平成元年12月 和歌山県議会定例会会議録 第3号(石田真敏議員の質疑及び一般質問)


県議会の活動

○議長(門 三佐博君) 質疑及び一般質問を続行いたします。
 20番石田真敏君。
 〔石田真敏君、登壇〕(拍手)
○石田真敏君 農政問題について、お伺いをいたします。
 今日まで、この農業にかかわる諸問題、特に本県において厳しい状況のもとで一生懸命農業に携わっておられる農家の方々のさまざまな声を、先輩・同僚の皆さんがこの壇上で代弁されておられるのを拝聴いたしてまいりました。そして、この先輩・同僚議員の発言を通じて、農家の方々の御苦労をひしひしと肌身に感じてきたのであります。
 しかし、去る七月執行されました参議院議員選挙における一つの争点は、農家の、それも特に若い農業後継者の方々による、従来の農政に対する批判でありました。これは、私にとりまして大変な驚きでありました。それは、この壇上での先輩・同僚議員の発言を受けてさまざまな施策がとられたように、農家の方々の声に対して国や地方公共団体はさまざまな施策をとってきたのではなかったのかということであります。ありていに言えば、従来、たくさんの予算、今年度予算だけを見ても、国費約三兆円、地方公共団体分約二兆円という莫大な農林水産関係予算をつぎ込んで、この対策に当たってきたのではなかったのかということであります。
 であるにもかかわらず、その施策の対象たる農家の方々、それもこれからの日本農業を背負っていっていただかなければならない数少ない若い農業後継者の方々から従来の農政に対する不満が爆発したということは、私にとりまして異様な驚きでありました。と同時に、非常に残念でありました。そして、このことが今回のこの質問をさせていただくきっかけであります。
 では、さきの参議院議員選挙中に表明された農民の不満とはどのようなものであったのでしょうか。月刊誌「潮」九月号に高畠通敏立教大学教授の「なぜ農民は自民党を見限ったか」というレポートが掲載されております。この中で紹介されている農民の不満のうち、幾つかを御紹介したいと思います。
 まず第一に、農政に対するふんまんは今さらの問題じゃない。六〇年代の減反に始まり、米価の据え置きや切り下げ、農機具の借金、そして一つずつ進行する農産物の輸入自由化と、挙げれば切りがない。
 二つ目。若い農民が耐えられないのは、農業の将来がはっきりしていないということだ。だから、嫁の来手もいないし、子供たちも嫌がって町を出て行ってしまう。
 三つ目。農業政策の基本的な問題は、それが場当たり的で一貫性がないことだ。農産物輸入の自由化という今日の事態がやってくることは専門家なら十年以上も前からわかっていたことなのに、その場しのぎでやってきた。
 四つ目。今度の批判は、農民を借金づけにして、その言うがままに猫の目のように変わる指導に従うほかなくさせてきた全国の農協組織に対する批判でもある。
 以上、今紹介しましたおのおのの言葉は、すべての農民の気持ちを代表したものではもちろんありませんが、まさしく農民自身の言葉であります。そして、特にこれからの日本農業を中心になって担っていっていただくはずの、数少ない若い農民たちの声なのであります。行政、政治に携わる者、特に農政問題に携わる者にとっては深く心に銘記しなければならない悲痛な叫びであろうと思います。
 以上申し上げてまいりました農業生産者、つまり現場からの従来農政に対する厳しい批判の声に加えて、今日においては全く別の角度、視点からの、つまり消費者サイドからの農政に対する厳しい批判のあることも、既によく御承知のとおりであります。すなわち、加藤寛・慶応大学教授や評論家の竹村健一、大前研一、屋山太郎氏らのそれであります。
 このような各方面からの批判が渦巻いていることについて、知事及び農林水産部長はどのように感じ、考えておられるのか、また何が問題であると考えておられるのか、まず最初にお伺いいたしたいと思います。
 恐らく、今日までの農政運営のあり方を見直していかなければならないであろうと思いますが、このことについてはいかにお考えであるのか、お聞かせいただきたいと思います。
 次に、先ほど紹介いたしました農民の声の中で最も重要なものは、「農業の将来がはっきりしていないということだ」という点であります。私も全く同感であります。農業の将来、すなわち自立し得る農業の見通しがつくならば、お嫁さんの来手も今日ほど深刻ではなくなり、後継者問題も今日ほど深刻ではなくなるはずであります。
 そこで、自立し得る農業ということを考えてみるとき、今日の状況の中で農業だけで生計を立てていけている農家が果たしてどのくらいあるのかという、農業の実態を正確に知ることが必要となります。そこで、和歌山県農林統計情報協会が昭和六十三年十二月に発行した「和歌山農林水産統計年報」にそれを見てみたいと思います。
