早生温州ミカンのマルチ栽培による高品質生産(平成11年度)

はじめに

早生温州ミカンは全国的な生産量の増加に伴い、より一層の果実品質の向上が求められています。そこで田辺市柑橘対策協議会・JA・普及センターでは、園地をタイベックシートでマルチし、高品質生産を目指した全面マルチと樹勢を低下させない部分マルチを実証栽培し推進しています。結果、管内の早生のマルチ栽培面積は、平成10年度の2.4ヘクタールから平成11年度は8.5ヘクタールへと増加をしています。

平成11年度は、8月下旬からのマルチ栽培を推進するにあたって、全面マルチと部分マルチで、効果にどのような差がでるかを検討しました。

展示内容

「宮川早生」で田辺市3園地、展示1(上秋津)、展示2(長野)、展示3(芳養)で実証園を設けました。展示区は、全面マルチ区(全面区)、被覆率70パーセント部分マルチ区(部分区)、マルチ無被覆区(無被覆区)とし、展示1・展示2は8月17日、展示3は9月9日からそれぞれ被覆しました。

全面マルチ区
全面マルチ区

被覆率70%部分マルチ区

被覆率70パーセント 部分マルチ区

結果

1.被覆率増加で糖度上昇

収穫期の果汁の糖度(Brix)は、被覆率が大きいほど増糖効果がみられました。(表1)

  • 表1 糖度(Brix)の測定値
調査日 開始 10月1日 11月1日 12月1日
展示1 全面区

部分区
無被覆区

6.4

6.1
6.3

7.8

7.4
7.1

9.4

8.5
8.5

10.6

9.4
9.3

展示2 全面区

部分区

無被覆区

7.5

6.9

6.7

9.5

8.9

7.8

12.2

10.4

9.1

13.8

12.5

10.2

展示3 全面区

部分区

無被覆区

6.6

6.5

6.8

7.6

7.4

7.1

9.2

8.9

8.4

10.4

10.0

9.1

2.平成11年度、被覆率増加で肥大抑制と浮き皮防止

平成11年度は、降雨が多く温度も高位で推移したため、果実の肥大は促進し、浮き皮も増加しました。
調査開始から収穫期までの果実肥大は、無被覆区を100とすると
展示1では全面区83、部分区91となり、展示2では全面区64、部分区77となり、
被覆率が大きいほど果実肥大の抑制がみられ、浮き皮の防止の効果もありました。(表2、表3)

  • 表2 横径(ミリメートル)の測定値
調査日 開 始 10月1日 11月1日 12月1日
展示1 全面区

部分区

無被覆区

50ミリメートル

51ミリメートル

51ミリメートル

63ミリメートル

65ミリメートル

67ミリメートル

67ミリメートル

70ミリメートル

73ミリメートル

69ミリメートル

72ミリメートル

74ミリメートル

展示2 全面区

部分区

無被覆区

50ミリメートル

49ミリメートル

49ミリメートル

60ミリメートル

60ミリメートル

63ミリメートル

62ミリメートル

65ミリメートル

70ミリメートル

64ミリメートル

66ミリメートル

72ミリメートル

展示3 全面区

部分区

無被覆区

56ミリメートル

55ミリメートル

57ミリメートル

63ミリメートル

61ミリメートル

64ミリメートル

69ミリメートル

67ミリメートル

71ミリメートル

74ミリメートル

73ミリメートル

75ミリメートル

  • 表3 収穫時期(平成11年12月1日)の浮き皮程度
展示区 浮き皮率 浮き皮程度
展示1 全面区

部分区

無被覆区

33パーセント

83パーセント

100パーセント

0.3

0.8

2.8

展示2 全面区

部分区

無被覆区

0パーセント

50パーセント

100パーセント

0.0

0.7

4.0

展示3 全面区

部分区

無被覆区

33パーセント

50パーセント

100パーセント

0.3

1.2

2.5

平均

全面区

部分区

無被覆区

22パーセント

61パーセント

100パーセント

0.2

0.9

3.1

(注釈)浮き皮の程度:「0浮き皮なし」から「5極大」

3.平成11年度、被覆率増加によるクエン酸の減酸に問題なし

平成11年度は、降雨が多く温度も高位で推移したため、果汁のクエン酸は、3区間ほぼ同じで、被覆率による差はみられませんでした。(表4)

  • 表4 クエン酸の測定値
調査日 開始 10月1日 11月1日 12月1日
展示1 全面区

部分区

無被覆区

3.3パーセント

3.4パーセント

3.5パーセント

1.0パーセント

1.2パーセント

1.2パーセント

0.9パーセント

1.0パーセント

1.0パーセント

0.8パーセント

0.8パーセント

0.8パーセント

展示2 全面区

部分区

無被覆区

3.2パーセント

3.0パーセント

3.3パーセント

1.2パーセント

1.4パーセント

1.2パーセント

1.2パーセント

1.2パーセント

1.3パーセント

1.0パーセント

0.8パーセント

0.8パーセント

展示3 全面区

部分区

無被覆区

2.4パーセント

2.4パーセント

2.6パーセント

1.4パーセント

1.4パーセント

1.3パーセント

0.9パーセント

1.1パーセント

1.3パーセント

0.9パーセント

0.9パーセント

0.9パーセント

4.全面マルチは若干の樹勢低下、部分マルチは樹勢低下なし

収穫期に全面マルチではやや葉色が薄くなった樹もみられ若干樹勢が弱りましたが、部分マルチでは葉色も良く樹勢の低下はありませんでした。

翌年の着花程度の割合は、被覆率が大きいほど着花の減少がみられました。(表5)

  • 表5 着花状況(平成12月5月11日)
着花程度  多   中   少 
全面区

部分区

無被覆区

20パーセント

20パーセント

20パーセント

17パーセント

20パーセント

27パーセント

63パーセント

60パーセント

53パーセント

まとめ

平成11年度は、天候の影響を受けましたが、マルチによる品質向上効果がみられました。マルチ被覆率の増加で、品質向上による収益性の増加が期待できます。

調査の結果や他栽培農家の状況により、

  1. マルチ被覆時期は、8月下旬までの収穫約3ヶ月以上前の早い時期に実施することが望ましい。
  2. マルチ被覆率は、高品質生産を考えると全面マルチが良いと考えられるが、樹勢の維持や労力を考えると被覆率70から80パーセント程度(株元左右20から30センチメートル程度開ける)の部分マルチが良い。
  3. 畝立て、溝切りなどの排水対策でマルチの効果が向上する

と考えられます。

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