平成17年6月 和歌山県議会定例会会議録 第3号(江上柳助議員の質疑及び一般質問)


県議会の活動

  午前十時三分開議
○議長(小川 武君) これより本日の会議を開きます。
 日程第一、議案第百三十五号から議案第百九十二号まで、並びに知事専決処分報告報第八号から報第十三号までを一括して議題とし、議案等に対する質疑を行い、あわせて日程第二、一般質問を行います。
 三十六番江上柳助君。
  〔江上柳助君、登壇〕(拍手)
○江上柳助君 皆さん、おはようございます。
 ただいま議長のお許しをいただきましたので、通告に従いまして一般質問さしていただきます。
 今回もまたこのように一般質問の機会を与えていただきました先輩・同僚議員の皆様に、心から感謝、御礼申し上げます。ありがとうございます。
 冒頭に、質問へ入る前に、貴志川線存続の御礼と要望をさしていただきます。
 私は、一昨年十二月、貴志川線存続問題で貴志川線を存続させていくための利用促進について、この本会議で一般質問さしていただきました。知事は、鉄道軌道敷地の取得について県の負担とする旨の英断をされました。県の負担が二億四千万、そして八億二千万を十年間で貴志川町が三五%、そして和歌山市が六五%ということで決まりまして、後継事業者の公募をいたしまして九者が応募に応じたわけでありますが、本年四月に後継事業者に岡山市の岡山電気軌道が決まりました。
 南海電鉄はこれまで、ことしの九月末の営業終了を表明しておりましたが、一方、事業を引き継ぐ岡山電気軌道は、運転士の研修期間が必要なため、来年四月からの運行を希望、和歌山市などは南海電鉄に半年間の営業期間延長を要望しておりました。
 このたび南海電鉄は、地域の交通政策に貢献をする、さらには円滑に継承するためとして六月九日、国土交通省に廃止予定日を来年三月末までとする繰り下げの届け出書を提出いたしました。
 貴志川線の存続を求める「貴志川線の未来をつくる会」の皆様、知事を初め県当局、和歌山市、貴志川町の関係者の御尽力に心から敬意を表し、御礼を申し上げます。
 今、全国的にこのローカル線の存続が危ぶまれる中、全国のモデルケースとなる鉄道の運行事業でもあります。今後、円滑な移管に向けてさまざまな問題があると思います。どうか県当局としても、岡山電気軌道の営業開始に向けて積極的に協力していただくことを強く要望さしていただきます。
 それでは、質問に入らしていただきます。
 本県の保健医療体制の充実についてお尋ねいたします。
 皆様御承知のとおり、本県には、医療施設として九十二の病院、一般診療所千八十四施設──この一般診療所の数は人口比で全国一多い数であります──さらに歯科診療所五百六十五施設があります。高度医療機関として、和歌山県立医科大学附属病院、日本赤十字社和歌山医療センターがあります。日赤和歌山医療センターは、「医療センター」と名のつく日本赤十字社の病院では、東京と和歌山の二つのみであります。
 自分や家族の健康に不安を覚えたとき、病気になったとき、病院や医師に求めるものは、人それぞれ違うわけであります。がんで手術が必要になった場合どこで受ければいいのか、脳や心臓の手術はどの病院が大丈夫か、少しでもよい医療、満足できる医療を受けられる病院は、医師はといった不安が募ってきます。
 厚生労働省は、二〇〇二年から心臓外科、肺がんの手術など難度の高い手術について、一定の年間手術数を満たすかどうかで病院の診療報酬に五%加算の格差をつけました。これには、手術件数が多い病院は治療実績がよいという考え方が根底にあるからであります。
 例えば、医師という職業は、医師免許を取得しただけではペーパードライバーならぬペーパードクターであります。特に、外科手術は知識の上に熟練された技術が必要とされます。医療事故の八割は医師の未熟さが原因と言われております。
 最近になって、専門医の医療技術の底上げを図るため、認定試験に実技審査を導入する学会が出てきております。本来、治療は専門医ということが一番よいわけであります。それが不十分な現在、信頼の指標として参考になるのが手術や症例数なのであります。一般的に、手術、症例件数によって、よい病院、病院の実力と称されております。
 それでは、本県の県立医科大学附属病院を初めとする県の医療水準はどのくらいであるのか。きょうは資料をお配りさしていただいております。この資料は、最新の「週刊朝日」、「ヨミウリウイークリー」臨時増刊号の診療科目ごとの手術症例数ランキングであります。
