チェーンソーアート第一人者、城所啓二さん

名人対談

和歌山県には、様々な分野でそれぞれの道を究めた「名人」とも呼べる方々がおられます。このような方々は和歌山県の誇りであるとともに、その活動は県民の皆さんにとっても励みとなります。そんな「名人」から高い志や歩んでこられた人生についてお聞きし、県民の皆さんにご紹介したいと思います。

チェーンソーアート第一人者、城所啓二さんと仁坂吉伸知事との対談です。(知事室)

仁坂知事:今日はわざわざお越しいただき、ありがとうございます。城所さんが和歌山にいてくれて、龍神で頑張ってくれているので、和歌山の真ん中が光るような感じがして、非常に嬉しく思っています。

城所さん:ありがとうございます。

仁坂知事:本当にありがたく思っています。早速ですが、城所さんは愛知県のお生まれですよね。どうしてチェーンソーアートの道を歩まれるようになったんでしょうか?

城所さん:その辺のきっかけをお話しします。私は愛知県の豊橋市で生まれ、自営業者の2代目として育ってきました。みんなが大学に行く頃、私は商売の修行ということで鹿児島県の方へ修行に行ったんです。

仁坂知事:なぜまた鹿児島なんですか?

城所啓二さん
城所啓二さん

城所さん:遠く、南へ行きたくて鹿児島へ行ったんです。それこそ、私はあの頃、蝶を夢中で採っていて、鹿児島に来る迷蝶を狙いたいなと思って。そんな不純な理由もあって、鹿児島市にある企業に就職しました。そこで3年間修行を積んで家に戻ってきたんです。

仁坂知事:家業は何だったんですか?

城所さん:家業は床屋や美容院への卸業をやっていました。親父はもともと刃物の研ぎ師で、私も後を継ぐつもりでずっと生きてきたんです。修行が終わって自宅へ帰ってきたんですが、バブルの崩壊期で経営が苦しく、結局店を畳むことになったんです。それで知り合いを頼り東京へ出て行ったんです。
 東京では某大手シンクタンクなどの下請けの小さなシンクタンクの仕事をやらせていただいていました。そこでUターン、Iターン事業に関わらせていただいた時、自分の田舎が気になり始めたんです。田舎暮らしをするなら若いうちだろうと思い切って愛知県内の山間地域へ住み始めました。そこで林業の振興などの村おこしに関して色々と仕事をさせてもらいまして、チェーンソーアートと出会いました。
 チェーンーソーアートは日本になかったので、これは起爆剤になるかも知れないと思いました。それで、愛知県のある自治体が2000年記念イベントに取り入れてみようということで予算化してくれまして、アメリカの世界チャンピオン、ブライアン・ルース氏を初めて日本に呼ぶことができたんです。それがきっかけですね。その時私は裏方だったので、自分がやるとは思ってなくて。やってもらう側だったんです。まさか日本人ができるはずがないと遊び程度に考えていたんですが、林業関係者の人たちはやってみると意外と器用にやっちゃったんですね。

仁坂知事:初めての方がですか?

城所さん:はい。結構日本人でもできるもんだと私自身がびっくりしました。でも見てると、これだったら僕でもできるんじゃないかと思って自分もチェーンソーを買って。それが初めてだったんです。
 その後すぐ、林業関係者を含めてみんなで視察がてらアメリカへ行きました。大会にもビギナークラスで参加しちゃおうということで。参加したら日本人は器用なんで、すぐに入賞しちゃうんですね。みんな勢いついてその辺りから色々マスコミにも出まして、ちょうど全国的に広がりがわぁっと出てきました。

仁坂知事:そうですか。

城所さん:チェーンソーアートの仕事が忙しくなってきて、ほかの調査業務とかシンクタンクの業務ができなくなってしまって。でも、今までやった活性化策の中で、チェーンソーアートが一番効果がありましたね。手に取るようにありました。皆さん元気になってきました。じゃあこれを商売にして、これにかけてみようと。それでチェーンソーアートを始めることになったんですね。ですから、美術とか彫刻とか一切勉強してないです。

仁坂知事:へぇ−。それで世界一になっちゃったんでしょ?

城所さん:そうですね。

仁坂知事:それでずっと修行されてきてるんですよね。

城所さん:はい。やる以上は世界一になれと、シンクタンクの会社を辞める時、上司から言われたんですね。

仁坂知事:良いことを言いますね。人のことだと思って。(笑)

城所さん:世界一になるのは当時の夢だったんですね。アメリカでの修行をどんどん進めていくうちに、ご縁があって和歌山に来ることになったんです。

仁坂知事:世界一になる前に和歌山に来られたんですか?

