平成17年6月 和歌山県議会定例会会議録 第4号(長坂隆司議員の質疑及び一般質問)


県議会の活動

 質疑及び一般質問を続行いたします。
 三十八番長坂隆司君。
  〔長坂隆司君、登壇〕(拍手)
○長坂隆司君 皆さん、おはようございます。
 議長のお許しをいただきましたので、以下、通告に従いまして質問さしていただきます。
 一番目に、患者の苦痛を取り除く医療についてであります。
 昨日、江上議員が質問されました部分と重複もあると思いますが、私なりの視点で展開さしていただきます。
 和歌山県が生んだ医聖華岡青洲が初めて全身麻酔剤(通仙散)を使用して乳がん摘出手術に成功したのが今から二百一年前、一八〇四年十月十三日であり、アメリカのモートンによるエーテル麻酔法に約四十年先立つものでありました。患者の痛みを取り除くことに医者としてのあるべき姿を既に認識されていたのではないでしょうか。
 イギリスの女医シシリー・ソンダースが世界で最初にホスピスをつくったのは一九六七年でありました。彼女は初め看護師でしたが、健康を害してソーシャルワーカーになり、その後、がん患者のケアのために、三十歳を過ぎてから医学校に入って医者になりました。治る見込みのない患者さんのためのケアサービスが必要だということでホスピスをつくったのであります。
 彼女は、がんの痛みをコントロールするためにモルヒネを使用したことでも有名であります。彼女によれば、ホスピスとは「がん患者に限らず、もうこれ以上医学的な手を打つことができない状態になっている患者さんを最期まで温かく見守り、苦しみを取り去るところ」であります。ホスピスの五原則として、一、患者を一人の人格者として扱う、二、苦しみを和らげる、三、役に立たない治療はしない、四、家族のケア、死別の悲しみを支えてあげる、五、医者、看護師だけでなくボランティア、マッサージ師等、患者さんが必要と思う人すべてによるチームワークを組むことを挙げております。
 私自身、今から十四年前に父親を肝臓がんで亡くしましたが、干からびたようにやせ切った体からは想像もできないような力でベッドをたたいてのたうち回りながら痛みと闘っていた姿を忘れることはできません。人生の最期、終末期を援助するためのターミナルケア、ここに医療のあり方を考えさせられます。
 ホスピス運動は一九七〇年前後に世界に拡大し、世界保健機関(WHO)がQOL(クオリティー・オブ・ライフ)、すなわち生活の質を重視した医療を提唱したのが一九八九年でありました。日本でも一九九〇年から相次いでホスピス、緩和ケア病棟がつくられることになり、百を超え、定着もしてきております。和歌山県においても、一九九九年、和歌山県立医科大学附属病院に緩和ケア病棟が九床新設され、麻酔科を初めとした医師や薬剤師、栄養士等々と協力体制をとって、チーム医療により患者の人としての尊厳に配慮して快適な生活の援助をしておられます。
 従来の医療は、治癒させることに専念する余り、治癒できない場合の対応がまるで欠けていたのではないでしょうか。ただ、あと何カ月といった延命策を講ずるしかないやり方であったと思われます。症状の変化、痛みの激化、息苦しさへの対応に限界を感ずる中、何とか患者さんの痛み、いら立ち、不安を和らげられないものか。ここに、緩和ケアのみならず医療の治療(キュア)だけでないケアの部分が大きくクローズアップされます。
 緩和ケアに携わるスタッフが患者の一人としての人間であることを尊重し、肉体的痛みの緩和、精神的不安の緩和、そして家族との対話と援助、まずスタッフと患者、そして家族とのコミュニケーション、そして人間としての満足感を味わってもらうこと、そこから患者本人が心の不安、ひとりぼっちといった孤独感から少しでも解放され、死と向き合う、やがて来る死を自然の流れのままに受け入れられる、そんな、まるで患者が自分の家にいるようにその人らしさを大切に生活していけるケアであるべきでしょう。
 自分がどんな状態にあるかということをスタッフの人たちがみんな理解してくれていたら、スタッフを頼もしく思い、患者はいかに安らぎを覚えることでしょうか。そのためにも、医師のみならず、むしろ看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、栄養士、それにボランティアスタッフ等がチームワークで対等の議論ができるチーム医療、グループでのケア体制がどうしても欠かせないでしょう。そのためには教育、特にケアマインド教育が必要になってまいります。ぜひとも和歌山県立医科大学でも、学生に、そして研修医にも引き続き患者の立場に立った、患者が主役の真心教育をお願いいたしたいと思います。
