長期総合計画 第1章 和歌山県がめざす将来像

第1章 和歌山県がめざす将来像

第1節 長期総合計画(2008(平成20)年度~)の成果検証

本計画を策定するにあたり、長期総合計画(計画期間:2008(平成20)年度から2017(平成29)年度)の成果検証を行い、引き続き取り組むべき課題については、その対策を第2章「将来像に向けた取組」に盛り込んでいます。
なお、2017(平成29)年1月末現在における主な成果は、参考資料に掲載しています。


第2節 認識すべき時代の潮流

1.増加する世界人口と日本の人口減少

世界人口は、アジアやアフリカを中心に増加し、2050年には97億人に達すると予測されています。
一方で、我が国の人口は2008(平成20)年をピークに減少局面に入っており、2015(平成27)年における国勢調査の人口は1億2,709万人で2010(平成22)年の国勢調査に比べ96万3千人の減少となっています。人口減少には少子化が大きく影響しており、合計特殊出生率は1974(昭和49)年以降低下傾向で推移し、2005(平成17)年には過去最低である1.26まで落ち込みました。2015(平成27)年には1.45となり、回復傾向にあるものの、依然として人口置換水準(2.07)には届いていません。
長期間にわたる少子化の影響もあり、我が国は、世界でも類をみない超高齢社会になっています。高齢者人口(65歳以上の人口)は2015(平成27)年の国勢調査では、3,347万人で、総人口に占める高齢者人口の割合(以下「高齢化率」という。)は27%です。
高齢者人口の増加により、医療や介護の需要増が見込まれており、少子高齢化がさらに進んでいけば、全世代に占める生産年齢人口(15~64歳の人口)の割合がますます減少し、増え続ける社会保障費を賄えるだけの保険料収入や税収を確保することが困難になります。
また、生産年齢人口が減少することで、労働力不足や個人消費の縮小などによる経済の低迷も懸念されます。


2.経済・社会のグローバル化

我が国の経済成長率の低迷が懸念される中、中国・インドなどは、経済成長率が高く、このような国々との競争が激化していく一方で、我が国にとって魅力のある市場ともなっています。
また、近年、FTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)等が世界的に結ばれ、これまでのWTO(世界貿易機関)体制をさらに発展させるような動きが出てきています。
さらに、訪日外国人旅行者数が急増しており、2020(平成32)年東京オリンピック等を控え、政府は年間訪日外国人旅行者数の目標を従来の2千万人から4千万人に引き上げ、2030(平成42)年の目標を6千万人としています。
このように経済のグローバル化が急速に進展しており、日本の個人や企業も、もはや世界の中での自らの位置づけを意識し、世界を相手にして自らの発展や自己実現を図らなければならなくなっています。


3.情報通信技術等の急速な進歩

スマートフォンやタブレット端末の普及により、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、eコマース(電子商取引)、動画視聴などの利用者が急増しており、クラウドコンピューティングなどインターネット等を活用したサービスが生活に浸透しています。
IoT(インターネットにつながるモノ)の利用が広がり、収集・蓄積されたビッグデータをAI(人工知能)が解析することで、人間だけでは思いつきもしなかった新しい価値、商品、サービスが生まれようとしています。
具体的には、車両の自動走行や企業などの製造現場、福祉、医療、建設現場などあらゆる分野での応用が期待されており、金融面でも新たなサービス(FinTech(フィンテツク)など)が生み出されています。また、パソコンの性能やインターネットの接続環境が向上したことで、新たな就業形態(テレワーク、クラウドソーシングなど)が普及しています。
これらの情報通信技術等の急速な進歩は、我々の生活に大きな変革をもたらそうとしています。
こうした中、政府は初等中等教育から研究者レベルまで包括的なICT人材の育成を推進する方針を示しています(産業競争力会議「名目GDP600兆円に向けた成長戦略」)。


4.広域交通ネットワークの充実

新東名高速道路、新名神高速道路など、日本の大動脈となる高速道路の建設をはじめ、各地を結ぶ高速道路ネットワークの整備が進められています。また、北陸新幹線や北海道新幹線が開業するとともに、リニア中央新幹線の工事が着手されるなど、高速輸送鉄道の整備が進んでいます。こうした広域交通ネットワークの充実により、国内の時間距離が短縮され、交流人口の増加や物流の活性化など、産業や生活に大きな変化をもたらしています。
また、空港や港湾など国内外を結ぶ交通ネットワークの充実により、国境を越えた「ひと」・「もの」の流れも活発化しています。航空機による訪日のほか、クルーズ客船の寄港も増加しており、2016(平成28)年の訪日外国人旅行者は2千万人を超えました。本県に近接する関西国際空港でも、近年、国際線の発着が増加しており、世界との時間距離が短縮され、世界がより身近なものになっています。