 全国には九千百二十五の病院があります。この中で基準いわゆる手術件数が、心臓の場合は百件以上、消化器系がんの場合は百件以上、脳腫瘍、肺がんの場合は五十件以上、肝臓がんと脾臓がんもそうですが十例以上であります。ところが、専門医がいる場合は、その六割以上ということで基準がなってございます。その基準を満たしております千五百三十二の病院で、全国と近畿の手術件数の順位をまとめてみました。
 手術項目によって違いはあるものの、全国トップ五十位以内に、医科大学附属病院では胃がん手術の二十九位──トップ五十に胃がん手術の二十九位、また脳腫瘍手術など四項目が入っております。近畿圏トップ二十位の中では、医大附属病院で胃がん手術の七位を初め七手術項目が入っております。日赤和歌山医療センターでは、大腸がん手術が近畿でトップでございます。第一位を初め、四手術項目が入っております。
 確かに、大都市の病院、地方の病院の違いはあるものの、本県は大都市の病院と遜色のない高い医療水準であることがうかがえます。この背景には、医大と日赤の高度医療機関や中核病院、一般診療所との医療ネットワークや手術を担当する外科医、麻酔科医、病理医、看護師、臨床工学技士などの医療チームの並々ならぬ御苦労があるからだと思います。医療関係者の御尽力に心から敬意を表したいと思います。
 とりわけ、麻酔科医の存在を見逃すわけにまいりません。手術医の中で患者の体調に一番目配りをして手術を安全に進めるのは、麻酔科医の仕事であります。
 今回は、脳疾患、心臓病、がんなど一定の手術項目のランキングであります。ところが、医大の整形外科では年間六百件、救急で二百件の脊椎手術数があり、近畿ではトップクラスであります。三カ月先まで手術の予約が入っているそうであります。また、糖尿病などの内科でも数多くの症例数があります。症例数が多いということは、よい医師が育つ環境であり、質の高い満足の医療を受けられるということであります。
 一方、医大は、県内の中核病院に多くの医師を派遣しております。例えば、整形外科医だけでも橋本市民病院に四人、公立那賀病院に五人、社会保険紀南病院──五月一日より紀南綜合病院が紀南病院に改められました──に五人、新宮市民病院に五人派遣しております。これは整形外科医だけでございます。ほかの診療科目によっても派遣されております。なお、救急患者の半分、五割が、また六十五歳以上の四分の一、二五%が整形外科の患者であることを申し添えておきます。
 また、麻酔科医は毎日のように県下の中核病院に医大から送られております。なぜならば、麻酔がなければ手術ができないからであります。医大の役割の一つは、地域医療への貢献にあります。医大に活力と活気があれば医大を卒業した多くの臨床研修医が本県に残り、県民のために医師として地域医療に従事していくことになります。
 今日まで県は、奈良県立医科大学と比較した場合、金額は少ないものの多額の県費を医大に繰り出しております。私は、医大へ先行投資したお金は決してむだではなかった、負の赤字ではないと思うわけであります。それは、医大の存在が県民医療、地域医療にどれだけ貢献しているかははかり知れないからであります。
 今、医大は、木村知事を初め歴代の知事、県議会の皆様の地域医療への温かい思いやりと医師を中心とした医療関係者のたゆまぬ努力によって、花を咲かせ、実を結ぼうとしております。その果実は、とりもなおさず県民、国民がひとしく享受するものであります。
 そこで、知事にお尋ねいたします。
 和歌山県立医科大学は、来年四月から地方独立行政法人化されるわけであります。日赤と並んで医大は、第三次高度医療機関として高い医療水準を誇っております。地域には中核病院があり、一般診療所の数は、先ほど申し上げましたとおり、人口比で全国一であります。また、本県は世界で初めて全身麻酔による乳がん摘出手術に成功した那賀町の医聖・華岡青洲、我が国で初めて天然痘の予防ワクチンを開発した日置川町の医師・小山肆成のゆかりの地でもあります。
 県民がひとしく安心安全、満足の保健や医療を受けられるよう、今後さらに保健医療供給体制を確立し、医科大学を中核とした地域医療先進県を目指すべきだと考えます。本県の医療水準に対する知事の御感想とあわせ、御見解を承りたいと思います。
 次に、南條学長にお尋ねいたします。
 南條学長は本年三月、第十一代目の和歌山県立医科大学学長に就任されました。御就任、まことにおめでとうございます。
 先生は糖尿病学の権威者であられ、異常インシュリンの研究で日本糖尿病学会賞、日本医師会医学研究奨励賞を受賞され、一昨年には「遺伝子異常による糖尿病」で日本糖尿病学会賞を受賞されております。いよいよ来年四月から医大は地方独立行政法人化を迎え、困難のときであります。県民の願いは、現在の医療水準を向上させつつ、県民に愛され親しまれる大学附属病院であっていただきたいということであります。