 まず、農家経済の総括の項を見ますと、昭和六十二年で農家所得は約四百三十八万円でありますが、そのうち農業を営むことによって得た収入すなわち農業所得はわずか五十三万円であります。一方、農業外所得は約三百八十五万円であります。これに年金等の収入を加えて、農家の総所得は約五百七十三万円となっております。これは調査におけるサンプル農家の平均でありますが、これ以上に農家の所得について知る統計はないのであります。
 また、和歌山県長期総合計画におけるこの部分に関する記述を見ても、本県農家一戸当たりの農業所得は昭和五十九年には約六十九万円で、農業外所得のウエートが著しく高まったと記述されている程度であり、はっきり申し上げれば、農家所得についてのはっきりした統計はないということになります。
 そして、これらの数字、すなわち農業によって得られる年間所得が、平均とはいえわずか五十三万円や六十九万円しかないという統計を見ると、専業農家では一体どのように生計を立てておられるのか、また第一種、第二種兼業農家ではどうなっているのかということに思いがいくのでありますが、この実態を把握できる統計がないのであります。実態を正確に把握できないで、果たして的確な農政の推進ができるのでしょうか。実態を正確に把握し得る資料があるのかないのか、お伺いをいたします。そして、あるとすれば、その実態について詳しく御説明いただきたいと思います。
 「クロヨン」などという言葉もあるように、農業所得を初め農業の実態は本当につかみにくいのだろうと思います。しかし、では一体、何を基準に、何を目標にして農政の指針を立てるのかということになってまいります。県下五万四千戸余りの農家のうち農業で生計を立てていける農家はどのくらいあるのか、そしてその所得は大体どのくらいなのか、さらにはそれら自立していける農家とはどのような経営状態であるのかなど、農家経済の実態について御説明いただきたいと思います。
 この実態の把握が農政を論ずるときの第一歩であり、これに基づいた本当の農業発展を目指した施策であってこそ、農民はもとより国民の理解と協力を得られる施策となるのであって、これのない農政こそが農政をわかりにくくさせている大きな要因であろうと思います。そして、今日の厳しい批判を招いている要因であろうと思います。
 次に、この農業統計に関して意見を申し上げ、御所見をお伺いいたしたいと思います。
 農業統計をわかりにくくさせているものに、その基準となる農家そのものについての定義が余りにも広義に過ぎるという問題があると思います。
 農林水産部発行の「和歌山県の農林水産業」という小冊子を見ますと、ここで使われている資料はほとんど農林水産省の統計に基づいていますが、その注意書きの中に農家についての定義があります。すなわち、農家とは「経営耕地面積が五アール以上の農業を営む世帯または年間の農業生産物の総販売額が十万円以上ある世帯をいう」となっております。
 このことについて、ある評論家は「農水省統計では、常識では考えられないような甘い基準で農家数を水増ししている。学生の中には、例えば建設現場でのアルバイトで年間五十万円の収入を上げる学生は幾らでもいる。しかし、彼らの職業を建設業とすることは世間ではあり得ない」と批判しております。
 私も、経営耕地面積五アールまたは年間の農業生産物の総販売額が十万円のどちらかを満たせば農家であるということには、いささか疑問を感じざるを得ません。ホビー農家の域を出ないものであると思います。やはり、農家とは「国民に食糧を生産して提供することを職業とし得る者」という程度の規定があってしかるべきだと思います。これまでのような基準に基づいて集計された統計に一体何ほどの意味があるのか、疑問を持たざるを得ないのであります。このことについて農林水産部長はいかに感じておられるのか、お伺いいたします。
 そして、前述の「和歌山県の農林水産業」という小冊子を見てもわかるように、県当局は農林水産省の資料に基づいて資料を作成されているようでありますが、この際、県独自でもっと実態に即した、そして県農業発展のための資料として活用できるような統計を新たにとられるべきであると思いますが、このことについての御所見をお伺いいたします。
 以上、少し細かい議論をいたしましたが、要は、的確な実態把握と、それに基づく県農業発展の明確な指針の確立をしない限り、従来の農政の延長となって、農家の方々の理解も、また県民、国民の理解も得られないということであります。