5.国土の強靭化

2011(平成23)年の東日本大震災、2016(平成28)年の熊本地震など、近年、激甚な地震災害が発生しています。また、南海トラフ地震や首都直下地震は、今後30年以内に発生する確率が70%程度と評価されています(2017(平成29)年1月13日地震調査研究推進本部公表)。
我が国では、太平洋側の臨海部を中心に重厚長大型産業が発展し、それに併せて鉄道や道路、港湾などの社会資本が整備され、人口と産業が集中した太平洋ベルトと呼ばれる国土軸を形成してきました。こうした地域で大規模災害が発生した場合、多くの人命が失われ、物流も含めた産業活動が停止するなど、国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受け、国全体が機能不全に陥るおそれがあります。
このような事態を避けるため、また、災害時の救助・救援を可能にする観点からも、東西をつなぐ新たな幹線となる道路・鉄道などの代替ルートを整備し、その沿線に産業を発展させるなど、リダンダンシー(冗長性)を確保することにより、災害に強い国土を形成することが求められています。


6.自然と共生する持続可能な社会

21世紀末(2081~2100年)までの世界平均地上気温の1986(昭和61)~2005(平成17)年平均に対する上昇量は、温室効果ガスの排出量が非常に多い場合、2.6~4.8度となる可能性が高いと予測されています※。我が国は、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)において、温室効果ガス排出量を2030(平成42)年度に2013(平成25)年度比マイナス26%の水準とすることを削減目標としています。
我が国の温室効果ガス排出量の約9割をエネルギーの使用により発生した二酸化炭素が占めている状況の中、2015(平成27)年7月の「長期エネルギー需給見通し」(経済産業省)において、将来のエネルギー需給構造のあるべき姿が示されました。温室効果ガス排出量の削減目標を達成するためには、需給見通しで示された姿の実現が不可欠であり、徹底した省エネルギーの実施と、再生可能エネルギーの最大限の導入拡大が強く求められています。
また、FAO(国連食糧農業機関)が公表したFRA(世界森林資源評価)2015によれば、人口の増加、食料や土地に対する需要の拡大等に伴い、森林が農地や他の土地利用に転用されており、世界の森林面積は、依然として減少傾向にあります。
さらに、こうした自然環境の破壊や地球温暖化などにより、生物の絶滅リスクが高まっています。
地球環境は人間が生きていくための基盤です。自然環境や地球生態系を守り、その恵みを持続的に享受していくため、低炭素社会、循環型社会、自然共生社会の実現を併せてめざすことで、持続可能な社会を構築していくことが求められています。

※IPCC(気候変動に関する政府間パネル)による地球温暖化問題についての第5次評価報告書


7.価値観の多様化

経済や社会情勢の変化を背景として、国民の意識や価値観が多様化しています。
内閣府の「国民生活に関する世論調査」(2016(平成28)年7月調査)によれば、「今後の生活において、これからは心の豊かさか、まだ物の豊かさか」という質問について、「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」と答えた者の割合が3割に対して、「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」と答えた者の割合が6割となっています。
また、同じく内閣府の「農山漁村に関する世論調査」(2014(平成26)年6月調査)によれば、農山漁村地域への定住願望をもつ都市住民の割合は、2005(平成17)年11月調査の2割から3割に上昇し、「田舎暮らし」に希望をもつ人が増えています。
このほか、働くことについての考え方、結婚・子育てについての考え方など、国民の意識や価値観は人それぞれであり、それぞれのライフスタイルに応じて個性と能力を十分に発揮でき、生きがいを感じられる社会を実現していくことが求められています。