 そこで、医科大学学長の決意とあわせ、今後、患者本位の質の高い医療、患者の視点を持った教育、地域医療への貢献にどのように取り組むお考えか、お伺いいたします。
 次に、紀南方面の医療の充実についてお尋ねいたします。
 県立医科大学附属病院の年間の外来患者数は、平成十六年度で三十三万三千九百五十人──こちらに、資料の一番下につけてございます──そのうち六・七%が大阪府からの患者となっております。ちなみに、日赤和歌山医療センターにおける大阪府からの救急外来患者でございますけれども、実に総患者数の七・二%となっております。大阪泉佐野・泉南方面には大きな病院はないものの、本県の医療水準の高さが容易にうかがえます。
 私が今回注目をしましたのは、医大、日赤の高度医療機関が和歌山県紀北部に位置する関係で、紀南方面からの患者が非常に少ないということであります。見ていただきますと、新宮・東牟婁からは総患者数の〇・五%、さらには田辺・西牟婁方面からは一%となっております。
 少ない理由は、本県は紀伊半島に位置し、南に長い地域の特性から、なかなか病院に行くのが大変だということもあろうかと思いますが、一方で社会保険紀南病院、また国立南和歌山医療センターがその役割を果たしているからだと思います。
 このことを裏づける資料としまして──これも資料をつけておりますが──「全国優良病院ランキング(十二の病気別、開業医の推薦病院)」があります。これは県内の開業医の先生方が推薦をした票数によって──これ、県内の開業医の方が投票しているわけですね──それによってランキングしたものであります。医大、日赤に続いて社会保険紀南病院、国立南和歌山医療センターが第三位に位置することが目立ちます。ちょっと薄い緑で色分けしておりますが、第三位に位置しております。
 県民がひとしく高度の医療を受けられるためにドクターヘリコプターが配備され、毎日のように救急患者を医大に運んでおります。また、小児ドクターも配置されました。そのことによって、一応県下全域がカバーできるわけであります。
 そこで、紀南方面の医療供給体制の強化を図る観点から、田辺市の医療機関に救命救急センターの設置を図るべきだと考えます。また、田辺市から新宮市までの間に地域の中核拠点病院の設置を検討すべきだと考えます。知事の御所見を承りたいと思います。
 次に、がん対策についてお尋ねいたします。
 がんは一昔前であれば不治の病と言われていましたが、現在は検査技術、治療技術などの進歩によって、早期発見で早期治療が行える病気になりました。しかしながら、依然として国民の三人に一人はがんで亡くなっております。がん患者、家族の八割以上が日本のがん医療に不満を持っていると言われております。命を救ってくれる医師を探し求めてさまよう患者の姿を「がん難民」と称する人もいるほどであります。
 県の「新生わかやまベンチマーク~数字で示す政策目標~」の平成十五年三月改訂版では、平成十三年度で人口十万人当たり二百九十・六人のがんの死亡率を平成十八年度には全国平均の二百三十八・八人まで下げるとしております。がん検診の受診率も全国的に見て一定の水準にあるものの、本県でがんの死亡率は高い状況となっております。このような本県におけるがん患者の状況が、医療費、特に老人医療費の負担増の大きな原因と考えられます。
 そこで、がん検診の受診率の向上など、総合的ながん予防対策の推進が必要であると考えますが、福祉保健部長にお伺いいたします。
 がん検診を効果的なものとするためには、最新の医療技術を積極的に導入していくことが必要であります。乳がん検診には、触診のみの検診からエックス線撮影、つまりマンモグラフィーが県下の医療機関と検診施設の三十六施設に設置されております。
 また、乳がん以外にも本県は、気管・気管支及び肺がんの死亡率は全国一であります。特に、女性の肺がん死亡率が高いようでございます。肺がんの発見率が現在行われている検診と比較して六ないし七倍高いと言われておりますヘリカルCTは、医大附属病院、日赤和歌山医療センターに導入されております。
 また最近、マスコミなどでも話題となっているものに、がんの診断において最先端技術と言われるポジトロン・エミッション・トモグラフィーと言われる──PETと言われておりますが、このPETとは陽電子放出断層撮影法のことで、その最大の特徴は、従来の診断方法では臓器や部位ごとに検査が必要だったところが一度の検査で全身を短時間にチェックできることにあります。この検査では、一部の臓器を除き、直径数ミリ程度の小さながんも判断でき、早期発見にも役立ちます。また、PETでは腫瘍が悪性か良性か、さらには悪性の度合いまで判断できるため、むだな手術をしなくて済むという利点もあります。