城所さん:いえ、来てからですね。それこそ熊野の神様のお陰ですね。ちゃんとチャンピオンになれますようにと祈願して、見事していただけたのでね。今回熊野の神様にお礼をということもあって龍を奉納することになったんです。
 ある種神懸かり的と言いますか、そういう力をいただかないと、いくら狭い業界でも世界のトップにはなれないですね。

仁坂知事:そうかも知れませんね。それで龍神に来られたのは林業祭があったからでしたっけ?

城所さん:はい。これも不思議なご縁で、アメリカから帰ってしばらくすると当時の林業開発会議というところから、龍神村の林業の祭、翔龍祭にぜひ来てほしいということで招へいされたんです。その時、龍神村の名前を初めて聞いたんですが、何か恐ろしいような名前のところだなぁと思いながら、楽しみにしていたんです。

仁坂知事:それで、前に言っておられたのは、たまたま住宅がちゃんとあったっていうのが大きかったとおっしゃっておられましたよね。

城所さん:ちょうどその時期は愛知県で仕事をしてたんですが、作業場が非常に手狭になって来ていて。広いところを探していたんですが、県内になかなか良い物件がなくて。それで全国に広げて探そうとなったときに、ちょうど龍神村在住の人がうちに来てくれて。本当に来る気がありますかと言われて。良いところだったら行きますよと言ったら、ちょうど「アトリエ龍神の家」を紹介してくださいました。

仁坂知事:その方が、龍神へ来てよと、本当に来てくれるんだったらこんなのありますよと?

城所さん:はい。良い物件を紹介しますよと。ただ抽選だし、良い条件だし、入れるかどうかわからないけれど、多分、木のアートだし、間違いなく良いと思うと言われて。本当に導かれるように来たんです。

仁坂知事:そうですか。そういうものって何かありますよね。それで龍神村にお住まいになって、良いところと悪いところと色々あると思うんですが、それぞれどうでしょうか?

城所さん:そうですね。お世辞じゃなくて、悪いところは思いつかないですね。良いところは来てから味がどんどん出てきて。最初は正直言って、住宅があるからっていうのがきっかけで、愛知県の頃もそうだったんですが、あまり田舎に大きな期待はしていないというか。自分たちが独立して生活していくのに一生懸命で、田舎のポテンシャルに助けられることはあまり期待せずに、自分たちのペースでやっていこうというイメージだったんです。龍神村に来てみたら、本当に良い先輩方が多くて、非常に親切にしてくださいます。かと言って深くは立ち入らない。上手に、いい距離感をとっていただけるところなんですよね。だから非常に居心地が良くて。他の2軒に入った方も年代も似ていますしね。非常に暮らしやすくて。龍神は寒いところじゃないかと皆さんに言われるんですが、愛知県の山の中がすごく寒かったんで、すごく暖かくていいイメージしかないですよ。

仁坂知事:そうですか。交通の便もずいぶん良くなりましたよね、龍神は。

城所さん:そうですね。私の場合は龍神に住んでいるとはいえ、全国を走り回っていますんで、高速道路へ出るまでの時間が問題なんですね。今では有田インターまでは1時間足らずで行ってしまいますから非常に便利ですね。以前住んでいた山の中はインターまで1時間20分かかりましたからね。

仁坂知事:愛知県のどちらにお住まいだったんですか?

城所さん:愛知県の設楽町というところで、ものすごく山の中です。静岡県と長野県の県境の辺りですね。

仁坂知事:疎林と言いますか、まばらな林があってギフチョウがいて、ミドリシジミがいてというところでしょ?

城所さん:はい、そうですね。

仁坂知事:行ったことはないんですが、知ってるんですよ。(笑)

城所さん:本当にあそこも良いところですが、こちらの方が昆虫の層も広いですし、来てみていいなぁと思いますね。

仁坂知事:そうですね。昔、私が子どもの頃、時々龍神村へ行きました。高野山から抜けて。今みたいにスカイラインなんてないですからね。曲がりくねった道でね。それでも林道は広かったんですよ。でも下りてくるところはものすごく狭いんですよ。それで、へとへとになって龍神へたどり着いて。それでまたへとへとになって南部(みなべ)の方へ出ていくんですね。

城所さん:昔は大変だったんですね。今は道が良くなったとはいえ距離は結構ありますね。

仁坂知事:有田まではもうちょっと良くなりますよ。お話を伺っていると、城所さんが住民の方と仲良くされ、楽しくやっておられるような感じがして嬉しく思います。
 ところで、熊野の神様というか、さっきおっしゃいましたけれど、ただの自然じゃなくて何か特別な感じがしますか?