 現在では、まだ各種世論調査に見られるように、例えば七割ほどの国民が米の即時輸入には反対であり、食糧自給方針にくみする国民の方が多いのであります。それだけに、今般の農政批判に対しては真摯な態度で臨み、早急に農業発展の指針を本当に厳しい態度で確立していかなければならないと思います。
 そこで、県内のいわゆる農家と定義されている戸数は約五万四千戸であります。しかし、この五万四千戸がすべて自立し得る農家として成り立つことは、今日、到底不可能であります。このことは、県の長期総合計画の中でも指摘されているとおりであります。
 県の長期総合計画の中では、昭和七十五年を目標に総農家数五万二千戸、うち中核農家一万四千戸として位置づけ、後継ぎのいる農家として五千戸を目標と定めております。さらに、今後の対策として幾つか記述されておりますが、その中で「農地造成、農地流動化等による意欲ある農家の経営規模の適正化」ということが挙げられております。また、「後継者が残る意欲のある農家を育成するため、地域農業と調和を図りながら、生産の大部分を支える生産性の高い意欲ある農家に施策の焦点を合わせる」とも記述されております。
 これらのことに、私も同感であります。やはり、現実問題として県内で自立し得る農家数というのはおのずから限られたものになってくるでありましょうし、新規学卒就農者数が本年、全国でついに二千百人──全国で二千百人であります──になってしまったという実情から見ても、県内農業を守り、より力強いものにしていくためには、意欲ある人材と意欲ある農家とに施策の焦点を合わせていくことは当然であると思います。そして、これら農家を中心として、その他の農家ともども、食糧の確保はもとより、国土の保全、水資源の維持、緑資源の保全、農村景観の維持等を図っていっていただかなければならないのであります。
 そこで、お伺いをいたします。
 一体、「意欲ある農家」とはどのような人あるいは農家を念頭に置いておられるのか、そして県下で何戸ほどの農家を考えておられるのか、お伺いいたしたいと思います。恐らく、長計に記述されている中核農家数一万四千戸よりは随分と少なくなると思いますが、いかがでございますか。
 さらに、経営規模の適正化ということでは実際どの程度の経営規模が適正と考えておられるのか。そして、この規模の適正化をどう実現していこうとされているのか。さらには、以上お伺いしたようなことをどういう形で推し進めていこうとされているのかということが非常に重要になってくるわけでありまして、この点についてお伺いをいたしたいと思います。
 これは、県だけでなく市町村、そして農協、農民自身が相寄って真剣に考えて本当に一生懸命取り組まなければ、そうやすやすと実現できることではないと思います。恐らく、きちっとした地域農業振興計画を立てて事業遂行していかなければならないと思いますが、この点についてもお考えをお聞かせいただきたいと思います。
 農政審議会委員などを歴任された今村東大教授は、その著書で「どうも、本質に突き刺さったような地域農業振興計画になかなかお目にかかる機会がないというのが実感です」と述べられ、今村教授自身の地域農業振興計画の基本についてのお考えを述べておられます。
 それによりますと、第一は、「だれが」ということであります。すなわち、その地域の農業を本当に担っていくのはだれかということであります。このこと自体、大変難しい問題をはらんでいるのが現実であります。第二は、「だれの土地で」ということであります。地域の農業を担っていく担い手たる人は、やはり一定の適正な経営規模を持たなければやっていけないということであります。第三は「何を」、第四は「どれだけ」、第五は「どういう方法で」、第六は「いつつくり」、第七は「いかに加工して」、第八は「いかに売るか」、そして第九は「そのためにはどういう施設整備を行うか」、第十は「そのための資金調達及び投資計画をどうつくるか」、以上の十項目について、しっかりした内容のある計画をつくって、それが単なる絵にかいたもちではなくて、具体的で実践可能な計画としてつくられることが必要である、このように指摘されておられます。私も、今村教授の指摘のとおりであると思います。
 このように見てきますと、長計で記述されている諸点についても、その実現に当たっては大変な困難を克服していかなければならないと思いますが、今村教授の指摘も踏まえて、当局のお考えとその実現にかける意気込みをお聞かせいただきたいと思います。
 次に、長計の記述で紹介をいたしました「農地の流動化等によって経営規模の適正化を図る」という点についてであります。