 さて、質問に移ります。
 一番目、緩和ケアというものは、末期患者にのみ行われるのではなく、すべての患者に共通する医療のあるべき姿を象徴するものではないかと思います。医療の世界では、ともすると治療、特に先進医療を優先的に行ってきたひずみで、どうしても医学生としても先進医療に常に近づいておきたい気持ちが先行しがちではないでしょうか。地域医療についても、若い医師に体験させて新たな価値観、すなわち治療よりケアという概念に気づいてもらえれば、地域貢献できる医師がそこから何人か出てくるのではないでしょうか。和歌山県立医科大学における緩和ケア教育について、現状と今後の目指すべき方向を学長にお伺いいたします。
 二番目、医療はチームワーク、それぞれの分業で成り立っているものであります。しかるに、和歌山県立医科大学附属病院においてもソーシャルワーカーがいない現状、また臨床心理士も非常勤で週一回ぐらいと伺っております。果たして患者の心のケアはどうなっているのか、心配であります。ソーシャルワーカーの配置も、おおむね二百床に一人と指導されていると聞きます。医療におけるソーシャルワーカー、そして臨床心理士の今後の配置改善、現場での育成について、学長にお伺いいたします。
 三番目、医大附属病院の緩和ケア病棟ですが、夜間はこの病棟を一人だけで診ているという実態を伺っております。心のケアが一番大切な、それも言い知れぬ孤独感を感じる夜間であります。複数のスタッフ配置をお願いいたしたいと思いますが、学長、いかがですか。
 四番目、昨日、江上議員の質問にもありました在宅緩和ケア医療システムの構築には、緩和ケア病棟もある和歌山県立医科大学附属病院のリードが欠かせません。ぜひ開業医、薬剤師、訪問看護ステーションなどとともにネットワークをつくっていただきたいと思いますが、在宅緩和ケアにとって看護師の役割は医師以上のものがあるでしょう。保健看護学部にも大いに御活躍いただいて在宅看護実習教育を推し進めていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。学長、お答えください。
 五番目、とかく終末期医療となると大病院でのケアを望む家族が多いと聞きますが、患者の家族はもちろんのこと、広く一般市民の皆さんに在宅緩和ケア医療の可能性を説く市民講座を開催してはどうかと思いますが、福祉保健部長、いかがでしょうか。
 二番目に、下水道について三点質問をさしていただきます。
 和歌山県に限らず、全国的に下水道財政、経営は総じて厳しい状況にあり、多くの課題を抱えています。三位一体の改革により、国庫補助金の削減、地方交付税交付金の見直しで下水道予算の確保は余計難しくなっております。国土交通省下水道部がまとめた全国平均の汚水処理原価をもとに試算すると、下水道利用世帯の年間汚水処理料金は、公共下水道が七万円余り、特定環境保全公共下水道では約十九万円になります。
 昨年十二月よりことしにかけて国土交通省は、積極的に下水道経営の健全化を全国の都道府県や政令指定都市に呼びかけています。あわせて、下水道事業を円滑かつ効率的に行うために、住民に対して事業費用と料金負担の関係についてわかりやすく情報開示を行うとともに、経営状況の積極的な公開と説明責任の徹底に努めるよう呼びかけています。今後、人口減少や節水型社会の進行により水需要の低下などが見込まれ、社会動向に応じた料金体系の見直しは避けて通れません。
 昨年八月の中間報告にも述べられておりますが、財源確保のために、下水道の公的役割と私的役割のそれぞれに対応した国、地方公共団体、下水道使用者等による適正な費用負担が行われる必要があります。
 現在の全国の処理区域内人口のうち、実際に水洗便所を設置し汚水処理をしている人口の割合である水洗化率は九二・四%、これに対し使用料徴収の対象となる有収率は八一・三%。これは、有収率が高いほど使用料が徴収できない不明水が少ないことを示しており、著しく有収率の低い地方公共団体は不明水が多量に発生していることになり、この原因を究明することが必要だとしています。
