千億円にも及ぶ同和対策事業が実施される中で同和地区の生活環境は大きく改善され、地区内外の格差が基本的に解消したと言える状況に近づいたと考えます。その結果、職業、居住、結婚などで差別を取り除き、社会的交流を拡大する方向が進み、部落解放への客観的条件が成熟してまいったと私は思います。
 例えば、最も難しいと言われる結婚問題でも、一九八八年実施の県同和委員会の意識調査報告を見れば、二人とも同和地区生まれの夫婦の全体に占める割合は、五十歳代で七〇%、六十歳代では八〇%と高率であるのに対し、三十歳代では三四%、二十歳代では一七・九%と激減いたしております。つまり、現在では新婚家庭のうち八〇%近くが部落差別の障壁を乗り越えて結ばれていると言えます。
 もちろん、こうした変化も部落差別が全くなくなったことを意味するのではなく、高校進学や産業、職業面で依然として格差の残っていることも事実であり、差別事象も根絶したわけではありません。しかし重要なことは、これら今なお残された格差も、今日ではすべての同和地区に共通で固有な現象というのではなく、一部の地域や階層だけに見られる現象に変わってきていることだと言えるでしょう。したがって、これらの課題の解決は同和行政としてではなく、例えば進学率の向上については行き届いた教育をどう進めるかという教育行政の中で、産業、職業問題については一連の経済対策の中で、生活、健康問題については福祉施策の充実の中でといったぐあいに、経過的措置は当然とることを前提に、一般行政の水準を引き上げる中で解決すべき性格のものになってきていると思います。
 また、今なお差別事件が発生することをもって根強い差別の存在を主張する方々もおられますが、極めて限られたものとなってきつつあるのも事実であります。また、差別発言の根絶はなかなか難しい課題ではありましょうが、たとえ差別事件が根絶できていなくても、その差別者を地域社会で自発的に厳しく批判したり、そういう考え方を不心得な考え方として孤立させてしまうような人権意識の高い地域社会をつくることができるならば、その段階で差別発言をも根絶することができるのですから、それはそれで部落問題を解決した社会と言えると私は考えます。
 私たちは、二十一世紀へ差別を持ち越さないというスローガンを掲げていますが、このような視点に立つならば、近い将来において部落差別の問題を完全に解決できる明るい展望が開けていると信ずるものであります。
 ところで、仮谷知事も参加してこられた昭和六十一年十二月の地対協意見具申では、部落差別の現状認識について、「同和地区の実態が大幅に改善され、実態の劣悪性が差別的な偏見を生むという一般的な状況がなくなってきている」とした上で、「今日、差別意識の解消を阻害し、また、新たな差別意識を生む様々な新しい要因が存在していることが挙げられる。近代民主主義社会においては、因習的な差別意識は、本来、時の経過とともに薄れゆく性質のものである(中略)しかし、新しい要因による新たな意識は、その新しい要因が克服されなければ解消されることは困難である」として、早急に克服すべき今日的課題として次の諸点を挙げています。第一に行政の主体性の欠如、第二に同和関係者の自立・向上精神の涵養の軽視、第三にえせ同和行為の横行、第四に自由な意見交換の潜在化──「潜在化」とは潜んでしまうという意味であります──の四点を挙げております。
 また、今後の地域改善対策のあり方として、「地域改善対策は、永続的に講じられるべき性格のものではなく、迅速な事業の実施によって、できる限り早期に目的の達成が図られ、可及的速やかに一般対策へ全面的に移行されるべき性格のものである」ことを強調しています。
 現在、県政に対しても部落差別撤廃条例の制定の要望もありますが、以上のような歴史的経過から見れば、あえてそのような条例は必要ではないと私は考えるものであります。永久的条例をつくることは、逆に部落差別が着実に解決に向かっている現状にある中で部落差別の根深さのみを一面的に強調することになり、部落問題を半ば恒久的に固定化することになってしまうのではないかと危惧するものであります。そして、ひいては同和問題や施策に対して県民の自由な意見交換や批判をもしにくくさせるのではないかとおそれを抱くものであります。