城所さん:私は実は信仰心はあまり強い方じゃなかったというか、ほとんど無くて、まさか自分が今こんなふうになるとは夢にも思ってなかったんです。こちらに来て、世界遺産になったとか、有名なところだということぐらいしか最初は知らなかったんですね。でも今、日本で一番霊力が強いと言われている熊野があるわけですから、我々でも真剣に向き合うとそれなりのご加護があるような、そういう力を持った大きな神様がおられるところだと思います。だから熊野は観光というよりも、きちんとした信仰の拠点なのだとつくづく思います。

仁坂知事:実は、私も熊野へは時々歩きに行くんです。語り部の方と一緒に、昔話を聞きながら、またこの木は何という木ですよと教えてもらったりして。あれは楽しいですね。でもそんなに霊力を感じるところまではどっぷりとは浸ってないかなぁ。

熊野本宮大社神門
熊野本宮大社神門

城所さん:この写真は先日彫り終わった作品です。

仁坂知事:本宮大社に奉納される作品ですね。これは凄いですね。どこに奉納されるんですか?

城所さん:これは本宮大社の神門に付くようになります。階段を登り切って本殿の正面のところですね。昇り龍と降り龍の2体(一対)です。
(現在は展示されていません。)

仁坂知事:凄いな、これは。

降り龍
左:降り龍 右:昇り龍(現在は展示されていません。)

城所さん:私も彫るときに色々調べながらやってたんですが、どうも昇り龍は伝説では地上で千年生きた龍が天に昇る姿で、縁起が良いそうです。降り龍は、皆さんにあまり知られていないのですが、実は天界で3千年以上過ごした龍が地界に力を与えにやってくるんだそうです。降り龍の方が年をとっていて力を持っているんですね。昇り龍がこれから力をつけに行くということで、両方とも意味があるみたいですね。上に行く力と下に向く力が神門のところに運ばれて、中に入っていくと。そういう意味の彫刻を彫らせていただきました。

仁坂知事:これは凄いですね。いつも城所さんの彫刻は凄いなぁと思ってるんですが、これはでかいですね。これは1本の大きな木ですか?

城所さん:これは大体直径60センチメートル前後、高さ2メートルの程度の樹齢120年の杉の木です。

仁坂知事:大体杉をお使いになるんですか?

城所さん:そうですね。もともと林業の振興から始まっているんで杉の木を使っています。なぜ杉の木かっていうと、杉は柔らかく、彫りやすいんです。今まで彫刻で杉はほとんど使われてないんですね。非常にもろいんですよ。でもチェンソーで削ってもこんな細いパーツができるくらい粘りがあります。色もきれいだし、香りもよくて。杉花粉といいますと悪いイメージしかなくて、しかも人工林で、生い茂って環境を破壊しているイメージがあるんですけれどね。でも、なぜこれだけ杉の木が植えられたかというと、これだけいい木は他にはないくらい杉の木は素直なんですね。加工もしやすいし。だから正しく使って正しく理解すれば杉の木も満更悪者じゃないですね。

仁坂知事:そりゃそうです。杉は一番基本の木ですよね。杉は木目が強いでしょ。あれは邪魔になりませんか?

城所さん:逆に、日本人は皆さん木目が好きなんで、こういうのを彫ると木目きれいですねぇって。

仁坂さん:彫った時に木目が出るといいんですかね。

城所さん:逆に木目が非常にきれいに見えますからね。かえって喜ばれますね。クスノキとかケヤキは木目が見えにくいですね。杉の木ははっきりと木目が見えますよね。

仁坂知事:左甚五郎さんという彫刻職人がいらっしゃいましたよね。先日、海南市の長保寺へ行ったんですが、あそこには国宝の大門と本堂と多宝塔がありまして、この3つセットで国宝になっているのは法隆寺と長保寺だけらしいです。私は知らなかったですけどね。おぉっと感心して見てきたんです。そこの大門に左甚五郎さんの彫刻があるんです。入るときには鯉があって、出て行くときは龍になってるんですね。これは大門をくぐって鯉から龍になってお参りして、もとの鯉に戻っちゃいけないから、帰りは横を通って帰りなさいということらしいです。登竜門の故事からきているそうです。無造作に、これは国宝ですって感じですね。