 下水道使用料は、家庭や事業者から出る汚水をきれいな水にするための維持管理費と下水道を建設するために借り入れた地方債の返済、すなわち資本費に使われております。使用料収入と年間有収水量を基準にした全国平均の使用料単価は、一立方メートル当たり、公共下水道で百二十八円五十三銭、計画処理人口がおおむね千人以上一万人以下の市街化区域外の場所で実施される特定環境保全公共下水道は百四十三円六十四銭、一立方メートル当たり汚水処理原価は、公共下水道で百九十八円二銭、特定環境保全公共下水道で五百二十二円八十六銭となっております。
 そこで質問に移りますが、以下三点、県土整備部長にお尋ねいたします。
 一番目、各市町村でばらつきはあると思いますが、和歌山県における公共下水道の使用料単価と汚水処理原価を教えてください。
 二番目、先ほど述べたとおり、実際に下水道を使用した料金とコストには大きな開きがあるわけで、これが下水道財政を圧迫していると思います。そこで、経営主体は明確な経営目標と経営見通しを持ち、適切な下水道使用料のもとに未接続者へ納得のいく説明の上、接続の徹底を図っていくことが大切であります。特に、公共下水道への接続が進むことでスケールメリットが発揮され、汚水処理原価が下がるとともに下水道使用料収入も増加するということで、下水道経営の改善につながると考えますが、現状と取り組みを聞かせてください。
 三番目、公共下水道にせよ、浄化槽にせよ、集落排水にせよ、一番コストのかからないようにと常々御尽力されていると思いますが、コスト縮減の努力について県の取り組みを聞かせてください。
 以上二点、質問さしていただきました。御清聴ありがとうございました。
○議長(小川 武君) ただいまの長坂隆司君の質問に対する当局の答弁を求めます。
 福祉保健部長嶋田正巳君。
  〔嶋田正巳君、登壇〕
○福祉保健部長(嶋田正巳君) 在宅緩和ケア医療の市民講座開催についての御提案、御質問についてお答えを申し上げます。
 在宅緩和ケアにつきましては、終末期の患者さんが家族とともに在宅で治療を受けたいと希望する傾向が高まりつつあります。そういう中で、末期がん患者などに対して、精神面での支援や疼痛の緩和などに重点を置きながら、患者の生命の質に配慮した緩和ケアを在宅で行うための体制確保や関係者の理解が求められているというふうに認識をしてございます。
 この後、南條学長さんから緩和ケアについての答弁があろうかと思いますけれども、県といたしましては、今後は県立医科大学を初め保健・医療・福祉機関との連携を図りながら、在宅緩和ケアの県民への普及・定着を図ってまいりたいと考えてございます。
 以上でございます。
○議長(小川 武君) 県土整備部長酒井利夫君。
  〔酒井利夫君、登壇〕
○県土整備部長(酒井利夫君) 下水道について三点、お答え申し上げます。
 まず、和歌山県内の下水使用料単価と汚水処理原価についてであります。
 まず、使用料単価は長期的な収支バランスや公共料金という点を勘案し決定しており、平成十五年度県平均一立方メートル当たり百三十六円となっております。
 一方、実際に汚水処理に要する費用である汚水処理原価は、維持管理費と建設段階での起債に係る元利償還費で構成され、下水道施設の規模、供用年数等により施設間でばらつきはありますが、平成十五年度県平均で一立方メートル当たり二百九十円となっております。
 次に、接続の問題でございます。
 経営の安定は、議員御指摘のとおり喫緊の課題であり、各御家庭との接続による処理水量の増加は収入増につながることからスケールメリットが発揮され、下水道経営の安定に資するものと認識しております。
 本県における下水道接続の現状は、下水処理施設整備への取り組みのおくれにより供用開始間もない施設もあることなどから、平成十六年度接続率は県平均六五・一%と、全国的に見ても低い状況にあります。
 これまでも市町村において、接続に伴う助成金や融資あっせん等の促進施策とあわせて啓発による接続の促進に努めてまいっておりますが、今後ともあらゆる機会をとらえ、接続の必要性についてよりわかりやすく説明を行うなど、関係する多くの皆様の御理解、御協力のもと、接続率向上に向けて積極的に取り組んでまいります。
 最後に、下水処理のコスト縮減についてでございます。
 下水道、浄化槽、農業集落排水等、それぞれの処理を効率的に行うため、人口集積度合いや施設費、維持管理費等、長期的かつ広域的な視野に立ち和歌山県全県域汚水適正処理構想を定め、これに基づき汚水処理施設の整備を進めております。これまで経済性の観点から、一部下水道区域を浄化槽区域に変更するなど、平成十二年、平成十四年度の二回見直してございます。