 求められている条例の内容は定かではありませんが、条例制定を求められる方々の発行したビラによりますと、その第二項に、部落差別撤廃に関する諸施策に協力するとともに差別や差別を助長する行為の禁止ということが挙げられています。しかし、本来、同和行政のあり方をめぐってさまざまな意見を交換できる環境づくりにこそ行政は努力すべきであって、施策に対して条例で協力を義務づけたりすることなど、許されることではないと考えるものであります。また、差別や差別を助長する行為の禁止なるものも、自由な意見交換のできる環境づくりと啓発によって初めて可能になるものであって、条例による法的規制は残存する差別意識さえ潜在化させる事態を生み出し、部落差別の解決をおくらせてしまうのではないかと危惧いたします。
 ところで、最近、大分県の三重高校、福岡県の小郡中学校の校長が生徒の発言についての確認会に関連して自殺するという痛ましい事件が報道されておりました。民間団体等による確認会等の行為については、六十一年八月の地対協基本問題検討部会報告では、「差別行為のうち、侮辱する意図が明らかな場合は別としても、本来的には、何が差別かというのは、一義的かつ明確に判断することは難しいことである。民間運動団体が特定の主観的立場から、恣意的にその判断を行うことは、異なった意見を封ずる手段として利用され、結果として、異なった理論や思想を持つ人々の存在さえも許さないという独善的で閉鎖的な状況を招来しかねないことは、同和問題の解決にとって著しい阻害要因となる」と指摘しています。条例による同和施策への協力の義務づけや、差別的行為とそれを助長するものの禁止を条例として明文化することは、地対協部会報告が言う独善的、閉鎖的な、はたまた行き過ぎた確認会なども法的に正当化してしまう危険を内包するのではないかと私は危惧するのであります。
 また、条例によって同対事業の推進が義務づけられれば一般行政への移行ということも困難になり、また議会での審議権をも制約するおそれがあり、現行法の失効後においては県財政に過重な負担を課することにもなりかねません。
 全解連の機関誌「解放の道」というのがここにございます。十一月五日号でありますが、これに総務庁の地域改善室長が全解連との交渉の中で語った言葉が報道されています。
 「条例がどんどんできると大変なことになると私も同様の気持ちを持っている」、「徳島県では制定しないのが三市町村だけ残っている。徳島県で条例制定しなければいけない特別の事情があるのか。そうしたことが充分審議されているのか疑問」、「二十四年間の同和対策でかなりの成果があがってきている。かなり改善されてきている今の時期に、まるでこれからスタート台にたつような条例、これから同和対策をやるというような条例が必要なのか疑問」、「恒久条例であることから、差別をしてはいけないことが条例で示され恒久化してしまうことは、本当に同和問題の解決につながるのか、疑問」、「同和対策はこれまで国と地方公共団体が車の両輪となって進めてきたが、今回の条例は地方一車輪で行うことになる。同和問題は国の責任と厳しくいわれてきて、国と地方公共団体が一緒にやらなければならない仕事と考えているが、これまでの方針がどのように整理されるのか疑問」、「以上のような疑問から、私としては『部落差別撤廃条例』と称するものについて反対である」、このように紹介をされております。
 以上、るる述べてまいりました観点に立って、まず知事に質問をいたします。
 本県としては、現行法の五年の期限を待たずに三年以内に主な同和事業を完了させ、あとの二年は一般行政へ移行のための調整期間とするよう聞き及んでいますが、このことの真偽とともに、知事としての本県同和行政の到達点をどのように評価し、今後の同和問題の解決についてどのような展望と対策を持たれているのか、お尋ねをいたします。
 また、先ほど総務庁地域改善室長の条例問題に対する姿勢について紹介いたしましたが、知事として、また同和委員会会長としてどのような所感をお持ちになるか、お尋ねをいたします。
 続いて、教育長にお尋ねをいたします。
 かつては八鹿高校事件、矢田事件というような教育に関する重大な事件がありました。今回、三重高校、小郡中学校の事件について紹介をいたしましたが、県教委はこの問題についてどの程度状況を把握しておられるのか、教育現場でいろいろな不安も生まれてきていますので、この際、運動団体などの教育介入を許さない確固たる姿勢をお持ちなのかどうか、お示しいただきたいと思います。