 本年、農地流動化を積極的に促進するために、和歌山県農業公社が設立されました。この公社設立については、このことによって農地の流動化が促進され、所期の目的が大いに達成されることに対して期待を寄せる反面、これに伴うマイナス面について危惧するものであります。一体どのような指針に基づいて行動されようとしているのか、お聞かせいただきたいと思います。
 和歌山県は、平地ばかりではありません。非常に急峻な地形のところに農業を営んでおられる方々も多数おられるわけであります。これらの方々の中から、耕地を手放される、あるいは借地化を希望される方々が出てこられたときにどのように対処するのか。すなわち、すべてを受け入れるとするならば、その急峻あるいは狭小などのゆえに、受け手を見出せずに不良農地として公社が負債を抱え込むことにならないとも限らないのであります。それだけに、確固とした指針のもとに公社の運営をしていただかなければならないと思います。
 また一面、御承知のごとく、和歌山県は高齢県であり、特に農村地域において高齢化率は非常に高いのであります。現に、長計の中でも「『五十歳以上』が七割近く占めるなど高齢化の進行がみられる」、さらに「『〇・五ha未満』では『六十歳以上』が過半数を占めている」といったような記述があります。
 また、後継者問題においても、先ほど御紹介申し上げましたように、昭和二十五年に全国で約五十万人あったものが、本年はわずか二千百人となっているのであります。そして、今のところ、これが増加することは特別な場合を除いてないのであります。すなわち、あと十年もすれば、耕作者のいない農地がたくさん出始める事態になってくるのであります。農林水産部はこの高齢化と後継者にかかわる実態について詳細に把握されているのかどうか、お伺いをいたします。
 そして、公社の運営に当たっては、この農林水産部の把握と緊密な連携をとりながら活動がなされることが大切であると思います。こうしてこそ実態に即した活動であり、高齢者農家の不安解消の一助ともなり得ると思います。
 いずれにいたしましても、公社の活動においては以上申し上げたような諸問題以外にも幾多の難しい問題があろうとは思いますが、先ほど御紹介した今村東大教授御指摘のような、的確な地域農業振興計画といったものに基づいた活動をされることによって、和歌山県農業の発展に寄与していただかなければならないと思います。と同時に、他の部局、例えば商工労働部とも十分な連携をとって、企業立地可能地の選定を進めるなど、セクトにとらわれることなく、機動的に幅広い対処をしていただきたいと思います。決して、先ほど申し上げたようなマイナス面をつくることのないように重ねて要望し、当局の公社運営についての御所見をお伺いいたしたいと思います。
 以上、農政における自立し得る農家とその経営規模拡大にかかわる問題について述べてまいりました。このほかにも、農政における問題はたくさんあると思います。例えば、技術革新における試験研究機関のあり方とか、これに伴う生産向上とコストダウンの問題とか、流通革新によるコストダウン、あるいは販売体制の強化の問題、さらにもっと難しいのは、農村がコミュニティーとして存続し得るかどうかというような大変な問題があります。こういう論ずべき問題はまだまだ多数あると思いますが、時間の関係もありまして、最後に農協の問題と今後の農政のあり方についてお伺いをしたいと思います。
 まず農協についてでありますが、近年、農協に対する批判が各方面より行われていることは御承知のとおりであります。冒頭紹介いたしました高畠立教大学教授のレポートにある、農民による農協批判もその一つであります。すなわち、「今度の批判は、農民を借金づけにして、その言うがままに猫の目のように変わる指導に従うほかなくさせてきた全国の農協組織に対する批判でもある」というものであります。
 ここに指摘されている「借金づけ」に類する批判は識者の中にも見られますが、そのほかにもさまざまな批判がなされております。その中には、例えば「今の農協組織は、官僚化、硬直化、排他性といった面が多く、人心疲労と組織疲労が随所に見られる」といったものや、「農協では信用事業や共済事業が花形で、農協本来の目的である営農指導事業はお荷物扱いになっている」といったような批判であります。
 このような農協に対する批判に対して県当局はどのように把握し、どのように考えておられるのか、そしてどのように対処されているのか、まずお伺いをいたします。
 農協の本来の目的は、協同化によって農業生産力の増進と農民の経済的・社会的地位の向上を目指すことにあります。そして、ある時期までは農協がこの使命を果たしてきたのは明らかであり、また今日においても、日本農業のために、そして農家のために、農協組織が必要なことは論をまたないところであると私は思います。