第3節 和歌山県の特性・課題等

1.和歌山県の特性

(1)恵まれた風土

本県には、古事記・日本書紀につづられた神話の舞台となった地や、縁の深い神社が数多くあります。
起源や内容を異にする「熊野三山」、「高野山」、「吉野・大峯」の3つの「山岳霊場」とそれらを結ぶ「参詣道」は、2004(平成16)年に「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録されました。2016(平成28)年には、世界遺産の追加登録が行われ、県内の世界遺産登録市町は橋本市・上富田町・串本町を加え、11市町になりました。
文化史的・学術的に重要な歴史資産等も数多く、国宝は全国6位、重要文化財は全国7位の指定数となっており、日本三大火祭りの1つ「那智の扇祭り」などの伝統行事も県内各地で盛んに行われています。日本三古湯「白浜温泉」をはじめ、温泉資源も豊富です。
また、美しい自然を後世に残そうという意識が高く、1974(昭和49)年には天神崎の自然を保全するため田辺市民が立ち上がり、日本のナショナルトラスト運動の先駆けとなりました。2005(平成17)年には「串本沿岸海域」がラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)の対象に登録され、2014(平成26)年には、貴重な地質とそこで育まれた優れた自然や文化等が評価され、紀南地方の9市町村のエリアが「南紀熊野ジオパーク」として日本ジオパークに認定されました。
このような優れた自然や文化については、万葉の昔から、大宮人たちが数多くの歌に詠み、郷土が生んだ詩人佐藤春夫(さとうはるお 新宮市 1892~1964)は“空青し、山青し、海青し”と謳っています。

(2)進取の気性の県民性

醤油、かつお節、古式捕鯨などの発祥地に住む和歌山県人は、新しい技術を生み出す豊かな発想力と、それを全国各地に伝える積極性を備えるなど、進取の気性に富んだ県民性をもつといわれています。また、北米やブラジル、オーストラリアなど海外へ移住して、人生を切り拓いた人々も多くいます。
歴史に名を残した人物を見ると、江戸時代に活躍した人物として、世界初の全身麻酔による乳がん摘出手術に成功した華岡青洲(はなおかせいしゅう 紀の川市 1760~1835)や1854(安政元)年の大地震の際、広村(現広川町)に押し寄せた津波を村人たちに知らせるため、自分の稲むらを燃やして人々を救った濱口梧陵(はまぐちごりょう 広川町 1820~1885)がいます。濱口梧陵の行動は世界に紹介され、第70回国連総会本会議(2015(平成27)年12月22日)で11月5日が「世界津波の日」に制定された由来となっています。
明治以降を見ても、政治家・外交官である陸奥宗光(むつむねみつ 和歌山市 1844~1897)や世界的な博物学者であり、民俗学の創始者の1人である南方熊楠(みなかたくまぐす 和歌山市 1867~1941)、合気道の創始者の植芝盛平(うえしばもりへい 田辺市 1883~1969)、日本の電機産業を世界一の水準に高めた松下幸之助(まつしたこうのすけ 和歌山市 1894~1989)など、多様な分野で多くの人物が活躍してきました。
また、和歌山県の人々は、全国から集う熊野参詣の人々を「浄不浄、信不信等を問わず」受け入れてきたことで示されている心温かさを有しており、古くからの奉仕・慈善の徳目を重視する風土で育まれています。現在も、心が広く、温かく、親切でいながら、実直で進取の気性に富んだ人々が、県の内外を問わず、さまざまな分野で活躍しています。

(3)特色ある産業

商工業においては、鉄鋼、石油、化学といった基礎素材型産業の割合が高く、製造品出荷額等の約7割を占め、本県経済の発展を支えてきました。また、中小企業が集積しており、さまざまな業種の企業が活躍し、なかには世界の中でトップの地位を築いている企業もあります。さらに、地場産業も古くから栄え、丸編ニット、パイル織物、染色などの繊維関連産業をはじめ、機械金属、化学、日用家庭用品など全国シェアが高い産業も数多くあります。こうした産業では、それまで培ってきた技術を発展させ、進取の気性に富んだ県民性を生かしたイノベーションが展開されており、ニット製品のコンピュータ横編み機、無洗米装置、産業用インクジェットプリンタ、写真処理機など世界から注目される技術が生み出されています。
また、本県では、恵まれた自然条件を生かした農林水産業が盛んです。
農業においては、果実の構成比が農業産出額の62%と半分以上を占めており、全国に比べて特異な構成となっています。2015(平成27)年では、梅、柿、みかんが全国1位、桃が全国3位の産出額を誇り、果樹王国わかやまの地位を築いています。2015(平成27)年には、400年にわたり高品質な梅を持続的に生産してきた「みなべ・田辺の梅システム」がFAO(国連食糧農業機関)の世界農業遺産に認定されました。また、さやえんどう等の野菜や花きの生産も盛んで、冬季温暖な気候と高度な施設栽培技術を生かした集約型農業が展開されています。
林業においては、温暖多雨の気候が樹木の生育に適し、古くから「木の国」と呼ばれ、スギ、ヒノキなどの優良材の生産県として全国に知られています。また、木材以外にも、サカキ、コウヤマキなど神前・仏前に供える枝物、紀州備長炭、サンショウ、ワサビ等、さまざまな特用林産物が豊かな森林資源から生み出されています。
水産業においては、瀬戸内海と太平洋に面した海域では、タチウオ、イサキ、シラス、イセエビなど多種多様な水産物に恵まれ、それぞれの海域特性に応じたさまざまな漁業が営まれています。特に紀南地方では、勝浦漁港における延縄(はえなわ)漁法による生マグロ水揚げ量は全国一を誇るとともに、捕鯨は400年を超える歴史をもつ伝統的な産業として、今も受け継がれています。また、養殖においては、2002(平成14)年に世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功するとともに、アユの養殖生産量が全国上位を誇っています。さらに、新たな養殖魚種の開発に取り組み、日本で初めてスマの人工種苗(人工的にふ化させた稚魚)の量産化に向けた技術開発に成功し販売も始まっています。