 相当早口で質問をいたしましたのでお聞き苦しい点があったかと思いますが、これで私の第一問を終わらせていただきます。
○副議長(町田 亘君) ただいまの鶴田至弘君の質問に対する当局の答弁を求めます。
 知事仮谷志良君。
  〔仮谷志良君、登壇〕
○知事(仮谷志良君) 鶴田議員にお答え申し上げます。
 米の輸入自由化の問題でございます。
 この議場でも申し上げましたように、これまでも全国知事会を通じて輸入自由化阻止を強く要望してまいっておりまして、県議会から意見書が提出されてきたところでもございます。
 ガット新ラウンド農業分野のドゥニ議長から示された最終調整案の骨子によりますと、最低輸入量いわゆるミニマムアクセスを引き上げることによって六年間関税化を実施しないという内容となっているようでございます。したがいまして、これを受け入れるとすれば、日本農業はもちろんでございますけれども、本県の稲作農家にとっても大変厳しいものと受けとめておりまして、今後とも国の動向を注視しながら、引き続き国内自給の堅持を国に強く要望してまいりたいと思っておる次第でございます。
 それから、不況対策の中での政府の減税策と消費税についてでございます。
 十一月の政府税調において答申がなされましたが、所得・消費・資産の間でバランスのとれた税体系の確立、また広く負担を分かち合って公正で活力のある高齢化社会の実現ということが言われておるわけでございます。
 私としましても、景気が低迷している中でございますので、県民生活、国民生活について十分配慮して、税の根源である公平な税制ということについて十分検討していただくことを期待しております。
 いずれにいたしましても、国政の最重要事の一つであると思いますので、税制改正については今後国会で十分に審議をしていただきたい、そしてこれを見守っていきたいと思っております。
 次に、同和問題についてでございます。
 本県の同和行政の到達点と今後の同和問題の解決につきまして、県においては同和行政の重要性にかんがみ、昭和四十年に出された同対審答申の理念に基づいて本県の地域性に即した総合計画を策定し、同和対策事業を推進してまいっているところでございます。その結果、住環境整備を初めとして教育面や就労面においても改善向上が見られ、また県民の同和問題に対する理解、認識の点においても大きな進展が見られたと存じております。
 なお、残された物的事業については早期に着手できるように市町村とも十分協議し、また産業就労対策、教育啓発等の非物的事業についても法期限内の完遂を目指して全力を挙げて取り組んでいるところでございます。
 しかしながら、解決困難な課題も残されております。今後の同和対策の推進について、総務庁の生活実態調査や本県独自で実施予定の調査結果を踏まえて研究・検討してまいりたいと思っております。
 それから、総務庁地域改善対策室長からの条例問題についての見解でございますけれども、私、聞いておりませんので、答弁は差し控えさせていただきます。
 なお、総務庁の附属機関である地域改善対策協議会においては総括部会が設置され、今後の同和問題に関する基本的な課題について協議がなされますし、また各関係府県の実態調査にも参っておるようでございます。
 他の問題は、部長から答弁いたします。
○副議長(町田 亘君) 農林水産部長野見典展君。
  〔野見典展君、登壇〕
○農林水産部長(野見典展君) 鶴田議員にお答えいたします。
 米問題についてのご質問のうち減反政策についてでございますが、計画的な米の需給安定と食管制度の維持から、やむを得ない措置と考えてございます。
 次に、和歌山における減反についてでございます。
 平成六年度より転作目標面積が緩和されることから、地域の農業者の水稲作付に対する意欲や意向を重視した転作配分を行う中で、地域の実態に即した良質米の作付を指導してまいります。
 次に、米づくりの意欲向上策についてのお尋ねでございます。
 近年、良質米志向が高まる中で、特色ある米づくり運動を展開するとともに、コスト低減に向けた効率的な米生産を指導しているところでございます。
 次に、シーサイドロードによる農地の減少と農業振興についてのご質問でございます。