 本県におけるがん医療の水準を大きく向上させるため、新しい医療機器を積極的に導入すべきであると考えます。地域医療の中核であります第三次高度医療機関である医大附属病院及び日赤和歌山医療センターに、がんの発見率を高めるPET装置を導入すべきであると考えます。福祉保健部長の御所見をお伺いいたします。
 次に、がん患者在宅緩和医療システムの構築についてお尋ねいたします。
 本県は、先ほども申し上げましたように、がんによる死亡者が年間三千人を超え、全国的には第七位のがん死亡者が多い県であります。がん性疼痛に対するモルヒネの使用量は、一九八六年WHOの指針ができているにもかかわらず、日本のモルヒネの使用量は、がん末期患者の手厚いケアを行っているイギリス、カナダの九分の一であります。本県においては、一九九九年には全国都道府県で四十三位、全国の百八の大学附属病院の中では百位と、県内のがん患者は十分と言えるモルヒネなどの疼痛管理を受けていないのが現状でありました。
 県内では、一九九八年に和歌山緩和ケア研究会が発足し、また一九九九年には県立医科大学の総合移転と同時に緩和ケア病棟が開設されました。これは全国の国公立大学病院では初めてのことでありました。以後、県立医科大学が中心となって同研究会を通じてがん性疼痛に対するモルヒネ使用の啓発活動を行ったため、二〇〇三年のモルヒネの使用量は全国都道府県で四十三位から二十二位に、そして大学附属病院としても百位から五十一位にまで上昇しました。このことは、県内では教育と啓発活動が効果を示すことをあらわしています。
 今日、がん性疼痛患者に対する薬物使用に進歩が見られても、県内で承認されている緩和ケア病棟は、県立医科大学の九床、また国立南和歌山医療センターの八床のみで、決して県内終末期がん患者の多くを収容できるものではありません。
 告知されたがん患者の八〇%は、在宅での終末を希望していると言われております。ところが、在宅での介護に対する患者とその家族の不安は強く、かかりつけ医師、訪問看護ステーションにおいても在宅医療としては老人介護が中心であり、がん患者ケアの経験がないことから、がん患者の終末期の在宅看護を敬遠する傾向にあり、在宅医療支援体制ができていないのが実情であります。
 現在、県立医科大学では、がん治療に対する先端医療とあわせ、地域におけるがん患者在宅緩和医療システムの構築への取り組みがなされようとしております。このことは、がん末期患者とその家族にとって大きな朗報になるものと考えます。また、日本のがん末期患者に対する地域医療のモデルになるものとも考えられます。この取り組みをどのようにとらえ、県としてどのように支援していくお考えか、福祉保健部長にお伺いいたします。
 次に、麻酔科医不足についてお尋ねいたします。
 現在、全国の病院で麻酔科医の不足が深刻化しております。手術が予定どおり実施できない病院も出てきております。麻酔科医不足の一因は、手術件数の急増にあると言われております。また、昨年四月に始まった臨床研修制度も麻酔科医不足を加速させております。新人医師に二年間研修が義務づけられ、従来は大学の医局に入っていた新人が民間病院などで研修を受けることになりました。人手不足となった大学側は、他病院への麻酔科医の派遣を控え始めたとも言われております。
 そこで、国立がんセンターを初め全国の病院では、麻酔科医の募集が頻繁に行われております。ホームページで見た限りでも、東北大学病院、さらには東邦大学病院、さらには埼玉医科大学病院、また神戸大学病院等でございます。そして、埼玉医科大学においては、外科医の麻酔科医に対して二倍の給料を払うという病院も出てきております。
 本県においても、手術室に一名の麻酔科医が充足されている病院は、医大と日赤和歌山医療センター、和歌山労災病院の三医療施設だけであります。実際に本県においても麻酔科医が不足して、手術が予定どおりにできない病院も出てきております。現在は医大からの麻酔科医の派遣で何とか対応している現状であります。
 日本麻酔学会はことし二月、麻酔科医不足に対し、各医療機関の麻酔科医の定員をふやす、看護師、薬剤師などによる麻酔準備の導入、麻酔の保険診療の報酬や医師の給与を改善するなどを提言いたしました。結構、診療報酬も高いわけで、二時間の麻酔をかけるのに六万二千円の診療報酬がついております。
