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和歌山田舎暮らしバイブル【巻頭インタビュー】和歌山の田舎暮らし 立松和平


和歌山の里山、田舎についてお詳しいようですが。

和歌山は、けっこう行っていますね。海の辺りから、熊野、それからこの間雑誌の連載で、古座川にも行かせてもらってね。梅で有名なみなべはしょっちゅう行っていますね。あとは高野山とか。和歌山はわりと知っています。いろんなことを僕は和歌山に教わりましたね。山の行き方とか。スギを伐採するときも、いちばん大きい木は切らないで残しておくのね。そこで山の神様に祈ること、そのやり方とかね。

和歌山は海の恵み、山の恵みが非常に豊かなところですから、すごく暮らしいいところだと思いますよ。とくに古座川は、日本で最もきれいな川のような気がするの。大きい川ではないですよ、古座川っていう川はね。だけど、ここは日本一の清流ではないかという気がしました。それと、熊野古道(こどう)や高野山に代表される非常に古い文化がありますよね。

僕は中上健次とほとんど同じ世代で、昔、中上健次と、もう本当に世の中に出る前からずっと一緒だったものだから、中上を通して、和歌山が若いときから親しみやすかった。彼は彼の世界で熊野というのをずっと書いていて、僕はほとんど彼の作品を読んでいるから、その影響も強いですけれどもね。

日本各地の里山を回っていらっしゃいますけれども、
どういう思いで回られているのでしょうか。

日本中どこでも一緒になったねえ。特に町の風景が。今の時代というのは、コストが安いものがいいという、つまり「工業製品の大量生産されたものがいい」ということになるわけですよ。どこへ行っても同じものになって、全国均質化されていく。よくここまで同じ町をつくったなと思うぐらい質が同じになりましたね。

和歌山には、風土の上に根差した生活がある。何か“和歌山くささ”を残していってほしいですね。“和歌山くささ”って一体何かって言われると、それはひとことで言えないけれども、例えば、山のほうでは山の風土に根差した暮らし、海のほうでは、平野が少ないけれど、それも特性なんです。例えば、古座川なんかは山また山で、平らな土地がほとんどないから棚田でゆずを作って、それを加工して、もう一生懸命やっているわけですよ。僕は取材で行っただけだけれども、ほだされてしまって、その年のお歳暮は平井のゆずを贈りましたよ。そういう何か一生懸命さがあってね。南高梅(なんこうばい)もそうでしょう?今でこそ超ブランドになってるけれども、一生懸命そのブランドをつくってきたわけですよ。だけど、面白いなと思ったのは、これだけの梅の産地でもミカンにこだわってミカン作りをしている人がいるのね。「ミカンはええ」とか言って。こだわっていく人が多いのは、僕は和歌山の特徴のような気がするなあ。

立松さんは地産地消の取り組みをされていますが、
地域に根ざしたモノ作りや第一次産業を守るのが目的ですよね。

今、日本の農業は、高齢化と後継者不足が深刻でね。本当に土壇場まで来ていて。担い手が70歳とかですよ。だから耕作放棄地になってしまうのはしようがない。若い人は出て行って、少数の若い人のところに耕作地の委託が殺到している。厳しいですよ。同時に、林業も担い手がいない。農業よりもっと厳しくて、壊滅状態ですよ。一見緑でも間伐もされていなくて、森は荒れています。山の仕事とか農業というのは非常に高度な技術のいる仕事だから、急にできるものではない。これだけの林業地帯だから、和歌山県はそれに敏感に反応してきたわけですよね。若い担い手を養成して森を守っていこうと和歌山県が全国に先駆けてやった「緑の雇用事業」。あれはものすごい先進的なことでね。いいことはどんどん進めてほしいと思います。

林業で今、“国産材を使おう”という運動が起こっていますよ。これはまた大きい意味での地産地消でしょう。たしかにね、コストばかりの世の中で安いものに慣れた暮らしっていうのは、人間まで安っぽくなってくるんですよ。例えば林業で有名な龍神村(現・田辺市)の材木を使う。金はかかるんだけれども、そういう良さは絶対あるんですね。

最近、日本人が非常に、胆力もなくなって、安っぽくなった。それは、土から離れていってしまったってことが非常に大きいように思いますよね。だから、きれいごとではなく、土に対する感受性を持った人間を、例えば行政が支援していく制度をつくっていかないと、やはり安きに流れていく。