2.和歌山県の課題

(1)全国に先駆けて進行する人口減少と超高齢社会

本県の人口は、全国よりも早い流れで減少が進んでおり、1985(昭和60)年の108万7千人をピークに減少に転じ、1995(平成7)年には、経済対策に伴う公共投資の増加や阪神・淡路大震災の影響等による一時的な転入超過があったものの、その後は減少が続き、今後、何も対策を講じなければ2060年には「50万人」程度まで激減すると予測されています(国立社会保障・人口問題研究所 2013(平成25)年3月推計)。
こうした状況の中、本県では全国に先駆けて2015(平成27)年6月に「和歌山県長期人口ビジョン」を策定し、「高齢者1人を現役世代2人で支える人口形態」を作らなければならないという考えに基づき、2060年のめざすべき県人口を「70万人」程度とすることを目標として掲げたところです。
本県の合計特殊出生率は回復傾向(2005年1.32→2015年1.54)にありますが、人口置換水準(2.07)には届いておらず、出生数は減少傾向(2005年7,835人→2015年7,030人)にあります。第2次ベビーブーム世代(1971(昭和46)~1974(昭和49)年生まれ)が40代となり、今後親となる20~30代の人口が減少していきます。
また、本県人口の転入・転出の状況は1954(昭和29)年以降、一時期を除いて転出超過の状況が続き、なかでも15~29歳の若年層の転出が際立って多く、県外に進学先や職を求めている状況です。
こうした若年層の減少により、本県では1970年代以降急速に高齢化が進展し、2000(平成12)年の国勢調査では、高齢化率は全国に先んじて「超高齢社会」と言われる段階(21%)を超え、2015(平成27)年の国勢調査では、いよいよ30%を超え、31%となりました。

(2)人口減少に伴う生活機能の低下

何も対策を講じなければ、第2次ベビーブーム世代が65歳以上となる2040年には、県内各地域で人口が激減すると予測されています。
都市部においては、外縁部への拡散により優良農地が虫食い的に減少するとともに、中心部の空洞化が進み都市機能が低下しています。また、中山間地域においては、人口減少によって社会生活に支障が生じ、今後、存続が危ぶまれる集落の増加が見込まれます。

(3)経済を支える労働力の減少

本県は全国と比べ、生産額における第2次産業の割合が高く、就業者における第1次産業の割合が高くなっています。
今後生産年齢人口が減少し、加えて本県は若者の転出が多い状況にあることから、産業を担う労働力の確保が大きな課題です。特に農業は、2000(平成12)年から2010(平成22)年の10年間で就業者が2割減少するとともに、就業者に占める65歳以上の高齢者の割合も46%と極めて高くなっています。
また、30~34歳の女性の有業率が全国と比べて低くなっています。
さらに、新規学卒就業者の卒業後3年以内の離職率が全国平均より高くなっています。

(4)大規模自然災害の脅威

<地震・津波>

南海トラフ沿いの3つの領域(東海・東南海・南海)では、これまでも約90年から150年周期で繰り返し津波を伴う地震が発生しており、紀伊半島は南海トラフの震源域に近いため、地震・津波により大きな被害を受けています。
南海トラフ地震は、今後30年以内に70%程度の確率で発生すると予測されています(2017(平成29)年1月13日地震調査研究推進本部公表)。
また、中央構造線断層帯(近畿地方の金剛山地の東縁から伊予灘に達する長大な断層帯)が和泉山脈に沿って横断しており、今後30年以内の発生確率は0.07~14%と予測され、「S*ランク」(地震が起こる可能性が最も高いランク)に分類されています(2017(平成29)年1月13日地震調査研究推進本部公表)。