城所さん:鯉が龍になると、よく言われますよね。

仁坂知事:それで左甚五郎さんの作品がなぜこんなところにあるのと聞くと、もともと和歌山の人だとおっしゃってましたね。この人は、そもそも1人であったかどうかも分からない。多数の人が集まってやっていたかもしれない。だけど少なくともあの流派は粉河町あたりから出ているらしいですね。徳川に力があったから、どんどん江戸に貸し出してるとでもいうんでしょうかね。
 城所さんの作品は左甚五郎以来の名作だ、そういうふうに思ってます。

城所さん:そんなことはないですよ。でも見る方が見ると、私には彫刻をされる方が守護神についてくれていると。そういう方がお手伝いしてくれるので、こういうデザインができるんだと思うんですけど。正直言って龍を彫る時、絵に描くわけじゃないんです。彫れていっちゃうんです。

仁坂知事:えぇ!

城所さん:だからすごく不思議なんです。これもそうですが、これは先日みなべで彫った龍なんですが、これなんかは今でも絵に描けませんよ。これは、製材所の100周年記念に彫ってくれと言われまして。

南部製材所さんに置いている作品
部製材所さんに置いている作品

仁坂知事:これはどこに置いているんですか?

城所さん:これは南部製材所さんに置いていて、今、公開しています。

仁坂知事:公開しないともったいないですね。

城所さん:そう言っていただけると嬉しいです。この作品は製材所の片隅にあるんです。そこの製材所さんは木の天然乾燥をずっと昔からやっています。龍を見に行きがてら工場を見せてもらうっていうのもおもしろいなぁと思って。これは楠で太いところは2メートル20センチメートル、高さは3メートルあります。

仁坂知事:これはでかいですね。こう、チェーンソーでウィーンとやっていると見えてくるんですか?

城所さん:ラインが大体見えてくるんです。仏様が中に入っているのを彫り出すだけという話がありますが満更嘘じゃないですね。彫れていっちゃうんです。だから不思議なんです。私は言われたままに彫っているだけです。勿論熊野本宮大社さんのものもそうです。
 これを彫った後に熊野本宮大社さんの龍神様を彫らせていただくことになったんですが、自分で彫っていてびっくりするようなデザインができてきちゃって

仁坂知事:運慶、快慶も、彫っているうちにラインが見えてきたんでしょうかね。

城所さん:そうだと思います。ああいうのを彫る方は結局そういう力を得ないとできないと思います。
 先程の製材所の龍も、東の方に向けて置いているんですが、真っ直ぐ行ったところに本宮大社さんがあるんです。だから、本当に恐ろしいくらい神懸かった話が龍神様には付いてきます。私は体を提供させていただいているだけです。

仁坂知事:神様が彫らせてくれているんでしょうね。

城所さん:そうですね。それでなきゃ、こんなものを修行も積んでいない私が彫れるわけがないです。

仁坂知事:それだけ神様と仲良くしておられるということじゃないでしょうかね。

城所さん:逆に言うと、熊野の地っていうのは、そういう不思議な、最近人間が忘れてしまったような神様を感じることのできる土地なのかなって。そういうところが大変魅力的だと思います。

仁坂知事:そうですね。あまり厳しくないと言うとおかしいですが、こっちが一生懸命やっていたらそれで良いと。別にとがめられるわけではないしね。

城所さん:そうですね。だからすごくやさしい神様で、願い事はほとんど叶えてくれちゃうような。

仁坂知事:そうですか。(笑)

城所さん:でも悪いことをすると、とことん許さないという厳しい面を持っておられる。そういう意味では、和歌山っていい土地柄ですよね。

仁坂知事:(熊野本宮大社の宮司)九鬼さんにお聞きしたんですが、(熊野本宮大社は)外国人の方が来られて十字を切られてもいいっておっしゃってましたね。 宗派を問わずに、誰でもお詣りしたい人は心と心でお詣りに来ればいいんだというね、そういう柔らかい寛容性がありますね。

