平成14年6月 和歌山県議会定例会会議録 第3号(木下善之議員の質疑及び一般質問)


県議会の活動

  午前十時二分開議
○議長(井出益弘君) これより本日の会議を開きます。
  【日程第一 議案第八十九号から議案第百三号まで、並びに報第二号から報第七号まで】
  【日程第二 一般質問】
○議長(井出益弘君) 日程第一、議案第八十九号から議案第百三号まで、並びに知事専決処分報告報第二号から報第七号までを一括して議題とし、議案等に対する質疑を行い、あわせて日程第二、一般質問を行います。
 十一番木下善之君。
  〔木下善之君、登壇〕(拍手)
○木下善之君 おはようございます。議長の許しをいただきましたので、ただいまより一般質問をさせていただきます。
 まず、紀伊丹生川ダム建設の中止問題についてでございます。
 まず最初に、失われた二十八年についてでありますが、今日までの経過とその取り組み等について申し上げ、知事にお尋ねをいたしたいと存じます。
 本年五月十六日、突然、国土交通省近畿整備局は紀伊丹生川ダムの建設を中止すると発表され、国の直轄事業としては近畿で初めてであり、驚きと国の公共投資の抑制が現実のものとしてあらわれたものと推察せざるを得ません。今や日本のダム建設は、自然環境の保全と財政上の問題等、大きなうねりとなって、平成十二年以降において事業の中止したダムは二十四府県に及び、紀伊丹生川ダムを含め、国営、県営合わせ四十八ダムとなっております。
 昭和四十年代の話として、本県最大の河川は紀の川であって、紀の川は日本三つの暴れ川の一つとされました。二十八水、三十四年の伊勢湾台風の教訓を生かし、完全な治水対策を講じなければならないとして、大滝ダムの建設とともに貴志川、紀伊丹生川へダム建設を進め、水を治める構想ができたと聞き及んでおります。当時、日本のある哲学者は「日本の未来に異変現象が生じ、水不足の時代が必ず来る」とも言われ、だれもが予想のできない事態が来ないとは限らない。時には干ばつで断水も経験され、水の重要さはひとしく認識されております。
 さて、紀伊丹生川ダム建設の話が聞かされたのは、私は今から二十八年前の昭和四十九年ごろ、当時地元としてはダム建設の要望はしていないとしている中で、国は治水、利水の面からぜひとも必要であると、昭和五十四年より可能性の調査である予備調査を開始、平成元年より本格的な実施計画調査に入られております。この間、県議会水資源対策特別委員会は昭和五十六年六月発足され、五十八年八月にダム予定地の調査、さらに昭和六十年四月、紀の川流域の三市十二町を中心に紀の川水対策協議会を設立し、大阪分水の検討にも入られ、以降、県議会、建設委員会等、再三現地へ出向かれた経緯もあって、国のダム事務所が平成元年に橋本市へ設置とともに、関係流域の橋本市、九度山町、高野町において自治体としての体制づくりと関係地域の議会においてはダム調査特別委員会を設置され、今日に至っております。
 平成十年、国の調査結果報告はダムの堰堤高百四十五メートル、総貯水容量六千万立方メートルとし、洪水の防止と利水が目的とし、十二回に及ぶダム審議委員会が開催、一部条件を付してダム建設は妥当であるとの結論に達しており、これを受けて関係地元への説明に入られ、水特法の適用するダムとして建設するもので、関係住民の生活再建、地域整備、環境保全、地域交流支援等、万全を期してまいりたいので了承願いたいとの説明があり、地元としても十分検討してまいりたいとするものでありました。
 私も、一般質問で何度かこのダム建設の質問をさせていただきました。昨年六月の質問で、長野県の田中知事の脱ダム宣言はあるが、木村知事として紀伊丹生川ダムの考えはどうかと伺いました。知事には、「地域の環境との調和を図りながら建設されるべきものであり、安全、安心な県土づくりのための一つの有効な施策である」と答弁をいただいております。
 さて、昨年十月、国は計画規模の縮小に着手、その理由としては水需要の停滞と環境保全に万全を期すためと言われ、引き続きダムの高さなど規模の縮小に向け再検討に入られ、今日に至っておるところであります。
 以上のように、ダム建設に向け多大の経費と労力を投下し、関係地域においても何百回という会を重ねた結果、突然のダム建設中止に一体何が起こったのか。多くの水没地域住民は、この二十八年間の心労の償いをどうしてくれるのか、行政のダムに対する取り組みの不信が一層募るばかりであります。
 参考でありますが、賛否両論の中で予備調査等三十年経過した鳥取県の県営中部ダムの突然の中止問題が昨年二月にありましたが、中止後おおむね五カ年で周辺の活性化を図る上で、社会資本整備として百六十八億円、四十二事業が国の協力を得て実施されると聞き及んでおります。
