Listen to this page using ReadSpeaker
研究の概要

第1章 研究の背景・目的・視点
 本研究会では、紀淡海峡を中心とする大阪府、兵庫県、和歌山県、奈良県、徳島県、香川県、高知県の一府六県の交流のあり方及びその促進の方策を検討していくことにする。特に、紀淡海峡交流圏域の歴史的、文化的な結びつきに着目し、圏域の文化財、歴史的建造物、生活様式、民族文化(伝承・方言)等の共通性や類似性を探ってみたい。また、そのことで将来の紀淡海峡周辺地域における交流連携に資する資源を発掘することとする。

第2章 紀淡海峡周辺地域の地域交流資源の発掘

2−1 紀淡海峡周辺地域における風土・文化の特徴
 この地域は共通した自然環境を有し、その環境のもとに形成された風土や生活スタイル、また産業にいたるまで、多くの類似点がみつかる。それは単なる地理的条件の影響だけでなく、歴史のなかで、過去の地域間交流によって育まれてきたものでもある。

2−2 風土・文化の共通性・類似性
(1 地名 2 地質 3 海洋 4 めぐり 5 産業 6 国家プロジェクト 7 平和教育の場 8 国際交流の場)
 本節では、この地域において共通性をもつ様々な風土・文化のなかで、1 から 8 までの考察を行った。1 の地名については、徳島・淡路・和歌山の間で佐野・明神・吉野が共通である。また徳島の牟岐(むぎ)、淡路の室津、和歌山の牟婁(むろ)なども類似する。淡路の阿万に和歌山の海部など他にも類似した地名は多い。2 の地質については、今日の周辺地域が海によって隔てられているが、「和泉層群」「三波川変成岩」で一つにつながっている。広域的にみると、和泉層群は、奈良県〜大阪府〜和歌山県〜兵庫県〜徳島県〜香川県とつながり、三波川変成岩は、和歌山県〜兵庫県〜徳島県〜高知県を結ぶ。またその岩盤をもとにして各地には共通したランドスケープが形成されている。
 3 については、海洋に関係した共通性をみたが、地名にみられた海女など漁業に関するものが多い。漁の技術や、鰹節や「わかめ」の製法などの技術革新、海外移住等に進取の気性がみられるのも、この地域共通の要素である。
 4 では、お遍路、修験道、熊野詣など、各地域で「めぐる」というスタイルが確立されていることを示した。5 の産業では、玉葱やみかんの農業や、繊維産業で共通点が多くみられた。6 の国家プロジェクトでは、海峡周辺で明治時代に、加太、友ヶ島、由良と砲台が建設され、今日では近代遺産として残されている点にふれた。7、8 では、鳴門のドイツ人俘虜収容所跡のドイツ村公園や、淡路の戦没学徒慰霊の「若人の広場」、和歌山の日の岬にある、地元の海外移民をテーマにしたアメリカ村資料館など、平和教育、国際交流の場について言及した。

第3章 地域交流資源活用の方策・提案

3−1 交流資源の活用方策
 紀淡海峡周辺地域は、第2章で考察したような風土・文化の共通性がみられた。それらの交流資源を活用して、次のような方策を示した。
1 地名を活かした生活者の地域間交流
2 石つながりを活かした地域イメージの明確化と石のガーデンアイランド設計
3 巡り体験の融合 巡礼海道で海の賑わい
4 平和教育・国際交流の場の連携・ミュージアムネットワーク
5 近代建築・産業遺産でラーニング・リゾートとオープン・ミュージアムの創造

3−2 基本コンセプトの提示
 最後に、以上のような方策をまとめる新しい地域イメージとして、この地域をつなぐ青石を活かし、「青石の道・橋」を提案する。これは、和泉層群を「青石の北道」、三波川変成岩を「青石の南道」とみなし、この2つの道を合わせたものである。地域本来の色である地場の青石をテーマに用いることでより地域のイメージが鮮明になっていくことを期待したい。また、平和教育・震災教育・伝統産業・近代化産業遺産・国際交流のいずれの視点でみても、紀淡海峡周辺地域においては、貴重な資源が集積し、実物を見せることができるリアリティをもっている。そこで、「青石の道」を基本コンセプトにして、それら個々の資源のネットワークを充実させていくことで、屋内展示型のミュージアムでなく地域の環境そのものをミュージアムにみたてるようなオープンミュージアムの創造を図るとともに、地域間で学習(ラーニング)を通じた交流によるまちづくりを推進し、ラーニングリゾートの実現につなげたい。そこで生まれる「新たな巡り」を、お遍路などのこの地域文化の延長線上に位置付けたい。それにより、伝統的な巡り文化を現代的に継承していくことができる。またお遍路にみられる「お接待」のような、地元のもてなし、ホスピタリティも新たな巡りに継承するべきものであり、大切なコンセプトである。

目次次へ>>