城所さん:とにかく拝み方はどうでもいいんだと。すごく寛容な神様ですよね。

仁坂知事:大変いいことをお聞きました。感動しました。今後とも頑張っていただかないといけないと思います。
 ところで、和歌山県のこれから、龍神村などの山村振興や県政全体に対して、元気でない部分もまだまだあると言われたり、頑張っていきたいと思うんですが、どういうふうなことを思ってるとか、こうしたらどうだろうっていうようなご意見などありませんか。

城所さん:そうですね、和歌山に住んでみて良く分かるんですが、和歌山の独特の良さを失わないようにしなくちゃいけないなと。それが何なのかというのは、なかなかはっきり言えないですが、今言ったような自然というか神様というか、大きな力がまだまだ自然に宿っているんだよ、ここには本物があるんだというPRができればいいなぁと。どこにでもあるような観光地化じゃなくて、和歌山に行かなくてはならない、そういうちゃんとしたものを失わないように、上手にみんなでやっていけるといいなぁと思ってます。トレンドにとらわれて、あんなことをやろう、こんなことをやろうじゃなくて、どっしりと構えて。逆に言うと、人間も少なくていいじゃないかと。その魅力を違う形でPRできるような町がいいなぁと思いますね。

仁坂知事:そうですね。私が若い頃は和歌山の山は栄えていたんです。栄えてた代わり皆伐してしまった。それで禿山になってしまった。もちろん林業家は元気ですからちゃんと植林もするんです。その後うまくいかなくなって放たらかしになって。でも逆に繁るんですね。商業的にはどうかなぁという議論はあるけれど、うっそうとはしてきましたね。そういう意味で、一度隠れておられた熊野の神様がまた出てきている感じがすごくするんです、私はね。それが杉の林であってもね。
 ただね、これからちょっと流行りそうなんですよ。いや、流行らさなければいけない。流行りそうっていうのは世界遺産とか、殺伐とした都会生活に疲れたような方が熊野に来ると癒されるとか。そういう意味では、雇用も大事だからPRもして流行らそうと思っているんだけど、流行ると今度は荒れる可能性がある。それから観光地として俗化すると、かえって観光地の良さがなくなる。熊野の良さがなくなる。それを充分心掛ければいけないので、これはあらかじめやっておかないといけないと思って、景観条例とか自然公園を直ちに見直し、利用の制限をちゃんとかけておくと。

城所さん:乱開発をやっちゃうと本も子もないですからね。

仁坂知事:たまたま流行らなかったから宣伝の数も少ないし、看板も少ない、割合落ち着いた雰囲気が出てるというところが多いと思うんです。流行ってくると良い意味で流行ればいいんだけど、ちょっと俗化しましたねと皆さんに言われるような流行り方をする恐れがありますね。どこでもそうですけどね。それを抑制しながら、良さをずっと保存しながら魅力を守っていこうと、私は思っています。

城所さん:外から入ってくる方が多いところなのでいろんな情報が入ってくるんでしょうけど、和歌山に似合ったものがうまく回転していくといいですね。

仁坂吉伸知事
仁坂吉伸知事

仁坂知事:そうですね。案外ね、純商業的に考えても、よそから来てくださるお客さんが良いと思うものと、地元の人や企業や商売人の方がこれだと受けるだろうというものは全然違う場合が多いと思うんです。例えば、余談ですが、和歌山は牛肉の消費量が日本一なんです。皆さん牛肉は美味しいと思っているから食べるんです。それとともに、多分お客さんに一番いいお肉を出さないといけないというのがあって、ごちそうするときには牛肉ということがあると思うんです。ところが、よそから来たお客さんはイノシシを食べたいとか、カモがないか、アマゴがおいしいねとか思うんじゃないかなと思うんですよ。逆に言うと、熊野特有の環境みたいなものを守っていればいつも楽しんで来てくれるんじゃないかということかなぁと私は思ってます。

城所さん:食に関しては、東京に行けば何もかもありますからね。田舎に来て、じゃあ何があるのか、東京にないものを食べさせられるのかというと、なかなか難しいものがあると思うんです。私は今回、龍神様を彫らせてもらうに当たり、肉を断ったんですね。禊ぎをしなくちゃいけなくて。私は肉は大好きなんです。牛肉は好きだし豚肉は好きだし、肉という肉は全部好きなんですね。

仁坂知事:今はお食べにならない?