 そこで、知事にお尋ねいたします。紀伊丹生川ダム中止後の水没地域の二十八年間のおくれを取り戻す方策について見解をお伺いいたします。
 次に、中止の理由と今後の治水対策についてでありますが、大阪府は当初、毎秒二・八トンの取水の計画であったが、人口減少に伴い一・三トンに削減、また水の一滴は血の一滴と言われた和歌山市の毎秒〇・二トンが不要となったのが最大の要因とし、利水の目的が当初計画に比べ減少が生じたとされており、事業費概算千五百六十億円は費用対効果の点でスケールメリットが小さいので中止すると言われていますが、具体的な理由を、ほかにもあれば伺います。
 そこで、治水対策についてでありますが、今後、紀の川水系を洪水から守る上で国はどういう構想を持たれるのか、また県としてどう具体的な要望を考えておられるのか、知りたいのであります。
 その昔、紀州の殿様が紀の川の余りにも多いはんらんに頭を痛め、「水を治められない者は国を治められず」の考えで、築堤とあわせ、紀伊の国を初め紀の川上流の大和の国へ参り、水を治めるため今日のような三県知事会議を持たれたようで、その後、植林を奨励されたと言われているが、今日、水を治める上で水の流れのみをとらえることだけでなく、ダムが中止された以上は水の貯水を行う力点を見出され、山林の保水力の維持方法も考えるべきと思います。
 私見でありますが、現在、紀の川は少し疲れているのではないかと私は思っておるわけであります。上流では河床が下がり、肋骨がむき出しのように岩が見え、やせ細り、水の流れに活力がない。昭和三十年から四十年代の水の流れは生き生きとして、時には暴れもしたが、平均流量も今日の三倍は常時流れていたように思う。
 このことは、戦後の植栽熱が高く、山の手入れもよくされ、保水力があったが、昨今の山の人工林の多くは死にかけているのではないかと思ってなりません。当局は既に緑の再生に向け取り組まれておりますが、緑の再生に向け長期的視点に立った検討をいただきたい。治水はただ単に堤防のみに依存するだけでなく、補助的な治水つまり緑のダムにも目を向けながら環境保全に努め、木の国にふさわしい自然のよさ、日本一の県土づくりを切望し、関係部長より答弁をいただきたい。
 次に、水没地域の整備計画についてであります。
 水没地域にあっては、道路の新設、改良等、社会資本の整備が三十年間されていない実情で、一方、生活再建は一体どうしていくのか、基盤が一層脆弱となってしまったと、地域住民は不安のどん底の中で嘆いているのが実態であります。
 そこで、国道三百七十一号の現道改良等についても、水没区域とその周辺は全く手つかずの状態で、待避所あるいは駐車場の設置等、地元の意向に対し速やかな対応を講じるべきだと考えますが、いかがでしょう。
 さらに、当初、ダム実施の場合は、道路を初め周辺整備に関係自治体から多くの地元要望が出されていましたが、ダム中止後においても適正な対処が必要と考えます。このような周辺整備等を円滑に進める上で、近畿整備局紀伊丹生川ダム調査事務所には、事業の補完に至るまでの間、一部職員を残し存続されるよう強く申していただきたいのであります。また、県としましても伊都振興局にダム関連の担当職員の配置を行うなど、関係自治体とも十分協議調整され、少なくとも五カ年程度で水没地域及びその周辺の整備を国と県は主体性を持って完成させることについて、県当局の考えを伺うものであります。
 次に、分水協定に基づく協力費問題であります。
 紀の川利水に関する協定を昭和六十二年十二月、大阪府と本県との間で結ばれ、財団法人紀の川水源地域対策交付金として、百三十一億円のうち昭和六十三年より平成十二年度末までの間に八十三億六千万円を大阪府より受けており、それぞれ紀の川流域の治山治水及び府県間道路、県道整備及び土地改良事業等、有効かつ適正に生かされていることとなっておりますが、その使途の主なものについて聞かせていただきたい。
 ところで、ダム中止の場合はどうなるのか。府県間で調印できているが、残りの四十七億四千万円はいただけるものかどうか。協定内容について示していただき、責任は大阪府にあるものと考えますが、今後当局としてどう取り組みされるのか、企画部長の答弁を求めます。
 次に、紀の川流域委員会の今後の取り組みについてであります。
 昨年六月より過去八回の流域委員会が開かれ、過日十二日にも開催され、近畿整備局より中止について了承されたと言われるが、中止を先に発表することはおかしいのではないか。私は、流域委員会ですべて先に中止問題等を十分審議され、了承を得るべきでなかったのか、国の取り組みに若干の不信感を持つものであります。ダム中止となった以上やむを得ないと考えますが、下流域の治水・利水・環境対策等、今後も本委員会が継続して検討されるのか、土木部長にお伺いをいたします。
 次に、本年度の調査費問題について。