 最近では、この麻酔科医が不足しておりますので、東北の医科大学を卒業した麻酔医の方が自分で開業いたしまして、そして各病院と契約をして、「麻酔科医のフリーター」とまで評されておりますけれども、結局それは、本人はおっしゃっていますけど、「私はまじめに開業しているんです。そして、麻酔科医として各病院に契約をしながら行っているんです」、そういう状況まで起きているわけでございます。
 郷土和歌山が生んだ医聖・華岡青洲は、今から約二百年前の一八〇四年、世界で初めて全身麻酔による乳がん摘出手術に成功した外科医であります。この偉業は、広く世界で知られたハーバード大学におけるモートンのエーテルによる全身麻酔の公開実験の約四十年も前のことであります。青洲は、麻酔という概念すらなく痛みに耐えることが美徳とされていた時代に、動物実験を重ね、朝鮮アサガオを主成分とする「通仙散」を合成し、自分の母親や妻をも実験に使ってこの偉業を成功させたのであります。この偉業は一九五四年、シカゴで行われた国際外科学会に発表され、その栄誉館には現在も青洲に関する資料が展示されております。今日の麻酔科医不足の実態を医聖・華岡青洲先生が聞かれたら、さぞかし嘆かれることでありましょう。
 本県における手術患者の安全・安心や医療の質を向上させるための麻酔科医が不足している現状と今後の麻酔科医対策について、福祉保健部長にお伺いいたします。
 次に、災害時の救急医療に関して、トリアージドクター制度についてお尋ねいたします。
 皆様御承知のとおり、「トリアージ」とはフランス語で選別を意味します。死亡または生存の可能性のほとんどない場合は黒、重症の場合は赤、中等症の場合は黄色、軽症の場合は緑によって判断されます。そして、トリアージドクターは、死者の蘇生手術はせず、軽症者は止血程度しか行わず、手当てをしなければ死んでしまう人から判定し、赤のトリアージタグをつけていき、後から来る救急隊はその赤のタグをつけた人から優先的に救助することになります。
 アメリカの州、市、町では、すべての非常事態のとき招集されるトリアージドクターを任命しています。県の保健医療計画では、「一般住民に対する救急蘇生法、止血法、トリアージの意義などに関する普及啓発により防災意識の高揚に努めていく必要があります」と述べております。
 阪神・淡路大震災の際、軽症者が病院に殺到し、重症者が放置され、多くのとうとい人命が失われたことを考えるとき、トリアージ制度は必要であると考えます。尼崎のJR福知山線脱線事故では、負傷者の救助活動にトリアージタグが使用されておりました。
 しかしながら、トリアージドクターの判断ミスのおそれもあり得ることから、この場合、国家賠償などの制度を適用することも必要でないかと考えます。したがって、国の制度としてもトリアージドクター制度を導入すべきだと考えます。先進圏では、日本だけがこの制度がないそうであります。このトリアージドクター制度の導入について、福祉保健部長に御見解を承りたいと思います。
 最後になりました。ドクターヘリコプターの夜間運航についてお尋ねいたします。
 本会議で、私を含む先輩議員、同僚議員の皆様から、ドクターヘリコプターの導入を要望する質問がございました。平成十五年一月から、知事の高い見識と英断によりまして、ドクターヘリコプターが医大を拠点として運航されております。今日まで二年半にわたり無事故で多くの患者を運び、多くの患者を救出し、そしてまた県民の皆さんに大変喜ばれております。
 最近では、一日一回の割合で運航されております。現在は午前九時から五時までの運航でございますが、五月から八月までは午後六時までの運航となっております。夜間運航ができないものか。夜間運航となれば、今よりもっと多くの救急患者を救うことになります。何が障害となっているのか。夜間運航できない理由は何か。夜間運航の実施について福祉保健部長にお伺いいたしまして、私の第一問とさしていただきます。
 御清聴ありがとうございました。
○議長(小川 武君) ただいまの江上柳助君の質問に対する当局の答弁を求めます。
 知事木村良樹君。
  〔木村良樹君、登壇〕
○知事(木村良樹君) まず、和歌山県の医療水準についてでございますが、種々の資料をお示しいただいて、私も改めて和歌山県の医療水準の高さを再認識したところでございます。こういうふうな傾向がさらに続いていくことを心から願っているところでございます。
 医療制度は、御案内のように一次から三次の三つの体系で整備しているわけでございますが、特に三次については高度医療、そしてまた特殊医療、こういうものを担って県民の信頼にこたえるべく現在、医大と日赤がこの役割を担っているわけでございますけれども、ますますこの両病院が機能充実をしていくことを県としても協力していかなければならいと思っております。