城所さん:ここのことろ食べてないですね。熊野の龍神様を彫るって決まってから肉を断って乳製品を断って。神様に捧げるものはOKです。だからお酒はOKです。(笑)魚もOKです。そうすると日本人が古来食べていたものが中心になるらしいですね。そうすると体調がすごく良くなって、コレステロール値が下がったんですよ。

仁坂知事:ほぉそうですか。

城所さん:血液もサラサラになって、体の調子も良くなりました。一般的に熊野に参拝に来られる方が当たり前のように牛肉を食べたりするんじゃなくて、神様食というか、神様に捧げる食事をおいしく料理して食べさせてくれるとか、そういった店ができてくると来た価値が高まるんじゃないかと思います。

仁坂知事:そういう意味では、地元の人がやっているお弁当、あれはいいですね。まさに熊野食ですね。良く考えられていると思いますね。

城所さん:地元で採れた野菜を中心にして美味しく料理してね。

仁坂知事:両手を合わせて入る程のかわいらしいお弁当を作ってくださって。

城所さん:精進料理ともちょっと違う、素朴なだけではなくてね。

仁坂知事:そうそう。あれは最高ですね。

城所さん:そういうものを色々お店お店で工夫してくれたらきっと楽しくなるんじゃないかと。

仁坂知事:地元の女性の方々が考えてやられるんですね。センスがいいですよね。

城所さん:農地はそんなにたくさんはないでしょうから、むしろ地元で採れたものを100%地元で消費していくことを和歌山はできるでしょうからね。和歌山に行かないと食べられないという工夫の凝らされた食文化をもっともっと出せるお店を作っていってもらえると嬉しいですね。私も愛好会のメンバーの方々を連れてきて、あそこがおいしいよとか連れて行けますし。東京の方が見に来ても、これはいいなっていうものを各お店が工夫してくれるといいなぁといつも思ってます。

仁坂知事:ちょっとね、ハングリーさが足りないんでしょうね。多分ね、色々なセンスがないといけないと思うんですが、観光客の心理が分かって、技術があって、地元のこともよく知っているとか。以前龍神村のみなさんとお話させていただいた時にね、よそからいらした方も含めて、そういう方がたくさんいらっしゃいましたよね。ああいう方が、おいしいものを、つまり和歌山でしか食べられない、全国から人を引きつけられるようものを作ってくださると大分違いますよね。

城所さん:ただ、なかなか難しいですよね。大量に来られる観光客の方に食べさせなきゃならないから、大量に作る技術とおいしいものを作る技術のバランスが難しいですよね。

仁坂知事:大量に作らなくても良いんです。限定20食とかするほうがずっといいのかもしれませんね。一例を挙げますと、龍神にある豆腐屋さんは最高ですね。

城所さん:彼も緑の雇用で森林組合に勤めていて、独立して豆腐屋をやってるんです。彼が言ってたんですが、彼のところは手作り豆腐だから昔ながらの製法を保っていて、年に2回だけ豆腐は作れないと。すっごく不思議なことなんですが。

仁坂知事:ほぉそうですか。

城所さん:自然の中にいるとそういうことが段々と感じられるようになるって、そんな不思議な話をしていましたね。これと同じで、木についてもある特別な日に切った木は割れにくくて裂けにくいと言われています。

仁坂知事:へぇそうですか。

城所さん:熊野本宮へ持って行った龍神様の木は、そのある特別な日に切ったものなんです。その日しかだめなんです。たった1年に1回しかチャンスがないんです。昔の木こりさんは、その時一斉に山に入って木を切ったそうです。その日しか木を切るタイミングがなかったんです。

仁坂知事:今は年がら年中切ってますからね。

城所さん:逆に言うと、経済サイクルに合わせてますから、そこのところを無視されちゃってるんですけど、昔はやはり百年単位の商売だったので木を切ることを凄く大切にしていました。ちゃんと月の暦を見て、この日に切らなくちゃと。それは迷信でも何でもなくて、実はちゃんといいものを取るためのノウハウだったんです。だから、その辺がちょっと見直されてくるかなという気がしてるんです。
 ただ、偽物が出回るのは恐いなと思って。そういうのって見た目ではわからないじゃないですか。うちのはその特別な日に切ったよと言われて、使ってみると割れたと。「特別な日」なんか全然当てにならないじゃないかということになっちゃったら、本当に特別な日に切った割れない木を提供している信用がなくなりますからね。だから出し方をよほど気を付けないと。

仁坂知事:なるほどね。

城所さん:そういうことを林業関係者とちゃんと話をしてるんです。すぐには戻らないですが、今後は少しずつ昔のサイクルに戻してよりいいものを、同じ木なんだけれど和歌山の木っていいね、って言われる生産の方法をちゃんと確立しなくちゃいけない。