立松さんはNPOふるさと回帰支援センターの活動を通して、定住の現状にはお詳しいと思います。都会のかたが、いきなり田舎暮らしを始めるのは難しくはないでしょうか。

ふるさと回帰支援センターでは、定年を迎えた団塊世代の人たちに、今までのノウハウを生かして地方に戻りましょうという運動をやっていて、少しずつ実を結んでいってますね。だけど、急に田舎暮らしというのは絵空事です。急に農業をやれって言っても無理ですよ。だから、今は交通機関が発達しているから、週末だけパートで行ったりしながら、気にいったところを見つけて、住み着けばいいんじゃないかな。住まなくても、二重の暮らしをしてもいいわけだから。そうしたら世界が広がるでしょう?団塊の世代は、高度な技術を持っていますよ。そのノウハウを生かさないと。地方が今欲しいのは、商品開発力とか企画力、開発力、流通力。それは都会的なセンスですよ。そういうものを生かせないかと思っているんですね。センターのアンケートでは、ほとんどの人がある程度の年齢になったら、都会から田舎に行きたいと希望している結果が出ていますね。ただ、お父ちゃんは田舎に住みたいけれども、お母ちゃんはそうでもない。(笑)家族の問題が根底にあってね。やっぱり今まで産業社会の中で死に物狂いでやってきて、足下がないがしろになってきたっていうのがあるんじゃないですかね。会社を定年して、縦社会に生きていた人が地域社会に入ろうとするんだけれども、急に横社会になるでしょう。入り方がわかんないのね。僕なんかも人ごとではないんですけど、それで「どうしたらいいんだ」っていうんで、この間“男の居場所探し講座”っていうのに行ってきた。(笑)

笑い事じゃないですよね。厳しいですよ。男ってね、どこの課長だったとか部長だったとか、捨てられるようで捨てきれないのね。そんなもの地域では関係ないわけだから、「もうそういうのはいい」って、“男の居場所探し講座”では、もう自分は過去何をしたってことは、絶対みんな言わないようにしてるね。それで、一人の人間としてこれからどうやっていこうかと。いや、男は切ないですよ。それで、料理ができないから、飯、食えないわけ。だから、飯を作る料理教室から始まっている人が多いねえ。(笑)

日本中、同じ問題ですよ。気がついたら足下が、地方が、ふるさとが、なんかおかしくなってきた。でも、国の政策っていうのは、やはり国際競争力をつけるために、都市型の社会をますます目指していくでしょうね。だからこそ、本当に地方は踏ん張りどころですよ。

和歌山県では田舎暮らし推進モデル市町村で、定住者を受け入れる取り組みをしていますが、地域にもいろいろ特色があるので、自分に合ったふるさとを見極める必要がありますよね。

行ってみないとわかんないものね。いきなり行かないで、週末通いでもしながら少し練習したほうがいいですよ。定住って、人生の大事業だから、簡単に何か物を買うような、そういう感じじゃない。これは大変なことですよ。だから、受け入れ側は情報をたくさん出す。それしかないでしょうね。ただ、行くほうは、もちろんすごい義務がありますよ。「ちょっと行って、失敗したら帰ってくればいいや」っていうもんじゃないですよね。

定住の問題は、季節によって暮らしの方法も違ってくるってことですよ。夏に行って「いいなあ」と思っても冬があるわけだから。一番厳しいときに行かないとだめなんですよ、年間通して暮らすためには。でも、和歌山県はおおむね大してかわんないじゃないですか。そういう意味では、恵まれているところですよ。知床なんか、夏行って、気持ちいいなあと思って、冬に行ったら、もう全然風景が違いますよ。(笑)知床は冬が一番いいって、僕は思っているんですけどね。

定住希望者の中には別荘感覚で来て、地域に溶け込まない人もいるようです。

都会の人間関係に疲れ切った人が、地方に行くという場合は、はっきり言ってだめです。田舎のほうは人間関係が濃いからね。それはもう間違いないんですよ。その地域を守るために月に一度草むしりをしたり、水路の管理をしたりという、そういうことは絶対やらなくちゃいけない。もうはっきり言っていますよ。リゾートに来る人が行くべきところって他にいっぱいあるじゃないですか。もっと定住への意志を厳しく審査するべきだと思うけれどもね。そうしないと、みんなが苦しみますよ。本当に今はそういう口当たりのいいリゾート、「田舎に住んで気持ちがいいですよ」というふうな地方の売り方っていうのは、もう終わったと思いますよ。

「地方自治体が何かやってるから安い」って来られても困るし、だいたい和歌山県って、この海岸線を走るの、けっこう大変なんですよね。道がグニャグニャだしね。そこにある程度住んでもらわないとしようがないような地形じゃないですか。和歌山市みたいな、すごく便利な、大阪から近いところと、串本みたいに最も遠いところとね。東京からだと、串本辺りは遠いんだわ。飛行機ですっと行ける沖縄よりずっと遠いですよ。(笑)古座川なんかもそうですよね。やっぱり気合を入れていかないといけないねえ。(笑)それは逆に言うとね、その地域の個性を残していくという意味では、非常に今どきのメリットだと思うんですよ。だから、和歌山県の中にこれだけのいろんな違いがあるわけですからね。個性がありますよね、和歌山県って。

ゲスト 作家・立松和平プロフィール

  • 1947年生まれ、栃木県出身。早稲田大学政経学部卒業。
  • 在学中に「自転車」で早稲田文学新人賞。
  • 80年「遠雷」で野間文芸新人賞。
  • 97年「毒 - 風聞・田中正造」で毎日出版文化賞受賞。
  • NPOふるさと回帰支援センター理事長。
〔主な著作〕
  • 「百霊峰巡礼」東京新聞出版局
  • 「日本の歴史を作った森」筑摩書房
  • 「立松和平 日本を歩く3 中部日本を歩く」勉誠出版
  • 伊勢発見」新潮社

NPOふるさと回帰支援センター
http://www.furusatokaiki.net/


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