平成5年2月 和歌山県議会定例会会議録 第7号(中村裕一議員の質疑及び一般質問)


県議会の活動

 午後一時四分再開
○副議長(大江康弘君) 休憩前に引き続き、会議を開きます。
○副議長(大江康弘君) 質疑及び一般質問を続行いたします。
 2番中村裕一君。
 〔中村裕一君、登壇〕(拍手)
○中村裕一君 質問に先立ちまして。去る九日に行われた木下秀男県会議員の日高港の質問に対して、大変積極的にご答弁をいただきました。日高港の推進に精いっぱい頑張っている者の一人として、この際お礼を申し上げるとともに、あわせて今後の一層のお取り組みをお願いしておきたいと思います。
 それでは、質問に入らせていただきます。
 ことし一月一日、朝日新聞は、京大の安藤雅孝教授の説として、定期的に起きている南海地震が次回は早まって二十一世紀初めに起こるとし、今後、前ぶれ地震が西日本で多発するので、観測体制を強化して予知を成功させたいとの談話を報じました。
 古くは地中のナマズが暴れるという時代もありましたが、ここ二十年で地震計の向上、観測体制の近代化により、地震学は画期的に進歩を遂げました。おかげで、今日では地震のメカニズムも明らかになり、大規模なプレート運動などによって地球内部にひずみが蓄えられ、やがてそのひずみが岩石の強度を超えると急激な断層運動が生じ、そのときの衝撃が地震波を発します。そして、四方へ放たれた地震波が地表に到達して地震を引き起こすと説明できるようになりました。それだけではなく、地震の大きさの決め手となる断層運動の長さ、幅、ずれ、方向、さらには断層の一部分までも解析できるようになりました。一つ一つの地震の顔まで見えるようになったのであります。そして、この地震のエネルギーの源となるプレート運動も、プレートテクトニクスという理論で説明されます。
 それによりますと、地球の表層部はひび割れた卵のように十数枚の殻、つまりプレートに分かれていて、このプレートがひび割れて、どんどん生まれてきて移動し、反対側では別のプレートの下に潜り込み、マントルの中に消えていくという運動をしております。プレートの移動距離は年間数センチにすぎませんが、百年もたつと数メートルにもなり、プレートの潜り込むところではプレート同士が押し合ってひずみを地中に抱え込みます。その間、小さな破壊、つまり微小地震は絶えず起きますが、大きなひずみが一気に解放されると巨大地震になります。このような巨大地震が南海地震であります。これは、フィリピン海プレートがユーラシアプレートに潜り込むところ、南海トラフと呼ばれる海底の谷で起こります。南海トラフは、沖縄の方から駿河湾まで伸びている巨大な地震の巣になっております。普通、プレートの移動はほぼ一定で、しかもプレートの強さもそう変わらないので、地震は大体定期的に起こります。
 南海地震の場合、古文書や遺跡の液状化跡で確認されているのが六八四年から前回昭和二十一年までの十回で平均百五十年周期になりますが、ここ四百年ほどは百十年周期に縮まっており、おまけに南海地震は東南海地震とセットで起きることが確認されております。ただ、地震は自然現象ですから機械のようにはいきませんので、早くなったり遅くなったりすることもあります。
 安藤教授の説では、前回は反発力が約九十年で蓄えられたが、地震は一八五四年の前々回に比べ規模を示す津波の高さが三分の一、余震の回数が五分の一に減った、これは反発力を使い切らなかったためで、次に地震を起こすのに百十年もかからない、前回の断層のずれがどれだけあったかを津波の高さや余震の回数から推定し、次の地震までの周期は断層のずれの大きさに比例するという予知のモデルに当てはめると、次回は前回から約七十年後になった、そして、南海地震では発生の約二十年前から南海トラフの動きが活発になり、西日本で地震が多発するので、そろそろ注意が必要だとのことです。
 これに対して東大の溝上恵教授は、地震予知は技術的に難しい、この説のとおりになるとは言えないとしながらも、南海トラフはこれから活動期に入ると考えられる、注目していきたいと述べておられます。
 恐らく、南海地震は、遠い過去から今日まで、何万回、何十万回も繰り返されてきたはずであります。この長い地球の歴史に比べれば、我々の一生はほんの一瞬であります。しかし、一瞬であるがゆえに、いつ地震が起きるかを探究するのは人間の本能のようなもので、いつ地震が起きるかを知り、それに備えたいという思いが地震予知を進める原動力になっております。