 さらには、このほかに県では、先ほど御質問の中にもありましたように、ドクターヘリ、非常に出動回数もふえて定着してまいりましたけども、こういうものの充実ですとか、それからことしから大きく充実することにしている医療情報ネット──それぞれの和歌山県内の医療機関の情報がインターネットで即時に取り出せて、駐車場の位置までわかるというふうなシステムを全国にある程度先駆けて導入することにしましたが、こういうふうないろんな形での医療の充実ということを図っているわけですが、一方で、御案内のように医師の不足、医師確保の問題でありますとか、それから小児医療についてお医者さんがいないというふうな、いろいろこれから取り組んでいくべき課題もございますので、こういう問題について鋭意努力をしていきたいというふうに思っております。
 次に、紀南の医療の問題でございますが、確かに紀北への医療機関の偏在ということがございまして、こういうふうなことを何とか緩和しようということで、今年度からドクターバンク制度というのを、これも全国で非常に早い方なんですが、行おうということでやっております。
 自治医科大学から先生に来てもらうというふうな制度、それから県立医大の積極的な地域医療への対応とあわせて、この紀南の医療への対応というふうなものを図っていきたいと思っておりますが、最近では国の方で小規模救命救急センター制度というのが創設されましたので、そういうふうなもの──ドクターヘリが大分活躍しているんですけども、そういうものとあわせて、またそういう小規模の救命救急センターの導入というようなことについても改めて考えていきたい、このように考えております。
 さらに、田辺から新宮までの地域に中核病院が少ないというふうなことなんですけども、これについては現在、自治体の合併問題というのがどんどん進んでおりまして、そういう中で自治体病院のあり方というふうなものも今後大きな問題になってくると思いますので、そういう中で積極的に対応していきたいと、このように思っております。
○議長(小川 武君) 福祉保健部長嶋田正巳君。
  〔嶋田正巳君、登壇〕
○福祉保健部長(嶋田正巳君) 保健医療体制の充実についての六点についてお答えを申し上げます。
 まず、がん検診の受診率の向上と対策についてでございますけれども、平成十五年の本県の総死亡者数は一万四百四人で、そのうち死因で一番多いのはがんでございまして、三千七十一人となっております。特に死亡率の高い肺がん対策として、多くの発がん物質が含まれているたばこにつきまして、平成十三年三月、たばこ対策指針を策定し、重点的に取り組んでおります。
 また、乳がん対策につきましては、受診率の向上に向け、本年度、がん発見率の高いマンモグラフィー搭載検診車を二台整備をいたしました。
 さらに、本年九月のがん制圧月間には、これは我が県では初めてでございますけれども、国と共催による「がん予防展」を開催するなど、がんに関する正しい知識の普及と理解を高める啓発活動に努めるなど、がんの死亡率減少に向け総合的に取り組んでまいりたいと思います。
 次に、がん検診のための陽電子放射断層撮影装置いわゆるPET装置の導入についてでございます。
 PET検査は議員お話しのとおり、一度の検査で全身が調べられ、一部の微小ながんの発見に有効とされていることから、全国的に注目をされております。しかしながら、PET検査自体は必ずしも万能なものではなく、その導入に当りましては、高額な検査装置に加え、放射性物質を取り扱うため、厳重な構造設備や専門家の確保、高額な経費が必要となると認識しております。
 県立医科大学附属病院や日赤和歌山医療センターにPET装置を導入するという御提言につきましては、従来の検査法に加えてPET検査が実施できれば、がんの早期発見や高い水準のがん治療に資するものと考えております。この六月から和歌山市内の民間病院がPET検査を開始し、また新たにPET装置を導入予定の医療機関もあると聞いておりますので、当面これらの医療機関と県立医科大学附属病院や日赤和歌山医療センターが連携することにより本県のがん医療の向上に寄与することを期待しているところでございます。
 次に、がん患者に対する終末期医療についてでございますけれども、延命だけではなく精神面での支援を行いながら、疼痛などの症状の緩和に重点を置き、患者の生命の質に配慮した緩和ケア体制の充実が求められております。
 緩和ケア病棟につきましては、県立医科大学附属病院に九床、南和歌山医療センターに八床が設置されてございますけれども、今後、紀北地域に約四十床増床する予定がございます。