 農地の利用につきましては、都市計画と農業との調整を図り、農用地の保全に努めることを基本に、地域の発展と農業への影響を考慮し、市町村や農業委員会等の意見を聞きながら対応しているところでございます。
 今回のシーサイドロードにつきましては、公共性が高く、農地の集団性に配慮した計画であり、農地の減少など、農業への影響を最小限にとどめたものと考えてございます。
 次に、地権者農家の現況と将来についての調査についてどうかというお尋ねでございます。
 農林水産部といたしましては、シーサイドロードの建設に関し、調査は行ってございません。しかしながら、地域の生産動向や経営状況等については、農業改良普及所、和歌山市、農業協同組合を通じて把握してございます。
 次に、当該地域の将来展望についてのお尋ねでございます。
 当布引地域においては、施設園芸を中心に、都市近郊農業として、より一層収益性の高い農業経営がなされると期待してございます。県といたしましては、各般の施策を活用しながら農業経営の安定が図られるよう努めてまいりたいと考えてございます。
 以上でございます。
○副議長(町田 亘君) 商工労働部長吉井清純君。
  〔吉井清純君、登壇〕
○商工労働部長(吉井清純君) 金融対策についてお答えをいたします。
 金融制度における返済期間の延長につきましては、現在の制度上ではございませんが、国に対し機会あるごとに強く要望を行っているところでございます。
 中小企業者を取り巻く経営環境は依然厳しいものがあり、今後、県としても関係機関と検討してまいりたいと考えてございます。
 次に、金融機関に対する指導につきましては、本来大蔵省の業務でありますが、中小企業者の厳しい経営状況を踏まえ、政府系を含む県内に店舗を持つ金融機関の代表者の皆様方に一堂に会していただき、中小企業者の皆さん方の生の声をお伝えしながら今後の金融のより一層の円滑化に取り組まれるようお願いし、知事からの要請も行ったところでございます。
 また、低利・長期の県独自の新たな融資制度の創設につきましては、県としても、景気の低迷が長引き、中小企業にとっては売り上げの減少を来すという厳しい経営状況を踏まえ、平成五年度当初予算において低利の緊急経営資金特別融資を新たに創設し、実施してきているところでございます。この融資実績は、十月末現在、件数で三百二十件、融資金額で三十九億二千四百万円となってございます。今後も、景気動向、県融資制度の活用状況など十分注視し、中小企業金融の円滑化を図ってまいりたいと考えてございます。
 以上でございます。
○副議長(町田 亘君) 土木部長山田 功君。
  〔山田 功君、登壇〕
○土木部長(山田 功君) 不況対策の中の、中小企業に仕事をということでお答えを申し上げます。
 県内業者の育成については最重点に考えております。トンネル工事、ダム工事、大型港湾工事など、高度な技術力、豊富な経験、資金力が必要な工事等に限って県外大手業者に発注をしておるところでございます。
 県内業者への下請でございますが、去る九月二十九日付で県内に支店、営業所を有する県外大手業者に対しまして、土木部長、農林水産部長、企業局長の連名で、下請業者の選定に際しては県内業者を優先して受注できるよう依頼をしたところでございます。
 また、県内大手業者につきましても、県建設業協会を通じて、機会あるごとに同様の趣旨の徹底を図っておるところでございます。
 なお、正当な単価で下請をされているかということでございますが、下請代金の決定につきましては、元請業者と下請業者との契約により決められるべき性格のものでございます。県といたしましても、下請契約に当たっては標準約款を利用するよう、工事発注の際、元請業者の指導を行っておるところであります。
 また、県発注の追跡調査でございますが、県発注の建設工事だけでも平成四年度に五千四百二十四件ございまして、これが重層下請となってございます。その他、これに付随する測量設計等の委託業務もございます。
 このことも踏まえて、追跡調査についてはいろいろ研究をいたしましたが、難しい問題がございます。しかしながら、議員ご指摘の趣旨を踏まえ、例年実施している建設業許可業者を対象とした入札参加説明会において、元請業者に対し、下請負人の保護あるいは下請代金の支払い、雇用条件の明確化等、具体的なきめ細かな指導を行ってまいりたいと存じます。
