平成元年9月 和歌山県議会定例会会議録 第2号(森 利一議員の質疑及び一般質問)


県議会の活動

○議長(門 三佐博君) 質疑及び一般質問を続行いたします。
 40番森 利一君。
 〔森 利一君、登壇〕(拍手)
○森 利一君 質問をいたします。
 私は、昨年の六月、あの原発問題で激しかった日置川町長選の直後、原発問題について質問をいたしましたが、その質問と関連しながら論を進めてまいりたいと思います。
 ソ連のチェルノブイリ原発の大事故は、三年以上たった今も、半径三十キロにわたる地域は依然として居住禁止であります。人口五万人と言われたプリピャチ市は、人の住めないゴーストタウンと化し、緊急避難した十三万五千人の人々も半永久的に自分の居住地に帰ることができないであろうと言われ、しかも最近の情報によりますと、子供たちの半数が甲状腺に異常を来し、さらに三百キロも離れたモギリョフ地域でも放射能のため避難が必要になったとソ連当局は報じているのであります。
 いずれにいたしましても、チェルノブイリ周辺の十万人以上の人々は今後何十年かにわたって健康管理が必要であり、その中で確実に数万人の人々はがんなどの障害に見舞われるであろう線量の放射能を浴びているということであります。
 きのうの報道によりますと、チェルノブイリ原発のあるウクライナ共和国に隣接する白ロシア共和国の首都ミンスクで、放射能汚染の完全除去を求める一万五千人の無許可デモが行われ、その集会で、放射能降下物の七○%がこの白ロシアへ降下した、ところがその汚染対策費はわずか一○%割り当てられただけである、二つの頭を持つ奇形の子牛が生まれた、私たちの子供は将来どうなるんだ、白血病で死亡した子供が出たなど、当局の対策のおくれを指摘する不信の声が相次ぎ、汚染地区からさらに住民五十万人を避難させる要求を行ったとされているのであります。白ロシア最高会議は、七月、放射能汚染地域から新たに十万六千人の住民を避難させる決定をしたのでありますが、その転出費用が百億ルーブル、日本円にして約二兆二千億円もかかる。こういうことから、今、暗礁に乗り上げているということであります。
 このように、原発事故は一時的な災害ではないのであります。事故の後遺症はこれからますます深刻になり、それが半永久的に続くのであります。
 あの炉心が溶けてメルトダウンに至る大事故を起こしたスリーマイルといい、技術的には起こり得ないとされている原発大事故が原発の先進国であるアメリカとソ連において史上最悪の事故を起こしているのであります。
 こうした状況の中で、原発に頼るエネルギー政策の見直しが世界的に広がり、原子力開発を放棄する国々が次第にふえてきておるのであります。
 世界一の原発保有国を誇るアメリカは、一九七八年以降、新規の原発は一基も発注しておりません。四十九基の原発を抱えるソ連では、チェルノブイリ以後、次第に反対する住民の声が高まり、昨年一月から九月までの間に三基もの原発が中止に追い込められているのであります。西ドイツでも、一九八三年以降、新規の発注はありません。スウェーデンでは、すべての原発を二○一○年までに廃棄することを決議し、イタリアでは、運転中のものも随時廃止していくという方向を国民投票で決めておるのであります。このように世界の潮流は明確に流れを変え、二十一世紀に向けて脱原発に大きく動き出したのであります。
 我が国におきましても、原発に対する不信と不安が高まる中で、放射能に対する恐怖が体質的な危機感となって、原発ノーを言う声が津々浦々に満ちているのであります。ちなみに、昨年の朝日新聞の世論調査によりますと、四六%の国民が原発推進に反対で、賛成する者が二九%、六二%の人が日本での大事故への不安を表明、五九%の人が原発政策の見直しに強い関心を示しているのであります。
 さて、我らがふるさと紀伊半島は、二十数年も前から数カ所が関西電力の建設候補地としてねらわれ、那智勝浦町浦神、古座町荒船が、長い長い賛否の対立の末、住民の強い反対の意思を受けて、那智勝浦・古座町議会ともども誘致反対を決議した。さらに、日高町小浦原発については、昨年三月、比井崎漁協の臨時総会において海上事前調査案が廃案になりました。御承知の日置川原発は、昨年六月、全国的な関心と注視の中で、「私が立候補したのは、この日置川から『原発』の二文字を消したいからだ」と訴えた原発反対の町長が当選し、「紀伊半島に原発に要らない」住民の願いは一応かなった形に相なったのであります。
 私は、権力にも負けず、札束の攻勢にも翻弄されず、かけがえのないこの美しい、不安のない自然環境という財産を子孫に残そうとする紀州人のその根性を大きく評価したいと思うのであります。
 ところが、火の手がおさまったはずの日高原発に、またぞろ煙が立ち始めたのであります。
 ここで私は、ちょっと話の順序を違えますが、昨年の質問のことで確認をしておきたいと思うのであります。