 ダム建設に向けての調査費については、平成元年から十三年までの予備調査費は県負担七億六千万円を含め総額三十五億六千万円要したこととなっており、平成十四年度の調査費四億五千万円を計上されているようでありますが、中止に至った段階で国はこの予算をどう考えておられるのか、土木部長にお尋ねをいたします。
 なお、費用を水没地域及び周辺の再建整備のための調査設計であるとか道路改良等に振り向ける働きかけを当局より国に対して積極的に取り組むよう強く要望するものであります。
 続いて、交通網の整備について申し上げます。
 地域整備の柱とする国道三百七十一号橋本高野山道路についてであります。
 紀伊丹生川ダム建設のつけかえ道路として、平成六年に地域高規格道路の候補路線に位置づけされました。ご承知のとおり、現道の三百七十一号の橋本─高野山区間は狭隘で、全面改修を行うことも困難で国道としての機能は果たせず今日に至っており、本道路は橋本より高野山を経て串本に通じる本県内陸部はもとより南紀への夢を運ぶ道路として大変重要と位置づけております。
 ところが、本道路の事業化はダム関連の地域整備の柱として間もなく着工の運びと聞き及んでおりましたが、ダムが突然中止となり、国道三百七十一号橋本高野山道路も一たん白紙となる公算が生じてまいりました。しかしながら、関係地域の一市二町などにおいても大きな期待をしていただけに、このショックは隠し切れないものと存じます。幸い、国道三百七十一号橋本バイパスあるいは本線の延長としての仮称・新橋本橋の完成に向け、知事初め当局の熱意で形として見えてまいりましたので、続いて本路線の新線をぜひとも前向きに検討を願いたいのであります。
 余談でありますが、昨年十月、中国南昌市──人口は四百八十万人ほどあるようでございますが、そこへ参りました。南昌市は上海より奥地へ八百キロほど入ったところでありますが、その近郊に世界遺産である廬山へ視察調査を行ったのであります。世界遺産に指定になるや、南昌市より約百八十キロ程度の距離であろうと思いますが、ハイウエーが完成してございます。まだ末端は黒い状態のようでございました。
 日本は超大国・中国のようにまいりませんが、橋本─高野山間約二十キロを、数年でとは申しません、高野熊野世界遺産を目途に事業の採択をされるよう期待し、国道三百七十一号橋本高野山道路について、知事の所見を伺うものであります。
 以上で、私の第一回目の質問を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。
○議長(井出益弘君) ただいまの木下善之君の質問に対する当局の答弁を求めます。
 知事木村良樹君。
  〔木村良樹君、登壇〕
○知事(木村良樹君) 先般、突如中止が発表されました紀伊丹生川ダムの建設についてのご質問でございます。
 紀伊丹生川ダムにつきましては、長年にわたり地元が大変ご苦労されてきたことは十分承知しているところでございます。そうした中で今回、国土交通省の発表があったわけでございますが、ダムの中止に伴う水没予定地域の皆さんへの対策や今後の地域振興策については国土交通省が誠意を持って解決に当たるべきであり、地元市町長と十分連携して全力で国と折衝をしてまいりたいと、このように考えております。また、今後そうした事業が計画的に実施されるよう、国と地元市町及び県が協議と調整を行う場の設置を国に申し入れていく所存でございます。
 次に、この関係で地域整備の柱となる国道三百七十一号橋本高野山道路につきましては、府県間のラダー状、はしご状のネットワークに関連した重要な路線であり、地元としても大きな期待がある道路であるというふうに認識をしております。
 ダム計画が中止となった現在は地域高規格道路の優先順位を考える中で取り組むこととなりますが、水源地域整備の柱となっていた経緯も踏まえ、今後水源地域整備事業をどうするかの一環として国に責任ある対応を働きかけてまいりたいと、このように考えております。
○議長(井出益弘君) 土木部長大山耕二君。
  〔大山耕二君、登壇〕
○土木部長(大山耕二君) 紀伊丹生川ダム建設の中止問題について、順次お答えいたします。
 まず、中止の理由と今後の治水対策についてですが、紀伊丹生川ダムは治水、利水、環境を目的とする多目的ダムとして計画されたところですが、利水面で大阪府と和歌山市から必要水量を減量するとの意向表明があり、利水容量が減ったことでスケールメリットが小さくなり、事業継続が困難であると国において判断されたものでございます。
 国の今後の紀伊丹生川ダムにかわる治水対策につきましては、河床掘削、堤防かさ上げ、狭窄部解消など、紀の川流域委員会の意見を踏まえ検討をしていくと聞いております。県といたしましては、紀の川の治水、利水、環境について、今後も国において適切な対応を図られるよう強く求めてまいります。