 今日、我が国においては、世界トップレベルの地震学を基礎に、地震予知に関する情報交換と総合的検討を目的として地震予知連絡会、通称予知連が設置され、地震予知事業に取り組んでおります。そして、重点的に推進すべき地域として、観測強化地域二カ所、特定観測地域八カ所を指定しており、特に東海地域は法に基づいて地震防災対策強化地域判定会を設けて強力に短期的予知を進めております。しかし、これでも万全とは言えません。記憶に新しい、あのサンフランシスコに多くの被害をもたらしたロマプリータ地震は、観測強化地域の隣で起きた地震であります。これと同じことが日本でも起きはしないかと心配いたします。まさに起こると予測され、皆の目が行っている東海地震は、南海地震と同じ南海トラフの東方で起きるとされております。しかも、その理由の一つは、前回の東南海地震の際に駿河湾では断層運動がなかったというものであります。
 本県においては、幸か不幸か紀北地方は特定観測地域に含まれているものの、肝心の紀南地方は入っておらず、観測体制が十分整っているとは言えない状況にあります。この際、観測体制のさらなる強化を強調しておきたいと思います。それでも、残念ながら地震は必ず起こります。
 ここで、東大地震研究所の阿部勝征教授の著書、「地震は必ず来る」の一節をご紹介しておきます。
 地震は、他の天然の現象と同様にしかるべくして起こり、かつ合理的な意味を持った自然現象。ただ、私たちのような有機生物の営みのスケールをはるかに超えた事象であるために、まずは恐怖、不安を覚えざるを得ない。
 しかし、科学の進歩によって、地震はもはやえたいの知れない怪物ではなくイメージできるものになっている。そして、そのロジックもわかり、その様態もわかってきた。このように地震を感じ、理解しようとする努力が今後は一般の人々にも必要で、常識として地震の本当の姿が入ったときに初めて地震の災害をある程度減らせるでしょう。特に、政治家や行政担当者が地震の本当の姿を知ったら、そのために何万人という人々の生命が救われるでしょう。
 地震学は、学者だけのものではなく、地震ごとの個性的な顔を浮かび上がらせることができるようになった、いわば地震に対する透視術を皆に知ってもらい、その上で家族や社会の安全を考えるべきです。残念ながら、日本という国は地震から逃れることはできません。それなら、いっそのこと知り合いにあり、よく理解して、こちらがその犠牲にならないように注意することに心がけたらどうか。
 と提案されております。
 幸い、私たちにはまだ多少時間があります。来るべきその日に備えて、私たち自身がやっておかなければならないことに今から取り組んでいこうではありませんか。「災害は忘れたころにやってくる」という言葉がありますが、私は来ることを忘れずに備えておけば災いは天災になりにくいと考えます。まさに、「備えあれば憂いなし」です。しかし、私たちの持っている防災計画は、残念ながらその十分な備えにはなっていないと思うのであります。まず、地震は必ず起きるという根本的な認識に立ち、起こり得るあらゆる場合を想定した戦略を用意し、それの調査を行い、その結果に基づいた具体的な基本計画を早急に立案すべきであります。そして、物理的に長い期間をかけなければ達成できない建設事業の基礎としなければなりません。また、市町村、県民といった実際の現場にいる人々に知らしめ、役立つようにしなければなりません。さらに、計画がうまくいっているかどうか、常にチェックせねばと考えます。
 ことしは、国際防災の十年の四年目であります。本県では、夏に世界各国よりその権威者を集めて津波のためのシンポジウムも開催されるやに聞いております。
 そこで知事に、地震、特に南海地震についてのご認識、今後のお取り組みをお聞かせいただきたいと思います。
 また、一朝一夕では達成できない建設事業においてどのように備えていくのか、そしてあらゆる場面で最も大切な県民の防災意識の高揚をどのように図っていかれるのか、ご答弁をいただきたいと思います。
○副議長(大江康弘君) ただいまの中村裕一君の質問に対する当局の答弁を求めます。
 知事仮谷志良君。
 〔仮谷志良君、登壇〕
○知事(仮谷志良君) 中村裕一議員にお答え申し上げます。
 地震の防災対策についてでございます。
 南海道地震の起きる周期についてお話ございましたけれども、いろいろの説があるわけでございまして、先般の能登半島沖地震のように比較的地震の少ない地域においても発生しておるわけでございます。日ごろから地震に対する備え、対策を講じておくことは大切でございます。
 県では、昭和五十七年に県の防災会議に地震部会を設けました。それから、昭和五十八年度から五カ年計画で災害想定や地質、津波調査を行いました。この結果を踏まえて、平成元年度に県地域防災計画地震対策編を策定し、県と市町村、公共機関、公共団体等、関係機関の防災業務の実施責任を明確にし、関係機関が一体となって地震災害に係る災害予防、応急対策及び復旧対策を講じているところでございます。