 質問者森議員、「いよいよ三月三十日、そうした中で比井崎漁協臨時総会が開かれ、緊迫と混乱と休憩の続く議場の中で、山下組合長は『事前調査に関する議案は廃案とし理事は総辞職する』と宣言したのであります。 県はこの事態をどのように認識しているのか、今後どう対処されるのか、明確に御答弁をいただきたいのであります」。答弁者企画部長、「比井崎漁協の臨時総会の結果については、提案された事前調査受け入れに関する議案が採決に至らなかったものと受けとめてございます。 今後は役員改選後の漁協の動向を見きわめてまいりたいと考えているところでございます」、という答弁であります。再質問に入り、「議案は廃案になったのではないか」という質問に対する答弁は、「総会の結果に対する判断については先ほど御答弁させていただいたとおりでございまして」──結局、議事の時間切れの都合で念を押していなかったのでありますが、このことは組合長が廃案を宣言したので採決に至らなかった、すなわち事前調査受け入れに関する議案は採決に至らず廃案になり、白紙になったという答弁であると私は受けとめておるのでありますけれども、もしこれに異議がありましたら答弁をいただきたいと思います。
 それから、「今後は役員改選後の漁協の動向を見きわめてまいりたい」という答弁でありますが、あれから一年有余、役員も改選された漁協の動向について、例えば、原発が議題になって論争されたとか、総会の後遺症が残って対立が激しいとか等々、その見きわめてきた動向について報告をいただきたいのであります。
 私の聞き及ぶところでは、あれからは町民も漁民も原発に対する話題は次第に薄れて、漁協では原発問題は一度も討議されたこともなく、以前のような厳しかった反目や対立感情も和んできて、人それぞれの思惑はあるにしても、昔の平和な村に戻りつつあるということであります。
 さて、話を本筋の日高原発の先ほどの「煙」に戻します。
 日高町長は、来年十月に任期が迫るこの時期に、原発問題に決着をつけるという強い姿勢を表明いたしました。すなわち、関西電力が日高町小浦に計画している百二十万キロワット級二基の建設問題で、漁民及び町民の意識調査の実施を計画し、比井崎漁協に事前調査の協力要請を再び始めたのであります。新しい局面を迎えた日高町住民は、関電がこの日高原発を打ち出してから実に二十二年、原発の厳しい賛否の対立に揺れ動き、深刻な骨肉の争いに悩み苦しんだ毎日でありましたが、昨年三月、漁協の廃案宣言によってようやく原発の呪縛から解放され、平和な海を取り戻したのもつかの間、再び海は荒れなんとしてきておるのであります。
 去る八月二十四日付の読売新聞の報道によりますと、日高町の臨時課長会で、町長が原発問題で決着をつける時期が来たと協力を要請し、原発担当の参事が漁協の正組合員の名簿と町職員が受け持つ地域割り当て表を配付、小浦、阿尾など漁協組合員の住んでおる九地区について、課長、係長ら四十一人が訪問班を編成、一人当たり四人から八人を分担して、漁協組合員の原発に対する考え方、反対や中立の組合員については交友、取引関係も情報収集することになったと報じているのであります。
 本来ならば、地方自治体の長というものは、住民や漁民の自主性を尊重し、プライバシーを守らなければならないのであります。しかしながら、このように権力を持つ側からの一方的な押しつけにより住民の人権とプライバシーを侵害し、原発建設という一つの目的のために漁民、住民に対し踏み絵を強要するごとき行為は、まさに脅迫以外の何物でもないと私は考えるのであります。この町当局の考えは、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」とする憲法第十九条の精神を踏みにじった行為と考えるのであり、直ちに中止すべきものと考えるのでありますが、知事はどのように考えておられるのか、その見解を承りたいと思うのでございます。
 次に、お尋ねをいたします。
 比井崎漁協の白井組合長は病気入院中であります。事前調査協力要請は、先ほどからも申し上げておりますとおり、二十数年間町を二分してもめ続けたあげく、昨年の臨時総会において賛否を超えて村の平和のために廃案とされた、まことに重大な案件であります。入院中の白井組合長は旅館に呼び出され、この重大な案件を要請されたとしています。協力要請を受けた組合長は、その責任の重さの余り辞表を理事会に提出したと新聞は報じているのであります。なお、この協力要請は、後日、理事会において町長に返上されているのであります。
 さて、私が先ほど当局に念を押した昨年の臨時総会の結果につきましては、いかに当局が強弁しても廃案になったことは天下周知の事実であります。組合員も住民もそれを信じて、平静な村に、対立と反目のない平和な町に戻っているのであります。そうした状況のところへ、突如といいますか、またぞろといいますか、不法な意識調査で地ならしをしながら、既に廃案になった同じ案件を再び持ち込むことは、いかにも権力者の強引な非民主的な行為であり、県民本位の県政、住民本位のまごころ県政に大きく背く、憂慮せざるを得ないことであると思うのであります。和歌山県政全般の長である知事として、その所信をお伺いするものであります。