仁坂知事:そうですね。

城所さん:ほとんどその特別な日に木を切ってる人なんかいませんしね。それに大体そういう日って市があったりとか、山に入らない日が多いですよ。だから無理に木こりさんを集めて切ってもらっている状態です。

仁坂知事:ちょっと龍神も木材の動きが少し出てきたと聞いてますが

城所さん:なかなか厳しいみたいですね。でも早くしないとまた丸坊主にされちゃう可能性がありますね。なんとか木を維持して山を守っていかないといけない。

仁坂知事:少しずつ切ってね。今、林業従事者は1,000人位なんですよね。その1,000人の人が楽しく暮らせるようになって回っていくくらいになったら、いい感じで切られていくかもしれないなぁと。今1,000人の人がとっても苦しいわけですよ。

城所さん:そうなんです。「緑の雇用」で来られる若い方々は非常に意識が高くて、森を守っていこうという意識で入ってこられる方が多いみたいです。ただ、今までの流れの中から、そうでない部分というか、経済サイクルの中で下働きから始まって、技術が身に付いた頃には業界の矛盾みたいなものを感じてしまって、だんだん崩れてやめていく方もいるみたいなので、ステータス性の高い職業としての林業、林業やってるって格好いいんだよという職業になっていってくれるといいなと思います。

仁坂知事:私もちょっとそういう面もあるんじゃないかと思います。先日、紀州材生産販売プランを発表しました。例えば所得を上げようとか、女性も小さい重機で間伐をやっていくとか、林道も重機が上がるくらいの道しか作らないとか。それと間伐材が有償で売れるようにならないとだめですね。逆有償ですからね、今は。

城所さん:そうですね。できるだけ皆伐は避けて、間伐でやっていってほしいなと思いますね。効率優先になるとどうしても皆伐になってしまうんでね。そうするとなかなか元には戻らないですからね。何十年てかかっちゃいますからね。
 以前知事さんにも来ていただいた松下電工さんの企業の森、「ながきの森」ですが、先日久しぶりに見たら皆伐されたところにも昔の木が生えてきていたんです。あそこは元々植生が豊かだったみたいで、昔の株が残っていて、結構いい樫の木とか、いろんな木が生えて来ていました。

仁坂知事:植えたのじゃなくて?

城所さん:ええ、大分生えてきていました。先日松下電工さんに来ていただいて、森林組合の関係者と一緒にイベントをやったんです。今までは植えるときはそこに生えていた木を切ってから植えていたんです。それをやめて、今ある貴重な木を残したまま植林しようと。そういう方針に切り替わったんです。非常に良い森づくりができています。

仁坂知事:そうですか。あそこは本格的ですよね、広いしね。

城所さん:松下電工の社長さんが社員の方に、木があるだけじゃだめだから生態系の戻る森を作りなさい、と言われたそうです。

仁坂知事:それはなかなか良いことをおっしゃいますね。

城所さん:僕もそれを聞いて感動しましてね。森は木があるだけじゃだめなんです。そこに元々住んでいる動物が住めるようになって初めて森だから。そういう植生を研究しなさいと。そういう森が和歌山の中にたくさんできてくると素晴らしいですね。

仁坂知事:そうですね。ところで、城所さんは蝶はもうお止めですか?

城所さん:とりあえず採集や研究はしてないですけど、今でも好きで、とにかく見ると追って行きたくなってしまうんです。

仁坂知事:私の友人にファーブル昆虫記を和訳したフランス文学者の奥本大三郎さんがいるんです。テレビなんかにもよく登場しています。彼を和歌山に呼んで古座川の平井のもっと奥の方へ蝶を見に行ったんです。それで今度春に彼をまた呼ぼうと。串本の海中公園の館長さんも蝶が好きでね。それで子ども達にセミナーをやろうと思っています。文学系と生物系の高校生を集めて、彼らと自由に話せるようなことをいっぱいやろうと思ってます。テレビに出ている人がすぐそばで話しているっていうのはなかなかはおもしろいでしょう?