 一方、患者が在宅緩和ケアを希望する傾向が高まりつつある中、現在、県立医科大学において積極的な取り組みが考えられておりますけれども、今後このような取り組みをモデルとして、地域特性に応じた緩和ケアの推進体制について検討してまいりたいと考えております。
 次に、麻酔科医の不足と対策についてでございます。
 平成十四年十二月の調査によりますと、県内で医療に従事する麻酔科医は五十九名ございます。大部分が和歌山市に集中している状況で、昨年度、病院協会が公的病院を対象に実施したアンケート調査によれば、二十二病院中七病院で麻酔科医が差し迫って必要であると回答しております。
 今後の確保対策につきましては、現在、厚生労働省の医師の需給に関する検討会において議論されているところでございまして、県としましては、こうした議論を見据えながら、有識者による県の医療対策協議会を設置し、麻酔科医を初めとする医師の確保対策について協議・検討してまいりたいと考えてございます。
 次に、トリアージドクター制度でございますけれども、トリアージは、議員お話しのとおり、災害等の発生時などに傷病者の緊急度や重症度によって医療機関へ搬送や治療の優先順位を決める手法で、過日発生しましたJR福知山線の脱線事故の際にも一定の成果があったとされております。
 また、トリアージを実施する際に、傷病者の緊急度や重症度を短時間で正確に判断することが求められております。本県では、県内の医療関係者に対しまして、トリアージ訓練を含めた災害医療従事者研修会を実施しますとともに、国主催の各種研修にも積極的な参加をお願いしているところでございます。
 議員御指摘のトリアージドクター制度につきましては、各災害拠点病院や県医師会、県病院協会などで組織します災害医療対策会議におきまして今後検討してまいりたいと考えております。
 最後に、ドクターヘリの夜間運航の実施でございます。
 ドクターヘリは平成十五年一月から運航開始いたしまして、出動件数は平成十七年度五月までの累計七百十件に上ってございまして、救命率の向上と後遺症の軽減に大きな成果を上げているところでございます。
 議員御指摘の夜間運航につきましては、夜間照明設備や運航に携わる操縦士、医師、看護師などの体制の拡充が必要となりますが、ヘリコプターの運航は有視界飛行が原則でございまして、何よりも安全の確保がすべてに優先する課題であると認識しております。
 安全面に最大の配慮をした上で、例えば早朝の時間帯からの段階的な運航時間の延長などを含め、夜間運航の可能性につきまして引き続き研究してまいりたいと考えております。
 以上でございます。
○議長(小川 武君) 医科大学学長南條輝志男君。
  〔南條輝志男君、登壇〕
○医科大学学長(南條輝志男君) まず最初に、議員には本学附属病院を高く評価していただきまして、どうもありがとうございます。
 決意ということでございますけれども、私は第十一代学長として、個性輝く魅力あふれる大学、社会・地域に貢献する大学、さらには学生、教職員はもとより県民の皆様に誇りを持って愛される大学づくりを目指して全身全霊を傾けてまいる所存でございますので、今後とも皆様方の御指導、御支援をよろしくお願い申し上げます。
 まず、患者様本位の質の高い医療の提供についてでございますが、本学附属病院は、県内唯一の特定機能病院として県民の皆様に高度先進医療を提供してまいりましたが、今後はより一層の充実に努めますとともに、患者様との十分なコミュニケーションを図りながら、患者様に安心していただける医療の提供に努めてまいりたいと考えております。
 次に、患者様の視点を持った教育についてでございますが、患者様と円滑なコミュニケーションをとるための教育や広く医療の問題を学生自身で考える教育として全国の大学に先駆けて医療ロールプレイを実施するなど、患者様の立場に立って適切な対応ができる医療人の育成教育を行っているところであります。
 次に、地域医療への貢献についてでございますが、これまでも県内の公的病院に医師を供給するとともに大学が持つ高度な医療技術の普及に努めるなど、地域医療の向上に努めてきたところでございます。
 今後とも、県民の医療ニーズ、地域の医療事情により柔軟に対応できるような体制づくりについて関係機関と協議してまいりたいと考えております。
 以上です。
○議長(小川 武君) 答弁漏れはありませんか。──再質問を許します。
 三十六番江上柳助君。
○江上柳助君 ただいま知事並びに福祉保健部長、また医科大学学長から前向きの答弁をいただきまして、ありがとうございました。