【南海トラフ地震】

・東海・東南海・南海3連動地震

南海トラフ沿いの3つの地震(東海・東南海・南海)が同時に起こることをいい、特に大きな被害が想定されています。

・南海トラフ巨大地震

東海・東南海・南海地震の震源域より、さらに広域の震源域で地震が連動した場合の最大クラスの地震。実際に発生したことを示す記録は見つかっておらず、発生頻度は極めて低いが、仮に発生すれば極めて甚大な被害が想定されています。

<風水害・土砂災害>

本県は、日本有数の多雨地域であるとともに、急峻な地形が多く、各河川の河口に広がる堆積低地を中心に市街地が発達しているため、集中豪雨・台風による浸水被害・土砂災害が頻繁に発生しています。
過去には、死者1,247人となった1889(明治22)年8月の大洪水をはじめ、死者及び行方不明者1,046人となった1953(昭和28)年7月の水害など死者を伴う甚大な被害をもたらした記録的な災害が発生しており、近年も、2011(平成23)年9月の紀伊半島大水害により、死者56名、行方不明者5名、住家被害7,933棟という甚大な被害が発生しました。


3.将来を拓く礎

(1)交通ネットワークの充実

産業振興、活力ある地域づくりなど本県の将来のチャンスを保障するため、交通ネットワークは必要不可欠なインフラです。
高速道路については、2007(平成19)年度末時点で供用率が46%と、全国に比べ立ち遅れた状況でしたが、その後、近畿自動車道紀勢線南紀田辺IC~すさみ南IC間や、京奈和自動車道の県内全線などが開通し、供用率も80%と概ね全国平均に到達しました。現在は「すさみ串本道路」や「新宮紀宝道路」などの整備が進んでいます。
また、直轄道路等については、国道26号第二阪和国道が開通するとともに、国道42号有田海南道路、国道42号田辺西バイパス、国道169号奥瀞道路(III期)などの整備が進んでいます。
さらに、内陸部骨格道路については、整備を進めていたX軸ネットワーク道路が2012(平成24)年度に完成し、引き続いて川筋ネットワーク道路の整備を進めているところです。
空港については、完全24時間運用の国際ハブ空港である関西国際空港が至近距離にあり、県南部には南紀白浜空港があります。
また、港湾については、国際拠点港湾の和歌山下津港、重要港湾の日高港と13の地方港湾があります。
このように、京阪神圏、首都圏、そして世界に短時間でアクセスできるとともに、県内も短時間で移動できる環境が整いつつあります。

(2)増加する観光客

本県には、「豊かな自然」、「伝統ある歴史・文化」、「四季折々の多彩な食材」など魅力あふれる観光資源があります。観光は、訪れる人にそこでしか感じることができない体験を提供することができます。世界中で都市化・近代化が一層進んでいく中で、自然や歴史を感じながら心のやすらぎを得ることのできる本県の観光面での希少性はますます高まっていきます。
また、観光客の視点に立った多様な観光プランを構築し、ターゲットを明確にした戦略的な誘客活動を継続的に展開するとともに、「和歌山おもてなしトイレ大作戦」による公衆トイレの整備、無料Wi-Fi接続環境の向上など、観光客が快適に和歌山を満喫できる環境を整備してきました。
現に、2015(平成27)年の入込客数は3,340万人、外国人の宿泊客数は43万人と、いずれも過去最高を記録しており、「和歌山の魅力」は日本のみならず世界からも注目されています。

(3)スポーツ施設の充実

2015(平成27)年の紀の国わかやま国体・紀の国わかやま大会を契機として、秋葉山公園県民水泳場や武道・体育センター和歌山ビッグウエーブ、和歌山セーリングセンター、田辺スポーツパーク等を新設するとともに、紀三井寺公園の陸上競技場や野球場、県営相撲競技場を改修するなど、県民がスポーツに親しみ、楽しめる環境を充実させました。
こうした施設は、世界的な大会に出場する国内外のナショナルチームのキャンプ地など、県外からの誘客への貢献が期待でき、2020(平成32)年東京オリンピック・パラリンピックの事前キャンプ地としても活用される予定です。