城所さん:そういう発信基地になるといいですね。せっかく本州の暖かい最南端で生物の層が広いところに居ますからね。

仁坂知事:でも大分少なくなりました。紀伊半島でいいのは甲虫ですね。今は単調で種類は少なくなりました。、珍種はいますね。

左:仁坂知事 右:城所さん
左:仁坂知事 右:城所さん

城所さん:実は、森林についてのちょっとした発想がありまして、「紀の国森づくり基金活用事業」についてですが、私も説明を聞きましたが、やり方によっては効果があるんでしょうが、途中、もしだめになっちゃったら、多分復活できないだろうと。私も真剣に考えたんですが、ナショナルトラスト運動のように、山を押さえてしまうのはどうでしょう。県有林じゃなくて、県民有林として。例えば2億集まるとすると、半分を、特に重要な、絶対荒らしちゃいけないところを保護区として、県民のお金で買って押さえてしまう。そうすると、500円払ったことでこれだけの森が皆さんの森になったと。そういうふうにすると非常にわかりやすいんじゃないかと。水や空気だけじゃなくて、最終的に動物が戻ってくるような森にして、後は放っておくと。それはみんなのお金で成り立っているんだよと。これができたら世界にもPRできます。私の夢ですけど、そういう形で使われたら良くなるんじゃないかと思います。
 私が夢に見ているのは、知事さんがテレビに出て、地図を広げて、今年皆さんからもらった500円でこれだけの森がみんなの森になったよと。後何年かたってきれいな森を残して、これには手をつけないよと、これは和歌山県民の財産なんだよとおっしゃれれば、あぁ俺の500円がこういうことに使われているんならいいや、というように凄くわかりやすいと思うんです。実際そこの映像を見られればいいですよね。

仁坂知事:例えば那智の滝の裏の原生林とかね。あれを切られると水が涸れてしまいますよね。

城所さん:あれは絶対県民の財産として押さえて、手を付けさせないようにしないとね。
和歌山県は森をいっぱい持っていると。将来県民が負担してやると。しかもそこはプロフェッショナルが入ってちゃんと綺麗にしないといけないから、仕事も同時に発生してくる。

仁坂知事:中を歩いて森林浴するようなくらいにしてね。

城所さん:予約で1日何人とか。

仁坂知事:今、大台ヶ原でやり始めてますよ。

城所さん:和歌山県自体が、よその県にない県民の取組をすれば、凄く魅力があるんじゃないかと。今、1億あると山の土地ならかなり大きく押さえることができるはずです。毎年県民有林をふやしていけば数年たてばどこの県にも勝るとも劣らない立派な森を持つ県になります。

仁坂知事:和歌山は民有林が多いですから、つらくなると切ってしまう。

城所さん:そうなんです。切っちゃいけないところも切ってしまう。これを県民の財産として切らせないんだと。

仁坂知事:林業家の方も頑張ってくれてますからね。頑張りきれなくなったら引き受けるとか、そういうことが必要ですね。

城所さん:あと、まだまだすぐには上手くならないんだけど、チェーンソーアートを緑の雇用の子達の副業としてできないかと今トレーニングしてるんですけどね。少しずつ上手になってきている子も出てきています。

仁坂知事:城所さんのようにいかなくても、そういうものが必要ですよね。吉野の方へ行くと、ヒノキを小さく切ったものをビニールに入れて売ってるんですよ。お風呂に入れろということらしいです。和歌山県だったら“こんなもの”といってそこら辺にころがしてますけどね。和歌山にはハングリーさがまだまだ必要ですね。だからこういうの一生懸命やって、ちょっと生活の足しにしていく。楽しく余裕と持ってやらないとね。

城所さん:日本人はもともと器用なんで、ちょっと教えるとすぐできると思うんですけど。もうひとつはドイツと交流していますので、ドイツの木工小物、クルミ割り人形の様な手作りのかわいい物があるんですね。ああいう物を日本の杉や檜の木っ端を使って、ちょっと技術を教えるとできるシルバーの方とかがいっぱいいらっしゃると思うんですよね。だから講師を呼んで、木工屋さんに集まってもらって副収入源としてやってくれればと思うんですけどね。

左:仁坂知事 右:城所さん
左:仁坂知事 右:城所さん

仁坂知事:山へ来られる方はこういう温かみのある物を買っていきますからね。

城所さん:そうですね。まだまだそんなのは少ないですからね。そういうのを手がけていきたいと思ってます。

仁坂知事:ぜひ頑張ってください。それにしても、このみなべの龍はすごいですよね。だんだん神様みたいな芸術家になってきましたね。
 これからも和歌山で頑張ってくださいね。ますますのご活躍を期待しています。
 今日はどうもありがとうございました。

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