 私、実は本県の医療水準はどのくらいだということをある方から聞かれまして、一遍調べてみるようにということで、いろんな資料、本を買いあさってまいりました。ようやく行き着いたところが、先ほど申し上げましたこの「週刊朝日」のランキングや、また「ヨミウリウイークリー」とか「日経メディカル」の冊子でございます。これは、この編集者が勝手に書いているんではなくて、これは正確に社会保険事務局に、五%の診療報酬がかさ上げになっていますから、この手術件数というのは全部公のデータで出ているわけです。それをきちっと書かれておりますから、私は正確な情報であると思います。
 これを見まして、勉強させていただいて初めて本県の医療水準が高いということを知り、認識を新たにした次第でございます。医大、また日赤はすごい病院になったなという実感であります。このことをぜひ県民の皆様に知っていただきたいということで、このたび本会議で取り上げた次第であります。
 本当に恥ずかしい話ですが、私、今日までこれだけの手術症例数があり、そしてまた患者ももう本当に三十三万人、日赤医療センターにおいては、数を言うと差しさわりありますから言えませんけれども、医大よりも多いんですね。県の人口のほとんどが日赤、医大というふうになっております。ただ、紀北部だけにその恩恵をこうむっているような感じもありましたので、紀南方面ということで先ほどお尋ねした次第でございます。
 ですから、ぜひ──県費を費やしてきました。医大の新築移転もございました。しかし、一方でやはり、その県費を投入した意味を理解していただくために、この医大、県でしっかりと広報活動を積極的、継続的に行っていただきたいと思うんです。
 例えば、先ほどのドクターヘリも、テレビ和歌山でドクターヘリコプターの救急医療活動の模様が出ておりました。手術の状況なども、患者さんのいわゆるプライバシーに配慮しながら、そういうこともきちっとやっぱり高度医療をやっているんだということもしっかりと県民にアピールしていくことも大事ではないかなと思います。
 さらに、先ほどから知事並びに福祉保健部長、また学長からの御答弁をいただいて、近い将来、本県の医療は必ず今よりも高い水準に育って、そして全国でも有数の医療立県、また地域医療立県として高い評価を受け、県民医療に貢献していくことを確信をいたしました。
 そこで、いわゆる日赤医療センターあって医大あって、医大という病院は、いわゆる医師を教育し、育成をしていく。看護師を教育し、育成していく。また、研究機関でもあります。そしてまた地域に、県下の中核病院にたくさんの医師を派遣をしている。麻酔医も、きょうもどこかの病院へ走っております。そういう状況もこれあり、地域医療に貢献をしているわけでございます。
 そして、来年の四月から独立行政法人化を迎えるわけで、きのうも知事の御答弁がございまして、医科大学の経営責任ということは言うまでもありません。申すまでもないと思います。しかし、この独立法人化というのは、いわゆる業務の効率的かつ効果的な運営というのは大事でありますけれども、本来の目的というのは独立採算制を目指す制度ではないということであります。行政改革の一つであるものの、大学を活性化させていくんだと。その手段が、この地方独立行政法人化であります。
 大学というのは、利潤を追求する企業とは異なっております。しかし、薬事法も改正されまして、これから医師中心の医薬品の開発もできます。ある程度の緩和はされますけれども、他の地方独立行政法人とも性格は異なるわけですね。やはり教育研究機関の特性についても配慮されるべきである。これは参議院の平成十五年七月一日の附帯決議でも、教育研究機関に配慮せよという附帯決議がついております。
 法人化された場合、大学が活性化されて、県民の大学への期待感、存在感を高め、大学がその活動によって県民に貢献できるということが前提でなければならないと思うわけですね。医療技術や医療機器の向上というのは、日進月歩であります。先進医療、地域医療の確保、医療水準の向上を図る観点から、医大が独立法人化されても県としても支援していくということが私は肝要であると考えます。本県も苦しい財政でありますけれども、賢明な御判断をお願いしたいと思います。このことを要望さしていただきまして、私の質問を終わらしていただきます。
 御清聴ありがとうございました。
○議長(小川 武君) ただいまの発言は要望でありますので、以上で江上柳助君の質問が終了いたしました。

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