 また、情報伝達体制の整備については、平成二年七月に県の防災行政無線を整備したところでございまして、市町村の防災行政無線の整備の促進と相まって、情報伝達体制の確立を図っているところでございます。今後とも、南海道地震を初めとする地震に備え、県民への効果的な啓発や自主防災組織の育成強化、また防災施設の整備等、総合的な震災対策を進めてまいりたいと思っております。また、ことしは世界の地震のフォーラムを和歌山県で開催していただいて、世界からのいろいろな知恵を承りたいと思っておるところでございます。
 私の友人で、ある地震の学者が、和歌山も南海地震に気をつけなさいよと言われておるわけでございます。学問的問題は別として、漁業者の皆さん方は天体異変というものに非常に敏感な才能を持っておる、だからそうした漁業者の言動等を聞いて天体の動きを知るということは予測する上において極めて重要ではないかと言われておるわけでございまして、防災対策について十分配慮してまいりたいと思っております。
○副議長(大江康弘君) 土木部長山田 功君。
 〔山田 功君、登壇〕
○土木部長(山田 功君) 建設事業の取り組みについてお答えを申し上げます。
 建設事業を進めるに当たっては、地震を初めとして安全、防災は最も基本的な問題であると考えております。
 まず、地震に強い施設づくりでございますが、ダム、橋、ビル等の構造物は、設計、施工の際に過去の地震の経験に基づいて構造物の規模、重要性、さらに地域ごとに考慮すべき地震力が技術基準によってそれぞれ定められております。これに基づいて事業を実施しているところでございます。また、これらの技術基準は大地震の経験などを契機として順次改定をされてきております。さらに、既設の施設について安全であるかどうかという点の点検補修も大切なことでございます。例えば、一九七一年のロサンゼルス地震の経験を踏まえて、橋梁の一斉点検を行い、落橋防止工を実施する等の対策を行ってきております。さらに、万一、被災した場合の復旧工法の検討、改良なども技術の進歩を適切に反映してまいる必要があると存じます。
 次に、地震に強い地域づくりという観点も特に大切なことであろうと思います。急傾斜地崩壊対策事業、街路の拡幅、避難地としての都市公園の整備、避難路としての道路整備、キャブ事業による無電柱化の促進、広域的代替路確保のためのネットワークとしての道路整備など、まことに広範な事業が防災対策の基本として重要な役割を果たすものと考えます。今後とも、良質な社会資本施設の整備が地震対策として重要であるということを十分認識して、その推進に一層努めてまいりたいと存じます。
○副議長(大江康弘君) 総務部長山中昭栄君。
 〔山中昭栄君、登壇〕
○総務部長(山中昭栄君) 県民の防災意識の高揚についてでございます。
 地震対策といたしましては、県、市町村やその他の公共機関、公共的団体等の防災関係機関による防災対策の実施とともに、県民一人一人が日ごろから地震災害についての認識を深めて災害からみずからを守るとともに、お互いに助け合うという意識と行動が必要だと思います。こうした地震防災体制を確立するためには、平生から防災意識の高揚を図るとともに、初期消火への備えや応急救護対策など、必要な防災知識を普及、指導することも大切でございます。
 先般の釧路沖地震においては、住宅被害や道路の陥没、あるいは水道やガスといったいわゆるライフラインへの被害が数多くございましたが、火災は比較的少なく、火のもとに対しては冷静に対応されておりまして、反面、けがをした人が多いのが特徴とされております。
 こうした大地震があった場合に被害を最小限に抑えるためには、各家庭で日ごろから適切な行動をとれるように、落ちついて身の安全を守って火の始末を行う、また平時から家具などの転倒落下物の防止対策を講じておくといった心構え、また津波に対する避難等の対策など、一人一人が身につけておくことが必要だと思います。
 県においては、テレビ、ラジオ等による広報、講演会の開催を初めとして、起震車による地震体験、さらにパンフレット等による啓発活動を行ってきておりますが、これまでの教訓をもとに、さらにいろいろと工夫をして、今後とも効果的な啓発に努めてまいりたいと考えております。
○副議長(大江康弘君) 答弁漏れはありませんか。──再質問を許します。
 2番中村裕一君。
○中村裕一君 前回の南海大地震の被害をまとめた本の中に、直後の新聞報道が載っております。それを、ちょっと読ませていただきます。