 しかし、昭和二十二年に農業協同組合法ができて以来四十数年の年月は、日本における国民の生活観や労働観を変え、また日本を取り巻く世界の情勢を変え、そして農協自身の巨大化に伴ってその組織論理を変えてきたのであります。そして、この国内外の変化と農協組織自体の変化に果たして対応できているかが、今日問われているのだと思います。この際、農協は原点に返り、今日における農協の使命というものを新たに構築し直さなければならない時期に来ていると私は思います。
 そしてこのことは、農協にとどまらず、行政における農政においても、さらには農民自身においても十分に考えなければならない喫緊の問題であると思います。今こそ、行政と農協、そしてその組合員たる農民とが一体になって、今日の農業を取り巻く諸問題について胸襟を開いて議論し、対策を立て、立ち向かっていかなければ、「農業の将来がはっきりしていない」という若い農民の不安を解消することは到底不可能であると思います。
 ある農業評論家は、その著書で今日の農協組織の使命として次の八つの点を挙げておられます。その一つは、中核専業農家を守り育てること。二つ目は、若い農業後継者に希望と高収入の指針を示すこと。三つ目は、安全で品質、形、味のよりよい農畜産物を生産し供給すること。四つ目は、生産物に付加価値をつけて販売する組織をつくること。五つ目は、農協の組織、運営方針、政策を多元化すること。新しい農協組織をつくること。六つ目は、地元の人々にとって、信頼され、身近で開かれた組織にすること。七つ目は、組織で働く職員の待遇をよくし、将来の希望を与え、人材を育成すること。八つ目、以上を通じて競争に強い組織体制をつくること。以上、八項目にわたって、今日における農協の使命について指摘されております。
 もちろん、これ以外の指摘が他の識者の方々からもなされているのでありますが、いずれにいたしましても、先ほど申し上げましたように、行政、農協、そしてその組合員たる農民が一体となって、今日の農業、農協について、さらには今後の農業のあり方、農協のあり方について、原点に返って議論をし、これからの問題に対する方策を早急に構築していくべきであると思いますが、御所見をお伺いいたしたいと思います。
 こういう中で、さきにも述べました地域農業振興計画を実現可能な形できちっと策定するということは、大きな足がかりになるものと思われます。そして、この際、この地域農業振興計画の策定に当たっては、あくまでも地域農民と地域農協が自主的に、そして主体的にその計画を策定すべきものであって、行政の過剰な介入は厳に慎まなければならないと思います。そして、こういう作業を通じて、今日的な、農民から信頼される農協のあり方、行政のあり方がはっきりしてくるのであろうと思います。
 「農民は、補助金ではなく情報とビジョンを求めているのだ」という指摘があります。すなわち、革新的な技術の導入、さまざまなアイデア、マーケティング、経営者としての能力、このような資質、能力を時代は今農家に要求しているのであります。まさしく、こういう今日的な農民の要望に親身に、一体となってこたえていける農協こそが、そしてそれを下支えする行政こそが、農民からも、そして国民からも、希求されているのだと思います。
 いま一度、今日的農業における農協のあり方、行政のあり方について深く思いをめぐらせていただきたいと思います。そして、生産者たる農民からも、消費者たる国民からも、絶大なる支持を得られるような農業発展策を講じていただきたいと思います。御所見をお伺いして、質問を終わります。
○議長(門 三佐博君) ただいまの石田真敏君の質問に対する当局の答弁を求めます。
 知事仮谷志良君。
 〔仮谷志良君、登壇〕
○知事(仮谷志良君) 石田議員にお答えします。
 ただいま、農政についての的確な実態把握、そしてまた御提言、質問をいただいたわけでございます。
 先ほど話ございましたように、参議院議員選挙に端を発しての農政批判に対して、知事はどう把握しておるか、そしてこれをどうしようとするのかという点でございます。
 高畠先生の農政不信に対する考え方、また大前研一さんを初め消費者側からの農政に対する見方など、いろいろな見方があるわけでございますけれども、私は、最近の農政批判につきましては、やはり何といってもオレンジの自由化決定の問題、そして生産調整を含む自由化国内対策の実施、これが農家の皆さんに大きな動揺と将来に対する不安を与えたものではないかと思っておるわけでございます。