 以上でございます。
○副議長(町田 亘君) 教育長西川時千代君。
  〔西川時千代君、登壇〕
○教育長(西川時千代君) 同和教育にかかわって二点についてお答えいたします。
 大分県の三重高等学校、福岡県の小郡中学校の件については、新聞等を通じて承知してございます。
 次に、差別事象が発生した場合でございますが、和歌山県同和教育基本方針第八項に、「関係者はもとより、関係者の所属する機関や団体などが責任をもって処理にあたるとともに、すべての人々がみずからの問題として、その事実を正しくとらえ、同和教育をいっそう前進させる機会とするようつとめる」と明示してございます。
 教育委員会といたしましては、同和教育を進めるに当たって、差別の事実に即し、立場や考え方の違いを超えて一致点を見出し、実践に努めるよう指導しているところであり、特定の運動団体による教育への介入といった事実の報告は受けてございません。
 以上でございます。
○副議長(町田 亘君) 答弁漏れはありませんか。──再質問を許します。
 25番鶴田至弘君。
○鶴田至弘君 それでは、要望をもって再質問をさせていただきます。
 不況対策についてでございます。
 地方自治体が行う不況対策というのは、国と違っておのずから限界を持っているわけでございますが、さしあたり県民が頼りにしているところというのは地方自治体でございます。金融対策の問題についても、新たな制度融資など、今直ちには困難であろうかと私もわかるわけでございますが、どうかひとつ、そういう制度を創設されることによって今塗炭の苦しみにあえいでいる中小零細業者の方々に救いの手を伸べられるよう、ぜひとも格段の努力をお願い申し上げたいと思います。
 公共事業につきましては、土木部長の答弁にもございましたように、かつてから一定の努力はされておることを私も承知いたしておるところでございますが、しかし、必ずしもなかなかそううまくいっていないという問題がございます。やはり、きっちりとした追跡調査を何とかしてやっていただきたい。すべてではなくても、抽出してでもやっていただいて、県が発注した公共工事がどの程度県民の手によって進められているかというところも点検をしていただきたいと思うんです。そういうことによってこそ、初めて県の発注工事が県益に資するということが明確になってこようかと思います。
 今回も相当額の補正をもって不況対策のための公共工事を組んでおられます。それはそれとして是としながらも、それが一層効果を発揮するような後の努力を重ねていただきたいとお願いをする次第であります。
 シーサイドロードの問題について、一言だけ申し上げておきます。
 私は、同じことをもうこの議場で三回申し上げました。しかし、前提としての民主主義の問題が欠落いたしておりますので、一番最初にかけ違えたボタンからだんだんとそのそごが大きくなってきています。やはり、農民の声を聞く、地権者の声を聞くという一番最初の原点に今からでも戻ることが大切ではないかと思うわけです。
 農林水産部長からの答弁がございました。しかし、この事業認定に当たっては、農林水産部には何ら声がかけられていないという状況であります。これは、法体系としてそういうことをしなくてもいいということになっているらしいのでありますが、しかし地権者のことを思えば、事業認定に当たってはそのくらいのことは当然あってしかるべきだと、私はごくごく常識的な考えでそういうふうに思います。したがって、最初の原点に戻って、地権者との話を抜きにした強制収用などということは絶対やめるべきだと思います。これは起業者が和歌山市でありますが、事業認定は和歌山県がしているという前提でひとつ県の決断をお願いしたいものであります。
 同和行政につきましては、困難な事業もあろうかと思いますが、もうあと一歩というところに来ていると私は思います。当局の皆さん方は法期限内に完全解決ができるように今後一層の努力を強められ、一日も早く一般行政への移行が可能になるような状態をつくり出していただくことを心から切望いたしまして、私の第二問を終わります。
○副議長(町田 亘君) ただいまの発言は要望でありますので、以上で鶴田至弘君の質問が終了いたしました。

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