(4)企業への充実した支援体制

道路網が充実し、関西国際空港に近いという好条件にあるとともに、過去とは違い近畿府県の中で土地価格や最低賃金が最も低く、企業が事業をする上での価格的優位性があります。加えて、企業ニーズに応じた用地の確保、立地企業奨励金など、新しく県内に立地する企業への支援も充実しています。
2007(平成19)年に創設された「わかやま中小企業元気ファンド」に加え、2009(平成21)年には「わかやま農商工連携ファンド」が創設され、また、独自の産業技術振興策を整備し、海外も視野に入れた販売促進プログラムを充実するなど、中小企業による新事業の創出を支援する環境が整っています。

(5)ICT・データ利活用環境の充実

地域間の情報格差解消のための対策を進め、県内のほとんどの地域で、超高速ブロードバンドと携帯電話が利用できる環境を整備しました。また、2018(平成30)年度からは、総務省統計局・独立行政法人統計センターが、本県で統計ミクロデータ提供等に関する業務を行うこととなっています。このように、経済成長の鍵となるICT・データの利活用やデータサイエンス人材の育成等に適した環境が整っています。

(6)出産・子育て環境の充実

大都会と異なり、自然に恵まれた中で、住宅事情や保育環境にも恵まれ、医療、教育などの環境も大都会に遜色ないものが用意されるなど、子育てに適した地域となっています。その中で県では、国の基準額を上回る特定不妊治療費の助成や小学校就学前までの第3子以降の保育料無料化など、全国トップクラスの支援制度を創設し、安心して出産・子育てができる環境を整えています。
また、帰宅しても一人で過ごさざるを得ない子どもたちの居場所づくりや、進学意欲と学力が高いにもかかわらず、経済的な理由により大学等への進学が困難な高校生等のための給付金制度を創設するなど、社会全体で子どもを支える仕組みづくりを進めています。

(7)先進的な防災対策

2011(平成23)年3月に南海トラフと同じ海溝型地震による東日本大震災が発生しました。また、同年9月には紀伊半島大水害が発生し、死者56名、行方不明者5名、住家被害7,933棟の甚大な被害を受けました。
こうした大規模災害を受け、従来の防災・減災対策を一から見直す点検を行いました。2013(平成25)年には、新たな津波浸水想定を公表し、2014(平成26)年には津波避難困難地域(津波到達までに安全な場所へ避難することが困難な地域)の抽出を行い、解消のための具体的な対策をまとめた「津波から『逃げ切る!』支援対策プログラム」を、2015(平成27)年には「和歌山県国土強靭化計画」を策定しました。避難先安全レベルの設定や津波予測による避難情報の提供などのソフト対策と、避難路の整備、港湾・漁港の堤防強化などのハード整備の両面で対策を進めています。
また、濱口梧陵の故事は11月5日が「世界津波の日」に制定された由来となっており、本県は世界中から注目されています。

(8)暮らしやすい風土と温かい人間性

本県では、世界に誇る豊かな自然や伝統ある歴史・文化、余暇を楽しむスポーツ施設などが充実しており、通勤時間が短いため時間を有効に活用でき、持ち家比率も高いなど、都会暮らしでは失いがちな心豊かな生活を送ることができる環境が整っています。
また、和歌山では昔からどんな人でも温かく受け入れる人間性が育まれています。そして、本県で生まれ育った進取の気性に富んだ優秀な人材が、日本や世界のトップクラスで活躍しています。故郷への愛着と誇りをもち、広い視野で意見をいただけるそうした方々とのつながりは本県の財産であり、これからの和歌山をよりよくしていくための貴重な人的ネットワークが形成されています。


第4節 和歌山県がめざす将来像

今後、加速度的に進んでいく人口減少の克服に向けた地方創生の動きや、相次ぐ大規模自然災害の発生に伴う国土強靭化の流れに加え、急速な高齢化や経済・社会のグローバル化の進展など、我が国を取り巻く状況は大きく変動しています。
一方で、本県は、“神々の棲(す)む国”といわれた熊野、高野山をはじめ、連綿と守り続けてきた自然や文化など数多くの優れた特色をもっています。
このような状況を踏まえ、本県がもつ優れた特色(強み)を積極的に生かして県政を発展させていく姿を

「世界とつながる 愛着ある元気な和歌山」~県民みんなが楽しく暮らすために~

と表現し、本計画がめざす将来像としました。これは、

・県民みんなが、故郷に愛着と誇りをもち、楽しく快適に暮らし、元気に活躍している姿
・和歌山と交流・関係する多くの人々が、和歌山に愛着をもっている姿
・和歌山の魅力ある産業や文化が、世界と直接つながり注目されている姿