 また、施設の建設に当たっては、汚水処理水量に見合った段階的な整備やマンホールの設置基準を見直すなど、コスト縮減に取り組んでおります。
 今後とも、より経済的に、より効率的な整備を行うよう、知恵と工夫をもってさらなるコスト縮減に取り組んでまいります。
 以上です。
○議長(小川 武君) 医科大学学長南條輝志男君。
  〔南條輝志男君、登壇〕
○医科大学学長(南條輝志男君) いずれの御質問も関連がございますので、一括してお答えさせていただきます。
 議員の御指摘のとおり、我が国の医療は治療とそのための診断に偏重してきた結果、生きる質・QOLに価値を求めるケア教育やホスピス、在宅医療の体制が欧米諸国と比べまして未発達な状態にあります。
 県立医科大学では、国公立大学病院としては全国初の緩和ケア病棟を開設して緩和ケアに取り組むとともに、ケアマインド教育と患者様の立場に立った医療人育成教育を実施しております。
 今後は、緩和ケアを必要とする患者様に対するソーシャルワーカーや臨床心理士の方々の役割がますます重要性を増してきますので、医科大学といたしましては、トータルケアの実践を通して職員のさらなるスキルアップを図るとともに、夜間スタッフにつきましても病院全体の問題として今後検討してまいります。
 なお、在宅看護実習につきましては、保健看護学部において地域看護実習の一環として実施しているところであります。
 今後も、関係機関等の御協力を得ながら、さらに充実させていきたいと考えております。
○議長(小川 武君) 答弁漏れはありませんか。──再質問を許します。
 三十八番長坂隆司君。
○長坂隆司君 御答弁いただきました。
 患者の苦痛を取り除く医療についてですが、昨日のお答えのときもそうでしたが、「患者様」と「様」をつけて呼んでいただいているところに南條学長の教育、そして医療に対するお気持ちの一端がうかがえて頼もしく思わせていただきました。
 独立行政法人化に向けて、医大にとってソーシャルワーカー、臨床心理士は一層必要になってくると思います。医師、看護師にはない別の視点をお持ちであると思います。もちろん、ケアのマインドを強烈に持っている人でないと困りますが、どうか適正に配置いただけますよう、また日ごろの医療現場という研修場所もありますし、スキルとマインドを持っていただくためにそれぞれの養成をよろしくお願いいたします。
 医大が現在意欲的に推進いただいています在宅緩和ケア医療システムの構築について、県当局もぜひ積極的に支援体制をとっていただいて、保健所、医師会、看護協会、それに訪問看護ステーション等、ともどもに強力に取り組んでいただきたいと思います。そのためにも、患者の家族、一般市民の皆様への在宅緩和ケアの必要性を普及啓発していく努力を切にお願いいたします。
 下水道については、平成十七年四月一日施行の地域再生法の地域再生計画に基づいて、環境省、農林水産省、国土交通省、各省連携の汚水処理施設整備交付金が創設されました。これは、既存の都道府県構想にとらわれず、市町村の自主性、裁量性に基づき、みずから基礎数値を定めて整備手法を見直すことが可能で、結果は次回の都道府県構想の見直しに反映されることになります。下水道、集落排水、浄化槽、それぞれに所管官庁に予算を要求できるわけです。今後、下水道整備の促進に期待が持てる制度であります。
 もともと下水道への接続促進は、主として便所を水洗化して快適な生活環境を実現することであったと思うのですが、接続を徹底するためには、接続の意義や未処理汚水が環境に与えるダメージ、あるいはし尿や汚泥のくみ取り作業の存続は地域における二重の社会負担になるといったことをわかりやすく説明して、社会的コンセンサスをつくっていくことが大事だと思います。
 ひとり暮らしの高齢者等にとって相当な経済的負担を伴うことは事実でありますが、公共的見地から言えば、住民としても下水道への接続は市民としての義務であり、下水道を私的便益に使用する分については使用者の負担が基本であることを再認識していくことが求められるべきであります。
 県当局におかれましても、どうか下水道経営をより改善するためさらなる御尽力をお願いいたしまして、要望とさせていただきます。
○議長(小川 武君) ただいまの発言は要望でありますので、以上で長坂隆司君の質問が終了いたしました。
 これで、午前中の質疑及び一般質問を終わります。
 この際、暫時休憩いたします。
  午前十一時五分休憩
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