 地震学者がかねてこの沈下現象その他からこの地震帯が再び活動期に入つたものとし、大地震の必然性を予言、新宮警察署にはすでに中央気象台から極秘の警告もあり、当局としては新築許可その他についても考慮を払つていたという。地元の人々も日一日とはげしくなる小地震の不安から、万一の場合の心の準備はすでに出来ていたようである。しかし、現実にこの「予知された災害」が襲つたとき、これだけの悲劇が生まれねばならなかつたことは、簡単に「不可能の運命」として片づけられない問題をふくんでいる。専門学者がその危険性を予言しても、行政官庁がその予防に万全の策をつくし得なかつたことは、理由の如何にかかわらず強く反省さるべきで、大阪気象台が一ケ月ほど前、田辺町に独立した地震研究所を設置する建議を政府に行なつたが簡単にはねつけられたことなど、政治における科学性の貧困を雄弁に物語つている。
 また新宮市の今回の大火災の原因は、なんといつても消火のための水道が停止してしまつたことで、大地震があれば当然火災の起ることは一応考えらるべきで、地震地帯の都市の非常対策として、水道以外の消火施設の速かな完成も、今後真剣に取りあげられるだろう。しかし予感を信じていたからこそ、まだ死傷者が割合に少なかつたわけで、新宮市の死傷はほとんど家屋倒壊のためのものであり、勝浦町では津波の来る前に整然と全員避難、犠牲者を皆無にしたことなど学ぶべきである。(中略)とまれ死であがなつた尊い経験を基礎に、科学者はもう一度徹底的なメスを加えるとともに、その結果をすみやかに予防、 復興対策に具体化すること、これこそ国民が惨禍の犠牲者にむくいる唯一の道であろう。
 と述べられております。
 このときの状況からすれば、今日は科学も非常に進歩しておりますし、土木技術も進歩しております。ただ、その土木技術の配置の仕方というソフトの方向ではまだまだ十分ではないのではないかと思います。
 南海大地震は、今まで述べてきたように、残念ながら定期的に必ず起こるわけであります。そして、今まで特に本県には大変被害をもたらしてきた地震であります。この忌まわしきサイクルを何とか断ち切るのが、今、私たちに与えられた課題ではないかと思います。
 県の防災訓練については、実は私は地震の素人ですし、防災学の専門でもありません。しかし、まだまだ課題はたくさんあると思います。どうぞ、今後ますます防災計画の充実と最も大切である県民の意識高揚に積極的に取り組んでいかれることを心から期待いたしまして、要望にさせていただいて質問を終わります。
○副議長(大江康弘君) ただいまの発言は要望でありますので、以上で中村裕一君の質問が終了いたしました。
○副議長(大江康弘君) お諮りいたします。質疑及び一般質問は、以上をもって終結することにご異議ございませんか。
 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○副議長(大江康弘君) ご異議なしと認めます。よって、質疑及び一般質問はこれをもって終結いたします。
○副議長(大江康弘君) 次に、ただいま議題となっております全案件は、お手元に配付しております議案付託表のとおり、それぞれ所管の常任委員会にこれを付託いたします。
 ──────────────────
○副議長(大江康弘君) 次に日程第三、請願の付託について申し上げます。
 今期定例会の請願については、お手元に配付しております請願文書表のとおり、それぞれ所管の常任委員会にこれを付託いたします。
○副議長(大江康弘君) 次に、お諮りいたします。三月十七日から十九日までは各常任委員会審査のため休会といたしたいと思います。これにご異議ございませんか。
 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○副議長(大江康弘君) ご異議なしと認めます。よって、三月十七日から十九日までは休会とすることに決定いたしました。
○副議長(大江康弘君) この際、各常任委員会の会場をお知らせいたします。
 職員からこれを申し上げます。
 〔職員朗読〕
 ───────────────────
 総務委員会 第一委員会室 
 厚生委員会 第二委員会室 
 経済警察委員会 第三委員会室 
 農林水産委員会 第四委員会室 
 建設委員会 第五委員会室 
 文教委員会 第六委員会室 
 ───────────────────
○副議長(大江康弘君) 次会は、三月二十二日再開いたします。
○副議長(大江康弘君) 本日は、これをもって散会いたします。
 午後一時三十一分散会

このページの先頭へ