 高度成長化する他産業と農業との生産構造の格差や長引く米の生産調整など、農家を取り巻く環境は依然として厳しいものがございます。農業は国の基本であるという考えのもとに、私は長期的観点に立った農業対策を講ずることが最も肝要なことだと思っておるわけでございます。
 現在、国においては、基本食糧の安定供給ということを大きな柱として、土地利用型農業の生産性の向上を図り、産業として自立し得る農業を確立するために農業構造改善施策を推進しているところでございますけれども、近年、国際化や技術革新が進む中で、さらに新たな需要を喚起する高付加価値農業の育成に取り組み、生産者並びに消費者の期待にこたえようとしているところでございます。
 そうした国の施策と相まって、県としては、本県の特色であるミカン、梅、柿、桃等の果実、また野菜、花卉など、生鮮農産物の供給基地としての役割を果たすために、県下を紀の川流域、有田川流域、日高及び紀南の四地域に区分して、地域特性を生かした高付加価値農業の振興に努めてございまして、それぞれの地域におきまして、若い皆さんを中心に特色ある産地が育ちつつあるのも現状でございます。
 今後とも、品質向上対策や非破壊による品質選別技術の開発、バイテク技術の活用などソフト面の充実と、施設園芸、空輸産業の振興とあわせ、一・五次産品の育成など時代に即応した流通加工対策を進め、国際競争力のある産地育成に努めてまいりたいと思っております。
 また、話ございましたように、こうした時期だから農協なり生産団体と行政が真剣に農業に取り組んでいくべきではないかということ、私も同感でございまして、これからの和歌山県の農業推進のためには、そうした問題についてなお一層、私も含めて入り込んで、いろいろな意見を承ってまいりたいと思っております。
○議長(門 三佐博君) 農林水産部長安田重行君。
 〔安田重行君、登壇〕
○農林水産部長(安田重行君) お答え申し上げます。
 自立し得る農家の実態でございます。
 石田議員御指摘のとおり、専業・兼業別の農家の所得などを正確に把握する統計資料についてはございませんが、施策の立案や推進に当たっては、農家の作物栽培面積の調査や農産物市場価格の動向等を把握する中で、農業所得等の実態を把握いたしておるところでございます。
 農業で生計を立てている農家については、専業農家一万四千百四十戸がそれに該当することになると存じますが、高齢者専業ということもございますので、六十歳未満の男子専従者がいる農家一万二千九百六十戸を中核農家と位置づけ、農業で生計を立て得る農家と考えております。
 こうした農家の所得水準については、家族家計費を農業所得で充足できるものと考えてございまして、農家経済調査によると、農家一戸当たりの家計費は、昭和六十二年で四百十六万九千円となってございます。実際の農家所得はこれ以上得ているものと推定をしており、農業改良普及所等の実態調査からもこれが認められるところでございます。
 次に、国の統計上の農家の定義については、来年度の世界農林業センサスの調査から、若干の見直しと自給農家と販売農家の区別が新たに設けられると聞いてございますが、農業施策の推進に当たり、土地所有形態等を正確に把握する必要がございますので、今後さらに資料整備の充実に鋭意努力し、施策に反映してまいりたいと存じます。
 次に、意欲ある農家の問題でございます。
 基本的に、農業で生計を立てようとしている農家と位置づけしてございます。さらには、社会経済情勢に対応し、新技術や新作物の導入等、経営改善を遂行するとともに、地域農業をリードし得る農家とも考えてございます。こうした農家を中核農家と位置づけ、一万四千戸の育成確保を目指しているところでございますが、最近の農業情勢や新規就農者の減少等から、この実現を図るには一層の努力が必要であるとも認識をいたしてございます。
 このため、高収益農業の展開に努めてまいったところでありますが、今後とも、生産者団体ともども、施設園芸の推進、高品質生産販売対策を一層強化する所存でございます。
 また、本県の中核農家における経営耕地の適正規模については、一・五ヘクタール程度と考えてございますが、中山間等の地域の立地条件、施設園芸等の導入状況、基盤の整備水準等による経営形態や所得目標により異なってまいります。このような農業経営の実現を図るために、農地開発、圃場整備、野菜・花卉等の施設化を進めるとともに、農地流動化促進事業の積極的な活用に努めているところでございます。
 こうした事業を推進するためには、議員御指摘のように、地域農業振興計画は大変重要でございまして、農業振興法に基づく市町村農業振興地域整備計画を初め、果樹振興計画等を策定するとともに、具体的な事業実施に当たっては農村総合整備計画や農業構造改善事業計画等の計画に即して推進を図っているところでございます。今後とも、関係者との整合をとりながら、より実行可能な計画とするために、地域の実態に見合った計画づくりを一層進めなければならないと考えております。