 次の質問をいたします。
 こうした日高町当局の姿勢に対して、県民や民主団体の代表が日高町役場を訪れ、話し合いを求めたのであります。ところが町当局は、「日高町町民とならお会いしますが、町外の方々とはお目にかからない。このことは、町だけでやっているのではなく県と一本で進めていることなので、町外の方は県当局と話し合ってください」と、話し合いを拒否されたのであります。拒否された県民は、やむなく県に話し合いを求めたのであります。すると県当局は、「日高町のことなので、日高町と話し合ってください」と、ここでもまた話し合いを拒否されたのであります。
 こうして、県民の権利も要求も無視されているのでありますが、今後こういうことのないように対処されるよう強く求めるものであり、これに対する答弁をお願いいたします。
 以上をもちまして、私の第一回の質問を終わります。ありがとうございました。
○議長(門 三佐博君) ただいまの森利一君の質問に対する当局の答弁を求めます。
 知事仮谷志良君。
 〔仮谷志良君、登壇〕
○知事(仮谷志良君) 森議員にお答え申し上げます。
 日高町の原発についての意識調査の件でございます。
 地方公共団体が行政を運営するに当たりましては、私は、議会を通じて地域住民の意思を反映させていくことが基本であると思っております。しかしまた、公聴会の制度等を利用して住民の声を聞いて参考にすることがございます。
 御指摘のございました日高町の調査も、こうした公聴の一つであろうと考えてございますけれども、お話ございましたように、実施に際しては住民の基本的人権は守られるべきであると考えてございます。
 また、日高町長が比井崎漁業協同組合長に対して事前調査申し入れを行ってございますけれども、日高町長はかねてから原子力発電所の立地を町の将来発展のために活用しようと考えてございますが、また今回は、日高町区長会の有志、及び日高町商工会等から早期の解決を求める要望書が提出されたこともございまして事前調査の申し入れを行ったものだと、私は認識している次第でございます。
 以上です。
○議長(門 三佐博君) 企画部長川端秀和君。
 〔川端秀和君、登壇〕
○企画部長(川端秀和君) 日高原発についての三点の御質問にお答え申し上げます。
 まず第一点は、昨年の比井崎漁協臨時総会についてでございます。
 昭和六十三年三月三十日に開催された比井崎漁協総会の結果については、会場の混乱により組合長が一方的に廃案の意思表示をして流会となったものでございまして、海上事前調査受け入れの議案については採決するに至っていないものと判断しているところでございます。
 次に第二点は、昨年の総会以後の動向についてでございます。
 比井崎漁業協同組合については、昭和六十三年三月三十日開催の総会の後、組合長以下の理事全員が総辞職されましたので、五月十一日、白井明氏を組合長とする執行部が新しく選出されたところでございます。電源立地については、漁業協同組合としての特段の取り組みがなされていなかったものと受けとめてございます。
 今回、新たに町長からの申し出がなされたところでございますが、組合長の病気による辞任という事態を迎えてございますので、新しい組合長が選出され、その組合長のもとでの対応がなされるものと考えてございます。
 最後に第三点は、県民の話し合いの場についてでございます。
 県の三原則の一つでございます地元の同意については、事前調査の段階では立地町の町長及び議会、建設の段階では立地町及び隣接市町村、それぞれの市町村長及び議会の同意が必要であると考えてございます。
 県におきましては、県民の声を代表される県議会を通じて御意見を承ってございます。また、公聴制度等も活用してございまして、今後もそのように対応してまいりたいと考えているところでございます。
 以上でございます。
○議長(門 三佐博君) 答弁漏れはありませんか。──再質問を許します。
 40番森 利一君。
○森 利一君 再質問をいたします。
 知事の答弁でありますけれども、まことに型のとおり、まことにそっけなく教えていただいて、どうもありがとうございます。
 日高町政のことなので県はまともに答えられないというふうに聞こえるわけでありますが、まあ私が反対の立場から質問をいたしているので、これ以上の答弁を要求することは無理というものでありましょう。
 それで私は、先ほど比井崎漁協の臨時総会の結果について再度質問をいたしましたが、県の態度は依然として「採決に至らなかった」ということであります。しかし、漁業協同組合はその定款に従って臨時総会を招集して成立した。重大な問題だけに相当議場の混乱があったことは事実でありますが、その中で組合長は、理事の一任を取りつけ、議長の了解のもとに、壇上で「廃案」の宣言を行ったのであります。このことは、賛成の組合員も反対の組合員も認めたことであります。そして、マスコミはもとより、天下周知の事実であります。その後、日高町の大半の人々は、もう原発はなくなったんだと考えて反目も対立もなくなったという事実を見ても、これが廃案になったということは認めていると思うのであります。