をめざすものであり、次の5つの分野の将来像で構成されています。
以下、それぞれの分野の10年後の本県のめざすべき姿を描いています。


1.【分野別】5つの将来像

将来像1 未来を拓くひとを育む和歌山

子育て支援施策がより一層充実し、県民みんなが子どもを産み育てやすい環境を実感している中、出生率が上昇し、人口減少にも一定の歯止めがかかっています。
また、子どもたちは、社会で生きていく上で基盤となる確かな学力、豊かな心、健やかな体の「知・徳・体」をバランスよく備えるとともに、変化の激しい時代においても自らの将来の夢や目標を実現できる新しい時代に必要な資質・能力を身につけています。高等教育機関も充実し、県内で進学し学び続けることにも魅力を感じています。
さらに、人権を尊重し、共に助け合い支え合う地域社会の中で、女性や高齢者、障害のある人など県民みんなが、それぞれのライフスタイルに応じて、仕事やさまざまな学び・文化活動等を通じ、生きがいや楽しさを感じて元気に活躍しています。
加えて、県民みんなが「故郷への愛着と誇り」をもち続けており、自らの価値観で海外や県外に活躍の場を求めて転居した人も、故郷への想いをもって暮らしています。このような状況が、和歌山と関係する国内外の人的なネットワークをさらに広げ、本県の交流人口や関係人口が増加し、和歌山が世界と直接つながっていることを県民みんなが実感しています。

将来像2 たくましい産業を創造する和歌山

地域経済は、多様でバランスのとれた産業構造を築き上げ、外的経済ショックにもしなやかに適応できるたくましい力を備え、各産業は海外と積極的に取引しています。
「県内企業」は、時代のトレンドを的確に捉え、国内だけでなく海外の明確なターゲットを見定めて製品やサービスを提供することで競争力を高めるとともに、新たな分野にもチャレンジしています。
「農林水産業」は、人口減少や就業者の高齢化が進む中でも、多様な担い手を確保するとともに、収益性を高める戦略的な経営手法や国内外の新たな販路開拓によって、持続可能な産業になっています。
「観光業」は、ICT等の急速な進歩の中でも、現地に行かなければ満足を得られないその地域独自の産業としてさらなる発展を遂げ、外国人を含めた多くの観光客が県内を広域的に周遊して長く滞在し、本県の魅力とおもてなしを存分に感じています。
「建設産業」、「サービス業」、「福祉産業」なども、時代の変化に合わせて弛(たゆ)まず自己変革し、県民のニーズに的確に応えています。
これら全ての産業が生産性・収益性を高めることでさらなる雇用を生みだし、「しごと」が「ひと」を呼び、「ひと」が「しごと」を呼び込む新たな人の流れを創りだすとともに、県内の若者が故郷で働くことへの魅力も感じています。また、産業の振興が県民の経済的な安定を生むことで、若い世代は結婚や子育てに積極的になり、人口減少にも一定の歯止めがかかっています。

将来像3 安全・安心で、尊い命を守る和歌山

地震、津波、風水害などの災害による「犠牲者ゼロ」をめざす本県の防災対策がより一層充実し、県民の暮らしに安心感を与えているとともに、県民に自助・共助の精神が浸透し、いかなる災害にも立ち向かうことのできる心構えができています。
また、大規模災害が発生した地域において、復旧・復興が遅れ県民が再建する気力を喪失したり地域が衰退しないよう、地域があらかじめ議論し、将来の礎となる「復旧・復興計画」が策定されており、万が一被災した場合には、災害前より良い地域にしようという前向きな気運も高まっています。
さらに、世界津波の日の制定を契機に、和歌山は「津波防災の聖地」として世界的な位置づけを得て、国内外の防災関係者が和歌山に集い、防災・減災についての活発な議論の成果や本県の先進的な防災対策が世界中に発信されています。
加えて、病気・犯罪・交通事故等から県民の命を守るための「医療」「健康」「治安」「交通環境」は、時代に適応した形でさらに向上しています。「医療」では、介護との連携や、遠隔医療などの革新的な技術の導入により、県民誰もが住み慣れた地域で安心して質の高いサービスを受けることができており、「健康」でいきいきと暮らすために、生涯を通じた健康づくりを積極的に行っています。「治安」は、複雑多様化する犯罪を防止・検挙することで、県民が安心して暮らせる状況に保たれています。「交通環境」は、超高齢社会に適応した取組を進めることにより、交通事故がさらに減少し、安全で快適な状況になっています。