 長期計画の推進については、国際化や産業構造の急激な変化等、厳しい問題も多々ございますが、農家や地域の経営改善に対する意欲と熱意が原点と思いますので、さらに農家等との交流を積極的に進める所存であり、事業実施に当たっては、国、市町村、団体等、関係機関に一層働きかけてまいりたいと存じます。
 次に、農業公社の活動の問題でございます。
 中核農家の経営改善のために農地の流動化を促進することを主たる目的として、あわせて農村地域の就業構造の改善等、地域の活性化に資するために本年設立したものでございます。
 農業公社の運営に当たっては、市町村、農業委員会との緊密な連携のもとに、規模拡大等の経営改善を志向する農家や新たに営農を志す後継者の意向を踏まえ、高齢者や兼業農家等で離農、規模縮小を希望する農家の間に立って農地の売買、貸借を行い、優良農地の効率的利用に資していきたいと考えておりますが、御指摘のとおり、不良農地を保有することのないよう十分留意しなければならないと考えております。
 また、農村地域の活性化に資するための企業用地等の土地利用についても、関係部局との連携を図りながら積極的に業務を推進する体制をとってございます。
 なお、お尋ねの高齢化と後継者の実態については、一九八五年の農林業センサスでは、農家人口に占める六十五歳以上の高齢者の割合は一八・七%であり、農業試験場での農家人口予測においても今後もその割合が増加するものと予想されております。また、農林水産統計では六十三年の農業後継者は三千五百三十人となっており、近畿では最も高い比率となっております。
 議員御指摘のとおり、高齢化による遊休農地が増加することも懸念されることから、優良農地が荒廃することのないよう、中核農家を中心に一層の流動化を進めるために、農業委員会、農業公社の業務の中で対応してまいりたいと存じます。
 最後に、農協のあり方と今後の農政でございます。
 農協批判があり、農協本来のあり方が問われておりますことは、承知をいたしております。農協本来の役割としては、多様化している組合員ニーズに素早くこたえることにあり、そのためには組合員の意向が事業運営に十分反映される組織体制づくり、農家経営を主眼とした営農指導事業と他の事業との連携、消費者ニーズの変化や市場動向に沿った生産販売、さらに、厳しい農業情勢や金融自由化の進展等の中で、農協の事業運営、組織の効率化や職員の資質向上を図ることであるものと考えております。
 こういった農協批判のある中で、農協系統組織においては、昨年の十一月、県の農協大会において「二十一世紀を展望する和歌山県農協の基本戦略」というものを策定し、組合員の営農の確立、地域農業振興の方策など、五つの項目にわたる基本方針を柱に、これから取り組むべき課題と施策を明らかにし、その実践に農協の総力を挙げて取り組みつつございます。
 本県農業のあり方としては、知事も申し上げましたけれども、高付加価値をつけるとともに、国の内外を問わず、産地間競争に打ちかつ地域の個性化商品づくり、生産性の高い農業の育成、バイテク等のハイテク先端技術の導入や流通システムの確立を推進し、若者が定着できる魅力ある農業の実現が肝要でございます。そのために農業基盤整備等が不可欠ではございますが、これとあわせて、企業的な感覚を身につけた農業経営を促し、高収益農家の育成に努めるとともに、まさしく議員が御指摘のとおり、農協に対しても、組合員と一体となった地域農業振興計画に沿った主体的かつ積極的な取り組みを促してまいる所存でございます。
 以上でございます。
○議長(門 三佐博君) 答弁漏れはありませんか。──再質問を許します。
 20番石田真敏君。
○石田真敏君 答弁をお聞きしていて感じますのは、私は洋服屋の息子で、米をつくったことはないし花をつくったこともないんですが、あのぐらいの答弁やったら僕でも書けるなと。というのは、長計とかいろんな資料を見たり本を読んでいますと、そのぐらいのことは載っているんですよ。まず、そういうこと。
 さらに、今の答弁をお聞きして、農民の方や消費者の方が、「ああ、これで県の農政、納得したよ」と言ってくれますかね。私は疑問に思う。
 それから、私は農業をしたことがありませんから、私の質問というのは土のにおいのしない質問だと思います。ところが、本来土のにおいのすべき農林水産部の答弁に土のにおいがしないというのはどういうことなのかなと。