 「廃案」ということは、その後、組合長の言葉にもありましたけれども、これ以上の混乱は将来の村の平和のために避けなければならないと、こういう願いであります。遠い昔から、地縁、血縁で結ばれ、この海を宝の海として育ってきた者が、隣近所同士あるいは親戚同士が反目し合って物も言わないという毎日の生活は、全く大きな苦痛であり、不幸なことであります。こうした状況の中で、子孫にかかわる重大な原発の問題を数の力で押し切ろうとする、そういうこと自体に既に無理があるのであります。
 私は、そういう意味で、本当に「廃案」ということは最高の裁き方であったと思うのであります。ところが、県は「採決に至らなかった」と何回も繰り返しますが、廃案を認めないということは、何かの意図があるのではないかと考えるのであります。
 「採決に至らなかった」ということは、採決をしたら勝てるんだという願望が伏線にあるのではないか。そうして、「採決に至らなかった」という窓口を残しておいて、いつの日かきっと採決に至らしてみせるという、そういうことで、今度日高町長が協力要請をした、これとつながっているのではないかと私は勘ぐるのでありますけれども、勘ぐり過ぎでありましょうかどうか。質問をしてもまた同じことが返ってくると思いますけれども、意見として申し述べておきます。
 それから、ちょっとくどいので恐縮ですが、今、世界のどこの国でも新規の原発の建設はやっていない。むしろ、廃止の方向に進んでいるのであります。我が国でも、資源エネルギー庁の公表によりますと、危険な事故が八八年で四十八件にも及んでいるのであります。そうして、日本の原発もだんだんと老朽化してまいっております。私は、本当に今、紀伊半島に原発は要らない時代になってきたと思うのであります。
 観光地の白浜町議会は、日置川町原発反対請願を満場一致で決定いたしております。また、その南隣のすさみ町議会もそういう方向で検討を進めておるということを聞いております。今、この紀伊半島には、県が進めている燦黒潮リゾート構想、国際リゾート基地の形成が現実のものとして脚光を浴びてきておるのであります。
 知事は、いつか、「原発もリゾートも地域活性化という共通点がある。安全性の確保と自然環境の調和を考えるならば、原発とリゾートは必ずしもなじまないものではない」という意味のことを言われたことを私は記憶しておるのであります。しかしながら、私は子孫まで危険と同居をしなければならない原発の代償として──危険だからお金をたくさんくれるのでありますが、その危険の代償としての地域の活性化、そして平和と豊かな時代を象徴するリゾートの活性化、これほど矛盾した相入れないものはないと考えるのであります。
 県は、もっと高い、大きな立場に立って、もっと柔軟な姿勢で、新しい発想のもとに、二十一世紀へ向けてこの紀伊半島を見直すときが来ている。原発よりもリゾート、原発よりも高速道路であります。もう原発の時代は去ったと、私は考えているのであります。意見として申し述べておきます。あれば、答弁をやってください。
 次に、企画部長。
 「県民の話し合いの場」ということについて、「県においては、県議会を通じて意見を承っておる。公聴制度もある」という答弁でありますが、もっと具体的に、日高町へ行ったら県へ行け、県へ行ったら日高町へ行けと言われた県民は今度はどうするんだということを明確に答弁していただきたい。
 以上。
○議長(門 三佐博君) 以上の再質問に対する当局の答弁を求めます。
 企画部長川端秀和君。
 〔川端秀和君、登壇〕
○企画部長(川端秀和君) 県民の話し合いの場についての再質問にお答えを申し上げます。
 先ほど、県民の御意見は県議会を基本にしながら公聴制度等を活用するとの御答弁を申し上げましたが、状況に応じまして、県民の御意見や御質問を直接お伺いする場にも対応させていただいてございます。
 今回お申し入れの件につきましては、町独自の判断でなされたことでございますので、県としてはその間の状況に応じた対応がしがたいということを申し上げているわけでございますので、御理解を賜りたいと存じます。
 以上でございます。
○議長(門 三佐博君) 答弁漏れはありませんか。──再々質問を許します。
 〔「なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(門 三佐博君) 以上で、森利一君の質問が終了いたしました。
 これで、午前中の質疑及び一般質問を終わります。
○議長(門 三佐博君) この際、暫時休憩いたします。
 午前十一時二十六分休憩
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