将来像4 暮らしやすさを高める和歌山

「暮らし」は日常生活そのものであり、命を守るという暮らしの根幹が保障されている中、質的な豊かさを感じる快適で楽しい暮らしを県民みんなが享受しています。
「安心して暮らすための質の高い福祉サービス」が充実しており、高齢者は知識や経験を生かし、生きがいをもって社会参加し、障害のある人は自己選択と自己決定の下に社会活動に参加するなど自分らしく暮らしています。また、地域には子どもの笑顔があふれ、生まれ育った環境に左右されることなく成長しています。
美しく豊かな自然環境が守られ、自然と共生した暮らしや産業が、途切れることなく循環する「自然共生社会」になっています。また、大気・水・土壌環境等の保全や食の安全の確保などにより、快適な生活環境が保たれているとともに、ごみの発生を抑え(リデュース)、再使用(リユース)、再生利用(リサイクル)が行われる「循環型社会」になっています。さらに、省エネルギーが実践され、再生可能エネルギーの利用が徹底された「低炭素社会」となっています。
これら自然共生社会・循環型社会・低炭素社会の構築が、経済社会の発展や産業振興とうまくつながることで、持続可能な地域社会を支える好循環も生みだしています。

将来像5 魅力のある地域を創造する和歌山

人口減少や少子高齢化に伴い、全ての地域において暮らしやすさを維持していくことが困難であることを県民みんなが正しく受け止めた上で、暮らしやすさを高めていくためには、どのような地域が必要かを住民自らが主体的に考え、行政と一体となって「地域づくり」を実践しています。
都市では、中心部への都市機能の一定程度の集中と適切な都市計画が実施され、失われてきた「賑わい」が戻り始めています。一方、中山間地域では、日常的な生活サービスを享受できる生活拠点を中心に周辺の一定規模の集落と一体となったコミュニティが維持できる「ふるさと生活圏」が形成され、それらの生活圏を結ぶ「ネットワーク」が効率的・効果的につながっています。海外とつながる玄関口である空港や港湾、県の大動脈となる道路もさらに整備され、国内外からの交流人口が増加し、広域的な物流も盛んになっています。
また、急速に進化するICT等の技術革新を積極的に取り入れ、地理的な不便さを解消するライフスタイルが可能となっています。
このようにして「コンパクト+ネットワーク」が再編された各地域において、福祉・医療・治安・交通など、生活の基礎となるサービスが、どの地域に住んでいても等しく保障されています。
その上で、各地域の自然・歴史・文化などの多様性を、地域独自の強みや魅力に磨き上げることにより、そこに住まう「ひと」の多様な「暮らし」の質を高めており、交流人口や移住者も増えています。こうして、あらゆる面で魅力的な地域が創造され、県民みんなが楽しく暮らしています。


2.めざす将来像に向けた取組(新たな施策体系)の考え方

先に述べたように、分野別の5つの将来像は、切り離されることなく重層的に、「世界とつながる 愛着ある元気な和歌山」を構成しています。そして、これらの将来像を実現するための取組(新たな施策体系)は、以下のとおりとします。


3.10年後の和歌山県人口の見通し

本県の2026(平成38)年の人口は、このまま何も対策を講じなければ、85.9万人と見込まれています(国立社会保障・人口問題研究所 2013(平成25)年3月推計)。
持続可能な和歌山県を実現するためには、「高齢者1人を現役世代2人で支える人口形態」を作らなければなりません。
そのためには、産業政策やインフラ等の条件整備を行って働く場を増やすとともに、和歌山の暮らしやすさや和歌山企業の存在をアピールすることで、一定の転出を見込みつつも、転入者を増やし社会減を抑制する必要があります。
また、今以上に子育て環境を良くすることによって、出生率を高め、新しく生まれてくる人を増やすことで、自然減を減らす必要もあります。
分野別の5つの将来像に向けた取組が最大限に発揮された場合、暮らしやすい社会が創られ、人口流出に歯止めがかかり、出生率が向上することで、人口は89.4万人を確保し、3万5千人の人口減少をくい止めます。


【2026(平成38)年人口の見通し】

社人研推計を元に
推計した人口
和歌山県長期
人口ビジョン
県の総人口 85.9万人 89.4万人 3.5万人
0~14歳 8.6万人 11.8万人 3.2万人
15~64歳 47.2万人 47.5万人 0.3万人
65歳以上 30.1万人 30.1万人 0.0万人

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