 今のように農政批判があるのは恐らく、これは私の推測ですけれども、今の農政が農民から浮き上がっているのと違うか。そして、それだけじゃない、消費者からも浮き上がっている。そこに大きな問題があるということを私は言いたくて今回質問したんです。
 答弁をお聞きしていて、例えば──これは質問じゃないし議論する気はないんですが、さっき部長の方から「一万二千九百六十戸を中核農家と位置づけ、農業で生計を立て得る農家と考えてございます」という答弁をいただいた。ところが、農業センサスという資料の中に「農産物販売金額規模別農家数」というのがある。言うてみたら、売上高です。経費を引いていない売上高です。
 それによると、百五十万円以上の売り上げ──これは年間ですよ。それから経費を引くんですから──の農家が一万四千六百十二戸、二百万円以上で一万千七十八戸なんです。今言われた一万二千何がしというと、この間に入ってくるんです。売上高が百五十万から二百万ぐらいで、どうやって生活していくんだ。私が聞いたのは、そういう農家──それは構いません、目標で。しかし、それをどのようにして、長計の中にある七百五十万円の所得が得られる農家に育てていくのかということを聞きたかった。そういう明確な指針があってこそ、農民も消費者も納得するのと違いますか。今お聞きしていたような御答弁では、だれも納得しない。
 ただ、さっき今村という東大教授の話の中で「本質に突き刺さった」という言葉がありましたが、この場でそういう答弁をいただけるとは思っていませんでした。私がなぜこの質問をさせていただいたか、もう一つ別の考え方があるんです。それは、特に参議院議員選挙で明らかになったと思いますが、戦後四十年、日本が築いてきた世の中のシステムというのを変えなければならないような時代がもう来たのと違うか、時代に合わなくなってきたのと違うかということなんです。
 こういうことが、もういろんなところで指摘されている。ある学者が、そのシステムを変えていくためのキーワードは国際化だということを発表して論壇で注目を浴びていました。それから、有名な大前研一さんの「平成維新」という本を読んでも、中央官庁を変えなきゃだめだと言っているんです。その当否は別です。しかし、そういう議論がもう既に出てきているぐらい、戦後四十年築いてきたシステムというものについての疲弊というか、そういうものがあるんだということが根本の認識なんです。そして、その一つとして端的にあらわれ、端的に批判をされているのが農政問題なんです。
 ですから、私は従来の考え方でこの問題に対処していこうと思っても無理なんじゃないかと思う。さっき部長の答弁で、何とか計画を推進してございますというお話がありました。推進していたら何で批判が出るんですか。それは、計画が悪いのか推進の仕方が悪いのか、その辺を改めて考えていただきたいという趣旨の質問なんです。
 今ここで、明確な、私がもう本当に満足して、にこにことこの議場を出ていけるような答弁をいただこうとは思いません。しかし、従来の考え方の延長でこれからもずっと農政をやっていくとなれば──今、国民は、先ほど御紹介したように、世論調査なんかでもまだ農業に対して支持を与えている。しかし、いつまでも続くということはない。その辺を関係者は、本当に真剣に考えていただきたい。
 例えば、大前研一さんなんかでしたら、アメリカとかオーストラリアの土地を買えばいいじゃないか、そしてそこで農業をして輸入したらいいんじゃないかというようなことまで言っておられるんです。私はそういう議論にくみしません。しかし、そういう意見すら出るぐらい、そのシステムを変えていこうというような大きな時代の流れというものがある。農業がひとりらち外にいるというわけにはいかんのだということを、真剣に考えていただきたいと思います。小手先の施策では、もうだまされない。そういうことなんです。
 どうか今後、この私の質問をきっかけにしてというと大きな言い方ですが、きっかけにしていただいて、和歌山県の農業の考え方も、斬新な考え方に基づいて、先ほど最後に言いましたが、生産者である農民からも、消費者である国民からも、本当に支持のされる農業振興策というものを考えていただきたいということを改めて要望して、再質問を終わります。ありがとうございました。
○議長(門 三佐博君) ただいまの発言は要望でありますので、以上で石田真敏君の質問が終了いたしました。
 これで、午前中の質疑及び一般質問を終わります。
○議長(門 三佐博君) この際、暫時休憩いたします。
 午前十一時四十四分休憩
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