 次に、水没地域の整備計画のうち国道三百七十一号の現道対策につきましては、地元の意向を聞きながら必要なものから優先順位をつけて順次対策を進めてまいります。
 次に、紀の川流域委員会においては、今後紀伊丹生川ダムを建設しない場合の紀の川のあり方を治水、利水、環境の観点から継続して検討されると聞いております。
 次に、今年度の調査につきましては、調査施設の撤去等の残務整理を行いまして、成果をまとめた上で打ち切り、新たな調査は行わないと国から聞いております。
 以上でございます。
○議長(井出益弘君) 農林水産部長辻  健君。
  〔辻  健君、登壇〕
○農林水産部長(辻  健君) 紀伊丹生川ダム建設の中止問題についてのご質問のうち、今後の治水対策についてでございますが、戦後、先人たちのご努力によりまして植栽されました人工林につきましては、木材価格の低迷や山村地域の過疎化などによりまして手入れが行き届かず、一部では公益的機能の低下した森林もございます。
 本県では、森林整備の柱となる間伐を推進するため、平成十二年度から和歌山県緊急間伐五カ年対策として緊急に整備を要する森林四万五千ヘクタールの間伐実施を目標に取り組んでいるところでございまして、紀伊丹生川ダム地域を含む紀の川流域におきましても、四千九百ヘクタールの間伐を実施する計画でございます。
 また、今後は間伐による人工林の整備のほか、広葉樹林の造成など、地域の実情に即した多様で活力ある森林の整備に積極的に取り組んでまいりたいと考えてございます。
 以上でございます。
○議長(井出益弘君) 企画部長垣平高男君。
  〔垣平高男君、登壇〕
○企画部長(垣平高男君) 紀伊丹生川ダム建設の中止に伴います二点についてお答えを申し上げます。
 まず第一点は水没地域の整備計画についてでございますが、現在の紀伊丹生川ダム水源地域の整備計画の素案でございますが、それにつきましては、ダムが建設された場合における地域の姿を取りまとめたものでございまして、今回のようにダム計画が中止に至った場合における地域整備のあり方につきましては、これまでとは百八十度違った取り組みが必要となってまいります。
 今後の地域整備の事業推進に当たりましては国が主体的に取り組むこととなりますが、県といたしましても、地元の意向が事業に反映されていくということが最も重要でございますので、関係機関と連携のもと計画的に事業が実施されるよう積極的に対応をしてまいります。また、紀伊丹生川ダム調査事務所につきましても引き続き存続を申し入れてまいりたいと思っております。
 次に、大阪府との分水協定に基づく協力費の問題でございます。
 紀の川利水に関する協定書に基づきましてこれまで大阪府から支払いを受けた地域整備協力費につきましては、紀の川流域の治山事業四十二地区に約十七億八千万円、治水事業八河川に約十九億一千万円、土地改良事業四地区に約二億五千万円、及び国道三百七十一号、国道四百八十号、国道四百二十四号、県道泉佐野岩出線、県道泉佐野打田線といったいわゆる府県間道路の整備につきまして約四十四億二千万円、合計八十三億六千万円をそれぞれ財源として整備を進めてきているところでございます。また、地域整備協力費につきましては、平成十二年度の阪和水問題検討会におきまして、紀伊丹生川ダム建設採択の時期が不明瞭なため、平成十三年度以降、地域整備協力費の取り扱いを一時凍結するということになってございます。今回のダム中止に伴って派生してまいります諸問題につきましては、今後、国の協力もいただきながら大阪府と協議を行ってまいります。
 以上でございます。
○議長(井出益弘君) 答弁漏れはありませんか。──再質問を許します。
 十一番木下善之君。
○木下善之君 それぞれ答弁をいただいたところでございますが、紀伊丹生川ダム問題につきましては、私も恐らく今回で最後であろうと思います。先ほどの答弁のそれぞれの一つ一つを見てみますと、やはり本ダムは国の直轄ダムであるという観点での、国への要望等を中心に答弁をいただいたわけでございますけれども、やはり県としましては、地元のそれぞれの水没地域の問題を窓口を一本化していただいて、そして関係一市二町の意見も十分踏まえて、ひとつ今後できるだけ早期に問題の解決に取り組んでいただきたいなと、強く要望するものでございます。
 特に、私はダムなしの考えで大阪分水を行うこと、どういう形の水を大阪へ分けていくんだということ、今後いろいろあろうと思います。しかしながら、本県が将来、水不足を来すことのないよう、後々までも十分な対策を講じていただくことを強く要望して、一般質問を終わります。
 以上です。
○議長(井出益弘君) ただいまの発言は要望でありますので、以上で木下善之君の質問が終了いたしました。

このページの先頭へ